公開日:2019年06月03日
最終更新日:2022年06月23日
海外取引を行う企業の場合には、源泉徴収や消費税の取扱いなどについて、本来課税取引であるものを免税取引として集計してしまうなどのミスが多いことから、税務調査の対象となるケースが増えています。
経理担当者国際税務の基本的な仕組みを理解して、税務調査の対象となった時にも、しっかり対応することができるよう必要な知識を身につけ、準備を進めておく必要があります。
輸出入取引や海外投資を行う企業の場合には、税務の面でさまざまな事項を検討する必要がありますが、その際に見落とされがちなのが、税務調査のリスクです。
たとえば、タックスヘイブン対策税制や移転価格税制について認識しないまま進めると、税務調査でこの点を厳しく追及されることになります。
国税庁の海外取引に係る調査の発表によると、法人税における海外取引法人等に対する実地調査を341件(前年対比79.7%)実施し、このうち、海外取引に係る非違があったものを103件(同72.5%)、海外取引に係る申告漏れ所得金額43億円(同208.9%)を把握したとしています。
近年は、国際税務専門官という国際税務を担当する専門官が税務署や国税局に配置され、海外取引を行う法人の調査の場合には、管轄する税務署の調査官と一緒に支援部隊として調査に同行することも多くなっています。
グループ会社間での取引価格を操作して利益を国外に移転させるケースなどは、税務調査で特に指摘されやすい傾向があります。
日本は、2022年4月現在で149の国や地域と租税条約を締結していますが、この租税条約の情報交換規定を利用した国同士の情報交換も頻繁に行われています。
これは日本と租税条約を締結している国の税務当局と、海外取引に関する情報を提供し合うものです。令和2年の日本の税務当局からの要請による情報交換は687件となっています。
一方、他国の税務当局が日本の税務当局に要請した数は112件であり、日本の税務当局からの要請による情報交換の方が6倍多い結果となっています。
このデータからも、日本の税務当局が海外進出企業に対する調査について、いかに積極的な姿勢をとっているかが分かります。
税務調査とは、申告した税額に漏れや隠ぺいがないか、計算ミスがないかなどがチェックされる調査です。
輸出入取引や海外投資を行う企業については、単なる国内取引を輸出と混同して本来課税取引であるものを免税取引として集計したり、課税資産の譲渡そのものを見落としていたために納めるべき消費税が過少に計算申告されたりしているケースが多く見受けられます。したがって、この点についても事前に確認しておく必要があります。
日本の親会社に対する税務調査では、海外への支払について漏れがないかをチェックしておきましょう。また、海外への手数料や使用料については、源泉徴収漏れが生じていることもありますので、この点も併せてチェックする必要があります。
なお、租税条約による源泉税の減免を受けるためには、事前に「租税条約に関する届出書」を税務署に提出する必要がありますが、この提出がそもそもされていないというケースも多いので、必要な手続き等も再度確認するようにしましょう。
国税庁の「租税条約等に基づく情報交換事績の概要」によると、内国法人の法人税調査において、調査法人がA国の法人Bに対して多額の手数料を支払っている事実を把握し調査したところ、A国税務当局から提供を受けた資料から、法人Bの真の所有者は日本の調査法人であることがわかり、日本の調査法人に対して外国子会社合算税制に基づく課税が行われました。
引用:国税庁「平成29事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」
海外子会社については、日本の税務当局による税務調査の対象となることもあれば、進出国の税務当局による税務調査の対象となることもあります。
税務調査の形式は、国ごとに異なります。書面調査が中心で、実際に会社で行われる実地調査がほとんど行われない国もあれば、担当者が税務当局に呼び出される形式の調査がされることもあります。
特に税務調査の対象となりやすいのは、海外子会社の損益が毎期大きく変動していたり、赤字がずっと続いていたり、利益が現地の同業他社の利益より低いケースです。
つまり、利益を上げていて十分に納税していればそれほど文句は言われないのですが、損益状況が悪いと税務調査の対象になりやすいというわけです。
したがって、税務リスクの観点から言えば、このような状況を解消できるようであれば解消しておくことが賢明です。
もし解消できない場合でも、税務調査の際には合理的な説明をすることができるよう、準備をしておくことが必要です。
税務調査は、隠ぺいや偽装工作など、調査の妨害が予想されるようなケースを除いては、税務署から事前に調査日程について連絡があるのが原則です。
それでは、税務調査から連絡が入った場合には、どのような対応をすべきなのでしょうか。
税務調査を行う旨の連絡があったら、すぐに顧問税理士に連絡しましょう。
そして調査が実施されるまでに、可能な限り帳簿や資料を整理しておきます。
さらにそれらの資料を準備したうえで、税理士と十分相談しておくようにします。
「税理士といえども、国税庁の調査官の言いなりになるのでは」と心配される人もいますが、税理士は納税者の味方となって、国税庁と交渉をしなければならないことを税理士法で規定されています。
税理士法1条は税理士の使命を定めた条項で、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と明記されています。
つまり、税理士は納税義務者の信頼にこたえ納税者の味方となって仕事をしなければならないわけです。顧問税理士がいない場合にも、信頼できる税理士を探して、しっかりサポートを依頼するようにしましょう。
税務調査では、一般的に過去3期にまでさかのぼって調査をされます。
したがって、その期間内の伝票、請求書や領収書はきちんと整理し、契約書や稟議書を含む証憑類や給与台帳や一人別徴収簿をそろえ、帳簿類をきちんと整理します。
そして、それらの資料についてきちんと説明できるよう準備を進めておくとともに、未処理のものがないかなどについても確認しましょう。
税務調査の前には、税理士のサポートを受けリハーサルを行うようにしましょう。
脱税している場合などは論外ですが、日本は税制や会計基準が目まぐるしく変化します。きちんとした会計処理を行っているつもりでも、問題が指摘されることはよくあるのです。
しっかりとリハーサルをすることで、当日落ち着いて調査に挑むことができるだけでなく、会計処理のミスを見つけることができますし、帳簿類などについて再度チェックすることもできるというメリットもあります。
また、「税法の解釈が異なっていただけで、調査した結果問題ない」となるケースもありますので、心配し過ぎることはありません。
以上、海外取引法人の税務調査の状況について、ご紹介しました。
日本の国税庁では、国際的な脱税及び租税回避行為に対処するため、各国税務当局間での協力・連携を一層推進していくこととしています。
また、租税条約等に基づく外国税務当局との情報交換を積極的に実施して、国際的な脱税等の把握や防止に効果的に取り組んでいく姿勢を明確にしています。
税務調査で追徴課税されるなどのリスクを回避するためには、頻繁に改正される税制に注視するとともに、国際税務に精通した税理士による最適なタックスプランニングが必要不可欠といえるでしょう。
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税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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