国際税務とは?海外進出する時に検討すべき事項とは

公開日:2019年06月02日
最終更新日:2024年05月28日

この記事のポイント

  • 国際化時代に対応するためには、国際税務の知識が必要である。
  • 国際的な取引についての課税は、基本的には国内法で規定されている。
  • 国際的二重課税などを防止するために、多くの国と租税条約を締結している。

 

ここ数年、大企業だけではなく、中小企業の海外進出も相次いでいます。

以前は人件費の安い海外に工場を持つ製造業が主流でしたが、今は、海外をマーケットとして意識したうえで、販路拡大などのビジネス戦略上の理由とした海外進出も増えています。
このような状況に伴い、海外進出を支援する支援機関も増え、企業にとって海外進出のハードルは以前より身近になっています。

ここでは、海外進出を検討する際に知っておきたい国際税務の基礎知識について、ご紹介します。
 

国際税務の豆知識

以前は海外進出というと、大企業が中心でしたが、現在は中小企業の海外進出を支援する機関も増え、中小企業にとって海外進出のハードルが以前よりも低くなり、中小企業も積極的にグローバル市場に挑戦しやすくなっています。
海外進出を検討する際には、その国の文化、宗教などさまざまな調査が必要ですが、なかでも、タックスプランニングは必須です。各国の税制は異なるため、現地の税法を理解し、それに従って適切に対応しないと、予期しない税負担が発生したり、ペナルティが課されたりするリスクがあります。
また、税務コンプライアンスは企業の評判に直結します。税務問題が発生すれば、企業の信用が損なわれるリスクがあります。
国際税務に精通している税理士に相談すれば、各国の税制優遇措置を利用する方法など合法的に税負担を最小限に抑える戦略を立てることができます。

海外進出の際に必要な知識

現在は、世界中で国境を越えた取引が増加しています。
以前は海外進出というと、人件費の安い海外に工場を持ち、そこで製品を生産することで原価を低くするという製造業が主流でしたが、昨今は、製造業以外にも、卸売業やサービス業、小売業の進出も目立ってきています。
これは、日本の人口減少社会に突入しているという状況を受けて、国内だけでビジネスを成長することに限界を感じている企業が増えているのも要因と思われます。
ひとくちに海外進出といっても、貿易から海外拠点の設立など、形態はさまざまであり課題も多様化していますが、海外進出をするうえで必ず検討しなければならないのが「国際税務」です。

経済産業省の「海外事業活動基本調査」によると、2019年度末における現地法人数は2万5,693社で、このうち製造業が1万1,199社、非製造業は1万4,494社となっていて、大企業のみならず中小企業も積極的に海外進出している状況が分かります。
地域別にみると、アジア、欧州、北米で現地法人数は減少しているものの、割合で見るとアジアが拡大していることが分かります。

参照:e-Stat「海外事業活動基本調査 第50回 調査結果(2019年度実績)」

海外進出をする際に欠かせないのが、国際税務の考え方です。
国際税務については、日本国内の税制に相手国の税制も加わり、どちらの国にどこまで課税権があるかという問題も絡んでくるので、極めて複雑になりがちです。
ここではまず、国際税務を検討する際に必ず知っておきたい基礎知識について、ご紹介します。

(1)租税条約

日本は、多くの国との間で租税条約を締結しています。
租税条約とは、国際的な二重課税回避を目的とした条約であり、所得の源泉地国の課税率等の制限を定めています。
租税条約は、基本的に二重課税を排除することで海外進出企業をサポートすることを目的としています。
二重課税とは、1つの取引に対して2回以上課税されることをいいます。国際税務の世界では、1つの取引に対して2カ国以上で課税されてしまうことをいいます。二重課税に該当してしまうと、税負担が非常に重くなってしまうので、これを解消しようとするのが、租税条約です。

租税条約と国内税法の規定が異なる場合には、租税条約の取り決めが優先されます。
日本は、2024年5月現在で、86条約等、155国と租税条約を締結しています。


参照:財務省「我が国の租税条約ネットワーク」

日本で納める税金が増えれば、もう一方の国で治める税金が減るということになりますから、何とか税金を守りたい国との間で「税金の奪い合い」という状況が起こりやすくなります。
つまり、海外進出を検討する際には、少しでも税率の低い国で利益を集めようとする企業と、そのような企業を集めたい低税率国、自国の税金を守ろうとする高税率国の3者のせめぎ合いが起きているという状況をしっかり認識する必要があります。

また、海外進出をした場合には、源泉徴収や消費税の取り扱いなどが通常の国内取引と異なるためミスが起こりやすく、税務調査の対象となりやすい点にも注意が必要です。

(2)PE(恒久的施設)

国際税務の世界には「PEなければ課税なし」という言葉があります。
PE(恒久的施設)とは、「Permanent Establishment」の略で、事業を行う一定の場所や代理人のことで、PEと認定されるとその国で課税対象となります。
支店や工場、1年を超えて建設作業等を行う場合の他、代理人等を置いている場合も、PEと認定されます。
非居住者や外国法人がPEを通じて日本で事業活動を行う場合には、それらのPEにおける所得は国内源泉所得として日本で課税されます。

PEの定義や概念は各国の税法によって異なるので、日本の税法上のPEに該当しなくても、その国ではPEに該当する可能性があり、PEと認定されると課税対象となりますので、注意しましょう。

(3)支援団体等の活用

海外進出を検討する中小企業の増加に伴い、海外進出の支援体制も整備されています。
以前から海外進出を支援している日本貿易振興機構(JETRO)はもちろん、中小企業基盤整備機構や各地の商工会議所、都道府県や市区町村等の公的機関の支援体制も増加しています。
また、資金面においても支援体制が充実していて、日本政策金融公庫や民間の銀行では、海外展開資金の融資を積極的に行なうことで、海外進出を検討する企業を後押ししています。
有益な情報も発信していますし、成功事例の紹介も行われていますので、このような支援団体に問い合わせを行い、サポートを受けることをおすすめします

また、日本の法人税法では、企業の税負担を軽減し企業が海外進出をしやすいような税制が整備されています。海外進出を検討するうえでは、これらの税制を活用し税負担を軽減させる工夫が重要です。

(4)タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制は、正式名称を「外国子会社合算税制」といいます。
タックスヘイブンとは、バハマ、バージン諸島、クック諸島など、税金が著しく低い地域のことで、このようなタックスヘイブンと言われる国や地域に実体のない子会社を作り、そこに資金を留保した場合には、その資金にも課税しますよ、という趣旨の制度です。
ただし、正常な事業活動等を行っている子会社等の所得については、合算課税の対象としない措置もとられています。

(5)移転価格税制

移転価格税制とは、所得の海外移転(租税回避)を防止するために、国境をまたぐ取引で発生する所得に対して、一方の国が関連会社間の価格調整によって他国に流れた税金を自国に取り戻そうとする課税制度です。

たとえば、日本の親会社から海外の子会社に対して通常の金額より低い金額で販売し、税率の高い日本での親会社の利益をなるべく少なくして税負担を抑えようとする行為は、租税回避とみなされてしまい、親子会社間の取引価格が、第三者間価格で取引したものとして課税されることになります。

参照:財務省「移転価格税制の概要」

(6)外国税額控除

外国税額控除とは、国際的な二重課税を排除するために外国で得た利益に対して外国で課税された税額は、日本の納税額から差し引く制度です。
外国子会社に対する外国での課税と、当該外国子会社から内国法人が受ける配当に対する課税との国際的二重課税については、当該配当の95%相当額を益金不算入として、調整が行われます。
この外国税額控除についても、控除のタイミングや限度額等について注意する必要があります。

参照:財務省「外国税額控除制度の概要」

(7)外国子会社配当益金不算入制度

外国子会社配当益金不算入制度は、平成21年(2009年)に創設された制度です。
この制度によって、海外子会社からの配当金については日本の高税率の法人税負担がなくなることになり、海外子会社利益の国内還流が進むことが期待されています。
平成27年度(2015年)税制改正では、外国子会社で損金算入される配当を、益金不算入の対象外とする旨の改正が行われました。

この制度を活用するためにはさまざまな条件がありますし、また、必ずしもすべての海外子会社からの配当金について日本で課税されなくなったわけではありません。

参照:財務省「外国子会社配当益金不算入制度の見直し」

まとめ

以上、海外進出する時に検討すべき国際税務の基礎知識などについてご紹介しました。海外進出をする際には、各国の税制の違いを意識したタックスプランニングが大きく影響をします。
二重課税に該当してしまうと、場合によっては稼いだ利益のほとんどに課税されてしまうこともあります。
海外進出をする際には、国際税務に精通している税理士のアドバイスが欠かせないといえるでしょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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