公開日:2018年12月01日
最終更新日:2022年07月13日
従業員の所得税は、毎月の給与から天引き(源泉徴収)されています。
しかし、この所得税は仮の金額にもとづくものなので、1年に1度、年末に所得税のズレ(過不足)を精算する「年末調整」を行わなければなりません。
そして、源泉徴収された所得税額が本来の所得税より多い場合には、差額を従業員に還付(返還)します。逆に、源泉徴収された所得税額が本来の所得税より少ない場合には、従業員から差額を徴収することになります。
以下では、年末調整の仕組みと還付が起こるケースについてご紹介します。
「年末調整」という言葉は知っていて、それが「払い過ぎた税金が返ってくることだ」という意味は知っていても、その内容まで正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。
年末調整とは、その前の1年間の所得税の税額を確定させて、支払った(源泉徴収した)所得税額のズレを精算する業務のことをいいます。年末調整という文字どおり、年末の12月に行います。
12月になれば、従業員への給与等支払額が確定するので、それをもとに会社が従業員の給与や賞与から源泉徴収した所得税と本来納付すべき所得税を精算するのです。
そして、年末調整される1年間に支払った税金が支払い過ぎていたのであれば、税金の還付(返還)を受けることができますし、支払った税金に不足があれば、差額を従業員から徴収し、支払いをしなければなりません。
年末調整は、すでに月々の給与から天引きされた源泉所得税と実際の所得税額のズレを比較して違いがあれば、その過不足を精算する業務です。
それでは、そもそもどうして源泉徴収された所得税額と実際の所得税額のズレが起こるのでしょうか?
その理由は、「源泉徴収税が仮の金額にもとづいている」という点にあります。
正社員、アルバイト、パートなどの就業形態を問わず、毎月の給与から天引きされている所得税は、仮の金額に基づいて計算されたものです。
月々の給与から所得税を天引きする際には、源泉徴収税額表・月額表に当てはめて計算しますが、1月1日から12月31日までの1年間で見ると、扶養家族の増減(結婚・離婚した、親を養うことになったなど)、保険料などの変動などを理由に所得税額に誤差が生じてくるのです。
つまり、月々の給与から所得税を天引きする際には「とりあえず、月々の給与から所得税を仮の金額で納付してもらいます。誤差が出れば、それは年末に帳尻を合わせましょう」というのが、所得税の源泉徴収の考え方です。
サラリーマンは原則として確定申告をする必要はありませんが、これは会社が従業員の代わりに税額を計算し、納税まで行ってくれているからです(源泉徴収と年末調整)。
それでは、なぜ会社が従業員に代わって所得税を天引きするのでしょうか。
国民には納税の義務がありますから、働いて給料をもらっている人は、収入に応じて所得税を支払わなければなりません。さらに本来であれば、毎年自分で税務署に確定申告しなければならない申告納税が建前です。実際、自営業者やフリーランスなどは自分で確定申告しています。
しかし、給与所得者の場合には、毎月受け取る給料が平準化されていますし、雇用主が一括管理した方が、税金の支払いの手続きがスムーズです。そこで、雇用主が給与支払い額から一定の金額を「源泉徴収税」として差し引いて預かり、まとめて税務署にその従業員の分の所得税を支払うのです。会社員が自分で確定申告しないので済むのは、このような仕組みがあるからです。
ただし、毎月の源泉徴収の金額はあくまで「概算」なので、正確な所得税とは異なります。
そこで年に1回年末に過不足を計算し、源泉徴収した金額が多すぎる場合には取り過ぎた分を「年末調整の還付金」として本人に返還するのです。
年末調整というと、「納め過ぎた税金が、年末に戻ってくる」というイメージを持つ人が多いのですが、すべての人が還付を受けられるわけではありません。
還付が起こるのは、源泉所得税額の合計額が実際の所得税額より多い人だけです。
したがって、年末調整で還付がなく追徴課税が起こる場合もあります。
たとえば、これまで扶養控除の対象となっていた子どもが就職して扶養親族の数が少なくなった時や、配偶者に年間48万円を超える合計所得金額があって(令和2年(2020年)から)、配偶者控除の適用がなくなった時には、年末調整で追徴課税されることになります。
年末調整の還付金は、多い人も少ない人もいますし、ときには不足金が発生するケースもあります。なぜ、人によって還付金の有無や金額が異なるのでしょうか?
それには「所得控除」が関係しています。
所得控除とは、納税者のそれぞれの事情のもとに、所得税の税額を差し引くことです。
所得税は、基本的に収入額に応じて納税額が決められます。
しかし、同じだけ収入がある人でも、独身で1人暮らしをしている人もいれば、子どもが3人いてさらに両親を扶養している人もいます。
このように、同じ収入でも個々の事情は異なるのに、同じ収入なら同じだけの税金が課せられるのは不公平になってしまいます。そこで、それぞれの事情に合わせて税額を差し引きましょうというのが、所得控除の考え方です。
たとえば、家族の多い人や保険金を支払っている人、障がい者の人や障がいを持った家族がいる人などには、それぞれに応じた所得控除が適用されます。この所得控除は、個々の事情によって適用される所得控除が異なりますが、適用される数が多いほど納税額が軽減されます。
そうすると、支払わなければならない所得税の税額が予定していたより低くなることがあるので、1年間に源泉徴収されていた税額が払い過ぎの状態となります。
その場合、会社側が年末に控除を適用して税額を確定させ、徴収しすぎた所得税があったら本人に還付するのです。
年末調整の還付金を支払う時期と方法については、特に決まりはありません。
一般的には、12月または1月の給料に乗せて還付する会社が多いですが、10月や11月頃など、早めに控除用の生命保険等の書類を収集して手続きを行う会社は、12月末の給料に一緒に還付することもありますし、遅めに資料を収集する会社は翌年1月に還付することもあります。また、冬のボーナスに乗せて還付をする会社もあります。
これまで述べてきたように、源泉徴収額が本来の所得税より多い場合には、差額を従業員に還付(返還)されます。逆に、少ない場合には、従業員から差額を徴収することになります。
還付が受けられるのは、納税者個々の事情に応じて税額を精算した結果、本来の所得税より多い場合です。
具体的には、以下のような人が年末調整によって還付を受けることができます。
源泉所得税額の合計額 > 実際の所得税額 |
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生命保険に加入している人 生命保険や各種の医療保険などの「保険料」を支払っている従業員は、「生命保険料控除」という控除を受けることができます。「個人年金」の場合にも同種の控除が適用されます。 地震保険に加入している人 自分で払った社会保険料がある人 したがって、年末に従業員が国民年金保険料や国民健康保険料を自分で支払った旨を申し出てきたら、控除を適用して税額を計算し直す必要があります。 個人型確定拠出年金(iDeCoイデコ)や小規模企業共済加入者 「1年の途中」で扶養する家族が増えた人 扶養家族が増える場合とは、具体的には以下のようなケースです。 配偶者と離婚または死別した人 本人または家族が障がい者 |
以下のような人が年末調整によって追徴課税が発生します。
源泉所得税額の合計額 < 実際の所得税額 |
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子どもが就職した人 扶養控除の対象となっていた子どもが就職して、扶養親族の数が少なくなった時には、扶養控除がなくなることで追徴課税となります。 配偶者に年間48万円を超える所得がある人 |
年末調整という言葉を耳にした人は多くても、その正しい意味については分かりにくいという方も多いのではないでしょうか。
そこでここでは、年末調整に関するよくあるご質問をご紹介します。
年末調整を受けても、以下のような事情がある人は確定申告がした方が、お得になります。
・家族を含めた年間の医療費が10万円、もしくは合計所得金額の5%を超えた人
確定申告をすることで、所得税の還付を受けることができます。
・住宅ローン控除の利用者
所得税や住民税から一定額を10年間控除できる「住宅ローン控除」の利用者は、適用初年度に限って、年末調整とは別に確定申告が必要です。
・ふるさと納税など寄付をした人
ふるさと納税や赤い羽根募金など、2,000円以上の寄附をした時には寄附金控除を受けることができます。なお、ふるさと納税にはワンストップ特例があります。この特例は、5つの自治体以内であれば申請書を提出することで確定申告が不要となるものです。
ただし、このワンストップ特例は医療費控除を受けるなど何らかの事情で確定申告をすると申請が無効になります。したがって、確定申告をする時にはかならずふるさと納税分も含めるようにしましょう。
・自然災害、火事、盗難にあった人
台風、地震、大雨などの自然災害や、火事、シロアリ、盗難、横領などによって、マイホームや家財などに被害を受けた人は雑損控除を受けることができます。ただし対象となるものは、マイホームや家財など生活に通常必要な資産に限られます。
また、盗難・横領以外で損害を受けた場合には災害減免のどちらかを選択することができます。
サラリーマンでも以下の人は、年末調整を受けられないので、自分で確定申告をする必要があります。
・給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
・年の途中で退職した人
・同族会社の役員やその親族で、その同族会社から給与のほかに、貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人
など
年末調整は、従業員に「扶養控除等(異動)申告書」「保険料控除申告書」などを配布し、従業員が書類に必要事項を記入したら、その書類の確認を行って、年末調整対象者かどうか確認する必要があります。
そして、年末調整対象者については実際の所得税額を計算し、源泉徴収された所得税額と比較して過不足を計算しなければなりません。
年末調整の業務は、年末調整担当者だけでなく従業員にも負担がかかる業務ですが、「freee人事労務」を導入すれば、個々の従業員の控除を適切に適用し、正確に税額を計算することができるので、年末調整の作業の効率が格段にアップすることができます。導入方法や操作手順については、税理士のサポートを受けることができますし、税理士にすべての業務を依頼して作業内容を「freee人事労務」で確認することもできます。
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監修:「クラウドfreee人事労務」
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