給与計算|基礎知識・用語・法律【初心者向け】

公開日:2018年11月09日
最終更新日:2022年07月14日

この記事のポイント

  • 給与計算の担当者は、給与に関するトラブルを防ぐための知識が必須である。
  • 労働条件については、均等待遇の原則や男女同一賃金の原則などの原則がある。
  • 賃金支払い方法については、一定のルール(労働基準法の「賃金支払い5原則」)がある。

 

会社で給与計算の担当者になったら、給与計算の方法だけでなく、その前提条件として、労働基準法などに関するさまざまな知識が必要です。

この記事では、給与計算をする上で知っておきたい、労働条件、労働契約、賃金支払い方法や最低賃金、労働時間や休日の考え方など、必要な事項をまとめてご紹介します。

給与計算の基礎知識

給与に関連する労働関係の法律においては、さまざまな言葉が出てきます。まずは基本的な用語の整理から始めましょう。

(1)給与計算に関する基礎用語を理解しよう

労働者とは
労働者とは、会社や個人事業主に雇用されている従業員や社員のことです。
給与計算担当者は、まさにこの「労働者」に支払うべき給料を計算しています。
なお、役員は経営者側の立場となるので、原則として労働者ではありません。
使用者とは
使用者とは、法律上「従業員を雇用しているもの」です。従業員を使って自分の事業を行っているので「使用者」と呼ばれます。
会社組織なら会社が使用者ですし、個人事業主なら個人の経営者が使用者ということになります。
賃金とは
賃金とは、労働者に支払われる給料のことです。労働基準法等の法律においては、給料とは書かずに賃金と表現しています。これは、法律がつくられた時代が違うからです。
従業員に支払う賃金額は、会社が自由に決めることができます。しかし給与は生活を支える重要な要素であることから、法律上最低基準額が決められていますので、この基準を上回るように設定しなければなりません(※後述)。

(2)給与の支払い方法は法律で決められている

賃金支払い方法については、一定のルールが定められています。
労働基準法の「賃金支払い5原則」です。

通貨で支払う
賃金は、かならず通貨によって支払う必要があり、商品などの「もの(現物)」で支給することは許されません。ただし、法令または労働協約で定めがある場合には、通貨以外のものによる支給も可能です。
また、原則的には「現金支給」ですが、労働者本人が同意すれば、労働者が指定する本人名義の銀行口座への送金によって支払うことが認められます。
全額を支払う
給料は、かならず一括で全額を支払う必要があります。ただし、法律に別の定めがある場合(源泉徴収や社会保険料の控除)や労使協定がある場合(社宅費用など)には一部控除が認められます。
なお、遅刻や欠勤、早退した場合などに給料から差引くことは、全額払いの原則に抵触しません。
毎月1回以上支払う
給料は、かならず毎月1回以上支払う必要があります。1回以上であれば、2回でも3回でもかまいませんが、2カ月に1回などは許されません。
一定の期日に支払う
給料は、1カ月の間の一定の日に支払う必要があります。たとえば毎月25日、末日、10日など、あらかじめ定めておいた日に支払います。
直接本人に支払う
給料は、かならず労働者本人に支給する必要があります。家族やその他の代理人に渡すことは許されません。そこで給与振込口座も、かならず本人名義であることが必要です。

(3)給与計算上知っておきたい労働条件に関するルール

会社は、労働時間や休暇など、従業員の働き方に関するルールを定め、従業員の働き方を管理する必要があります。
ここでは、給与計算上も重要となる、労働条件に関するルールを確認しましょう。

労働条件の原則
労働条件に関するルールは、「労働基準法」という法律によって定められています。
まずは労働条件に関する基本的な原則として、使用者が定める労働条件は、労働者が人間らしい生活を送る必要を満たすものでなければなりません。
労働基準法は、上記の目的を達成するための労働条件の最低基準を規定したものであり、会社はそれを遵守しなければならないとされています。
労働条件の決定
労働条件は、労働者と使用者が対等な立場に立って決定する必要があります。特に労働者側が弱い立場になりやすいので、使用者は労働協約を締結し、就業規則を作成し、労働契約を締結するなどした上で、定められた義務を適切に遂行すべきとされます。当然、労働者側も労働条件を守ります。
均等待遇の原則
使用者は、労働者の国籍や信条、社会的身分を理由に賃金や労働時間などの労働条件について、差別的な取扱いをしてはならないとされています。

たとえば、以下が通常の労働者と同一の短時間労働者は、すべての待遇につき差別的取扱いを禁止しています。

① 職務内容(業務・責任)
② 職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み・運用等)

男女同一賃金の原則
男女の賃金は同一にする必要があり、性別によって賃金を上げたり下げたりすることは認められません。
強制労働の禁止
雇用契約を締結していても、使用者は労働者に対し暴行や脅迫、監禁などの方法により、意思に反して強制労働させてはなりません。
中間搾取の禁止
法律によって特別に許される場合をのぞいては、営利目的で反復継続して他人の就業関係に介入して中間的な利益を得ることはできません。
なお、派遣労働は労働者派遣法に規定されている契約形態で、派遣元と労働者の間に直接の労働契約が存在するので、中間搾取には該当しません。
公民権行使の保証
労働者は、労働時間中に選挙権などの権利を行使し、あるいは公の職務を行うことができます。労働者がこれらを希望した場合、使用者は拒むことができませんが時間の変更は可能です。

給与トラブルを防ぐための基礎知識

労働者に給与を支払う際には、支払方法以外にも労働時間や時間外労働についてルールがあります。
労働時間は労働基準法によって厳しく規制されており、また最低賃金も決められています。

(1)労働時間は適切に管理する

労働時間の管理は給与計算に大きな影響を与えるので、かならず把握しておくべきです。
また、労働時間、休日を決めることで、従業員の働き方を統一化することができ管理しやすくなるというメリットがあります。また、適切に管理することは、従業員の健康を維持し、安心して働ける職場環境を確保するためにも大変重要です。
労働基準法は、労働者を働かせることのできる基準となる労働時間を定めています。これを「法定労働時間」といいます。
一般的な労働者の場合の法定労働時間は、1日8時間、1週間に40時間とされており原則としてこれを超えて労働させることはできません。
この法定労働時間は、会社が取り決める労働時間とは区別して、法定労働時間を超えて働かせた場合には割増賃金を支払う必要があります。

ただし、飲食店など1週40時間ではとても足りないという業種もあります。その場合には、労働時間について特例が設けられています。この特例では、従業員数(パート含む)が10人未満の「商業映画・演劇業(映画の制作事業を除く)・保健衛生業・接客娯楽業」で、1週間の法定労働時間は44時間とされます。

※所定労働時間とは
法定労働時間に似た言葉に「所定労働時間」があります。これは、労使間の契約や就業規則で定められた労働時間です。

たとえば、会社によっては1日7時間や6時間、1週間に35時間や37時間が所定労働時間をされていることもあります。
所定労働時間を超えて働いた場合、時間ごとの残業代が発生しますが、割増賃金は適用されません。
所定労働時間が法定労働時間と一致していない会社では、所定労働時間内の残業代と時間外労働の残業代の計算方法が異なるので、給与計算の際に特に注意が必要です。

(2)休日のルールを知っておく

給与計算をする時には、休憩や休日に関するルールも把握しておきましょう。

休憩時間とは
休憩時間とは、労働者に長時間労働をさせる時に、労働時間の途中に与えなければならない自由時間です。労働時間が6時間を超えて8時間以内の場合には45分、8時間を超える場合には最低1時間の休憩時間が必要となります。
休憩時間は労働者が仕事から離れて自由に過ごせる必要があり、常に呼び出しを待って緊張状態にある場合には休憩になりません。
一斉休憩の特例と例外
休憩時間は、基本的に労働者に対して一斉に与える必要があります。ただし、労働組合や労働者の過半数を代表する代表者との間で書面による協定を締結した場合には、個別に休憩を与えることも許されます。
法定休日と所定休日
労働基準法は、労働者に対して最低でも週1日の休日を与えるよう定めています。この休日を「法定休日」と言います。
法定休日以上に休日を与える場合には「所定休日」となります。
一般的には土日の週休2日制の場合には、日曜日を法定休日、土曜日を所定休日とする会社が多いようです。
時間外及び休日の労働
時間外労働や休日労働をさせた場合には、割増賃金の支払いが必要です。

労働時間の種類 割増率
時間外労働 2割5分以上
(※①)
法定休日労働 3割5分以上
深夜労働 2割5分以上
時間外労働+深夜 5割以上
(※②)
法定休日労働+深夜 6割以上

※①…1カ月について時間外労働が60時間を超えた場合
60時間を超える時間は、5割以上(ただし、一定規模の企業の場合)

※②1カ月について時間外労働が60時間を超えた場合

以上のように、給与計算に関連する法律の規定は非常に複雑で、計算の際には正確な知識が要求されます。

参照:厚生労働省「法定労働時間と割増賃金について」

(3)労働者と雇用契約を締結する時の注意点

労働者と雇用契約を締結する際には、給与や労働時間などの労働条件を明示しなければならず、その際には違約金や損害賠償の予定を行うことは許されません。

労働条件の明示
使用者は、労働者と雇用契約を締結するとき、賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければなりません。明示内容が事実と異なる場合には、労働者は契約を解除できます。
賠償予定の禁止
使用者は、労働者が契約どおりに働かなかった場合の違約金を定めたり、損害賠償額の予定をしたりすることはできません。
前借金相殺の禁止
使用者は、以前の労働者の借金やその他の債務とこれから発生する賃金を相殺することはできません。賃金はかならずお金で支払う必要があります。
強制貯金の禁止
使用者は、労働者に対し強制的に貯蓄させてはならず、基本的には使用者が労働者の貯蓄を管理する内容の契約を締結することもできません。
使用者が労働者の貯蓄金を管理する場合には、労働組合や労働者の代表者との協定が必要です。また労働者からの返還請求があれば、預かり金をすぐに返還しなければなりません。
解雇の予告
会社が労働者を解雇するときには、かならず30日前に解雇予告をする必要があります。30日に足りない場合には、不足する日数分の解雇予告手当を支給しなければなりません。
金品の返還
労働者が死亡したり退職したりしたとき、本人や遺族による請求があれば会社は7日以内に賃金を支払い、積立金や保証金、貯蓄金などの預かり金品を返還しなければなりません。

(4)最低賃金は、かならず守る

労働者に給料を支払うときには、「最低賃金」以上であることが必要です。最低賃金とは、労働者に支払われるべき最低の賃金であり、これを下回る賃金を定めると、労働基準法、最低賃金法違反となってしまいます。
以下で、最低賃金について少し詳しくみてみましょう。

最低賃金は、時間給で定められている
最低賃金には、特定の産業について定められる特定最低賃金と、地域ごとに定められる地域別最低賃金があります。どちらにもあてはまる場合には、高い方の金額以上の賃金を支払う必要があります。

特定最低賃金は以下の通りです。

参照:厚生労働省「特定最低賃金の全国一覧」

参照:厚生労働省「地域別最低賃金」

最低賃金額以上となっているかどうかは、賃金額を時間当たりの金額に換算し、最低賃金(時間額)と比較します。

参照:厚生労働省「最低賃金制度の概要」

最低賃金に含まれないものがある
以下のものは最低賃金に含まれません。

・結婚手当などの臨時的な賃金
・ボーナスなどの、1カ月を超える期間によって支払われる賃金
・時間外労働の割増賃金
・休日労働の割増賃金
・深夜の割増賃金
・精皆勤手当や通勤手当、家族手当

まとめ

給与計算事務においては、従業員の労働時間や休日、有給休暇の取得日数などをしっかり管理・把握して、正確な給与計算を行う必要があります。
労働基準法などのルールに違反すると、労働者との間でトラブルになるだけでなく、労働基準監督署の指導または罰則を受けることになりますので十分な注意が必要です。

なお、その労働時間に関する制度については、働き方改革関連法によって大幅な改正が行われ、平成31年(2019年)4月から順次施行されています。
なお、令和3年(2021年)度からは、同一労働同一賃金の実現に向けたパートタイム労働法、労働契約法の改正が中小企業にも適用されることになりました。
自社の給与計算について、改正によって変更点があるのかについては、早めに社会保険労務士等の専門家に確認するようにしましょう。

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監修:「クラウドfreee人事労務」

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