公開日:2018年08月01日
最終更新日:2022年07月11日
使用者(会社)は、労働者に対して労働契約で賃金、労働時間その他の労働条件について明示するのが原則です。特に労働時間・休日・休暇については、労働基準法によって法規制がされているので、法違反とならないためには労働基準法の規定を正しく理解することが大切です。
また、労働時間の管理方法はいくつかありますが、自社の状況に合った管理方法は何なのか、どのように活用すべきなのかを知ることも重要です。
労働時間とは、労働者が労働契約に基づいて使用者(会社)の指揮命令下に置かれていた時間のことをいいます。
労働時間については、実は労働基準法で定義されているものはなく、裁判例で以下のような概念が示されています。
「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。」(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁 平成12年3月9日) |
ここでいう「指揮命令下」は、会社から業務の遂行を義務づけられているか、または業務の遂行を余儀なくされているかどうかという視点から判断されることになります。
したがって、商店の客待ちの状態や電話番など一見業務から離れているように見えても、「業務を命じられればいつでも業務を行うことができる状態」であれば、「指揮命令下」ということになります。
労働時間には、「法定労働時間」と「所定労働時間」があります。
法定労働時間と所定労働時間の違いは、時間外労働の割増賃金を支払う必要があるか否かという点です。
時間外労働については、1.25倍の割増賃金を支払わなければなりませんが、これはあくまで法定労働時間を超えた時間についてです。
たとえば、所定労働時間が7時間である会社の場合、法定労働時間の8時間とは1時間の差がありますが、この1時間は「法内残業」と呼ばれ、割増賃金の支払いはないということになります。
・法定労働時間 「法定労働時間」とは、労働基準法32条では、労働者が働いても良いとする基準の労働時間のことをいいます。労働基準法32条では、労働時間を基本的には1日8時間、1週間に40時間を上限と規定しています。 つまり「会社はこれ以上従業員を働かせてはいけません」と労働時間を制限していて、 それを一般的に「法定労働時間」と呼んでいます。 この法定労働時間の規制に違反して労働させた場合は、会社は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金というペナルティを科せられることになります。 ただし、会社は労働者をこの法定労働時間より長く働かせたり休日に働かせたりすることも可能です。その場合には、「36協定」という協定を労働組合または労働者の過半数を代表する代表者との間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(※後述)。 |
・所定労働時間 「所定労働時間」とは、法定労働時間の範囲内で会社が就業規則などで独自に決めることができる労働時間のことをいいます。 たとえば、就業規則で「午前9時~午後5時」と就業時間を規定している場合、所定労働時間は7時間ということになります。 |
使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録しなければならないとしています。
原則として、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として適正に記録することとしていますが、やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合には、ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこととしています。そして、自己申告と実態との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施すべきとしています。
また、36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようなことがないかについて確認すべきとしています。
また使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数となどについて適正に賃金台帳に記入しなければならないとしています。
前述したとおり、法定労働時間は「1日8時間、1週間に40時間」であることが原則ですが、会社の業務によっては、1日8時間、1週間に40時間とすることが効率的な業務の遂行上難しいという場合があります。
そこで、労働基準法では、労働時間を弾力的に運用できるように、例外として「変形労働時間制」と「みなし労働時間制」を規定しています。
変形労働時間制 労働基準法では、1日の労働時間は8時間、1週間で40時間という労働時間の上限が設定されていますが、この労働時間管理の例外として、変形労働時間制という制度があります。 「変形労働時間」とは、1日単位、1週間単位で労働時間の上限を設定するのではなく、一定期間を平均して週法定労働時間である40時間が上限となればよいという制度で、以下の4種類があります。 ① 1カ月単位の変形労働時間制 ② 1年単位の変形労働時間制 ③ 1週間単位の非定型的変形労働時間制 ④ フレックスタイム制 フレックスタイム制は、始業・就業時間を従業員に委ねるという点で、他の労働時間制と異なります。 |
みなし労働時間制 「みなし労働時間制」とは、労働時間の算定が困難な業務の場合に、一定期間労働したものとみなす労働時間制度です。 労働時間を算定するためには、実労働時間(休憩時間は含まない始業から終業までの時間)を把握することが必要ですが、業務の実態によっては、この実労働時間を管理することが難しい場合があります(営業職など)。 そこで労働基準法では、このような業務に対応するために、一定期間労働したものとみなす「みなし労働時間制」を定めています。 随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合や、事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合などは、労働時間の算定が可能となるので、みなし労働時間制の適用はできません。 |
変形労働時間制もみなし労働時間制も、あくまで例外として認められる労働時間制度なので、これらの制度を導入するためには、就業規則に規定するなどの手続きを行うことが必要です。
裁量労働制 裁量労働制は、実労働時間とは切り離して一定の労働時間を働いていたとみなす制度で、業務遂行の仕方などについて、労働者に裁量をゆだねる制度です。 この裁量労働制は、「賃金を時間ではなく成果で評価されるべき」というニーズを受けて検討されてきましたが、「職務の範囲が明確であり、高度な職業能力を有する労働者だけを対象とすること」「長時間労働を防止するための措置を講じること」などを条件として、特定高度専門業務・成果型労働制(通称「高度プロフェッショナル制度」)の新設が盛り込まれることになりました。 専門業務型裁量労働時間制 |
会社は、労働者に一定の休日と休暇を与えなければなりません。
休日と休暇は似ていますが、以下の点で異なります。
休日 休日とは、労働契約上「労働の義務がない日」とされています。休日の単位は、原則として1暦日(午前0時から午後12時まで)とされています。 休日には労働基準法に規定された「法定休日」と会社が任意に決めることができる「所定休日」があります。 労働基準法35条では、1週1日または4週を通じて4日の法定休日を与えることと規定されていて、この法定休日に労働させることは原則としてできず、労働させるためには36協定の締結が必要です。 |
休暇 休暇とは、「労働義務がある日の労働が免除された日」をいいます。 「労働する必要がない」という意味で休日と同じですが、「労働義務があるか否かで異なります。 休日:「労働義務のない日」 休暇には、法定休暇と任意休暇があります。 |
これまで述べてきたように、労働基準法32条では、労働時間を基本的には1日8時間、1週間に40時間を上限と規定していますので、原則としてこの時間をオーバーして労働者を就労させることはできません。
また、労働基準法35条では、1週1日または4週4日の休日を与えることと規定していますので、原則としてこの法定休日に労働させることもできません。
会社がこの法定労働時間を超えて従業員に労働してもらいたい場合には、36協定を締結し、時間外労働割増賃金を支払う必要があります。
36協定とは、会社が従業員に時間外労働をしてもらいたい時には、労働者の過半数で組織する労働組合または、労働者の過半数代表者と、書面で延長できる時間を定めて(労使協定の締結)、行政課長へ提出する届出です。
この協定は、「時間外労働・休日労働に関する協定」と呼ばれ、労働基準法36条に規定されていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
36協定を結ばず、協定書を監督署に届け出ていない場合の残業命令は違法となり、労働者は残業を拒否することができます。
なお、36協定を締結すれば、いくらでも労働させていいというものではありません。
労働基準法では、36協定による労働時間の延長を適正なものとするために、労働時間の延長の限度について次のとおり規定しています。
* 1週間の限度時間 15時間(14時間) * 2週間の限度時間 27時間(25時間) * 3週間の限度時間 43時間(40時間) * 1カ月の限度時間 45時間(42時間) * 2カ月の限度時間 18時間(75時間) * 3カ月の限度時間 120時間(110時間) * 1年間の限度時間 360時間(320時間) ()内は、対象期間が3カ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者の場合 参照:厚生労働省「時間外労働の限度に関する基準」 |
労働者に時間外労働をさせるときには、必ず「割増賃金」の支払いが必要です。
割増賃金率は、法律によって定められています。
時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率は以下の通り規定されています。
時間外労働の割増率
労働の種類 | 賃金割増率 |
---|---|
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) | 1.25倍 |
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合) ※適用猶予の場合あり ※代替休暇取得の場合は1.25倍の割増なし |
1.5倍 |
深夜労働 (午後10時から午前5時までに労働した場合) |
1.25倍 |
休日労働(法定休日に労働した場合) | 1.35倍 |
時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 | 1.5倍 |
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)+深夜労働 | 1.75倍 |
休日労働+深夜労働 | 1.6倍 |
これまで述べてきた労働時間・休日の規定が適用除外される者として、「管理監督者」があります。労働基準法41条2号では、「監督もしくは管理の地位にある者」は、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いが不要ということになります。
しかし、会社で定める管理職がそのまま労働基準法41条2号でいう「管理監督者」になるかというと、そういうわけではありません。
企業がこの「管理監督者」を拡大解釈して割増賃金の支払いを逃れているケースは「名ばかり管理職」と呼ばれ、過去に何度も裁判となっています。
「管理監督者」の範囲については、「その地位にふさわしい待遇がなされているか」など、いくつかの視点から判断されるべきなので、注意が必要です。
以上、労働時間を適切に管理するための基礎知識について、ご紹介しました。
企業によって働き方に対する考え方はさまざまですし、どのような労働時間の管理方法が適切なのかは、業務の実態や個々の会社の事情によって異なります。
正しく労働基準法を理解し、実現したい働き方にマッチした労働時間管理の方法を選択するためには、社会保険労務士などに相談するのがおすすめです。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から労働時間の管理について相談できる社会保険労務士を検索することができます。
労働時間の管理だけでなく、就業規則の作成、労務環境の整備など、生産性をアップさせるためのしくみづくりについても、相談することができます。
監修:「クラウドfreee人事労務」
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