変形労働時間制|「週40時間」をクリアする4つの制度と導入方法

公開日:2019年09月04日
最終更新日:2022年07月14日

この記事のポイント

  • 変形労働時間には、労働基準法で定められている4つの制度がある。
  • 変形労働時間は、労使協定の締結・届出が必要。
  • 変形労働時間のうち一週間単位の変形労働時間制は、規模業種による制限がある。

 

変形労働時間制は、一定の要件を満たす場合に限って、1日8時間、1週間で40時間という法定労働時間を超過することを認める労働時間管理制度の例外です。
時間帯や時期によって業務の繁閑が激しい業種、交代制勤務が必要な業種などに認められます。
この制度は導入するためには要件を満たす必要がありますし、さまざまな手続きを行う必要があります。

変形労働時間制とは

1日8時間、1週40時間という法定労働時間を超えて労働させた場合には、割増賃金を支払う必要があります。しかし、時季や時間帯によって業務の繁閑が激しい業種など、固定された労働時間制ではかえってムダが生じることになります。とはいうものの会社を経営するうえでは、なるべく割増賃金は少なくしたいものです。そこで、これらの事情の妥協点として設けられた制度が変形労働時間制です。

(1)変形労働時間は法定労働時間の「例外」

労働基準法では、労働時間について1日8時間、1週40時間と規定されています。しかし、交替勤務が必要な業種や繁忙期と閑散期がある業種など一部の業種では、このような労働時間の運用が厳しくなることがあります。そこで、このような業種で一定の要件を満たす場合には、例外的に1日8時間、1週40時間という法定労働時間を超過することを認める「変形労働時間制」を認めています。

忙しい時期には法定労働時間より長く働いてもらい、そうでない時期には法定労働時間より短く働いてもらうことで、結果的に一定期間の平均が40時間以内におさまれば、違法ではなく割増賃金を支払う必要もありません。

(2)変形労働時間の4つの制度

変形労働時間制には、次の4つの制度があります。

1週間単位の非定型的変形労働時間制
業務の繁閑が定型的でない場合に導入できる制度です。1週間を単位とした一定範囲内で、1週の労働時間を40時間以内と決め、1日の労働時間を10時間まで延長できます。

1カ月単位の変形労働時間制
1カ月以内の一定期間において、1週あたりの平均労働時間が40時間以内であれば、特定の週や日について法定労働時間を超過して労働させても違法にはならないという制度です。

1年単位の変形労働時間制
1カ月超1年以内の一定期間において、1週あたりの平均労働時間が40時間以内であれば、特定の週や日について法定労働時間を超過して労働させても違法にはならないという制度です。

フレックスタイム制
一定期間(清算期間)における総労働時間の範囲内で、自由に勤務時間を決めることができる制度です。

(3)満18歳未満や妊産婦等は変形労働時間不可

満18歳未満の人や妊産婦には、フレックスタイム制をのぞく変形労働時間制を適用することはできません。

①妊産婦
妊産婦(妊娠中および産後1年を経過していない女性)が請求した場合には、変形労働時間制を実施している場合でも、1週間および1日について法定労働時間を超えることができません。

②年少者
1カ月または1年単位の変形労働時間制については、満18歳未満の年少者(ただし15歳到達年度までの間にある者を除く)については適用することはできません。ただし、1週48時間、1日8時間を超えない範囲であれば、1カ月単位および1年単位の変形労働時間制を適用させることはできます。

4つの変形労働時間制

前述したとおり、変形労働時間制には①1週間単位の非定型的変形労働時間制、②1カ月単位の変形労働時間制、③1年単位の変形労働時間制、④フレックスタイム制の4つの制度があります。それぞれの制度は、変形の内容や制度を採用するための手続きが異なります。

1週間単位の
非定型的変形労働時間制
1カ月単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制 フレックス
タイム制
採用するための手続き 労使協定
(+就業規則等)
就業規則等または労使協定
(+就業規則等)
労使協定
(+就業規則等)
就業規則等+労使協定
就業規則等で特に定める内容 変形期間における各日、各週の所定労働時間を特定する 始業または終業の自国を労働者の決定に委ねることを定める
労使協定の締結 〇(就業規則等によって採用した場合は不要)
労使協定の届出 〇(清算期間が1カ月以内の場合は不要)
規模業種のよる制限 常時使用する労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店

 

(1)1週間単位の変形労働時間

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生じることが多く、かつ定期的に繁閑が定まっていないことから、各日の労働時間を就業規則等で特定することができない事業の場合に適用することができる制度です。
この制度を導入することができるのは、常時使用する労働者30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店に限られます。

日ごとの業務に著しい繁閑の差が生じる業種において、繁忙する日の労働時間を増やすことができ、かつ法定労働時間内におさめることができるので、手持ち時間を削減することができます。

1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入するためには、事業場の過半数代表者と書面による労使協定を締結し、諸葛労働基準監督署に届け出る必要があります。ただし、この制度の性質上、就業規則上の各日の労働時間の特定は不要となります。

(2)1カ月単位の変形労働時間

1カ月単位の変形労働時間制とは、1カ月以内の一定の期間を平均して週40時間以内の範囲で1日あるいは1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

※ただし、小規模の商業・サービス業については、常時10人未満の事業所に限って、法定労働時間は週44時間が上限となります。業種は商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客業に限られます。

たとえば、1日の所定労働時間が7時間、休日は隔週2日制の会社に1カ月単位の変形労働時間制を導入し、変形期間を4週間とするケースで考えてみましょう。

1週目、3週目を35時間、2週目、4週目を42時間とすると、2週目、4週目は週40時間を超えることになりますが、4週間で見てみると154時間(35+35+42+42)÷4週=38.5時間となるため、法定労働時間を下回ることになります。
時間外労働となる時間がなくなるので、割増賃金を支払う必要もありません。

また、1カ月間のなかの繁閑に応じて、日々の所定労働時間を変動することができますし、1カ月の総労働時間を守れば、日々の労働時間を自由に設計することができるというメリットもあります。

1カ月単位の変形労働時間制を導入するためには、事業場の過半数代表者と書面による労使協定を締結するか、就業規則その他これに準ずるもので、1カ月以内の期間を平均して1週あたりの労働時間が法定労働時間を超えない規定をする必要があります。

1カ月単位の変形労働時間制の「時間外労働」の考え方
1カ月単位の変形労働時間制を導入しても、時間外労働がゼロになるわけではありません。時間外労働については、以下のように判断していきます。

① 1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

② 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)

③ 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①または②で時間外労働となる時間を除く)

参照:改正労働基準法の施行について(昭和63年1月1日)

(3)1年単位の変形労働時間

1年単位の変形労働時間制は、1カ月を超えて1年以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間を超えないことを条件として、業務の繁閑に応じて労働時間を分配することができます。
変形期間は「1年以内」なので、3カ月単位でも6か月単位でも問題ありません。

1年単位の変形労働時間制は、1カ月を超える期間が対象期間となるので、月単位ではなくそれ以上の単位で業務の繁閑がある会社にとって、繁忙期と閑散期に必要な時間数の所定労働時間を設定することができ、結果的に労働時間全体を短縮することができるというメリットがあります。
1日8時間という労働時間の上限枠にこだわらなくてもよく、変形期間中の法定の総労働時間を守れば日々の労働時間を自由に設計することができます。

たとえば、夏が繁忙期であるゴルフ場や冬が繁忙期であるスキー場などにメリットのある制度ということができます。

1年単位の変形労働時間制の対象期間は1カ月を超え1年以内の期間に限られるので、まず起算日と期間を決めなければなりません。
また、対象期間における労働日および労働時間、有効期間(労働協約の場合をのぞく)などについて労使協定の締結・届出が必要です。

(4)フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、1か月以内の一定期間において一定の所定労働時間の労働をすることを条件として、労働者がその枠内で各日の始業時刻、終業時刻を自主的に決めて働く制度です。
コアタイム(必ず勤務すべき時間帯l)と、フレキシブルタイム(その時間帯のなかであればいつ出社または退社してもよい時間帯)とに分けて、始業時刻、終業時刻を労働者の決定に委ねるケースがあります。
ただし、コアタイムを必ず設けなければならないというわけではなく、1日の労働時間のすべてをフレキシブルタイムとすることもできます。
かならずしも全従業員を対象とする必要はなく、決まった部署・職務などの範囲を定めることもできます。

フレックスタイム制は、労働者の都合に合わせた働き方がある程度可能となり、業務の繁閑を想定して労働者本人が計画を立てることができるというメリットがあります。
一方、現場の管理者やマネージャーがどこまで注意喚起できるかで、この制度を導入する効果が大きく変わることがありますので、その点は注意が必要です。

フレックスタイム制を導入するためには、就業規則またはこれに準ずるもので、始業および就業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定める必要があります。
就業規則等がない場合には、事業場の過半数代表者と書面による労使協定を締結する必要があります。

清算期間における実際の労働時間で過剰が合った場合には、その過剰分はその清算期間内で清算しなければなりません。つまり翌月分に繰越すことはできず、当月分として割増賃金を支払う必要があります。

まとめ

以上、週40時間という法定労働時間をクリアできる変形労働時間制の意味や、4つの種類、導入方法やメリットなどについてご紹介しました。
労働時間を管理するうえでは、正しい労働時間管理の方法を知った上で自社の実態に沿った方法を導入する必要があります。
働き方改革により、労働時間管理を正しく運用することが厳しく求められているという事情もあります。自社の実態と会社が達成したい目的を整理し、最適な労働時間を管理していくことは、法律違反にならないためにも大変重要です。

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