人事の仕事|人事の目的と役割・知っておくべき労働法規など

公開日:2019年04月18日
最終更新日:2022年03月22日

この記事のポイント

  • 人事の仕事の目的は、会社の経営資源である「ヒト」を最大限活用すること。
  • 人事の仕事としては、従業員の募集・採用、教育訓練、人事考課の策定、給与計算などがある。
  • 人事が知るべき法律も多々ある。法改正が頻繁に行われるので注意する。

 

よく「企業の経営資源は、ヒト、モノ、カネである」と言われます。
そして、人事の仕事の目的は、会社の経営資源であるうちの「ヒト」を最大限活用できるようにすることにあります。
人事の仕事は、採用、移動、勤怠管理等、広範にわたりますが、それぞれの業務に多くの法律が関係してきます。その代表格といわれるのは、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法といういわゆる「労働3法」ですが、その他にも男女雇用機会均等法や最低賃金法、雇用保険法など、さまざまな法律が関係してきます。

ここでは、人事の仕事内容と、人事と切っても切れない関係にある法律である労働法の基礎知識についてご紹介します。

人事の主な仕事

人事部の仕事は、その文字通り「人」に関わるさまざまな事項を取扱う仕事です。
会社の規模や成長ステージによって、人事が担うべき仕事は異なりますが、従業員の募集・採用から教育訓練、人事考課の策定、給与計算などのさまざまな事務手続きをはじめ、トラブルが起こった際の処理まで担うケースもあります。

(1)採用管理・人事異動

採用管理
会社に必要な人員を確保するための採用計画を立てます。
会社の経営理念を実現するために必要とする人材を見極め、正社員、パート、派遣社員などの人材を確保します。
正社員、パート、派遣社員などそれぞれの雇用形態、採用時期に応じて募集媒体を検討し、募集時期やスケジュール、選考方法や採用基準を決定します。
採用は社外から人材を調達することになりますので、業界動向などの外部環境の状況によって、結果が大きく左右されるものです。したがって採用がミスマッチにならないよう、業界動向などの外部環境もよく観察をしながら、採用方針を立てることが重要です。
人事異動
要員計画に沿って、採用した従業員を適材適所に配置します。
従業員の能力や適性に合わせて、適切な職務に配置したり異動させたりします。
退職とは労働契約が終了することですが、定年などの他に従業員が自ら退職を申し出る自己都合退職か、会社が従業員に退職するよう働きかける会社都合退職かによって、雇用保険や退職金の取扱が変わってきます。

(2)教育訓練・人事考課

教育訓練
優秀な人材がいるほど会社の生産性は高まるものですし、経営活動を有利に発展させることができます。そして、さらに個々の従業員の能力を高め、発揮させるための教育研修を企画・実施するのも人事の仕事です。
具体的には、従業員に職務遂行上の知識、技術を習得させ、経験を積ませるなどの教育訓練を計画し、OJTによる指導や集合研修の実施、外部教育訓練への派遣、自己啓発支援などを行います。
人事考課
従業員を最大限活用できる仕組みを構築するのも、人事の重要な業務です。
従業員の一定期間の働き方を把握して上司が評価し、昇給、賞与、昇格、配置、教育訓練などを反映させる人事考課制度を策定し、運用します。この時には、公平な人事考課を行うことができるように、考課者の訓練を実施することも大切です。
人事考課を策定する場合には、等級制度、目標管理制度、評価制度、報酬制度などを構築して運営すること、従業員のモチベーションを高め、実績を公正かつ公平に評価して報酬に反映させていくことができるようにします。

(3)勤怠管理・就業規則の策定

就業規則の策定
従業員の権利義務を明確にして、職場の秩序を維持するための規則や規定を作成します。
就業規則の記載事項は労働基準法で定められているので、法改正があれば適宜対応して規則の改訂・届出手続きを行います。また、これらの規則・規定を従業員に周知し、適性に管理できるような体制を構築することも必要です。
勤怠管理
日々の労働時間、時間外労働や休日労働、遅刻、早退、有給休暇などについて、適正に行われているかを確認します。勤怠管理は、正確な給与計算の基となりますが、それだけでなく労働者の健康管理のためにも大変重要な業務です。

(4)労働環境の整備

従業員が安心して健康で業務に集中することができるように、環境を整備することは、会社の義務です。
具体的には、労働衛生管理体制の整備と健康診断を実施し、働きやすく安全な職場の整備や、モチベーションがアップするようなコミュニケーションのよい職場の整備なども行います。
昨今大きな問題となっている、職場での過労死やうつ病の発生を回避するためのメンタルヘルス対策も必要です。
また、職場におけるさまざまなハラスメントに対しては、防止策や対応策を講じる必要があります。
令和2年(2020年)6月から施行された法改正により、大企業については事業主のパワハラ防止措置が義務化されました。中小企業においても、令和4年(2022年)4月1日から義務化されますので十分な検討が必要です。

(5)給与計算・年末調整

給与計算
給与規定に従って給与計算・支払いを行います。その他、賞与計算、税金の調整として年末調整を行います。退職者には、退職金規定に従って退職金の支払いを行います。
社会保険手続き給与計算の毎月
健康保険・厚生年金保険の社会保険手続き、雇用保険・労災保険の労働保険手続きを行います。社会保険とは、医療・年金・雇用・労災・介護の5つに分類されますが、会社は基本的に健康保険や厚生年金には加入しなければならないとされています。
また、労働者の入退社手続き、扶養(異動)手続き、社会保険料の徴収と納付、労働者が業務上・通勤上の事故等に遭った場合の請求手続きなどを行います。

人事が知っておくべき法律

人事に関連する法律は多々ありますが、特に人事の仕事と労働法は切っても切れない関係にあります。
なかでも労働三法といわれる「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」は、必ず知っておくべき法律です。
またその他にも、男女雇用機会均等法や最低賃金法など、人事の仕事を行うにあたって知っておくべき法律は多々あります。
これらの法律は改正されることが多いので、社会保険労務士などのサポートを受け乍ら常に最新の情報をキャッチして、法令に合わせて社内の労働環境を整備していくことが必要です。

内容 特に確認すべき時
労働三法 労働基準法 外国人を含め、すべての労働者の賃金や労働時間、休日・休暇、災害補償などの原則など、労働条件の最低基準を定めた法律。この労働基準法の基準を下回る労働条件は認められず無効とされる。 常時
労働組合法 勤労者の団結権や団体交渉権、団体行動権を定めた法律。 常時
労働関係調整法 労働争議の際の労働委員による調整を定めた法律。 常時
労働三法以外の
人事関連の主な法律
労働契約法 労働基準法や判例などだけでは対応できない諸問題を解決するために、労使の実質的平等での合意や、権利行使の濫用の禁止、労働条件の明確化などについて定めた法律。 就業規則の作成や従業員と労働契約を締結する時
男女雇用機会均等法 男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とし、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とした法律。 人材募集をかける時や人事評価をする時
パートタイム労働法 パートタイム労働者と正社員との格差解消など、待遇改善を目的とした法律。 正社員以外を直接雇用する際に確認する時
最低賃金法 賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図ることを目的とした法律。 従業員を採用する時や、時給・月給を決める時
雇用保険法 労働者が失業した場合や雇用の継続が困難となった時に必要な給付を行うことを規定した法律。 従業員を採用する時や、従業員が退職する時
労働災害補償保険法 業務上または通勤による労働者のケガ、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを規定した法律。 業務上災害や通勤災害が起きた時
労働安全衛生法 労働者の安全と衛生について会社が行うべき措置について規定された法律。 労働災害を防止して安全かつ快適な労働環境や規則を構築する時
高年齢者雇用安定法 高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは働き続けられるよう、環境の整備を行うことを目的とした法律。 高年齢者を雇用する時
育児・介護休業法 育児および家族の介護を行いやすくするために、所定労働時間などについて会社が行うべき措置などについて定めた法律。 従業員が育児休業や介護休業を取得する時

(1)労働三法など

労働基準法
労働基準法とは、外国人を含め、すべての労働者の賃金や労働時間、休日・休暇、災害補償などの原則を定めた法律で、労働条件の最低基準について定められています。会社が、就業規則や労働契約について、この労働基準法の基準を下回る労働条件を規定することは許されず無効とされます。

労働基準法13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、この法律に定める基準による。

参照:厚生労働省「労働基準法関係」

労働組合法
憲法では、労働者が対等な立場で会社と交渉することができるように、労働者が労働組合を結成(団結権)し、交渉する権利(団体交渉権)その他の団体行動をする権利(団体行動権)を保障しています(憲法第28条)。これを「労働三権」と呼びます。
そして、この憲法第28条で保障されたこの権利を、具体的に保障する目的で作られたものが労働組合法です。
参照:厚生労働省「労働組合」
労働関係調整法
労働関係調整法とは、労働争議の際の労働委員による調整を定めた法律です。
労使間での交渉がまとまらない場合には、労使の一方または双方からの申請などに基づき、労働委員会が仲裁に入って問題の解決を図ります。
参照:厚生労働省「労働関係調整法」
労働契約法
労働契約法とは、労働基準法や判例などだけでは対応できない諸問題を解決するために、法文化された法律です。
労働契約の原則や労働契約の内容と就業規則の関係、手続き、就業規則違反の労働契約に関して規定されています。
参照:厚生労働省「労働契約法のあらまし」
なお、平成25年(2013年)の労働契約法の改正により、契約期間が定められている(有期労働契約)労働者でも、同じ会社で5年間働いた労働者については、無期労働契約に転換しなければならないルールが導入されました。しかし、無期雇用契約にした場合でも、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の条件でよいとされているため、正社員と同等の処遇となるわけではありません。また、無期契約となっても、契約社員であることには変わりないという点で正社員と異なります。
※無期労働契約社員とは、契約終了の期間が定められていない雇用形態の労働者のことをいいます。
参照:厚生労働省「労働契約法改正のポイント」
労働安全衛生法
労働安全衛生法とは、労働災害を防止して安全で快適な労働環境を整備するために、衛生委員会の運営や労働災害への備えを行うことを目的とした法律です。
従業員50人以上の会社の場合には、衛生管理者と産業医を選任し、月1回以上、衛生委員会を設置する必要があります。
また従業員50人以上の会社の場合には、大規模災害への備えとして、緊急連絡網の整備や保健・衛生用品を含む防災用品や避難セットの整備、水や食料品の確保などの準備を行うことも求められます。
参照:厚生労働省「労働安全衛生法の改正について」
労働災害補償保険法
労働災害補償保険法とは、業務上または通勤による労働者のケガ、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを規定した法律です。
労働基準法では、労働者が業務上の災害でケガをしたり死亡したりした場合には、使用者の過失の有無にかかわらず、使用者の労働者に対する補償義務を定めていますが、労働災害補償保険法は、この労働基準法に基づく使用者の災害補償責任を保険によって担保することを目的としています。
参照:警視庁「労働者災害補償保険制度の概要」

(2)男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法とは、男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とし、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とした法律です。
採用・配置・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、男女の性別を理由とする差別を禁止しています。
なお、男女雇用機会均等法11条では、セクハラに関する雇用管理上の措置として、セクハラ被害に適切に対応するための相談窓口を設置することが義務付けられています。
参照:厚生労働省「男女雇用機会均等法のポイント」

(3)パートタイム労働法

パートタイム労働法とは、パートタイム労働者と正社員との格差解消など、パートタイムの待遇改善を目的とした法律です。
ここでいうパートタイム労働者とは「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」のことをいいます。
有給休暇の付与日数や雇用保険、社会保険の加入などについては、フルタイムの従業員とは別にパートタイム労働者向けの就業規則を作成し、労働に対する差別がないよう明示する必要があります。
参照:厚生労働省「パートタイム労働法のあらまし」

(4)最低賃金法

最低賃金法とは、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図ることを目的とした法律です。
地域別、産業別に賃金(時給)の最低限度額が規定されていて、会社は原則としてこの限度額を下回る賃金を支払うことはできません。
最低賃金は、ほぼ毎年金額改訂が行われているので、最低賃金ぎりぎりの額を規定している会社は、毎年確認する必要があります。
参照:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

(5)その他の法律

雇用保険法
雇用保険法とは、労働者が失業した時や、育児休業中、介護休業中など給与が大幅に下がった場合、あるいは労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合などに国が給付する仕組みを定めた法律です。
雇用保険は、原則として雇用される者すべてに加入が義務づけられますが、1週間の所定労働時間が20時間未満である者や、季節的に雇用され4カ月以内の期間を定めて雇用される者などは、適用外となります。
参照:厚生労働省「雇用保険制度」
高年齢者雇用安定法
高年齢者雇用安定法とは、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは働き続けられるよう、環境の整備を行うことを目的とした法律で、すべての事業所は、この高年齢者雇用安定法によって、原則として従業員が65歳になるまでの雇用が義務付けられています。

したがって事業所は、下記3つの措置から必ず1つ選択する必要があります。

①定年を65歳まで引き上げる
②65歳までの継続雇用制度を導入する
③定年制を廃止する
※この改正は、定年の65歳への引上げを義務付けるものではありません。

3つの措置のうち、最も現実的で多くの企業が選択している方法は、②の「65歳までの継続雇用制度を導入する」という措置です。
賃金などの労働条件を見直すこともできますし、契約の更新も1年ごとに行うことができるなど、中小企業にとっては柔軟な対応ができるというメリットがあるからです。

参照:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正」

育児・介護休業法
育児・介護休業法とは、従業員が、育児および家族の介護を行いやすくするために、休業、休暇、支援方法などをどのように行うべきかについて規定されている法律です。
従業員が申し出た時には、子どもが1歳(両親ともに取得する場合には、1歳2カ月まで)に達するまでの間、育児休業をすることができます。また、子どもが1歳になった時点で、労働者やその配偶者が育児休業をしていて保育所に空きがない、預け先がないなどの事情がある場合には、育児休業期間を1歳半まで延長することができます(労使協定で対象外の労働者あり)。
また、労働者は、要介護状態にある家族を介護するために、介護休業の取得を申請することができます。
参照:厚生労働省「育児・介護休業法について」

まとめ

以上、人事の仕事内容や、人事に関わる法律の基礎知識についてご紹介しました。
人事の仕事は多岐にわたり、その都度法律の内容を確認する必要があります。
どのような就業規則を作成すべきか、どの措置を導入するのが最も自社の事情に適しているかなどは、社会保険労務士などのアドバイスを受けることをおすすめします。

人事業務について相談する

freee税理士検索では、人事の業務や就業規則の策定、人事評価などについて相談できる社会保険労務士を検索することができます。
社会保険労務士には、就業規則や入社手続き、給与計算までサポートしてもらうこともできます。

人事業務について相談できる社労士をさがす

監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

クラウド会計ソフトの「クラウド会計ソフト freee会計」が、税務や経理などで使えるお役立ち情報をご提供します。
「クラウド会計ソフト freee会計」は、毎日の経理作業を最小限で終わらせることができるクラウド型会計ソフトです。疑問点や不明点は、freee税理士検索で社会保険労務士を検索し、人事の業務や就業規則の策定、人事評価について質問することができます。

PageTop