公開日:2018年08月25日
最終更新日:2022年07月11日
職場でセクハラが発生すると、従業員の仕事に対するモチベーションが低下して業績に影響を及ぼすリスクがあり、セクハラ被害者が、うつ病などのメンタルヘルス疾患を発症するリスクもあります。
セクハラの事実が明らかになった場合には、加害者だけでなく会社も責任を負うことになります。裁判となれば、多くの時間と労力を費やすことになるだけでなく、風評などの問題もあり、会社の信頼を揺るがす大きな問題になりかねません。
このようなセクハラ被害を防止するために、会社が必要な措置を講じ適切に対応することは、平成19年の男女雇用機会均等法の改正によって会社の義務とされていて、義務違反が認められた場合には、厚生労働省や労働局から指導を受けたり、企業名が公表されたりすることもあります。
ここでは、セクハラの概念や該当する行為、セクハラ問題が生じた時に企業に及ぼすリスク、それらを回避するための適切な対処方法などについてご紹介します。
職場におけるセクハラ(セクシャル・ハラスメント)とは、「性的な言動や行動によって職場の環境を害すること」で、「性的な嫌がらせ」のことをいいます。
世間話のつもりでも注意が必要
「下ネタを大声で話して、職場の雰囲気を悪くする」「髪や肩をむやみに触る」「性的な関係を強要する」などの行為は、当然のことながら性的な嫌がらせであり、セクハラに該当しますが、セクハラの範囲は非常に広く「彼氏(彼女)はいるの?」「まだ結婚しないの」「早く子どもを産んだほうがいい」「髪がきれいだね」など、本人は世間話のつもりで話したような場合でも、それが不快に感じられ性的な嫌がらせにつながれば、セクハラと判断されることがあります。
女性が加害者になることもある
セクハラは男性が加害者で、被害者は女性というイメージが強いと思いますが、女性が男性に対して行うセクハラもありますし、同性同士のセクハラもあります。
職場における「セクハラ」については、男女雇用機会均等法11条1項(以下、均等法11条)で以下のように規定されています。
○男女雇用機会均等法11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
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職場において適切なセクハラ対策を行うためにも、まずは上記の男女雇用機会均等法が示すセクハラの概念や類型、求められている措置の内容について整理をしておきましょう。
セクハラは、「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に分類され、環境型セクハラは、さらに「視覚型」「発言型」「身体接触型」の3つに分類されます。
対価型セクハラ
対価型セクハラ:「職場において、労働者の意に反して行われた性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が労働条件に付いて不利益を受けるもの」をいいます。
たとえば、「上司が部下に性的な関係を強要したが拒否されたため、その部下を解雇、降格、減給などすること」「性的な関係を求めたが、断られたため仕事を与えない」「営業所内で下ネタを大声で話していて、抗議を受けたため、配置転換を行う」などは対価型セクハラに該当します。
環境型セクハラ
環境型セクハラ:「労働者の意に反して行われた性的な言動・行動により、労働者の就業環境が害されるもの」をいいます。さらに「視覚型セクハラ」「発言型セクハラ」「身体接触型セクハラ」に分類されます。
視覚型セクハラ:「労働者が再三にわたり抗議をしているにも関わらず、ヌードポスターを事業所内に掲示し、それを苦痛に感じた労働者が業務に専念できなくなること」などが該当します。
発言型セクハラ:「彼氏・彼女がいないかしつこく尋ねる」「しつこく食事・デートに誘う」「性的な体験を尋ねる」「不倫をしているなどの噂を流す」「容姿について論評する」などの言動や行為が該当します。
身体接触型セクハラ:「不必要に肩、胸、太ももなどを触る」「裸芸を強要する」「酒の席で、お酌をするよう強要する」などの言動や行為が該当します。
男女雇用機会均等法11条の「労働者」は、正規労働者に限定されるものではなく、バイトやパート、契約社員なども当然含まれます。
派遣労働者は、「派遣元事業者」に直接雇用されている労働者で、「派遣先事業者」に直接雇用されている労働者ではありませんが、ここでいう「労働者」には含まれます。
また、女性だけではなく男性も対象となります。
男女雇用機会均等法11条は、職場におけるセクハラを対象としていますが、この「職場」の概念については広くとらえられていて、就業している場所以外でも、業務遂行が可能であれば「職場」に含まれます。
取引先の事務所、打合せや接待に使った飲食店、顧客の自宅、出張先、営業車内なども業務を遂行する場所であれば、「職場」に含まれると解釈されます。
実際、セクハラの裁判の過去の事例を見ると、社内ではなくカラオケや居酒屋など飲食を伴う場所でのセクハラ被害が多く存在します。
なかには、「就業後の宴会などで行われたセクハラ被害についてまで、会社が損害賠償責任を負うのか」と問題になることがあります。しかし、過去の判例では、このようないわゆるアフターファイブの飲食の場であっても、会社の使用者責任を肯定して損害賠償責任を認めている裁判例が多数あります。
たとえば、消費者金融会社事件(京都地裁 平成18年4月27日判決)では、就業時間外の食事中に、上司が女性社員太ももあたりをなでまわしたうえで、二次会の席で抱きつき「今日は泊っていけ」「俺と付き合え」などと発言した事案において、一次会、二次会の行為とも、セクハラと認定され、上司・会社に連帯して慰謝料を支払うよう命じられました。
セクハラが行われているにもかかわらず、会社がそれについて何の問題意識を持たず適切な対応を行わないでいると、職場の士気の低下、被害者の精神疾患などを発症するリスクがあります。
また、セクハラが判明した場合には、加害者は強制わいせつ罪などの刑事上の責任を負う可能性があるほか、民事上は損害賠償責任などを負う可能性があります。さらに加害者だけでなく、会社も損害賠償責任を負う可能性があります。
ここでは、セクハラが会社に及ぼす影響やリスクについて、ご紹介します。
セクハラが行われれば、セクハラの被害者は退職してしまうかもしれません。さらにセクハラ行為は、被害者だけでなくその状況を見ている周りの労働者にも大きな影響を与えます。
セクハラの当事者でなくても、「セクハラが行われているのに、会社は何もしてくれない」とセクハラ被害を放置するような会社に労働者が失望すれば、社内における士気が低下し生産性が低下する可能性があります。
また、失望した労働者たちが退職するなど、さらなる人材の流出につながるリスクもあります。
セクハラ被害は法的な問題だけでなく職場の士気が低下し貴重な人材が流出してしまうリスクも考えられるのです。
長期にわたってセクハラが継続されると、被害者はうつ病などのメンタルヘルス疾患を発症してしまうこともあります。
労働者がメンタルヘルス疾患を発症してしまった場合には、その治癒までに長時間を要することも考えられ、会社にとって大きなリスクとなります。
被害者が休職すれば他の労働者にその分の負担がかかりますし、従業員が休職した場合でも社会保険料は、免除されません。通常どおり従業員負担分と会社負担分の社会保険料がかかります。
小規模の会社にとっては、休職が長引けば長引くほど、大きな負担となるでしょう。
男女雇用機会均等法では、セクハラに関して会社が予防措置および事後措置を講じなければならないと規定しています。
そして、会社がこの必要な措置を講じておらず違反していると認められた場合には、厚生労働大臣や都道府県労働局長から勧告を受けることがあります。
勧告を受けても措置を講じていなかったり、報告の求めに対応しなかったり虚偽の報告を行ったりした場合には、過料の制裁が科されたり企業名が公表されることがあります。
セクハラ行為を行った加害者は、不法行為(民法709条)に問われ損害賠償を請求されることになりますが、さらに会社も必要な措置を行わなかった場合には、加害者だけではなく会社も損害賠償責任を負うことがあります。
なお、うつ病などの精神疾患に罹患した場合には、治療関係費用を負担するケースもあります。
損害賠償額について、昨今では、高額な事例も増えてきています。たとえば岡山セクハラ事件(岡山地裁 平成14年5月15日)では、原告ら2名に対して799万9,320円、914万2,080円の損害賠償を認定しました。
裁判にならない場合でも、労働者が弁護士などに依頼して損害賠償請求してくる可能性は充分にあります。そして、この場合も、加害者本人だけではなく会社も損害賠償責任を負うことになります。
裁判になったり損害賠償請求が行われたりした場合には、経済的な損失だけでなく、風評等も大きな問題です。
セクハラ事件が新聞やテレビ、ネットニュースなどで報道されれば、企業に対する社会的信頼が大きく落ち込み、販売している商品やサービスが売れなくなったり株式上場が難しくなったりする可能性があります。
また、セクハラの風評被害が原因で、人材を確保することも難しくなります。
ただでさえ少子高齢化で優秀な人材を集めにくくなっている世の中で、「セクハラが横行している企業」に就職したいと考える人は少ないでしょう。
セクハラの風評等は、会社の信頼を揺るがす大きな問題に発展する可能性があるのです。
会社は、男女雇用機会均等法のルールに従って、セクハラやパワハラなどのハラスメントが起こらないよう、以下のような必要な対策を講じる必要があるとしています。
① 事業主の方針の明確化およびその周知・啓蒙 ② 相談に応じて、適切に対応するために必要な体制の整備 ③ 職場におけるセクハラの事後の迅速かつ適切な対応 ④ 上記1~3とあわせて講ずべき措置 |
具体的には、セクハラがあってはならない旨の企業方針を明確にして、セクハラ加害者を厳正に処分する内容の規定を就業規則に盛り込んだり、セミナーや研修などを通して会社の方針を周知したりセクハラ被害者に対応する相談窓口を設置するなどの対策を取る必要があります。
また、労働者がセクハラの相談をした時に、実際に被害が発生している疑いがあるのなら、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。
そして、セクハラが確認された場合には、被害者に対する配慮の措置を行います。注意で済む程度なのか異動が必要なのかなど、状況に応じた対応が必要です。
あわせて、行為者に対しても適正な措置を行ない、再発防止のための措置をとりましょう
相談窓口を設置した場合には、相談した労働者が不利益を受けないように、独立した相談担当部署を設置したり、外部の医療機関や保健機関と連携したりする方法も効果的です。
Point1: 就業規則等に、自社のセクハラ防止についての基本方針や具体策を定める。 Point2: Point3: Point4: |
就業規則とは、賃金や労働時間、休日などの労働条件や、職場のルールなどを定めて文書化したもので、従業員が10人以上の会社は、就業規則を作成し、労働基準監督署に提出する必要があります。
この就業規則には、パワハラやセクハラの行為者(加害者)については、厳正に対処すること、そのための方針や対処の内容を盛り込む必要があります。
厚生労働省が公表している「モデル就業規則」では、セクハラについて以下のような条文が掲載されています。
(セクシュアルハラスメントの禁止) 第1条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害したりするようなことをしてはならない。 参照:厚生労働省「モデル就業規則」 |
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どのような行為がセクハラに該当するのかという点や、セクハラがあってはならない旨の方針を明確にして、周知し、啓発することが必要です。周知の方法は、社内報、パンフレット、ホームページ等で広報・啓発のための資料にセクハラの内容やセクハラが絶対にあってはならない旨の方針を記載して、配布等をします。
なお、周知・啓発するにあたっては、職場におけるセクハラの防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることを重視し研修・講習等を実施するのも効果的です。
相談窓口を設置し、相談窓口の相談者が適切に対応できるよう必要な体制を整備しておくことが必要です。
相談窓口は、形式的に設置しただけでは足りず、相談に対してきちんと機能しなくては意味がありません。なお言うまでもないことですが、対応にあたっては、公正な立場に立って真摯に対応するべきです。
相談窓口で相談を受け付けた時のフローやマニュアルなども明確に定めておくことが望ましいでしょう。
また、相談窓口の存在を労働者に周知することも必要です。
セクハラの事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実が確認できた場合には、行為者・被害者に対して適正な措置を行うことが求められます。
そして、職場におけるセクハラに関する方針を改めて周知、啓発するための措置を講じる必要があります。社内報やパンフレットで方針を記載し、配布をするのも効果的です。
従業員から「セクハラ被害に遭った」と相談を受けた際には、会社はどのような点に注意して対応すべきでしょうか。
まずは、相談者からの訴えを、時間をかけて十分に聞くことが必要です。
ヒアリングを行う際には、他の人に話が聞こえないよう、環境を整えることも大切です。相談者がリラックスして話をすることができるよう、必要に応じて、外部専門家(社会保険労務士や弁護士など)と連携したり同席者を立てたりするのもよいでしょう。
被害者は、相談した時点で具体的に「こうしたい」という希望を持っていないことも多いです。
ですから、「どのように解決してほしいのか」「異動したいのか」など、無理に解決方法を検討するよう勧めることは避けましょう。
もちろん、迅速な解決は大切ですが、被害者の気持ちを無視して進めるべきではありません。
被害者のプライバシーは、確実に保護されなければなりません。
相談窓口の担当者には、事情聴取に当たり調査内容について守秘義務を負わせることは必須です。
ハラスメントの被害者の心身状態について配慮することも大切です。
必要に応じて、医療機関に相談した方がよいケースもあります。
医師の診断で、休職の必要があるとされた場合には、休職制度にしたがって休職となります。また、復職時の職場環境にも配慮する必要があります。
セクハラ被害が起こった場合には、改めて会社としてセクハラを禁止しているという方針を明確化し、セクハラを予防するための研修を実施するなどして、管理監督者を含む従業員に継続的に教育指導を行っていきましょう。
研修や指導の内容については、社労士などに相談することも可能です。
事業主は、従業員に「どのような行為がセクハラに該当するのか」「セクハラが絶対に許されない行為であること」を周知徹底し、必要に応じてセミナー等を行う必要があります。また、相談窓口の設置を行い適切な対応を行うことも求められます。
ひとたびセクハラが起これば、損害賠償リスクが伴うだけでなく、従業員の士気の低下、貴重な人材の流出といった事態を引き起こしてしまう可能性もあることを忘れずに、適切な対策を講じることが大切です。
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監修:「クラウドfreee人事労務」
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