セクハラ事例集|15のセクハラ裁判をご紹介

公開日:2019年06月04日
最終更新日:2022年07月13日

この記事のポイント

  • セクハラとは、職場における性的な言動で労働者の就業環境を害すること。
  • 会社は、セクハラが許されない行為であることを、従業員に周知・啓発することが大切。
  • 2022年4月から、パワハラ・セクハラ防止対策が強化された。

 

セクハラ行為にはさまざまなパターンがあり、「どこからがセクハラなのか」「どんな言動がセクハラにあたるのか」という明確な基準を示すのは、なかなか難しいものですが、一般的にセクハラは、「性的嫌がらせ・性的おびやかし」であり、セクハラを受けている側が「不快」であると感じれば、セクハラとなるとされています。

たとえば、「まだ結婚しないの」「メイク変えた?」など、言った本人にしてみれば、たわいもない世間話のつもりでも、それが相手に不快感を与えれば、セクハラとなってしまうこともあります。

セクハラかどうかの認定基準

セクハラとは、職場における性的な言動によって、労働者の就業環境を害することをいいます。
職場のセクハラについては、大きく「対価型」と「環境型」に分類されます。

「対価型セクハラ」とは、性的関係の要求を拒否した場合に労働者が不利益を受ける行為をいいます。
たとえば、不倫関係になるよう要求したが断られたため、その腹いせとしてその労働者を解雇したり異動させたりする行為は、対価型セクハラに該当します。

「環境型セクハラ」とは、就業環境を不快にすることで、労働者の就業に重大な支障が生じる行為をいいます。
たとえば、労働者の身体に触ったり、性的な冗談を言ったり、ヌードポスターを職場の壁に貼ったりする行為は、環境型セクハラに該当します。

セクハラかどうかの判定は、ケースバイケースで判断していくことになりますが、一般的には、以下の3つの基準から判断することになります。

(1)職場において行われたものか
(2)労働者の意に反するものであるか
(3)行われた言動が性的なものであるか

(1)職場において行われたものか

「職場」は、会社内に限りません。出張先や取引先、営業車中、顧客の自宅なども「職場」に含まれます。また場所が「飲み会の席」であっても、その飲み会が職務との関連性が強く、実質的に勤務の延長である場合には「職場」とみなされる例もあります。
また、セクハラの被害者となる労働者は正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員なども含みます。

① 大阪セクハラ事件
カラオケボックス内で女性社員をソファに押し倒したりスカートをめくろうとしたりした行為を、セクハラと判断しました(大阪地裁 平成10年12月21日)。
② 東京セクハラ事件
女性従業員の入院先に見舞いに行った時のわいせつ行為、退院後ドライブに連れ出してキスをするなどの行為について、入院先の見舞いの際の行為が会社の業務に関する会話の後に行われていること、ドライブに連れ出した行為は上司の地位を利用していることなどから、会社の使用者責任を肯定しました(東京地裁 平成8年12月25日)。
③ 消費者金融会社セクハラ事件
飲食店で食事をしている際に、太ももをなでたり二次会で抱きついたり「俺とつきあえ」などと発言した(京都地裁 平成18年4月27日)。

(2)労働者の意に反するものであるか

「意に反するもの」とは、相手方の「望まない」言動で「不快な」ものをいいます。たとえその場では本人が会話に応じていたとしても、実は本人が内心では不快に思い、望んでいない言動や行動であれば「意に反する」言動にあたります。

④ 横浜セクハラ事件
事務所に2人きりになった際に、女性従業員の肩を叩いたり、揉んだり、髪を触った行為について、女性従業員の性的自由および人格権を侵害する不法行為と判断されました(東京高裁 平成9年11月20日)。
⑤ コンピューター・メンテナンス・サービス事件
派遣先の女性の肩を揉んだり、手を身体の前に持ってきたりした。残業を終えて出ようとした派遣先の女性に抱きつくなどの行為を約5カ月にわたって行った行為について、不快感を示していたにも関わらずなされたものであり、執拗かつ悪質であると判断されました(東京地裁 平成10年12月7日)。

(3)行われた言動が性的なものであるか

「性的な言動」とは、「性的な事実関係を尋ねること」「性的な冗談を言ったりすること」などを指しますが、程度・頻度・場所などによって判断は異なります。一度きりであったとしても、悪質なものであればセクハラに該当します。

⑥ 和歌山セクハラ事件
離婚をして子どもを育てている女性社員を「おばん」「ばばあ」などと呼び、性的に露骨な表現でからかった行為はセクハラ行為であり、女性に対する侮辱的な行為であると判断されました(和歌山地裁 平成10年3月11日)。
⑦ 三重セクハラ事件
男性上司(准看護師副主任)が、女性看護師A・B・Cにたいして「いいケツしとるな」「処女か」などと発言、雑誌を読んでいる時に太ももをなでたりした行為について、A・B・Cにとって嫌悪感を催すものであり環境型セクハラと判断されました(津地裁 平成9年11月5日)。

なお、セクハラは男性が加害者で女性が被害者というイメージがありますが、女性から男性に対してのセクハラもありますし、同性間のセクハラもあります。
たとえば、女性上司が男性部下に「男のくせにだらしない」と言ったり、女性が「あの女性は不倫している」と言いふらしたりする行為はセクハラに当たります。

どこからがセクハラ行為か

同じ行為でも相手に不快感を与えたか否かで、セクハラにならないこともあります。
また、本人は軽い気持ちや冗談のつもりでも、不必要なボディタッチや性的な言動はセクハラに該当する場合があります。また、「きれいな足だね」「女性の割には優秀だね」といった発言も、自分では相手を褒めているつもりでも、相手がそれを性的に不快だと思えばセクハラにあたる可能性があります。

ここでは、明らかにセクハラ行為であると認定される事例ではなく、セクハラと疑われやすい行為、セクハラにあたるか微妙な行為をピックアップしてご紹介します。

(1)おばさんなどと呼ぶ

自分では親しみを込めて「おばさん」と呼んでいるつもりでも、不必要になれなれしい態度は、相手に不快感を与えることがあります。また、部下の女性や男性を、下の名前で呼ぶ行為も同じようにセクハラに当たる可能性があります。

⑪ 市議会議員事件
市役所の議会棟の廊下で、市議会議員が助成議会議員に対して「男いらずのXさん」と呼びかけた行為などについて、恋人のいない女性等にたいしてのからかい、皮肉であるとして、違法性の高い名誉棄損、人格権侵害行為と判断されました(千葉地裁松戸支部 平成12年8月10日)。
⑫ L館事件
管理職2名が女性従業員2名に対して「もうそんな歳なん。結婚もせんとこんなところでなにしてんの。親泣くで」「30歳は、22,3歳の子から見たら、おばさんやで」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃう」「毎月お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせへんのか」などと発言した行為について、極めて露骨で卑猥な発言であり、強い不快感、嫌悪感、屈辱感を与える行為であり、従業員の就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招くと判断されました(最高裁一小 平成27年2月26日)。

(2)ストーカーよばわりする

自分では冗談のつもりでも、人をストーカー呼ばわりしたり「頭がおかしい」と言ったりすることは、その人の人格権を侵害する行為にあたります。

⑧ 東京セクハラ(破産出版会社)事件
上司の編集長が女性編集者Aについて「Aはおかしい」「Aはストーカーだ」などと発言、Xが他の同僚と飲食しているのを見て「2人はできているのかねえ」と発言した行為について、いずれも女性編集者Aの人格権を侵害したものとして不法行為を認定しました(東京地裁 平成15年7月7日)。
⑨ 東京セクハラ(T菓子店)事件
菓子店店長が女性契約社員に対して「頭がおかしいんじゃないの」「昨夜遊び過ぎたんじゃないの」「店にいる男性と何人やったんだ」などと発言した行為について、女性契約社員を困惑ないし恐怖させるもので違法と判断されました(東京地裁 平成20年9月10日)。
⑩ 大坂セクハラ(大阪市立中学校)事件
中学の女性英語教師に対して同僚の英語教師が、「彼女が生徒に厳しく当たっているのは、性的に不満があるからだ」「彼女に男さえいれば、性的に満たされる」などと発言した行為について、嫌がらせ、いじめと評価されました(最高裁二小 平成11年6月11日)。

(3)飲み会で「不倫しよう」と言う

従業員を食事や飲み会に誘うこと自体は、原則としてセクハラには該当しません。
ただし「部下がその誘いを断りづらい」という状況にある場合もある点には、十分な注意が必要です。
また、食事、飲み会の場所がファミリーレストランや大衆的な居酒屋などであれば問題はないのですが、照明が暗いお店だったり、個室になっていて客同士の席の距離が近いような店を選んだりすると、その行為自体を不快と感じる可能性があります。また、飲食の席で気が緩んだうえでの発言がセクハラと判断されるケースは非常に多いので、あわせて注意が必要です。

⑬ B市職員セクハラ事件
バーベキューの際に自分の膝の間に座らせ、「不倫しよう」と発言したり、懇親会の席上で他市の男性職員が独身と分かると「うちにいいのがいるから」と発言したりした行為について、多くの人の面前で強い不快感、屈辱感を与えるものであり、環境型セクハラであると判断されました(横浜地裁 平成16年7月8日)。
⑭ 岡山セクハラ事件
飲食後に女性を自宅マンションまで送り、家に上がって抱きつくなどした行為について不法行為を構成すると判断されました。しかし、自宅まで送った行為については、上司としての立場を利用した事情もなく職務を行ううえでなされたものではないとして、会社の使用者責任は否定されました(岡山地裁 平成14年11月6日)。

(4)服装を注意する

従業員の服装について、「その洋服は勤務するうえで、好ましくない服装である」などと注意するだけなら、それは必要な指導といえます。
しかし、「その服装、彼氏なら喜びそうだけど」「夜の店では人気が出そうだけど」などとわざわざ前置きをして注意をすると、その言動がセクハラとなる可能性があります。

(5)無理やり不倫する

不倫は確かに道義上問題がある行為ではありますが、双方の同意に基づいて行われていればセクハラにはなりませんし犯罪でもありません。

しかし、上司の執拗な要求を断れず、部下が嫌々応じて不倫をしている、というような状況であれば、セクハラとなる可能性もあります。

⑮ 東京セクハラ(M商事)事件
上司から「ホテルに行こう」と繰り返し誘われた女性従業員がセクハラを受けたと会社に訴え出たところ、会社から個人間で解決するよう求められ、依願退職するよう求められた事案において、慰謝料等の支払いを命じました(東京地裁 平成11年3月12日)。

セクハラを防止するためには

セクハラが判明した場合には、加害者は強制わいせつ罪(刑法176条)や強姦罪(刑法177条)、名誉棄損罪(刑法230条)などの刑事上の責任を負う可能性がありますし、民事上の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任も追います。

また、男女雇用機会均等法11条では、事業主は職場で行われる性的な言動に対して、必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと規定しています。
したがって、セクハラ行為をした労働者だけでなく、会社も使用者責任(民法715条)を負います。また、セクハラが行われるような職場は働きやすい環境とは言えないので、会社は労働者にとって働きやすい環境を作る義務を怠ったとして債務不履行責任(民法415条)を負う可能性があります。

参照:厚生労働省「雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために」

(1)方針を明確にし周知する

会社としてはまずセクハラがあってはならない旨の方針を明確にして、従業員に周知・啓発することが大切です。
その際には、行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定することも併せて周知・啓発します。
具体的には、会社の就業規則にセクハラを禁止する旨を明記するほか、「セクシャルハラスメント規定」などを作成する方法も効果的です。

(2)相談窓口を設置する

相談窓口を設置し、相談の申し出があった時には事実関係を迅速かつ正確に確認し、状況に応じて定説に対応できるよう体制を整えておくことも必要です。
被害者は、一人で悩み苦しみ、ようやく勇気を出して相談をするケースが多いので、相談をした段階では、すでに状況がかなり深刻化していることもあります。
したがって、迅速に必要な調査を行い、適切な対応を行うことができるよう、準備をしておくことが必要です。

(3)2019年の法改正によりセクハラ防止対策が強化

2019年の法改正によって、職場におけるパワハラやセクハラ及びマタハラ等を防止するために、事業主や労働者に対して、主に以下の事項について努めることとする責務規定が定められました。

【事業主側の責務】
①職場において、ハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるハラスメントに起因する問題に対する自社の労働者の関心と理解を深めるための対策を講じる必要があります。

② 事業主は、従業員に対して自社の労働者が他の労働者(取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます)に対する言動に必要な注意を払うよう、セミナー等を行うなどの配慮を行う必要があります。

③事業主自身(法人の場合はその役員)が、ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、労働者(取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます)に対する言動に必要な注意を払うことが必要です。

【労働者の責務】
①ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の労働者(取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます)に対する言動に必要な注意を払う必要があります。

②事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力する必要があります。

参照:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」

まとめ

以上、セクハラの概要や、判定の基準、会社が講ずべき対策等についてご紹介しました。男女雇用機会均等法11条では、事業主は職場で行われる性的な言動に対して、必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと規定しており、セクハラ被害が起こった場合には、会社も責任を負う可能性があります。

就業規則やセクシャルハラスメント規定の作成、相談窓口の設置など、会社が講ずべき対策などについては、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してみましょう。

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監修:「クラウドfreee人事労務」

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