ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達プロセス

公開日:2019年04月03日
最終更新日:2022年03月14日

この記事のポイント

  • 資金調達の方法のひとつとして「ベンチャーキャピタルからの資金調達」がある。
  • ベンチャーキャピタルには、政府系・銀行系・証券系などさまざまな種類がある。
  • ベンチャーキャピタルのからは決算書、事業計画書などの提出が求められる。

 

起業時の資金調達はさまざまな方法がありますが、その資金調達の方法のひとつがベンチャーキャピタルから出資を受けるという方法です。
最近は、ベンチャーキャピタルを活用してスピード株式上場したベンチャー企業が増加傾向にあり、注目を集めています。

ただし、ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、株式上場を狙えるほどの優れた技術やサービスを持っていることが前提ですし、何よりもベンチャーキャピタルの概要をしっかり理解しておく必要があります。

ここでは、ベンチャーキャピタルからの資金調達プロセスやその種類について概要をご説明します。

ベンチャーキャピタル(VC)とは

ベンチャーキャピタル(venture capital、略してVC)とは、ベンチャー企業に出資して、その出資先が株式上場することによって、キャピタルゲイン(投資した株式の値段が上がることで、その差額の利益を得る)を得ることを目的とした会社のことをいいます。

簡単に言えば、100万円出資して1,000万円になったら回収し、その差額の900万円の利益を得るというようなイメージです。どのようなタイミングでどのように回収するかという戦略を「出口(エグジット)戦略」と呼びます。

エグジッドは主にM&Aによる売却と株式上場の2つがあげられます。
後述する「事業会社系VC」では、親会社の本業と密接な関わりのあるベンチャー企業に投資する傾向がありますが、それは、エグジットとして親会社が将来的にM&Aで買収する可能性を見据えているからです。

ちなみに、「ベンチャー企業」と「スタートアップ」と同義で扱われることが多いので、ここでは同義として扱いますが、そもそも「ベンチャー企業」という言葉は日本人が作った和製英語であり、スタートアップとは、「まだ販売活動は開始されていないものの、本格的な事業展開に乗り出す時期」のことを意味します。
したがって、両者の意味は異なりますのでその点についてご了承ください。

(1)ベンチャーキャピタルのビジネスモデル

ベンチャーキャピタルは、起業して間もないベンチャー企業に対して出資を行うベンチャー投資のプロフェッショナルといえます。
具体的には、機関投資家や個人投資家から出資者を募集してファンドを組成し、このファンドに資金を集めて複数のベンチャー企業に出資を行っています。
そして出資した後は、ベンチャー企業の成長スピードを加速させるために支援等を行い、その会社が株式上場もしくはM&Aを実行した後に、キャピタルゲインを得るというビジネスを行なっています。
一般的な回収方法は上場もしくはM&Aですが、なかにはベンチャーキャピタルに出資してもっていた分を後日自社で買い戻し、事業を継続するケースもあります。

(2)ベンチャーキャピタルの種類

ベンチャーキャピタルは、政府系・銀行系・証券系などさまざまな種類があります。
かつては、ベンチャーキャピタルといえば金融機関から派生したものが一般的でしたが、経営コンサルティング会社や業種特化型ベンチャーキャピタルの参入も目立つようになってきました。

政府系VCや銀行系VC、証券会社系VCは、投資対象分野を特に限定していないケースがほとんどですが、事業会社系VC(インテルキャピタル、ライブドアファイナンスなど)など事業会社の傘下にあるベンチャーキャピタルは、その事業会社の本業と関連事業分野への投資を積極的に行う傾向があります。また、「アーリーステージのIT事業に出資する」という運営方針のベンチャーキャピタルもあります。

政府系VC
政府系ベンチャーキャピタルとは、株式会社産業革新機構、東京中小企業投資育成株式会社、大阪中小企業投資育成株式会社など、政府や公的組織によって運営されているベンチャーキャピタルのことです。
それぞれのベンチャーキャピタルのホームページで対象としている事業を確認するとイメージしやすいと思いますが、どの事業分野も高度な技術・知識が必要です。
日本を代表する企業、日本を代表する技術を育てることが視野にあるのですから、当然資金調達の難易度も高いということになります。
銀行・保険会社系VC
銀行・保険会社系のベンチャーキャピタルは、日本国内で最も数が多いベンチャーキャピタルといえるのではないでしょうか。
メガバンクだけでなく地方銀行などでもベンチャーキャピタルを設立しています。
前述した政府系ベンチャーキャピタルと比較すると、設立数が多い分だけ調達可能性も高いと言われています。

なお、規模の大きい出資の場合、複数のベンチャーキャピタルが出資する場合があります。このことを協調と呼びます。このような時に最も多くの金額を出資するベンチャーキャピタルをリードインベスターあるいは単にリードと呼びます。
銀行・保険会社系のベンチャーキャピタルは、リードインベスターになることはあまりなく、むしろリードにならない傾向があると言われています。

証券会社系VC
証券会社系ベンチャーキャピタルでは、ジャフコ(野村證券系)、大和企業投資(大和証券系)の大手2社が有名です。他ベンチャーキャピタルと異なる特徴としては企業買収(バイアウト)を行なっている点を挙げることができます。
創業間もないアーリーステージ(※後述)での投資にも、比較的積極的です。
事業会社系VC
事業会社系ベンチャーキャピタルとは、一般的な事業を営む事業会社が子会社としてベンチャーキャピタル業務を行う法人を設立することです。

たとえば大手商社である三井物産や伊藤忠は、それぞれ三井物産グローバル投資、伊藤忠テクノロジーベンチャーズを設立していますし、IT業界ではヤフーがYJキャピタルを、サイバーエージェントがサイバーエージェント・ベンチャーズを設立しています。

一概には言えませんが、事業会社系のベンチャーキャピタルは主に親会社の事業内容と関わりのある事業を行うベンチャー企業への出資が多いという特徴があります。
これは、エグジットとして親会社による当該ベンチャー企業の買収(M&A)という強力な選択肢があるためです。

独立系VC
独立系ベンチャーキャピタルとは、大手企業のグループ会社として存在するのではなく、独立資本で設立されているベンチャーキャピタルのことをいいます。
独立系ベンチャーキャピタルとしては、インフィニティ・ベンチャーキャピタル、日本アジア投資、日本みらいキャピタルなどがあります。
事業会社系ベンチャーキャピタルと比較すると、親会社とのシナジー効果を求めて出資するということがないため、ある意味で純粋な投資が目的であるという見方をすることもできます。

(3)ベンチャーキャピタルの「ステージ」ごとの投資姿勢

ベンチャー企業は、大きく下記4つのステージに分けられ、それぞれのステージによって投資姿勢は変わります。

①シードステージ(Seed Stage)
シード(種)ステージとは、事業の構想段階で試作品等を作っている段階のことをいいます。
事業開始前であり、これから法人設立前後といったタイミングです。
シードステージで出資を得るのは相当ハードルが高く、たとえば、大学で基礎研究されていた物や技術を事業化する等、レベルとしてかなり高いものが要求されます。
②アーリーステージ(Early Stage)
アーリーステージとは、ようやく売り上げが立ち始める段階にある企業をいいます。
商品やサービスが世間に周知できていないのでそのための資金が必要としている段階ですが、日本のベンチャーキャピタルでは、この段階で積極的に投資をするケースは、あまりありません。
③ミドルステージ(Middle Stage)
ミドルステージとは、事業が軌道動に乗り始める段階のことをいいます。成長しつつある時期であり、そのための資金を必要としています。
ミドルステージになると、ベンチャーキャピタルから出資を受けるのがかなり容易になると言われています。
④レイターステージ(Later Stage)
レイターステージとは、事業が軌道に乗って安定し、黒字化している段階のことをいいます。
レイターステージはミドルステージよりさらに、出資を受けるのが容易になります。

ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達プロセス

ベンチャーキャピタルからの資金調達のプロセスは、①ベンチャーキャピタルとの接触、②投資案件の審査・評価、③投資条件の検討と交渉、④投資の決定と投資契約の締結、⑤投資先企業の支援と進みます。

(1)ベンチャーキャピタルとの接触

当たり前のことですが、ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、ベンチャーキャピタルと接触することが必要です。
ベンチャーキャピタルは、セミナーなどに積極的に参加して情報を得たり、ネットや新聞を情報源に投資先を調査したりして、投資案件を発掘しようとしています。
したがって、ベンチャーキャピタルと接触するためには、これらの「投資案件情報源」に接触する必要があります。
この投資案件情報源のことを「ディールソース」といいます。
※投資先(ディール)にたどり着く情報源(ソース)
実際のディールソースは、起業家やスタートアップ企業が多く参加しているセミナーやイベントなどであるケースが多く、そのような場で名刺交換をして、後日アプローチするケースが多いようです。
この他、弁護士、会計士、コンサルタントなどのプロフェッショナルから紹介を受けることもあります。

(2) 審査・評価

ベンチャーキャピタルは、出資する企業を厳選するために、事業計画を投資可能かどうか審査・評価します。

そして、その差異に企業のステージによって異なりますが、決算書(財務三表)、エビデンス(顧客との契約書など)、登記簿、計画書、などの資料の提出が求められます。

アーリーステージ、シードステージであれば、代表者の経歴、スキルなどの提出が求められることもあります。

事業計画書の作成
事業計画書とは「事業の将来性とその実現可能性」を示す書類です。個人事業主やベンチャー企業、中小企業など、組織の形態や大小は関係なく、「事業を行うための資金を調達する」ために必要となるだけでなく、自身の事業が確実に成長していけるかどうかの指針とするうえでも、有効な書類です。
特にベンチャーキャピタルに提出する際には、冷静な数字の分析と共に事業への熱い気持ちを丁寧にわかりやすくまとめ、ベンチャーキャピタルに「この人なら確実にやれるだろう」と思ってもらう必要があります。

資金繰り表
アーリーステージ以降の企業で求められるのが、資金繰り表です。
会計上のお金は現預金(キャッシュ)ベースではなく、日々の決済資金がちゃんと足りるかどうかを確認・判断するために提出が求められます。

特に、売掛と買掛のギャップにより運転資金が発生するような業種、無料サービスの提供が先行しマネタイズ(収益化)が後からついてくるという業種の場合には、必須の書類となります。

今は赤字で銀行からの融資は受けられないような状態でも、将来は成長して上場も視野に入れているというような企業であれば、十分出資を受けられる可能性があります。

(3)投資条件に付いて交渉

ベンチャーキャピタルによる審査・評価の結果、投資について前向きに検討することが決まると、ベンチャーキャピタルと投資額や株価について交渉が行われます。
一部のベンチャーキャピタルには、会社の経営がうまくいかなかった場合に備えて、投資契約に起業家による株式の買戻し条項を入れるケースがありますが、リスクをとらずにリターンだけ狙うというのは、虫の良すぎる話といえます。
したがって、交渉段階でこのような条件を提示された場合には、きちんと拒絶するようにしましょう。

(4)投資契約の締結

投資が決定すると、ベンチャーキャピタルとの間で投資契約書が締結されます。
投資契約書は、交渉次第で内容が大きく変わることがあります。
投資契約書には、会社側に不利となる規定が入っている場合もありますので、かならずファイナンスに詳しい公認会計士や税理士、弁護士などの専門家のアドバイスを受けましょう。

(5)投資先企業の支援

投資後は、投資先企業のハンズオン(育成・支援を積極的に行う)を実施するベンチャーキャピタルと、ハンズオフ(投資先のマネジメントに任せる・出資のみで経営には参加しない)のベンチャーキャピタルに分かれます。

ハンズオン型のベンチャーキャピタルとは出資後に経営支援を行なってくれるベンチャーキャピタルのことで、たとえば取締役会への参加や、事業に必要な技術を持つ企業や人員の紹介など、経営に必要な様々な支援を行ないます。

ただしハンズオンには注意が必要です。ハンズオンという言葉は実に曖昧で、ベンチャーキャピタルによって、また担当者によって「どこまで経営支援を行うか」という程度にかなりの差があるからです。
したがって、ベンチャーキャピタルと交渉をする際には、できる限り早い段階で担当者にどこまで支援してくれるのかというハンズオンの内容について確認しておきましょう。なかには、月に1回1時間程度の面談をする程度の支援を「ハンズオン」と呼んでいることもあるからです。

まとめ

以上、ベンチャーキャピタルの種類や特徴、資金調達のためのプロセスなどについてご紹介しました。
ご紹介してきたように、ベンチャーキャピタルは個々の会社ごとに方針が違い、起業間もない会社でも積極的に投資を行うベンチャーキャピタルもあれば、事業がある程度軌道に乗った会社を対象とするベンチャーキャピタルなどさまざまです。
ベンチャーキャピタルからの資金調達を成功させるためには、ベンチャーキャピタルの概要をよく理解し、知識を身に着け、税理士などのサポートを受けながら、ベンチャーキャピタルを納得させられるだけの説得力のある事業計画書を作成するようにしましょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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