公開日:2023年01月06日
最終更新日:2023年02月10日
ある事業年度の課税所得がマイナスとなり、税務上の欠損金が生じた場合には、この欠損金を翌事業年度以降に繰越して、翌事業年度以降に発生した課税所得から減額することができます。
つまり、欠損金を利用すれば法人税を少なくすることができます。
さらに、中小法人の場合には、一定の要件に該当すれば、欠損金が出たら税金を還付してもらえることもできます。
法人税は、法人のそれぞれの事業年度の所得金額ごとに課税されます。
つまり法人税は、原則として当期の所得金額に対して課税され、前期の所得金額は当期の所得金額にプラスされることはありませんし、前期の欠損金が当期の所得金額からマイナスされることもありません。
これを「事業年度独立の原則」といいます。
しかし会社は、厳しい社会経済情勢の変化に直面しながら事業を行っていますから、黒字の年もあれば赤字の年もあります。
たまたま不動産を売却してその年度だけ黒字になったものの、その次の年度には赤字になったということもあります。
このような場合に、黒字のときだけ税金が課税され、赤字のときには何も措置がないのは不公平です。できれば、何年も通算して所得を計算してほしいものです。
そこで、法人税法上の欠損金については、青色申告法人に限って、翌事業年度から10年間(または9年間)、損金に算入して法人税を軽減できる制度(欠損金の繰越控除)があります。
繰越欠損金とは、このような欠損金の繰越控除制度を利用する場合に、ある年度で発生した税務上の欠損金を、翌期以降に繰越した場合の当期欠損金のことで、青色申告書を提出した年度の欠損金額は、その後10年(または9年)以内の年度の所得金額と通算できることとする税法の特例です。
たとえば、1年決算の会社で10期に100万円の欠損金が出て、11期に10万円の欠損金が出て、12期に40万円の所得が出たとします。
10期は法人税がかかりませんが、欠損金額は翌期に繰越すことができ、11期も法人税がかからないことになります。12期は欠損金額と所得を通算するので、12期も法人税がかからないことになります(※後述)。
また、中小法人の場合には、直前の事業年度に法人税を納めていれば、欠損金額に相当する法人税を還付してもらえる制度(欠損金の繰戻)もあります。
欠損金とは、「税務上の赤字」とも言われるもので、各事業年度の所得金額を計算するうえで、当該事業年度の損金の額が、当該事業年度の益金の額を超える場合の超過部分の金額をいいます。
税務上の欠損金 = 損金 - 益金 |
つまり、その事業年度の損金の額が益金の額を超える場合のマイナスの所得(赤字)のことをいいます。
税法では、青色申告書を提出した年度の欠損金額については、その後10年(または9年※)以内の年度の所得金額と通算することができるとしています。
※平成20年4月1日以降に終了した事業年度で生じた欠損金については、9年。平成30年4月1日以降に開始する事業年度において生じた欠損金については、10年。
(欠損金の控除限度額と繰越期間の一覧については、後述)
つまり、欠損金額があるときには、今期の黒字の所得金額を限度として、その欠損金額を損金の額に算入することができます。
これを欠損金の繰越控除といいます。
この欠損金の繰越控除の制度を適用するためには、欠損金が生じた事業年度において青色申告書を提出し、かつ、欠損金が生じた事業年度以降も連続して確定申告書を提出していること、および欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を保存していることが条件です。
つまり、青色申告書を提出して、その後も連続して青色申告書を提出している場合に限り、欠損金が生じた場合には、その欠損金額を10年間繰越控除することができます。
中小法人など特定の会社は全額を控除できますが、それ以外の会社では所得の50%が控除限度額です。
青色申告をしなかった年度(白色申告事業年度)であっても、棚卸資産、固定資産などについて、震災、風水害、火災、冷害、雪害、虫害、爆発などによる損失の欠損金については、10年間の繰越控除ができます。
欠損金の繰越控除は、古い事業年度に生じたものから、順次行わなければなりません。たとえば、以下のA社の所得金額と欠損金額について見てみます。
第5期 | 第6期 | 第7期 | 第8期 | 第9期 | 第10期 |
▲100 | ▲10 | 40 | 30 | 20 | ▲20 |
第5期で100万の欠損金、第6期で10万の欠損金が出た場合、第5期の欠損金額100万円は、第6期に繰越となり、第6期も法人税はかからず、欠損金は100万円(第5期)+10万円(第6期)=110万円となります。
第7期は、第5期の欠損金額100万円のうち、40万円を通算して法人税がかかりません。繰越欠損金は、古い事業年度に生じたものから順次使うことになりますので、第7期の欠損金は、(第5期分の100万円-40万円)+(第6期分の10万円)=70万円となります。
第8期も、法人税はかからず、第8期の欠損金は、(第5期分の60万円-30万円)+(第6期分の10万円)=40万円となります。
さらに第9期も、法人税はかかりません。
第9期の欠損金は、(第5期分の30万円-20万円)+(第6期分の10万円)=20万円となります。
このように、繰越欠損金は古い事業年度に生じたものから、順次行っていくことになります。
中小法人以外の法人については、平成30年4月1日以降に開始する事業年度の所得の50%相当額が、繰越欠損金の控除限度額とされました。
開始する事業年度 | 控除限度額 | 繰越期間 |
平成20年4月1日から 平成24年3月31日までの間 |
制限なし | 9年 |
平成24年4月1日から 平成27年3月31日までの間 |
所得金額の80% | |
平成27年4月1日から 平成28年3月31日までの間 |
所得金額の65% | |
平成28年4月1日から 平成29年3月31日までの間 |
所得金額の60% | |
平成29年4月1日から 平成30年3月31日までの間 |
所得金額の55% | |
平成30年4月1日以降 | 所得金額の50% | 10年 |
ただし中小法人等(※)は、所得金額の制限はありませんので、各事業年度の所得金額の100%相当額を限度に、欠損金の繰越控除を行うことができます。
※中小法人等とは ①普通法人のうち、各事業年度終了時において、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの(資本金の額または出資金の額が5億円以上の大法人の100%子会社などを除く) ②公益法人等または協同組合等 ③人格のない社団等 |
欠損金の繰戻し還付とは、欠損金を翌期以降に繰越さないで、前期の所得と通算して前期に納めた税額を返してもらう制度です。
具体的には、青色申告をした事業年度において欠損金が生じた場合には、確定申告書の提出と同時に、納税地の所得税務署長に対して、欠損金に関する事業年度(欠損事業年度)が開始する日の前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)の所得に対する法人税額のうち、欠損金額に対応する税額の還付を請求することができます。
繰戻し還付請求するための要件
①前事業年度(前期)および欠損事業年度(当期)ともに青色申告書を提出していること |
なお、この制度は法人地方税にはありませんので、還付されるのは国税である法人税の額のみです。
還付金額は、以下の計算式で計算します。
還付金額 = 還付所得事業年度の法人税額 × (欠損金額 ÷ 還付所得事業年度の所得) |
たとえば、前期の所得金額が100万円で法人税額が30万円、当期の欠損金額が▲60万円であったケースで考えてみます。
この場合の還付金額は、以下のように計算します。
還付金額=30万円×(60万円÷100万円)=18万円 |
上記のように、当期の欠損金▲60万円の全額を、前期の所得金額100万円と通算して18万円を返してもらうことができます。
令和2年度の改正では、連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することが決まり、令和4年4月1日以後に開始する年度から適用されます。
連結納税制度適用開始前に生じた欠損金や、連結グループの加入前に生じた欠損金については、原則として連結グループで繰越控除ができないことになっていますが、例外として以下のような場合にはその欠損金の繰越控除が認められるとされています。
①親会社の開始前10年(9年)以内に生じた欠損金額 ②適用開始前10年(9年)以内に行われた株式移転によって設立された親会社が、その株式移転にかかる完全子会社である子会社の株式の全部を継続して保有している場合には、その子会社の前10年(9年)以内に生じた欠損金額または連結欠損金額の個別帰属額 |
繰戻し還付を行う場合には、還付請求手続きを行うことで「債権」となります。
当該未収還付金額は、貸借対照表の「未収還付法人税等」などその内容を示す適当な名称で、資産に計上します。
なお、法人税等還付税額は、消費税の課税対象外となります。
「欠損金の繰戻還付によって、100万円の法人税等の還付を受けることになった。」
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欠損金が生じた場合には、将来9年間(10年間)に生じる黒字の所得から控除することができます。また、税務上の欠損金が発生した場合には、その欠損金額を前事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求することができます。
これを繰戻還付といいます。
制度が適用されるためには、青色申告書を提出していることなどの条件が必要となりますので、詳細な手続きについては早めに税理士に確認して、もれなく手続きを行うようにしてください。
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