中小企業の売上高の計上時期

公開日:2018年11月07日
最終更新日:2022年07月05日

この記事のポイント

  • 売上高の計上には、いろいろな計上基準がある。
  • 一度採用した基準は、毎期継続して適用しなければならない。
  • 売上計上もれは、重加算認定されるので注意が必要である。

 

売上や仕入を計上するタイミングについては、何となくは知っていても正確に理解している人は案外少ないものです。
会計では、売上計上の時期が定められていますが、比較的恣意的に操作しやすいこともあり、税務調査でもチェックされやすい項目のひとつです。
売上計上もれは重加算認定されることもありますので、売上計上基準については営業サイド等とよく確認しておくことが必要です。

中小企業の売上計上時期

売上は会社の利益の源泉となる重要な取引ですが、会計では、売上計上の時期が定められています。
節税対策のために当該事業年度の所得金額を縮小したい場合には、なるべく翌期の益金に延期計上したいと考えるものですが、益金の計上時期は自由に選べるものではなく、さまざまな規定が設けられています。

(1)売上高として処理するものとは

売上高として処理するものは、営業活動で提供した商品や製品の販売、サービスの提供によって得た対価、請負収入、仲介料収入などです。

売上高として処理するもの
商品や製品の売上
半製品の売上
試用品の売上
割賦販売、委託販売の売上
サービス料収入
請負収入
仲介料収入
など

(2)企業会計上の売上は「実現主義」で計上

何をもって売上があったと認識するかについては、実現主義・発生主義・現金主義の3つの考え方があります。企業会計上、収益は実現主義によって収益を計上する「収益認識基準」によって計上されます。

実現主義
入金の有無にかかわらず商品を引渡した時点で売上があったと認識する考え方です。商品の動きと売上の計上が一致することで、損益をタイムリーにとらえることができます。
法人の経理では、収益の計上については原則として実現主義に基づいて売上を計上します。

発生主義
金銭のやり取りの有無に関係なく取引が発生した時点で費用と収益を計上する考え方です。
売上や、費用の支出額について、確定した時点の日付で帳簿をつけるので、金銭のやり取りがまだ行われていなくても取引が確定した時点で計上することになります。

現金主義
代金の入金があった時点で売上があったと認識する考え方です。売上のほとんどが現金で取引されている場合は、簡単に集計できるメリットがあります。
ただし商品やサービス代金を前払いした場合、実際に対価が提供されるのはまだ先であるなど、入金が遅れる取引がある場合でも、当該期間の費用として計上しなければならないので、商品の引渡しと売上の計上がずれてしまう面があります。

(3)令和3年開始「収益認識に関する会計基準」

平成30年3月に「収益認識に関する会計基準」が公表され、上場企業等には令和3年4月1日以後開始する事業年度から強制適用されています。
収益認識基準では、「約束した財又はサービスの顧客への移転を、それらと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識すること」という基本となる原則に従って収益を認識するための5つのステップが示されています。

どの単位で ステップ1 顧客との契約の識別 収益認識会計基準の定めは、顧客と合意して、かつ所定の要件を満たす契約に適用する。
ステップ2 契約における
履行義務の識別
契約において、顧客への移転を約束した財またはサービスが所定の要件を満たす場合には、別個のものであるとして、当該約束を履行義務として区分して識別する。
いくらで
(計上額)
ステップ3 取引価格の算定 変動対価または現金以外の対価の存在を考慮し、金利相当分の影響および顧客に支払われる対価について調整を行い、取引価格を算定する。
ステップ4 取引義務への
取引価格の配分
契約において約束した別個の財またはサービスの独立販売価格の比率に基づき、それぞれの履行義務に取引価格を配分する。独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積る。
いつ
(計上時期)
ステップ5 履行義務の充足
による収益の認識
約束した財またはサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足した時、または充足するにつれて充足した履行義務に配分された額で収益を認識する。履行義務は、所定の要件を満たす場合には、一定の機関にわたり充足され、所定の要件を満たさない場合には一時点で充足される。

中小企業においては、現時点では上記収益認識基準の適用は求められていませんが、今後収益認識基準の適用が求められた場合には、自社の会計方針にどのような影響があるかについてはよく確認しておく方がよいでしょう。

売上高の計上基準

売上を計上する時期は、基本的には商品やサービスの引渡しがあった時とされています。
ただし、いつの時点で「引渡した」とするべきかについては、それぞれの商品やサービスの性質や契約内容によって異なります。

(1)出荷基準・出庫基準・検収基準とは

法人税法では、以下のいずれかの時点であれば益金算入することが認められています。

①出荷基準
相手方の注文に応じて、商品等を出荷したときに引渡しがあったとします。

②出庫基準
店頭または倉庫などから出荷したときに引渡しがあったとします。

③搬入基準
相手方の受入場所に搬入したときに引渡しがあったとします。

④検収基準
相手方が商品等を検収して、引取りの意思表示があったときに引渡しがあったとします。

⑤使用収益基準
機械や設備などの販売の場合、機械や設備を設置し取引相手が使用して収益を得ることができるようになったときに引渡しがあったとします。

売上の計上基準は業態や会社の実情に応じて選ぶことができますが、一度選んだ基準は毎期継続して適用しなければなりません。
節税対策のためには、なるべく売上高を翌期に伸ばして当該事業年度の所得金額を縮小したいと考えるものですが、売上計上もれは税務調査等で厳しくチェックされる項目です。指摘されればそれは重加算認定に直結しますので十分な注意が必要です。

事業が軌道に乗って利益が出るようになると、法人税がかかるようになります。法人税は原則として次の期になってから一括で納付するため、資金繰りに影響を与えることもあります。
ところが、この売上については、自社で発行する納品書や請求書などが証憑(しょうひょう)となるので、「当期に入れるべき売上を翌期に繰り延べる」「売上を除外する」「翌期の返品や値引き、割戻しを当期に繰り上げる」などの税負担を免れるために利益を少なくしようという恣意的に操作することが容易に行えるともいえます。
しかし、このような行為は脱税に該当し、ペナルティーを課されます。

売上除外は帳簿に記録するべきものを記録しないため、簡単に見つからないと思われるかもしれません。しかし、税務署が行う税務調査では、現金預金や商品の流れを丹念に追跡して、売上除外などの不正行為を見つけだします。時には、取引先まで聞き取りを行うこともあるのです。

利益を減らすために会計操作をすると、必ずどこかで取引の矛盾が生じ、税務調査で見つかる結果になってしまいます。税務調査で脱税が見つかると、不足する税額に加えて重加算税などの処分の対象となりますので、くれぐれもこのような行為を行わないようにしましょう。

(2)委託販売「仕切精算書到達日基準」

委託販売においては、原則として受託者の販売時に売上高を計上する「販売基準」が採用されます。ただし、売上のつど売上計算書(仕切精算書)が作成され、送付されている場合には、継続適用を条件として、仕切精算書が到達する日の属する事業年度に益金算入することができます。

(3)試用販売「買取意思表示基準」

試用販売とは、相手に商品を送って、一定期間試用してもらってから商品を購入するかどうか決めてもらう販売形態です。
試用販売においては、買主が買取りの意思表示を示したときに収益を計上します。これを「買取意思表示基準」といいます。
ただし、契約で買主の買取意思表示期間を定められていて、その期間内に返答がない場合には買取意思表示があったものとして取り扱われる内容である場合には、その期間を過ぎた日に属する事業年度の益金に算入されます。

(4)予約販売・割賦販売「販売基準」

予約販売とは、あらかじめ顧客から購入の意思表示を受けたうえで、商品の一部または全部を受取、後日商品の引渡しを行う販売形態で、割賦販売とは、商品は先に引渡し、分割払いで代金を回収する販売形態です。

予約販売も割賦販売も、商品の引渡し時に売上高を計上する「販売基準」が適用されます。

ただし、割賦販売において金利相当分について区分経理するなどの実態がある場合には、割賦金の支払期日が到来するごとに収益計上する(履行期日到来基準)こともできます。

(5)工事請負「工事進行基準・工事完成基準」

工事請負については、工事請負の規模等によって、工事完成基準、工事進行基準、部分完成基準があります。

工事完成基準では、収益の額はその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日の属する事業年度に益金の額に算入します。

工事進行基準では、各事業年度の工事進行度を見積り、工事収益の一部を当該事業年度の収益として計上します。

部分完成基準では、工事全部が完成しないときでも、その事業年度に引き渡した建設工事等の量または完成部分(マンション5棟のうち2棟など)に対応する工事収入を当期事業年度の益金に算入します。

工事の内容 計上基準
長期大規模工事
・着手の日から目的物の引き渡しの日までの期間が1年以上であること
・請負の対価が10億円以上であること
・請負の対価の額の2分の1以上が目的物の引き渡しの日から、1年を経過する日以後に支払われるものでないこと
・損失が見込まれる工事を含む
工事進行基準
その他の
工事
上記以外の工事で、2事業年度以上にわたるもの 黒字となる
工事
工事進行基準
または工事完成基準か選択
赤字となる
工事
工事完成基準
引き渡した目的物が部分的に完成した工事 部分完成基準
上記以外のもの 工事完成基準

▶ 工事進行基準とは|要件・仕訳・税務上のポイント

(6)サービス提供「役務完了基準」

物の引渡しをしない請負契約による収益(サービス提供)は、サービスの全部を完了した日の属する事業年度に益金算入します。
これを「役務完了基準」といいます。
ただし、機械設備等の販売に伴う据付工事や、不動産の仲介・斡旋報酬などについては、役務完了基準以外の基準に基づいて益金算入されるケースがありますので、注意が必要です。

(7)運送収益「役務完了基準」

運送収益は、運送役務の提供を完了した日の属する事業年度に益金算入する「役務完了基準」が適用されます。
ただし、運送契約、性質、内容などによっては、継続適用を条件として「発売日基準」「集金基準」なども認められています。

まとめ

以上、「中小企業の売上高の計上時期」についてご紹介しました。前述したとおり、会社の経理を税理士に依頼せず自社で行おうとする場合は、計上時期に関するルールを十分に理解し、適切に処理をする必要があります。
「これぐらい時期をずらしても、問題ないだろう」といった、軽い気持ちで計上時期を不正に操作すると、脱税など重大な不正につながってしまうこともあるので注意しましょう。

計上基準について相談する

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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