工事進行基準とは|要件・仕訳・税務上のポイント

公開日:2022年02月17日
最終更新日:2022年03月20日

この記事のポイント

  • 工事進行基準とは、工事売上高の計上基準のひとつ。
  • 長期大規模工事の場合には、工事進行基準が強制適用される。
  • 目的物の引渡が翌期以降で黒字となる工事では、工事進行基準を選択できる。

 

工事売上高の計上基準は、工事請負の規模等によって、工事完成基準・工事進行基準・部分完成基準があります。
工事進行基準とは、工事の進捗部分について成果の確実性が認められる場合に採用される基準です。
税法上、計上基準は「工事完成基準」「工事進行基準」および「部分完成基準」が認められていますが、どの基準を適用するかによって利益(所得)が大きく変わり、納税額に影響を与えることになりますので、重要なポイントとなります。

この記事では、工事進行基準が適用される要件、意味、処理仕訳などについてご紹介します。

工事進行基準とは

工事進行基準とは、工事(製造、ソフトウェア開発を含む)の進捗部分について成果の確実性が認められる場合に、原則として採用される計上基準です。
収益認識基準が適用されたことで、「工事契約に関する会計基準」は廃止となりましたが、会計処理自体は大きな変化はなく、工事の進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準が採用されます。

工事売上高の計上基準としては、税法上「工事進行基準」のほか「工事完成基準」「部分完成基準」が認められていますが、どの基準を適用するかで利益「所得」が大きく異なることになります。

(1)工事進行基準の「成果の確実性」とは

工事進行基準が採用される「成果の確実性が認められる場合」とは、以下の3つの要素について、信頼性をもって見積もることができるものです。

①工事収益総額 工事契約によって定められた、施行者が受け取る対価の総額
②工事原価総額 工事契約によって定められた、施行者の義務を果たすために支出した総額
③決算日における工事進捗度 決算日までに実施した工事について発生した工事原価が、工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法として、「原価比例法」がある。

(2)工事進行基準と工事完成基準の違い

工事完成基準とは、請負工事が完成して引き渡しを行ったときに収益を認識する方法です。
建設工事などの請負契約の場合には、以下のような日が「引渡日」となります。

・作業を決了した日
・相手方の受入場所に搬入した日
・相手方が検収を完了した日
・相手方が使用収益できるようになった日

工事完成基準では、収益の額はその目的物の全部を完成し、相手に引き渡した日の属する事業年度に益金算入します。つまり、目的物の提供が完了するまでは売上高は計上されません。

一方工事進行基準は、請負工事が完成して引き渡しを行なう前に、工事の進捗度合いに応じてその事業年度の収益と費用を計上する方法です。工事の途中段階において売上高が計上されるという点が、工事完成基準と大きく異なる点です。

(3)工事進行基準と部分完成基準の違い

部分完成基準とは、同種の工事を請け負った場合に、その引き渡しの量に従って工事代金を収入できる契約や、建設工事の一部が完成してその部分を引き渡すたびに工事代金を収受する契約の場合に、完成部分を収益計上する方法です。

以下のいずれかに該当する場合には、建設工事等の全部が完成していなくても、その事業年度の益金に算入しなければなりません。

①1つの契約によって、同種の建設工事等を多量に請け負ったとき(たとえば、5棟のマンションの建設を請け負ったときなど)で、その引渡量にしたがい(たとえば、5棟のうち完成した3棟を引き渡すなど)工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合

②1つの工事の請負工事等であっても、建設工事等の一部が完成して完成部分を引き渡した(たとえば10kmの道路工事のうち、2kmの道路工事が完成し、引き渡したなど)場合には、その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約または慣習がある場合

一方工事進行基準は、特約または慣習などによらず成果の確実性が認められる場合に工事の進行度合いに応じて、収益と費用を計上する方法であるという点で異なります。

(4)工事進行基準は長期大規模工事などで採用される

工事(製造、ソフトウェア開発を含む)の請負にかかる収益については、長期大規模工事、その他の工事に区分して、以下のような計上基準となります。

工事の内容 計上基準
長期大規模工事
・着手の日から目的物の引き渡しの日までの期間が1年以上であること
・請負の対価が10億円以上であること
・請負の対価の額の2分の1以上が目的物の引き渡しの日から、1年を経過する日以後に支払われるものでないこと
・損失が見込まれる工事を含む
工事進行基準
その他の工事 上記以外の工事で、2事業年度以上にわたるもの 黒字となる工事 工事進行基準
または工事完成基準か選択
赤字となる工事 工事完成基準
引き渡した目的物が部分的に完成した工事 部分完成基準
上記以外のもの 工事完成基準

(5)工事進行基準のメリット

同じ工事であっても、適用する基準が工事進行基準か工事完成基準かで、発生年度ごとの損益が異なります。
結果的に工事全体で利益が見込まれている場合には、工事進行基準を適用すると工事完成基準を適用した場合と比較して利益が先に計上されることになります。
損失が見込まれる工事についても工事進行基準の適用が認められており、工事進行基準をとれば、実現していない損失についても損金算入することができ、工事以外の利益と相殺して節税することが可能となります。
対象事業は、建設業のほかに造船業、プラント業、ソフトウェア開発も含まれることから、工事進行基準は多くの業界で活用されています。

たとえば、ソフトウェア開発を受注した場合、何らかの事業で赤字と分かっても完成して売上を計上するまでは、その赤字を計上することはできず、完成時にようやく計上できることになります。
しかし工事進行基準を採用すれば、完成していない段階でも、その赤字をソフトウェアの開発割合によって取り込むことができるようになります。

(6)工事進行基準による計上された債権の取扱い

工事進行基準によって収益が計上された場合には、相手勘定として「工事未収入金」が計上されますが、この債権は工事の進捗度に応じて計上されたものですから、請求権の有無は発生しませんので、法的には債権とはいえません(工事完成基準を適用した場合は、債権となります)。
ただし、会計上は成果の確実性が高まったことを条件として認識する債権であることから、「金銭債権」として扱われ、入金されたときには計上されている債権から減額することになります。
税務上も会計上と同様に債権として扱われ、貸倒引当金の設定対象となります。

(7)工事進行基準による収益と費用の計算方法

工事進行基準は、工事の進行度合いに応じて収益と費用を計上します。
一般的には、以下の計算式で行います。

収益の額

{(工事の対価×すでに要した原価の合計額)÷工事の原価の見積額}-すでに収益として計上した額

費用の額

{(工事原価の見積額×すでに要した原価の合計額)÷工事の原価の見積額}-すでに費用として計上した額

(8)収益認識に関する会計基準の工事進行基準

工事進行基準は、成果の確実性が認められる場合に選択される方法であり、工事の進捗度に応じて収益が計上されます。
この工事進行基準は収益認識会計基準でも規定されていますが、収益認識会計基準における考え方は、工事契約会計基準の考え方とは少し異なります。
工事契約会計基準では、工事進行基準を選択した結果として工事の進捗度に応じて収益が計上されますが、収益認識会計基準においては①「まず履行義務がいつ充足されるのか」を判定します。つまり、収益認識会計基準ではまず「収益が徐々に認識されるべきなのか、一時点で認識されるべきなのか」が判定されます。そのうえで②「作業の進捗度を合理的に見積もることができるか」を判定します。
そして、①と②を満たせば工事進行基準となります。

工事進行基準の会計処理

工事進行基準を適用する場合には、合理的に見積もった工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度に応じて当期の工事収益と工事原価を損益計算書に計上します。

発生した工事原価のうちでまだ損益計算書に計上されていない額がある場合には「未成工事支出金」といった勘定科目で貸借対照表に計上します。

(1)進捗度を合理的に見積もる

工事進行基準では、進捗度を合理的に見積もらなければなりません。
進捗度として原価比例法による場合は、まず決算日までに発生した費用累計を把握し、あわせて工事原価総額の見積に変更がないかを検討します。
次に、これらから算定した工事進捗度を工事収益総額に乗じて、売上高を算定します。

工事の途中段階において、工事原価総額や工事収益総額が変更になった場合には、変更時点以降にはこれを反映して売上高を計算します。ただし、変更時点までにすでに計上された収益や原価の金額は修正しません。

(2)工事損失引当金の計上はどうするか

工事契約から見て損失が発生する可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合には、工事損失部分のうち、すでに計上された工事の損益の額を控除した残額を、工事損失引当金として計上します。
ただし工事損失引当金は、税務上は損金算入が認められない点に注意が必要です。

工事進行基準の仕訳例

工事進行基準は、工事の進捗に応じて売上の一部を毎期計上していきます。
進捗度を測る方法としては、原価比例法が広く採用されています。

原価比例法
決算日までに発生した原価累計の、工事総原価に対する割合を工事進捗度とする方法

工事進捗度=決算日までに発生した原価の累計÷工事原価総額

(1)初年度の工事進行基準の会計処理

「工事収益総額が200万円、工事原価総額が150万円であり、3年後に完成・引き渡しを行った。発生原価は、初年度は30万円であった。工事進捗度は、原価比例法を採用する。」

初年度の会計処理
発生原価を売上原価に計上
工事進捗度=決算日までに発生した原価÷工事原価総額=30/150=20%

借方 貸方
売上原価 300,000 現金預金 300,000

売上高の算定
工事収益総額200万円×工事進捗度20%=40万円

借方 貸方
工事未収入金 400,000 売上高 400,000

(2)2年目以降の工事進行基準の会計処理

工事進行基準は、2年目以降も工事進捗度の算定が必要です。
具体的には、工事進捗度に応じた売上高累計から、過年度に計上した売上高を控除します。

「工事収益総額が200万円、工事原価総額が150万円であり、3年後に完成・引き渡しを行った。発生原価は、初年度は30万円であった。2年度の発生原価は75万円、3年度の発生原価は45万円であった。工事進捗度は、原価比例法を採用する。」

2年度の会計処理
発生原価を売上原価に計上

借方 貸方
売上原価 750,000 現金預金 750,000

工事進捗度に応じた売上高の計上
工事進捗度=決算日までに発生した原価累計÷工事原価総額=(初年度30+2年度75)÷150=70%
工事収益総額200万円×工事進捗度70%=140万円
140万円-過年度売上高計上額40万円=100万円

借方 貸方
工事未収入金 1,000,000 売上高 1,000,000
3年度の会計処理
発生原価を売上原価に計上

借方 貸方
売上原価 450,000 現金預金 450,000

工事進捗度に応じた売上高の計上
売上高の確定
工事進捗度=工事収益総額-過年度に計上した売上原価
工事収益総額200万円-過年度売上高計上額(初年度40万円、2年目100万円)=60万円

借方 貸方
工事未収入金 600,000 売上高 600,000

まとめ

以上、工事進行基準についてご紹介しました。
工事進行基準を適用すると、工事完成基準を適用した場合と比較して利益が先に計上されることになります。
いずれの基準をとるかで、納税額だけでなく予算や事業計画にも影響を与える可能性があります。
このため、工事進行基準を満たすか否かについては、税理士等に確認し慎重な判断が必要となります。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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