公開日:2022年09月28日
最終更新日:2022年11月08日
デリバティブとは、元となるモノから派生した商品の総称です。この「元となるモノ」を原資産といいます。
原資産には、株式、金利、債権、通貨などがあり、派生商品とは、その価値が原資産の価値に依存して決まる商品の総称をいいます。
デリバティブ取引は、ヘッジ(企業の取引や保有する資産・負債が有するリスクを減少させるために取引を行うこと)を目的として、広く利用されています。
デリバティブとは、「ディライブ-derive(~から派生する・~に由来する)」という動詞の名詞形で、「他のモノから派生したモノ」という意味です。
「派生」という表現が分かりにくいかもしれませんが、ここでいう派生とは、原資産の価格が変動するとその影響を受けて、価格が変動することを意味します。
たとえば、元の取引が「牛乳」で、派生したモノが「バターやチーズ」としてみましょう。この場合、牛乳が値上がりすれば、チーズやバターも値上がりします。
この特徴は、金融のデリバティブでも同じです。
現物取引とデリバティブ取引の違いについて、デリバティブ取引の代表である先物取引で比較してみます。
先物取引とは、将来の一時点における原資産について、現時点で決めておいた価格で売買することを約束する取引です。これに対して現物取引は、原資産を現時点で決めた価格で売買する取引です。つまり、先物取引と現物取引の違いは「取引の対象物を将来の時点で決済するか、それとも現時点で決済するか」という点にあります。先物取引は、現時点で将来の決済の価格を約束し、現時点で売買価格を固定することで、この先の価格変動をヘッジすることができるという機能を持っていることになります。
たとえば、1カ月後にドルを購入し円を売却するという取引においては、この条件を今すぐに決めなければならないとすると、現在のドル/円相場の影響を受けることは必須です。
そこで、「3カ月後にドルを購入し円を売却する」という契約は、「現在のドル/円」相場のデリバティブといえます。
元の取引が通貨交換であるなら、デリバティブは交換時期やレートが予約された通貨交換をいいますし、資金の借入が元の取引であれば、デリバティブは借入に対する金利条件の交換取引ということになります。
デリバティブ取引は、原資産に存在するさまざまなリスクを回避する、もしくはそれを利用した投機を行いたいという目的があります。
たとえば株価は、個々の企業の業績や世界情勢、経済環境によって日々変動しますから、将来の価格を正確に予測することは不可能です。
そこで、このリスクを回避するために将来の一定の時期に一定価格で売買する権利の購入が行われます。逆に相場のズレを利用して、利ザヤを稼ぐために取引が行われることもあります。
ヘッジ目的 | 取引や保有する資産または負債が有するリスクを減少させることを目的として、取引を行うこと |
投機目的 | 収益を得ることを目的として、リスクを負って取引を行うこと |
利ざや目的 | 相場のズレを利用して利ざやを稼ぐことを目的として、取引を行うこと |
デリバティブには、小さな元手(証拠金)で、大きなエキスポージャー(リスクにさらされる資産の取引)を行うことができるとレバレッジ効果による取引を行うことができるという特徴があります。
小さな元手で大きな取引を実行できるということは、より活発な取引を促すというメリットがありますが、裏を返せば予想が外れた場合には、大きな損失が出るリスクがあるということでもあります。
つまり、デリバティブはあくまでも「ツール」であり、その活用法次第では大きなメリットを享受することができますが、一方でリスクを招く恐れがあることにも注意が必要です。
デリバティブ取引には、「ヘッジ」という重要な機能があります。ヘッジ取引とは、現物の価格が為替相場や金利、商品価格の変動などによって、先行き変動することから生じるリスクを相殺することを目的とした取引のことです。
デリバティブ取引は、原則として時価評価によって会計処理を行いますが、ヘッジ取引のうち、一定の要件を満たすものについては、ヘッジ会計が適用することができ、ヘッジ対象(リスクを有している資産・負債・予定取引等)にかかる損益とヘッジ手段(リスクを抑制するための手段)にかかる損益を同一会計期間に認識します。
ヘッジ会計には、ヘッジ対象の損益計上時期までヘッジ取引の損益を繰り延べる「繰延ヘッジ会計」と、ヘッジ取引の損益とヘッジ対象の時価評価額による損益を同時に計上する「時価ヘッジ会計」、輸入取引で為替予約を行った場合に、将来の支払額を予約した為替レートによって固定して会計処理を行う「振当処理」、借入金の支払金利を固定化する金利スワップを行った場合に、固定化された固定金利で会計処理を行う「特例処理」という方法があります。
つまり、これらの処理方法を行うことで、デリバティブ取引の損益が企業の決算を左右することがないように、会計上の配慮がなされているのです。
デリバティブ取引は、先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引、これらの取引を適宜組み合わせた取引に区分することができます。
先渡取引・先物取引とは、ともに取引を予約する取引のことで、将来のあらかじめ定められた期日に、特定の商品を現時点で決めた価格で売買する契約をいいます。
先物取引とは、取引当事者間で将来売買する原資産の価格を、現時点であらかじめ決めておく取引で、取引所が介在して現物の引渡しは行われず、反対売買による差金決済を行うのが、一般的です
一方、先渡取引とは、原則として買い手と売り手の間の相対で取引を行い、実際に支払いを行って現物を購入します。
先渡取引 | 先物取引 | |
取引場所 | 取引所以外(店頭) | 取引所 |
流動性 | 市場の流動性は低い | 市場の流動性は高い |
原則的な決済方法 | 現物決済 | 差金決済 |
先渡取引は現物決済を前提とするため、リスクヘッジ目的で利用されるケースが多く、先物取引は差金決済を前提とするため、リスクヘッジのほかに投機目的でも利用されます。
契約を結ぶとキャンセルすることはできず、たとえ損失が発生する結果になっても、原則として一度契約した先渡・先物取引は実行されることになります。
オプション取引とは、将来原資産をあらかじめ決めておいた期日に定められた価格で売ったり買ったりすることができる権利の売買です。
オプション取引の4条件
①あらかじめ定められた期日に |
権利ですから、取引を行うか否かは選ぶことができます。オプションの買い手はあらかじめ決めておいた価格が、自分の利益になる水準であれば権利を行使し、そうでなければ権利を放棄すればよいことになります。
たとえば、以下の日経平均を買う権利について見てみます。
オプション取引の4条件
①あらかじめ定められた期日に:令和×年5月31日に |
このケースでは、あらかじめ定められた期日である令和×年5月31日に、あらかじめ定められた価格である30,000円より高ければ、権利を実行して即時に売れば、差額分が儲かることになります。
逆に30,000円より低ければ30,000円で買う権利には価値がないので、価値を放棄することになります。
スワップ取引とは、2者間で、将来の複数の日に資産を交換する取引です。取引の当事者間で経済価値が等しいとみたキャッシュ・フローについて、将来の一定期間にわかり交換します。交換対象は、コモディティから金利、通貨など多岐にわたりますが、ほとんどが金利スワップです。
たとえば、AさんとBさんがいて、100万円の借入金があったとします。
固定金利で借り入れているAさんは、金利の低い変動金利にしたいと思い、逆に変動金利で借入れているBさんは、今後の金利動向を考慮して固定金利にしたいと思っています。
このようなケースで、AさんとBさんがお互いの支払利息を交換するスワップ契約を締結することで、希望していた効果を得ることができます。
金利スワップの基本は、このように将来の固定金利と変動金利を定期的に交換する取引ですが、異なる変動金利と交換するスワップもあります。
スワップ取引は、金利変動リスク等を軽減することが可能となり、多くの企業がリスクヘッジを目的として活用していますが、一度契約すると仮に不利な状況になっても、自由に解約することができませんから、契約前には十分な検討が必要となります。
デリバティブの会計処理は、「金融商品に関する会計基準」等に定められており、原則として決算日に時価評価を行って、当期の損益に反映します。ただし、一定の要件を満たしている場合には、時価評価による評価差額を当期に反映しない方法や時価評価をしない方法が認められています。
この例外的な方法を、「ヘッジ会計」といいます。
デリバティブは、原則として時価評価で会計処理を行います。
契約日・決算日・決済日までの会計処理の流れは、以下のようになります。
契約時点 契約時点では、一般的にデリバティブの時価はゼロなので、会計処理は行いません。 決算日 決済日 「金利スワップ契約を締結した。この金利スワップは、期末において200万円の評価損が生じている。ヘッジ手段ではないため、期末において評価損を計上する。」 契約時点 決算日
翌期首
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保有している資産・負債、将来の予定取引のリスクに備え、これを回避・抑制する目的で実施する取引を「ヘッジ取引」といいます。そして、このヘッジ取引が一定の要件を満たす場合には、ヘッジ会計という特殊な会計処理を行うことができます。このヘッジ会計を適用することで、ヘッジ取引の効果を会計処理に反映させることができます。
ヘッジ会計の原則的な処理は、繰延ヘッジです。ヘッジ対象にかかる損益とヘッジ手段にかかる損益を同一会計期間に認識することができ、ヘッジ手段にかかる損益をヘッジ対象にかかる損益が実現する時まで、純資産の部の「繰延ヘッジ損益」として、繰延処理をします。
なお、繰延ヘッジ損益を計上する際には税効果を考慮して、当該繰延ヘッジ損益にかかる繰延税金資産または繰延税金負債を控除して、計上します。
「ヘッジ目的の商品先物取引について、繰延ヘッジ利益として100万円を認識した。実効税率は30%とする」
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ヘッジ会計では、例外的な処理方法として時価ヘッジが認められています。時価ヘッジとは、ヘッジ対象の相場変動を損益に反映することで、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識する方法です。
時価ヘッジは、ヘッジ対象の時価を貸借対照表価額とすることが認められるものに限定されるため、時価ヘッジの処理が認められるヘッジ対象は、その他有価証券のみとなります。
このほか、例外的な方法として振当処理、金利スワップの特例処理が認められることもあります。
デリバティブ取引は、起業や金融機関等で広く活用しています。とくに卸・小売業などは、デリバティブを使用したヘッジ取引によってさまざまなリスクを回避・抑制することで、コアビジネスである製造・販売に集中しリターン獲得に専念することができます。
ただしデリバティブは、そのリスクを認識しないままで行うと、重大な結果をもたらすリスクもあります。したがって、ヘッジ目的でデリバティブを行う場合には、ヘッジ手段であるデリバティブによって、ヘッジ対象である金融商品に係るリスクを適切にヘッジすることができるかを認識し、管理責任の所在を明確にしたうえで行う必要があります。
また、一定の要件を満たすヘッジ取引については、ヘッジ会計という特殊な会計処理を行うことができますので、どのような要件が必要か、またどのような会計処理があるのかを理解したうえで行う必要があります。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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