簡易課税と原則課税、どちらを選ぶべきか

公開日:2024年04月12日
最終更新日:2024年07月08日

この記事のポイント

  • 簡易課税、原則課税とは、消費税の納税額の計算方法。
  • 簡易課税は、みなし仕入率を利用した簡便な計算方法。
  • 免税事業者がインボイスに登録した場合は、2割特例も選択できる。

 

消費税の納税額の計算方法は、原則課税・簡易課税から選択します。
簡易課税は、仕入等にかかった消費税額を、一定のみなし仕入率で一律に計算するものです。
なお令和5年度の税制改正で、免税事業者がインボイス制度へ登録した場合は、売上税額の2割を納税額とする2割特例を選択することもできるようになりました。

 

簡易課税制度の豆知識

簡易課税制度とは、仕入税額控除額を求める方法の1つです。
課税売上の一定割合を課税仕入れとみなして控除額を計算することで、経理作業の負担が大幅に軽減されます。
簡易課税制度では、事業の種類を6つに区分して、業種の種類ごとにみなし仕入率を定めています。
原則課税と簡易課税のどちらを選択すべきかで、納税額が大きく異なることがありますが、これは個々の事業内容や状況に応じて異なりますので、税理士に相談することをおすすめします。

簡易課税と原則課税

原則課税、簡易課税とは、仕入税額控除額を求める方法です。
原則課税とは、事業者が納付する消費税額を計算する際に、課税期間中に消費者から徴収した消費税から、事業者自身が負担した消費税額を差し引いて計算します。
もう1つの方法として簡易課税という方法があります。
これは、仕入れなどでかかった消費税額を「売上時に預かった消費税額×みなし仕入率」で一律に計算する方法で、仕入控除税額を簡単に計算することができます。

(1)簡易課税の計算方法

簡易課税は、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者にのみ適用されます。
簡易課税における仕入税額控除の計算方法は、以下のとおりです。

(売上時に預かった消費税額)-(売上時に預かった消費税額×みなし仕入率)=(消費税の納税額)

簡易課税では、課税仕入、非課税仕入の分類や課税売上割合の計算、課税仕入の売上と対応させた分類をする必要がありません。
簡易課税では、売上に対する消費税のうち何割かは控除対象仕入税額として控除すべき金額が占めているだろうという考え方をします。
みなし仕入率は、業種ごとに定められていて、このみなし仕入率を売上時に預かった消費税額に掛けます。

みなし仕入率

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業 80%
第3種事業 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業 70%
第4種事業 主に飲食業 60%
第5種事業 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く。) 50%
第6種事業 不動産業 40%

たとえば卸売業の場合、みなし仕入率は90%です。
課税売上が4,000万円(税抜)で、課税仕入が3,000万円(税抜)の場合、原則課税と簡易課税を比較すると、以下のようになります。

原則課税
売上にかかる消費税:4,000万円×7.8%=312万円
仕入にかかる消費税:3,000万円×7.8%=234万円
差引納税額:312万円-234万円=78万円

簡易課税
売上にかかる消費税:4,000万円×7.8%=312万円
仕入にかかる消費税:4,000万円×90%×7.8%=280万8,000円
差引納税額:312万円-280万8,000円=31万2,000円

(2)原則課税の計算方法

原則課税では、まず対象となる課税売上を計算し、売上時に預かった消費税額と仕入時に支払った消費税額を計算し、納税額を求めます。

(売上時に預かった消費税額)-(仕入や経費で支払った消費税額)=(消費税の納税額)

簡単な計算のように思われるかもしれませんが、モノやサービスの売買は、課税取引・不課税取引・非課税取引・免税取引の4つのパターンがあり、これらをきちんと区別しないと納税額を計算しなければなりませんから、経理の負担は重くなります。

(3)簡易課税と原則課税、どっちがオトク?

インボイス制度がスタートしたことで、経理の負担が増えました。とくに注意するのが、適格請求書、適格簡易請求書等を分類する作業です。適格請求書発行事業者公表サイトで確認する作業も発生しますし、帳簿には、適格請求書・適格簡易請求書の区別を記録しておく必要があります。
ただし、これらの作業が必要になるのは、原則課税に基づいた仕入税額控除を受ける場合だけです。
売上時に預かった消費税額だけで仕入控除税額を計算する簡易課税や、後述する2割特例では、このような面倒な作業を行う必要はありません。
なぜなら、売上時に預かった消費税額が分かれば、仕入控除税額を計算することができるからです。
さらに原則課税では、免税事業者から仕入を行った場合に、適格請求書を発行してもらえないので、その分消費税を多く納めることになってしまいます。

したがって、中小企業者や小規模事業者などで、経理負担を避けたい場合には、簡易課税や2割特例を選択する方がおすすめです。
とくに、みなし仕入率の高い業種ほど、簡易課税を選択した方が有利になる可能性が高くなります。

ただし、なかには原則課税の方が有利なケースがあります。
それは「売上時に預かった消費税額×みなし仕入率」が、仕入や経費で支払った消費税額より少ない場合です

売上時に預かった消費税額×みなし仕入率 < 仕入や経費で支払った消費税額

たとえば大きな設備投資を行った場合には、仕入時に支払った消費税額が多くなります。
したがって、大きな設備投資を行う予定がある場合には、原則課税を選択するのがおすすめです。
なお簡易課税を一度選択すると、2年間は原則課税には戻れませんので、その点も十分考慮して、検討することが大切です。

(4)簡易課税と2割特例、どっちがオトク?

免税事業者だった人が、インボイス制度に登録する場合には、納税額軽減措置である2割特例を選択することができます。
これは、①免税事業者からインボイス制度に登録した事業者であり、②基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下で、③新設法人の場合は、資本金1,000万円未満であるなどの要件をすべて満たした場合に、売上時に預かった消費税額の2割を納税額とする特例です。

2割特例を選択すると、たとえば預かり消費税100万円の場合、「100万円×20%=20万円」と簡単に計算することができます。
これを簡易課税と比較すると、第2種事業ではトントン、第3種~第6種では、2割特例を選択した方がおトクになります。

簡易課税 判定 2割特例
第1種
事業
100万円-(100万円×みなし仕入率90%)=
納税額10万円
100万円×20%=
納税額20万円
第2種
事業
100万円-(100万円×みなし仕入率80%)=
納税額20万円
第3種
事業
100万円-(100万円×みなし仕入率70%)=
納税額30万円
第4種
事業
100万円-(100万円×みなし仕入率60%)=
納税額40万円
第5種
事業
100万円-(100万円×みなし仕入率50%)=
納税額50万円
第6種
事業
100万円-(100万円×みなし仕入率40%)=
納税額60万円

(5)簡易課税を選択するための要件

簡易課税を受けるための要件は、以下の要件を満たすことが原則です。

①基準期間(前々年または前々期)の課税売上高が5,000万円以下であること
②簡易課税の適用を受ける事業年度(個人事業主なら適用を受ける年)の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すること

②については、経過措置として免税事業者が適格請求書発行事業者の登録日に属する同じ期中に届け出を提出すれば、登録日にさかのぼって簡易課税の適用を受けることができます。

簡易課税の適用を受けると、2年間は原則課税に切り替えることはできません。
また、「①基準期間(前々年または前々期)の課税売上高が5,000万円以下であること」が要件であることから、課税売上高が5,000万円を超えた事業年度は、簡易課税から外れて原則課税となり、課税売上高が5,000万円以下の事業年度になると、自動的に簡易課税が適用されます。

なお、簡易課税のみなし仕入率は事業区分によって異なりますから、少しでもう有利な事業区分にしたいところではありますが、税務調査等で指摘されればトラブルにつながりますので、慎重に判断することが大切です。
また、ひとつの事業で複数の事業区分に該当するケースでは、区分ごとに課税売上高を集計し、事業区分ごとに課税売上高の合計と各みなし仕入率をもとに仕入控除税額を計算しなければなりません。

たとえば、飲食店がテイクアウトや宅配を行っている場合、飲食店内の食事の提供は第4種事業、宅配も第4種事業ですが、テイクアウトは第3種事業となります。

ただし、1種類の事業で課税売上高の75%以上を占めている事業者は、その業種のみなし仕入率を全体に適用することができます。

3種類以上の事業を営む場合で、そのうち2種類の事業で課税売上高の75%を占めている場合には、その2事業のうちみなし仕入率の高い方の事業の課税売上高については、その高いみなし仕入率を適用して、それ以外の課税売上高については、その2事業のうち低い方のみなし仕入率をその事業以外の課税売上高に適用することができます。

事業区分や会計処理の具体的な方法については、税理士に確認して効率的な方法についてアドバイスを受けましょう。

まとめ

簡易課税を選択した方が有利になるケースは、実際の仕入率よりみなし仕入率の方が大きいケースです。
簡易課税や2割特例は、仕入先の免税事業者にもメリットがあります。
原則課税では、免税事業者から仕入れた場合には適格請求書を発行してもらえないので、その分消費税を余計に納めることになりますが、簡易課税や2割特例では売上時に預かった消費税だけで仕入控除税額を計算するため、仕入先が免税事業者であってもなくても同じだからです。

ただし、実際の仕入率よりみなし仕入率の方が小さい場合には、簡易課税が適用されると納税額が増えることがありますので、その点について十分検討することが大切です。

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簡易課税の税理士相談Q&A・経験談

・簡易課税について
「現在簡易課税を利用して消費税申告をしている事業者になります。インボイス登録をこれからしようとしているのですが、インボイス登録しても簡易課税を継続して利用することは可能でしょうか。
・R9年度からの課税方式の選択について
「R5年度の消費税申告の時は2割特例で申告しました。
R9年度分から2割特例が適用されなくなるため、その時の課税方式で悩んでいます。
・免税事業者のインボイス登録と簡易課税制度の取りやめ
「免税事業者で、「適格請求書発行事業者の登録申請書」と「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出し10/1から登録事業者になったが、免税事業者に戻りたい。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

 

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