公開日:2018年10月31日
最終更新日:2024年03月11日
中小企業の事業承継では、事業に必要な資産をどのように承継するか、相続税対策はどのように行うのか、そして後継者を誰にするかなど、多くの課題があります。どちらも選択肢はいくつかありますが、いずれの場合も個々の会社の事情に合わせて最適な方法を選択することが大切ですし、その選択によって必要な対策も変わってきます。
ここでは、中小企業の事業承継における後継者の選定と育成を行う際に、最低限知っておきたいポイントについてご紹介します。
事業承継の豆知識
国は、中小企業の事業承継を後押しするためにさまざまな施策を講じています。このままでは、中小企業の経営者の高齢化がますます進み、廃業率も高くなり多くの雇用が失われ、約22兆円のGDP損失につながるとも言われており、日本経済に多大な影響を与えるからです。
事業承継の問題というと「相続税をいかに安くするか」「M&Aで高く売却できないか」といったことに目が向きがちですが、本来事業承継の目的は、「将来にわたり会社が安定した成長すること」であり、それに伴い「従業員の雇用・生活を守ること」です。そして、そのために大切なのが経営権を承継する後継者選びです。
後継者が見つからない場合には、経営者は事業の廃業について決断が迫られます。その場合には、取引先や従業員に対する影響を最小限にするため、会社に体力があるうちに廃業の手続きを行う必要があります。
小規模な会社が廃業する場合には、それほど手続きは難しくありませんが、銀行から借入がある場合や取引先の数が多い場合、従業員がいる場合には、さまざまな手続きが必要になりますので、税理士や弁護士に早めに相談しましょう。
日本の企業の大部分は中小企業であり、中小企業の相次ぐ廃業が産業基盤を揺るがしかねない事態になっています。
M&Aで会社を売却する成功事例もありますが、後継者に恵まれず廃業する企業も数多くあります。また、株式の承継に必要な資金がないことを理由に、事業承継を先送りしたり、事業の継続を断念したりするケースも多々あるのです。
このような事態を改善しようと、国もさまざまな支援策を設けています。
参照:中小企業庁「事業承継の支援策」
事業承継は、現在の経営者が事業を行うために持っている資産を後継者に引き継ぐプロセスです。
事業承継の具体的な内容としては、①経営権の譲渡 ②自社株式の譲渡 ③事業用資産の譲渡です。
①経営権の譲渡 経営権とは、経営上の決定権や財産の処分権などの権利をいいます。 オーナー企業の場合には、特に現経営者が長い年月をかけて築き上げてきたケースが多く、代表取締役の交代などの経営権の変更の法的な手続きを行いさえすれば「経営権の譲渡」が可能かというと、そうではありません。後継者を選定し、長い期間をかけて丁寧に育成する必要があり、実質的に経営権を譲渡するためにはさまざまな課題があります。 ②自社株式の譲渡 ③事業用資産の譲渡 |
経営者の子どもは最も有力な後継者の候補です。ただし、親子だからという理由だけで後継者にすると、当然うまくいかないケースも出てきます。
それまで他の会社で勤めている子どもを呼び戻すケースもありますが、その肝心な子どもが、事業を継ぐ意欲に乏しい場合もありますから、親族を後継者に選定する場合には、可能な限り早い段階で後継者本人の意思を確認することが大切です。
また、親族内承継で事業承継を進めようとすると、支配権(株式)を早く移転してしまうことがありますが、いちど支配権を移すと支配権を戻すことが難しいことから、骨肉の争いに発展することも少なくありません。
親族内承継は、お互いに遠慮なく意見を主張できることがメリットではありますが、主張するうちにかえって亀裂が深まることもあります。現在の経営者と後継者が、お互いに尊重し合い、時間をかけて十分なコミュニケーションをとることが大切です。
また、後継者はトップとなり事業の全責任を担う人間となるのですから、財務経理、人事、仕入、営業など会社の多くの業務を経験させるためにも時間をかけて教育することも重要です。
オーナー企業の場合は社長が創業から事業を育て上げてきた思いが強く、後継者として親族を優先させがちです。しかし、親族に適任者がいない場合では、親族以外から後継者を選ぶことを選択肢に入れ、必要な対策を行うことが重要です。
役員や従業員の中で経営に近い立場にいる人がいれば、その人も後継者としては適任です。事業内容に通じているうえ、取引先から信頼されていて、社内全体の業務の流れ、問題点を把握している人物であれば承継がスムーズに進みます。
なお、取引先から信頼があり、社内の業務に精通しているといっても、会社の経営者となった時に財務状況をしっかり把握できる人物がどうかは、また別問題です。できれば、財務のスキルもあることが望ましいでしょう。
オーナー家以外の従業員に承継する場合は、後継者が株式を取得するための資金を十分に持ち合わせていないため、経営が困難になってしまうリスクがあります。
従業員は、社長や親族と違って会社の株式は保有しておらず、事業承継をする際に株式を買い取る必要がありますが、そのための十分な資金を持っていないケースがほとんどだからです。
そこで、このような場合には事前に役員報酬の引き上げを行って資金を確保したり、金融機関から借り入れたりして資金を確保しておくことも考える必要があります。
オーナー家や周辺に適切な後継者がいない場合は、M&Aで会社を売却することを考えます。
M&Aとは、会社が保有している資源を活用することを目的として、経営権を移転し経営に参加する取引のことをいいます。
株式の全部を他の会社が買い取ったり、2つ以上の会社が合併して1つの会社になったりするケースがあります。
M&Aで最も多い方法が、株式譲渡
M&Aで行われる事業承継のなかで最も多い方法が、現在の経営者が会社の株式を譲渡することで経営権を引き継ぐ株式譲渡の方法です。
会社の株主、つまり経営者が変わるものの会社の商号などは従来のままで、契約や許認可などはそのまま新しい経営者に引き継がれます。現在の経営者は株式の譲渡代金を借入金の返済や今後の生活資金に充てることができます。
ただし買い取ってもらうといっても、中小企業の場合には株式が市場に流通していないので市場価格がなく、その価格を決定するのが大変難しいなどのデメリットがあります。
焦って売却しようとすると、不当に低い価格で交渉されることもありますので、十分な準備期間を設けて、なるべく会社の価値が上がるよう努力してから交渉に臨むなどした方がよいでしょう。
ある事業だけを譲渡する事業譲渡
複数ある事業の中から好調な事業だけを譲渡する場合は、会社から事業を切り出す事業譲渡を行う方法もあります。
事業譲渡とは、ある特定の事業部門だけを他の会社に売り渡すことをいいます。
たとえば、自社にとって不採算部門であったとしても相手方の会社からすれば、魅力がある場合には事業譲渡という方法を検討します。企業の個々の契約を譲渡先に1つ1つ移転する必要があり、手続きが煩雑なデメリットがありますが、必要な資産、負債のみを選んで譲渡することができるメリットがあります。また、あらかじめ認識していないような負債(簿外債務)が譲渡先に移転しないため、譲渡先のリスクを軽減できる点もメリットです。
どちらの方法も手続きは煩雑になるため、専門家の支援が欠かせないといえるため、事業承継に強い税理士に相談することをおすすめします。
中小企業の場合、経営権を確保するには最低でも過半数の株式を取得する必要があります。したがって、経営権を承継するためには、いかにして会社の株式を後継者に引き継ぐかがポイントとなります。
そして、後継者を選定したら、従業員や取引先との信頼関係構築にも配慮しながら、積極的に教育を行っていくことが必要です。
事業承継を円滑に行うためには、後継者の育成に積極的に取り組むことが大変重要です。
中小企業の場合は、資産を承継すれば、事業が承継されるというものではなく、必要な知識を与え、取引先や従業員との信頼関係と構築できるよう配慮しなければなりません。
取引先に「現経営者は信頼できるが、新しい経営者はどうなのか」という不安を与えてしまえば、取引の規模が縮小されてしまうリスクがあります。このような事態を避けるためにも、取引先には後継者を同行させ取引に関わらせるなどの工夫が必要になります。
また、従業員と後継者の信頼関係構築は大変デリケートな問題です。
従業員のなかには、現経営者と苦労を共にしてきた人も多く、新しい経営者がいきなり上に立ってもスムーズに承継が行われないケースもあります。
現経営者が従業員に十分配慮して、後継者との信頼関係を構築できるよう、密にコミュニケーションをとるなどの努力を行う必要があります。
事業承継は、現在の経営者と後継者の1対1の関係で考えがちですが、相続がかかわる場合は経営者の他の相続人との関係にも配慮が必要です。
配偶者や子どもなど一定の相続人には、遺留分として最低限受け取れる遺産の割合が決められています。
遺言で後継者に株式を相続させる場合は、他の相続人の遺留分を侵害しないように配慮が必要です。
遺留分に配慮していない遺言書を作成したばかりに、かえって相続トラブルを引き起してしまうこともあるからです。
遺留分を侵害してしまうと、他の相続人が遺留分侵害額請求を起こすことにより、株式や事業に必要な資産を後継者に集中して相続することができなくなるなど、事業の継続に支障をきたしてしまう可能性があります。
事業用の資産(主に株式)の承継方法は、いくつもありますが、どの方法にも共通している注意点が、「会社の業績が良いほど株式の評価額は高くなり、贈与税や相続税も高くなる」という点です。高い株価は後継者が株式を買い取る際の負担になります。後継者にこれらの負担に見合った資力があるかどうかもあわせて考慮することが必要です。
生前贈与
生前贈与では、現在の経営者が健康なうちから、後継者に株式を贈与します。
一括で贈与した場合は、後継者の負担する贈与税が高額になってしまいます。しかし、贈与税の基礎控除額(年間110万円)の範囲内で複数年にわたって株式を贈与する暦年贈与や、デメリットもありますが、相続時精算課税制度を適用する方法で対策を行うこともできます。
どの方法がよいかは、個々のケースで異なりますので、早めに税理士などに相談するとよいでしょう
遺言書の作成
遺言書を作成することで、相続による事業承継の問題点の多くは、回避することが可能です。
遺言書を作成しないで事業承継を残された相続人に任せてしまうと、株式が後継者以外の相続人に分散する可能性があり、後継者は単独で経営に必要な意思決定を行うができなくなってしまいます。
このような事態を回避するためにも、最低でも経営に必要な事業用資産については、相続人の遺産分割協議が不要な状況を作っておくこと、つまり遺言書を作成しておくことが必要になるのです。
経営の意思決定をスムーズにするには、後継者が議決権の過半数、できれば3分の2を超える割合を持っておく必要があります。会社の相続は、会社が保有する財産・債務を個別に分割することではありません。自社株式をより多く承継して、経営権を支配することで成り立ちます。
そこで、自社株が後継者以外に分散されている場合や、将来の相続で自社株が分散されてしまうリスクがある時には、会社が他の株主に交渉して株式を買い取ったり、会社が後継者に対してのみ新株を発行したりして、後継者の出資比率を高めて議決権を確保する方法もあります。
たとえば、普通株式と配当優先の無議決権株式の二種類の株式を発行しておきます。経営者が亡くなったときは、後継者は普通株式を相続して他の相続人は無議決権株式を相続します。これにより、遺産を公平に分けながら会社の議決権を後継者に集中させることができます。
このほか、拒否権を発動できる黄金株や、株主ごとの議決権に差をつける属人的株式を発行することもできます。
事業承継税制とは、中小企業の経営者から後継者に自社の非上場株式を贈与する際の贈与税の納税を先送りすることができる制度です。
この事業承継を利用するためには、期限内に特例承継計画を提出しなければならず、その前にまず自社の事業承継の方針を明確にする必要があります。
つまり、自社の事業承継について検討する時間は、それほど余裕があるわけではないということです。
この事業承継税制は、手続きが非常に煩雑であるなどの問題点もあり、自社にとって最適な対策とは限りません。そのため、まずは事業承継に精通している税理士に相談し、自社にとって事業承継税制を活用するメリットがあるのかどうか十分に検討する必要があります。
中小企業の事業承継を成功させることができるか否かは、後継者の選択が大きなカギを握っています。資産を生前贈与や相続で継がせるか後継者に買い取らせるか、親族を後継者にするか親族以外から選ぶかで必要な対策は変わります。事業承継を成功に導くためには、会社の事情に合わせて最適な選択をすることが大切ですし、事業承継税制を活用するためには期限があります。
ぜひ早めに、事業承継に精通している税理士に相談することをおすすめします。
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税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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監修者
藤山 祥紀ふじやま よしのり
InnOpe合同会社 代表
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企業経営者にとって、後継者にバトンを渡す事業承継は、大変重要です。
高度成長期に創業した会社のなかには、事業承継の準備が進んでいない会社も多く存在します。
しかし、後継者へのバトンタッチがうまくいかなければ、事業が停滞するリスクがあります。最悪の場合廃業ということになれば、従業員の仕事がなくなってしまいます。
事業承継は、年単位の時間をかけて準備する必要がありますので、早めに事業承継のための対策を検討することをおすすめします。
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