事業承継でM&Aを活用する方法と具体的な流れ

公開日:2018年08月01日
最終更新日:2024年03月16日

この記事のポイント

  • 事業承継の準備は早ければ早いほど良く、その選択肢のひとつとしてM&Aがある。
  • M&Aによる事業承継の手法はいくつかあるが、最も適した方法を選択することが重要。
  • M&Aを成功させるには、具体的な手法や注意点、基本的な手続きの流れを押さえることが大切。

 

「事業承継の準備は、早ければ早いほど良い」
「早いうちから後継者を決め、次世代の体制づくりを検討すべき」

これは、事業承継を実現する際によく使われる言葉です。
しかし、これらのことを十分理解していても、理想どおりに進めることができないのが、事業承継です。
事業承継が進まない理由のひとつとしてまず挙げられるのが、後継者不足です。

しかし、子どもや従業員に適当な後継者がいないために廃業を選択するのは実にもったいない話です。
廃業を選択する前に、ぜひ検討していただきたいのが「M&A」の活用です。

M&Aは実際にはたくさんの大きなメリットを得られる可能性のある方法です。
ただし、M&Aを成功させるには、具体的な手法(スキーム)や注意点、基本的な手続きの流れを押さえておく必要があります。
今回は、M&Aを成功に導くために持っておきたい知識を中心に解説します。
 

M&Aの豆知識

少子高齢化で市場が縮小し、業績が好調な中小企業でも「後継者がいない」といった理由からやむなく廃業を選ぶ経営者がいます。
実際、廃業する事業者の6割が黒字にも関わらず廃業を選択しており、その理由の3割が「後継者不在」です。そしてその中で注目を集めているのが、M&Aによる事業承継です。M&Aで企業を譲渡することができれば、後継者がいなくても廃業する必要はなくなり、従業員の雇用を確保し事業を存続させることができるのです。
M&Aの件数は年々増加傾向にあり、公表されているM&Aの数だけでもここ30年で16倍にもなっています。
ちなみにM&Aにおける株価の考え方は、中小企業の場合には、一般的に市場価格や類似会社の情報などをもとに算定していきます。算定方法はいくつかありますが、貸借対照表をもとに、資産、負債を時価評価し直したうえで純資産額を計算し、のれんを加えた額が株価となります。ただし、この方法でものれんの不確実性や外部環境への影響を考慮する必要がありますし、買い手企業がその金額通りに評価するとも限りません。
いずれにせよ、どのような算定方法を採用する場合でも、企業の財務内容が大変重要になってくるので、M&Aを検討する場合には、できれば5年前、遅くとも3年前からは税理士に相談して財務内容を良好な状態にしておく必要があります。

中小企業のM&Aが増えている背景

最近、中小企業の事業承継方法としてM&Aが注目を集めています。その理由として、政府がM&Aによる事業承継を推進していることや、M&Aのアドバイザー等が増えたことなどが影響しています。

たとえば、M&Aをするときに一定の条件を満たすと日本政策金融公庫から借入をしやすくなりますし、2021年から「M&A支援機関」の登録制度も始まり、登録したM&A支援機関が積極的に仲介業務などを実施しています。また、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な機関による支援体制も整備されてきています。

参照:日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」

参照:中小企業庁「M&A支援機関」

参照:中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」

(1)後継者不在で廃業する企業が増加

日本の中小企業のオーナーは、子どもに事業を継がせようという意識が強い方が多いでしょう。そして、子どもが継いでくれない場合には、社内の従業員や役員に継がせようとします。

しかし、現在は少子高齢化社会の傾向がますます進み、加えて働き方の多様化も進んでいることから、事業を承継してくれる人材がなかなか見つかりにくくなっています。

そこで、後継者が見つからずに廃業してしまう企業も多いのです。
たとえば東京商工リサーチ等の調査によれば、廃業した企業の6割が黒字にも関わらず廃業していることが分かっています。また、その廃業理由について3割が「後継者難による廃業」としています。
これらの調査結果からは、高齢化と後継車不足に悩まされた上で廃業を余儀なくされている現状を読みとることができます。

引用:中小企業庁「事業承継」

(2)中小企業こそメリットが多いM&A

M&Aにはネガティブなイメージもありますが、実は中小企業における事業承継では、実にメリットの多い方法です。

たとえばM&Aが実現すれば、株式譲渡によって経営者に多額の現金が入ってくるので廃業するより退職後の生活が豊かになることが期待できますし、従業員の雇用を確保することもできます。また、良い買い手企業が見つかったら会社の資源を活かして会社の実力自体が強化されるというメリットも期待できます。

(3)M&Aによる事業承継の手法

M&Aによる事業承継はひとつではありません。いくつかある手法から、自社の状況に合った方法を見つけることこそが、M&Aを成功させるポイントとなります。

株式譲渡・合併・株式交換
株式譲渡とは、売り手企業のオーナーが保有する株式を買い手企業に譲渡する方式で、もっともオーソドックスなM&Aの方法です。

合併は、法律の定める手続きにより、2社が1つの企業になる方法です。企業そのものを包括的に統合することで、スピーディーに事業の統合をしたいときに利用されます。

株式交換は、売り手企業の株式を全部買い手企業に取得させる方法です。主に親子関係を作るときに使われます。合併と比較し、元の企業は独立した完全子会社として残ることから、従業員の人事体系や社内規程などの統合を行う必要がない点がメリットとしてあげられます。

事業譲渡・会社分割
事業譲渡は、会社の「事業」を買い手企業に譲渡する方法です。個々の不動産や雇用関係、各種契約などを譲渡する必要があるので、株式譲渡よりも煩雑ですが、簿外債務を移転しなくて済むという買い手側のメリットがあります。

会社分割は、売り手企業の権利義務の全部や一部を買い手企業に包括的に承継させる方法です。事業譲渡と比較し、承継する資産・負債を個別に選択できない、簿外債務が紛れ込んで承継されてしまうデメリットがありますが、1つ1つの契約の移転手続きを経ることなく事業そのものをスムーズに承継できる点がメリットです。

LBO、MBO、EBO
LBO(Leveraged Buyout)は、買い手の自己資本が少ないときに、買収企業の資産やキャッシュフローを担保にして借入を行い、買収企業の資産を売却したり事業を改善したりして、借入金を返済していく方法です。

MBO(Management Buyout)は、金融機関から資金を借り受け、会社の経営陣が既存の株主から株式を譲り受けることや、会社のある部門のトップがその部門についての事業譲渡を受けることを意味します。

EBO(Employee Buy-Out)は、金融機関から資金を借り受けた従業員が株式や事業を取得して経営権を獲得することです。

(4)中小企業のM&Aを成功させるための注意点

これまでご紹介してきたようにM&Aは、中小企業の事業承継を成功させるために大いに活用できる手段です。
ただし、M&Aによる事業承継を成功させるためには、いくつかの注意点があります。

買い手企業の情報を集めるときは専門家に相談すべき
M&Aを進める際には、まず買い手企業の情報を集めることが必要です。
そのためには、税理士やM&Aアドバイザーなどに依頼して、買い手候補企業を探さなければなりません。この点については、M&Aに精通している税理士やM&Aアドバイザーであれば、多くの企業情報の中から適切な譲渡先候補を教えてもらうことができます。

自社が独力で相手企業がどのような企業かを調べるためには、公開されている決算書類や株主構成等を確認する必要がありますが、税理士等のサポートを受ける方がスムーズに進めることができるでしょう。

契約締結前に必ず秘密保持契約を締結する
M&Aを進めるうえでは、秘密保持が非常に重要です。

なぜなら、売り手企業は財務状況などの秘匿性の高い情報を、相手企業に開示することになるからです。そこで、契約締結前に必ず秘密保持契約を締結します。M&Aアドバイザーに仲介を依頼するときにはM&Aアドバイザーとの間でも秘密保持契約を締結するようにしましょう。

また、社内で「会社を売却する」という噂が伝わると、経営不振であるというイメージを与えてしまうことがあります。そして従業員の中に強い不安感が広がってしまうことがありますので、情報の取扱には十分注意しましょう。

企業価値評価の考え方
M&Aでは、売り手企業をどのように評価するかが問題となります。

評価額の算定には様々な方法がありますが、時価純資産額に1~5年分程度の営業利益を上乗せした金額(のれん代)の範囲に収まるのが一般的です。

こうすると、M&Aによる売却価格は、会社を清算したときに期待される金額よりものれん代の分、高額になります。その意味でも、M&Aは廃業や清算より有利な手続きと言えます。

中小企業のM&Aの主な流れ

M&Aを進めるためには、まずはどのような条件で自社を売却したいのか、事前に検討しておくべきです。「最低でも○○円以上で売りたい」「しばらくは元経営者を顧問として前経営者の名前を残して欲しい」「従業員をそのままの条件で引き継いで欲しい」「社風を引き継いで欲しい」など、いろいろな希望があるでしょう。
「この点は譲りたくない」「この点は最終的に譲ってもかまわない」など、優先順位も定めておくと良いでしょう。

(1)M&Aについて相談する

M&Aについては、M&Aに精通している税理士・M&Aアドバイザー等に相談することをおすすめします。
M&Aを進めるときには、買い手企業を探さなければなりませんが、自力で集められる情報には限度がありますし、適切な相手先を見つけることは困難だからです。

また、相手先が見つかって「自社を買ってほしい」などという話を持ちかけると相手からも警戒されてしまうこともあります。また、相手企業の情報も不十分に収集するのは難しいものです。

そこで活用したいのが、専門の税理士やM&Aアドバイザー等などに相談することです。こういった専門家の関与により、適正な相手を探してもらい、相手の情報もしっかりと集めて納得した上で、契約条件を決めていきましょう。

なお、2021年より中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」が開始されました。M&Aの仲介業務を行なっている、一定の要件を満たしたM&Aアドバイザーや士業事務所、金融機関等が登録されています。M&A支援機関によってM&Aの仲介がなされると、補助金の対象となるなどのメリットがあり、この中から探すことが近道です。

参照:中小企業庁「M&A支援機関」

相談する際には何度か打ち合わせを行い、これまでのM&Aに関する実績や実際に相談を受けたときの対応などを見て、依頼する専門家を吟味しましょう。

(2)M&Aの候補企業を選定する

税理士やM&Aアドバイザー等に依頼すると、買い手候補の企業をリストアップして紹介してもらうことができます。

いきなり相手のトップや担当者と会うことはなく、まずは相手先の簡単な情報や希望条件などについて、税理士やアドバイザー等を通じて情報収集を行い検討します。
関心を持てる買い手候補の提示を受けたら、話を前に進めます。相手も乗り気であれば、お互いに企業名を明かしてより詳細な情報を交換します。

(3)M&Aにおける秘密保持契約等の締結

実際にM&Aを行うことを決めたら、必ず「秘密保持契約」を締結します。秘密保持契約とは、お互いに知り得た相手企業の情報を外部に漏えいしないことを約束する契約です。

M&Aの話を進めても破談になる可能性がある以上、秘密保持契約を締結しないで話を進めることは非常に危険です。特に売り手企業は、買い手企業に対して詳細な財務状況や資産状況、取得している特許や許認可などの情報までつまびらかに開示してしまうわけですから、なおさらです。

税理士やアドバイザー等に相談する場合には、必ず秘密保持契約の締結を促してくるので、それに従って秘密保持契約等を締結します。

(4)M&Aの候補先と交渉を行う

秘密保持契約等を締結したら、売り手と買い手が交渉を行うことになります。交渉というと、敵対的なイメージもありますが、実際にはそういうわけでもなく、お互いが譲り合えるところは譲り合いながら、友好的に進めることが通常です。
具体的なM&Aのスキームや売買の条件について、話を進めていきます。

(5)M&Aの基本合意

お互いが大まかな内容で合意できたら、基本合意契約を締結します。基本合意は、これからM&Aを行うことに対する合意です。対象企業の予想される取引価額や売買の条件、スケジュールなどを定めます。ただしこれらには法的拘束力を持たせないことが一般的です。

基本合意で法的拘束力を与える条項は、「独占的交渉権」などです。いったん基本合意を締結した以上、別の会社と交渉を進めることはお互いに許されなくなります。

(6)M&Aのデューデリジェンス

デューデリジェンスとは、買収監査のことであり、売り手企業の経営状況を精査することです。

M&Aを行うときには、対象企業に各種のリスクがないことを確認する必要があります。たとえばどのような資産や負債を持っていて財務状況がどうなっているのか、法律的なリスクはないか、許認可関係がどうなっているか、税金を適正に支払っているか、未払残業代がないかなど、さまざまな視点から企業を分析します。税務や財務のデューデリジェンスは税理士に、法務のデューデリジェンスは弁護士に、労務のデューデリジェンスは社会保険労務士に依頼します。

デューデリジェンスの結果問題が発覚すると、買収金額を減額されたり、M&Aが破談になる可能性もあります。
デューデリジェンスを行って特に問題が発見されなかった場合には、最終的な条件を調整します。

たとえば取引価額を調整することもありますし、現経営者の扱いをどうするのか、従業員の雇用をどうするのか、社名をどうするのかなど、細かい条件も含めて必要事項をすべて決定します。

(7)M&Aについての最終合意

細かい条件まで一致することができたら、最終合意を行います。
最終合意の際には「株式譲渡契約書」や「事業譲渡契約書」などの契約書を作成し、当事者両名が署名押印をします。

そして、実際に株式の引渡しや事業の引渡し、名義変更などの手続きと、買い手企業やオーナーからの入金を受けて、クロージングをしてM&Aが終了します。
前オーナーが会社に残らない場合には、手元に残ったお金を持ってハッピーリタイアすることができますし、しばらくは顧問として名前を残すという選択肢も可能です。

まとめ

以上、M&Aによる事業承継の活用方法とスケジュールについてご紹介しました。
これまでご紹介してきたように、後継者が見つからなくても、M&Aを活用することで事業承継を実現できる可能性があります。廃業を考えている経営者の方は、選択肢のひとつとしてM&Aによる事業承継を検討されてはいかがでしょうか。

M&Aについて相談する

無料で使えるfreee税理士検索は、数多くの事務所の中からM&Aによる事業承継について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。

税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。

 

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この記事の監修者:InnOpe合同会社

監修者

藤山 祥紀ふじやま よしのり

InnOpe合同会社 代表
幅広いスキルセットで、お客様のM&Aを全力でサポートします

M&Aを実現できれば従業員の雇用を確保でき、取引先への影響を最小限抑えることができます。また、現経営者にとっても株式の売却代金を得ることができますから、会社を清算するよりもメリットは多くなります。
ただし、M&Aを成功させるためには、十分な準備期間が必要です。
債務を減らす、自社の強みを分析して業績を上げるための努力なども必要となってきます。
InnOpe合同会社は、M&Aにおけるさまざまな課題を整理し、M&Aを成功させるためのアドバイスやサポートを行っております。
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