ROICとは?計算式は?ROE・ROAとの違いは?

公開日:2022年03月18日
最終更新日:2024年02月16日

この記事のポイント

  • ROICとは、事業に必要な元手に対して、どれだけ儲けたかを見る指標。
  • ROICは、投資資本に対する利益の割合を示す。
  • ROICで、どれだけ効率的に儲けたのかを判断することができる。

 

ROIC(投下資本利益率)とは、「Return on Invested Capital」の略で「ロイック」とよばれます。
ROICは、資金の調達と資金の運用の両方に注目した指標である点に特徴があり、資本コストを負担して調達した資金を、いかに有効に運用して成果を上げているかを測定する指標です。
 

ROICの豆知識

ROICは、事業に必要な元手に対して、どれだけ儲けたかを見る指標であり、どの事業がどれだけ効率的に稼いでいるかを判断するのに向いています。
ROICは、税引き後営業利益÷投下資本で計算します。つまり、分母である投下資本がそのままである場合には、分子の税引き後営業利益を増やせばROICは高まることになります。設備投資を行うなどの理由から投下資本が増えたとしても、それ以上の利益も生み出せば同様にROICは高まることになります。
現在、多くの日本企業がROICを採用し始めています。従来は、売上高や営業利益の管理が中心でしたが、それだけの管理では企業をより成長させるのが困難になってきたからです。しかしだからと言って、「わが社もROIC経営を行います」と述べても、従業員に浸透することは難しいでしょう。
ROICを導入する際には、ROICが事業の管理指標として有効な指標であること、ROICを導入する必要性があることなどをしっかり従業員に説明することが大切です。

ROIC(投資資本利益率)とは

収益性を示す指標としては、ROEが取り上げられることが多いですが、ROICも同様に収益性をあらわす指標です。
たとえば、投下資本が1億円のA社と3,000万円のB社で、同じ500万円の利益が出たとします。両社を比べると投下資本3,000万円のB社の方が元手が少ない分、効率がよいということができます。
ROICは、このように「いかに効率よく稼げたか」を測るための指標で、同じ利益なら投下資本が少ないB社の方が効率的な経営ができているということになります。

(1)ROICの計算式

ROICは、営業利益を自己資本と有利子負債の合計で割って計算します。

ROIC(投下資本利益率) = 税引後営業利益 ÷ 投下資本

上記の計算式から分かるように、ROICは投下資本、つまり資金の調達と資金の運用に注目して、資本コストを負担した資金(つまり、自己資本と有利子負債)をいかに有効に運用して、事業で成果を上げているかを測定する指標です。

なおROICは、企業全体として判断するのではなく特定の事業にフォーカスして判断をする指標として用いられます。
分母には総資産ではなく特定した資産を選別し、分子には、特定の事業から得られる利益を選別して算入します。

(2)ROICとROEの違い

ROICでは、投下資本に対してどれだけ稼いでいるかを税引後の利益によって測りますが、ROEでは当期純利益を用います。
ROE(自己資本利益率または株主資本利益率)とは、株主が投資判断をする場合に用いられる指標で、当期純利益を自己資本で割って計算します。

ROE(自己資本利益率) = 当期純利益 ÷ 自己資本

ROEは、株主から見た収益性指標なので、分母には株主が投下した資本を用い、分子には株主が投下した資本に対するリターンである当期純利益を用います。
つまり、ROICが本業のビジネスに使用している投下資本に対してどれだけ稼いだのかを見る指標であるのに対して、ROEは株主の出資分に対してどれだけ稼いだのかを見る指標です。

株主からみれば、ROEが高い会社は「投資する価値が高い」ということになります。ROEを高めるためには、①売上高に対する利益率を高める、②少ない総資産で大きな売上高を達成する、③資本調達における自己資本の比率を下げるという3つの方法があります。

ROICは特定の事業にフォーカスできる
また、ROICとROEの異なる点としては、ROICは企業全体ではなく特定の事業にフォーカスして判断し得る指標であるのに対して、ROEは、株主から見た収益性指標であるという点を挙げることができます。

ROEは主観的な要素が介入しうるが、ROICは客観的な指標
なおROEについては、本業のビジネスの業績とは無関係な操作が可能である点について問題が指摘されています。
ROICの重要性を語っていたカルロス・ゴーンは、「主要経営指標にROICを採用する理由」について、「ROEは一部に主観的な要素が入るのに対し、ROICは非常に客観的な指標だ」と答えています。
これは、ROEの分母は自己資本を用いることができるからです。つまり、自社株買い(金融機関からお金を借りて、株式市場で自社株を購入すること)という方法で自己資本を減らせば、ROEは向上するということになりますが、ROICは自社株買いをして自己資本を減らしても数値は変わりません。

50の借入資金による自社株買い50を実施した下記のケースでみてみましょう。このケースでは、結果的に自己資本は減少しますが、その代わりに有利子負債が増えています。
そこで、ROEは30%から60%に増えていますが、ROICは15%のままであることが分かります。

実施前
ROIC=30÷200=15%
ROE=30÷100=30%

実施後
ROIC=30÷200=15%
ROE=30÷50=60%

(3)ROICとROAの違い

ROAは、貸借対照表の左側つまりすべての運用した資金が、どれだけの利益を生み出したのかを測定する指標であり、利益(通常は経常利益)を総資産で割って計算します。

ROA(総資産経常利益率) = 経常利益 ÷ 総資産

ROAは、分母に総資産を、分子に経常利益を置いていますので、企業が保有するすべての資産から投資効率に注目しています。一方、ROICは企業全体を判断するために見る指標ではなく特定の事業にフォーカスするものといえます。

ROICが特定の事業にフォーカスして特定の事業のために投下した資本を選別し、投下資本に対してどれだけ稼いだのかを見る指標ですから、一般的にはビジネスに使用していない資産については、考慮しません。
これに対してROAは会社がもつ総資産に対してどれだけ稼いだのかをみる指標です。したがって、ビジネスに使用している資産が多ければROAは低くなるということになります。

(4)ROIC経営のメリット

ROICがROEやROAと異なり、かつ有効な指標である点のひとつが、事業セグメント別に管理を行うことができるという点です。つまり、会社の事業をいくつかに分けて、それぞれの事業に対して評価を行い、事業運営の方針を決定することができるという点です。
特定の事業に使った投資資本を分母に置き、そこから得られる利益を分子に置くことで、その事業が投下資本に見合った収益を上げているのか、適切に判断することができます。
企業には、経営資源が無限にあるわけではありません。
そして、限られた経営資源を有効に活用するためには、相対的に儲かる事業に資金や人材を投下する必要があります。
また、相対的に儲からない事業については、その原因を探り対策を練る必要があります。その結果、場合によってはその事業から撤退することも考えなければなりません。
ROICにおいては、各事業の資本コストはそれぞれの事業のリスクを反映したリターンに基づきます。
そこで、常にROICでそれぞれの事業の成長性や収益性を評価し、事業をうまく入れ替えながら、会社全体を成長させていかなければならないのです。

(5)ROICを導入する方法

ROICは事業管理に有効な指標ではありますが、そうは言っても計算式や目的の説明もなにもせず「来年度よりROICを導入します」とだけ述べても、浸透することは難しいでしょう。
そこで、ROICを導入する場合には、ROICの分母や分子の計算式を説明し、明確で分かりやすい言葉で説明することが求められます。

日立製作所は、中期経営計画について自社が「めざす姿」を示した上で、「資本効率向上のためにROICを導入」し、連結及びセクター別に、実績・見通し及び目標値を開示し、ROIC向上のための具体的な実行策も示しています。
また、ROIC導入の意義について以下のように語っています。

「ROICを導入した目的は、バランス・シートも意識して、資本コストとの見合いで利益を追求する方向を明確にすることで、資本効率の向上と収益性の高い事業への経営資源を集中させ、会社全体の成長を加速することにあります。当社の株主の約50%は外国人投資家で、彼らが資本コストを重視していることも、ROICを導入した背景にあります。この1年間、ビジネスユニット(利益責任単位)からその先の現場にまで、ROICツリーを使って、ROIC経営の浸透を図ってきました。」

参照:株式会社 日立製作所「CEOインタビュー」

そして、2022年3月期の売上高などとともに、業績推移、セグメント別業績推移でROICの見通し値を開示しています。

参照:株式会社 日立製作所「総合報告書2021」

まとめ

以上、ROICの意味やROE、ROAとの違い、ROICの計算式などについてご紹介しました。
ROICは、事業の管理指標として有効な指標であり、ROICを導入する会社も増えています。
しかし、ROICを導入してもそれが現場にしっかりと浸透しているケースはまだそれほど多くないようです。ROICを導入し形骸化させないためには、社内でROICの意義や計算式をしっかりと説明し、継続的なコミュニケ―ションを図り、同時に事業計画や投資判断などさまざまな場面で活用して行く必要があります。

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また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。

税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
 

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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