公開日:2019年06月02日
最終更新日:2022年06月20日
ここ数年、大企業だけでなく中小企業の海外進出も活発化しています。
このような中小企業の海外進出の活発化を受けて、さまざまな支援体制も整備されています。以前から海外進出を支援しているジェトロ(日本貿易振興機構)では、海外76カ所、国内51カ所(2022年4月現在)のネットワークを活用し、海外ビジネス情報の提供、中堅・中小企業等の海外展開支援、対日投資の促進などに取り組んでいます。
また、都道府県や市区町村の公的機関の支援機関も増加しています。
しかし海外進出とひとくちにいっても、個々の企業によって課題はさまざまであり、何をどのように検討すればいいのか分からないといった声も多く聞かれます。
そこで、ここでは海外進出をする際に最低限検討しておきたい事項や、活用したい支援機関についてご紹介します。
海外進出は、自社の貴重な資源を使って推進していくものなので、今後の長期的な成長のための経営戦略と矛盾しないよう進めていくためにも、自社の現状分析を行うことがまず一番に重要となります。
また、この他にも人件費や材料費といった利益に直結する事項の他、進出国の政治体制や宗教、民族問題等についても慎重に検討することが大切です。
2020年に発表された経済産業省の「海外事業活動基本調査(2019年度実績)」によると、現地法人数はアジア、欧州、北米いずれも減少しているものの、地域別にみると、依然としてアジアの割合は高く(全地域に占める割合が67.6%)ASEAN10(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)の割合が9年連続で拡大しています。
引用e-Stat「第50回海外事業活動基本調査の概要」 |
アジアに進出する目的として「人件費を抑えるため」とするケースは多いものですが、進出したことでかえって想定以上の人件費がかかることもあるので、注意が必要です。
たとえば、現地駐在の日本人の人件費については、本人への給与のみならず社宅費用、医療費補助などの追加費用などもかかります。そして、これらの費用が日本と比較すると高額になる可能性があります。また、人事ローテーションを機能させるためには、日常の業務管理を任せることができる現地スタッフの育成が必要ですが、給与体制の整備が進まないためにこの育成が進まず、現地法人の経営や業務が安定しないケースもあります。
原材料や部品のコストについては、輸送費が高くなったり材料の在庫が増加したりするなど、むしろコスト増につながってしまうケースもあります。
したがって、これまでは日本で国産部品を使っていても、進出を機に現地企業の低コストの部品を使うことを検討する必要があります。
以前は、日本の製品が高品質・高スペックであることから、国産部品を使う企業が多くありましたが、進出国の部品でも品質が高い可能性は十分あります。
その場合には、現地生産の部品を調達して、価格競争力を強化していくことも必要です。
カントリーリスクとは、進出国の政治の安定度や経済の健全性、宗教・民族問題などを含んだリスクのことをいいます。
プロジェクト自体に問題がなくても、進出国の政治・経済などが不安定になったことが原因でプロジェクトがストップしてしまい、結局資金の回収ができなくなってしまうことがあります。
したがって、政治体制が安定しているのか、独裁体制か民主主義体制なのかといった政治状況はもちろん、宗教と民族に対する基本的な理解、社会の慣習などについても事前にしっかり理解しておく必要があります。
たとえばインドなどは、労働者の権利意識が強く組合活動も盛んで、労働争議が起こりやすいという懸念があります。
また、宗教については日本人が通常考えている重要性とかなり違いがあります。
宗教によっては休暇を取る時期などが決まっていることもあり、労働者が一斉に休暇をとることで、工場のラインなどに重大な影響を及ぼすこともあります。
海外に販路を拡大するうえで最も有効な方法のひとつは、見本市や展示会への出展でしょう。
見本市や展示会には、一度に多くのバイヤーに自社製品を紹介することが可能ですし、ライバル企業の動きを探るうえでも効果があります。
ただし出展には資金がかかるうえ、期間が限られているというデメリットもあります。
したがって、事前に相当周到な準備を行わないと想定していた成果が期待できませんので、注意しましょう。
現地法人の納税については、法人税の税務申告と現地駐在員の個人所得税の税務申告の2種類があります。
法人税の税務申告については、「何がPEに該当するのか」「租税条約とは何か」など、国際税務に関する基礎知識が不可欠ですし、企業の税負担を軽減し、企業が海外進出をしやすいような優遇税制などを活用することも、あわせて検討する必要があります。
なお駐在員の場合には、原則として全世界所得が対象となるので、日本での留守宅手当なども対象となります。このあたりの対応をどうするかについては、国際税務に精通している税理士にしっかりと相談する必要があります。
海外進出を検討する企業を支援する機関は、数多くあります。
海外進出をする際にはこれらの支援機関を活用し、進出計画の策定や資金調達、そして海外進出をするうえで欠かせない国際税務について検討する必要があります。
ジェトロ(JETRO・独立行政法人日本貿易振興機構)とは、海外進出を支援するために、海外ビジネス情報を提供しさまざまな支援を行う機関です。
各国の政治動向や経済動向、投資環境の情報を閲覧できる他、データベースを活用して海外の取引相手を探すことも可能です。
日本政策金融公庫では、「海外展開・事業再編資金(企業活力強化貸付)」の融資を通じて、海外展開を図る企業のサポートを行っています。
融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、税率は個々の状況に応じて異なりますが、低い税率が設定されています。
海外進出に限りませんが、事業を行ううえで税務戦略は重要な課題です。
海外進出する場合には、日本国内の税制に相手国の税制が加わるため、どちらの国にどこまで課税権があるか検討する必要があり、非常に複雑です。
日本在住の日本人・日本法人は、全世界の所得に対して課税され、さらに海外所得に対いては源泉国で当該所得について課税されます。
しかし、日本が租税条約を締結している国では、租税条約と国内税法の規定が異なる場合には、租税条約の取り決めが優先されるので二重課税は回避されます。
日本は、82条約等、149か国・地域(2022年4月1日現在)と租税条約を締結しています。
租税条約を締結していない国との間では、二重課税が発生してしまう可能性が高くなりますので、租税条約を締結しているか、その条約の内容はどのようになっているか確認することは極めて重大な問題です。
また、租税条約以外にもタックスヘイブン対策税制や移転価格税制など、他国に流れた税金を自国に取り戻そうとする課税制度もあり、これらの制度の対象となることがないよう、対応を検討する必要があります。
したがって、海外進出する際には、これらの税務戦略についてしっかり相談できる税理士のサポートが欠かせないといえるでしょう。
以上、海外進出をする時に検討したい事項についてご紹介しました。
ここでご紹介した以外にも、海外進出をするうえでは、さまざまな事項について検討する必要があります。国際税務に精通している税理士に相談すれば、進出国の業者リストなどの有益な情報を提供してもらえることもあります。
十分な調査をせずに、安易に進めると失敗するケースがありますので、海外進出をする際には、専門家のサポートを受けながら進める必要があります。
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