公開日:2019年07月02日
最終更新日:2022年07月24日
昨今、退職に関する労使トラブルが増えており、このようなトラブルを防ぐためには、退職の際に従業員に「退職事由」を書いた退職届を従業員自身の意思で提出してもらい、必要な手続きをとることが必要です。
退職をめぐるトラブルとしては、労働基準監督署で以下のようなものが公表されています。
会社に「やめたい。」と言ったら、逆に「急にやめてもらっては困る。就業規則で、退職の申出は1か月前に言うことになっている。」と返答された。
→民法の規定によれば、原則として14日以上前に退職の意思表示をする必要がありますが、就業規則の規定の効力については、労使の特約として認められる場合もあります。 会社から「やめてもらいたい。」と言ってきたのに、「次の就職先に支障があってもいけないので退職届を出した方がいい。」と言われました。言われたとおり退職届を出した方がいいのか。 →一般的に退職届を提出することは、自ら退職する意思表示をしたものとみなされます。退職届が、客観的に労働者の裁量の余地がなく、かなりの圧力で強要されたと認められた場合は、解雇として扱われる可能性があります。 家庭の事情で会社を辞めたいと思い退職届を提出しましたが、上司が受け取ってくれません。会社が同意してくれないと私は退職できないのか。 →退職は労働者の一方的な意思表示により効力が発生しますので、特に会社の承認は必要としません。民法では期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間(但し、完全月給制の労働者は、当該賃金計算期間の前半に申し入れた場合は当該期間の末、後半に申し入れた場合は翌期間の末)で終了することとなっており、会社の同意がなければ退職できないというわけではありません。 |
「退職届」と同じようなものに「退職願」があります。
「退職届」が従業員の退職への明確な意思表示であるのに対して、「退職願」は、従業員が退職を申し出て、会社側の承諾を得る意味合いがあるとされています。
・退職届とは 退職届とは「退職を届け出る書類」で、従業員側から一方的に労働契約を解約する旨の告知書類です。 退職願と違い、退職について明確な意思表示をすることになりますので、退職届を提出し、その退職届が会社の代表者や人事部長など、退職について権限のある人に到達した時点で、退職の効力が発生します。 退職届は、原則として提出後の撤回は認められませんが、「会社側に強要された場合」「錯誤(勘違い)による無効」「詐欺脅迫による場合」と判断された場合には、退職届そのものが無効と判断されます。 |
・退職願とは 退職願とは、労働契約の解約を願い出るものです。退職願を提出し会社に承諾された時点で、はじめて退職となります。 ただし、会社によっては、退職願を退職届と同じものとして扱っていることがあります。 就業規則等に「退職時には退職願を提出すること」と記載してあれば、その退職願は退職届のことを指すことになります。 |
退職届の取扱いについては、どの役職者の承認段階で正式に退職が決定されるのかというルールについて、予め就業規則の退職規定に明記しておくことが重要です。
たとえば、退職は法的には2週間前に申し出ればよいことになっていますが、仕事の引継ぎや人員の補充などの面から考えて、少なくとも1カ月程度の時間的猶予が欲しいと考える場合には、その旨を規定に盛り込むとよいでしょう。
従業員の突然の退職願で社内が混乱することがないようにするためには、退職日の退職届の届出に対する規定や、退職の申し出期限などについて取り決めをしたり、普段から従業員の様子に気を配るなどのコミュニケーションを密にとったりといった配慮が大切です。
退職には、自己都合退職と会社都合退職の2種類があり、それぞれ意味や退職届の書き方も違います。
自己都合退職とは、いわゆる「一身上の都合」による退職です。
従業員は、理由にかかわらず退職する自由を有しているので、会社は原則としてそれを拒むことはできません。
自己都合退職に該当するのは、以下のようなケースです。
・転職 ・勤務条件の相違(賃金・労働時間・休日・仕事内容) ・人間関係など(※但しセクハラ、パワハラなどのハラスメント被害でやむなく退職する場合は含みません) ・病気やケガで体調を崩した ・結婚・出産・妊娠などライフステージの変化 ・家族の介護や看護 |
自己都合退職の注意点 自己都合で円満に退職したと思っていた元従業員が、後から「不当解雇だった」と訴えてくるケースも増えています。このようなトラブルを防ぐためには、自分の意思で作成した退職届を提出してもらう必要があります。 |
会社都合退職とは、退職する主な原因が会社(雇用主)側にある場合の退職のことで、倒産・解雇・大量離職・退職勧奨など、会社側からの一方的な労働契約解除により、退職を余儀なくされた場合のことをいいます。
会社都合で労働契約を一方的に解除する「解雇」は、簡単にすることはできません。自主的に退職を促す「退職勧奨」も、社会的に不相当な方法で行った場合には、違法性が問われますので十分な注意が必要です。
会社都合退職の注意点 解雇する場合には、少なくとも30日以前に予告するか、30日以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされています。 ただし、横領や傷害、2週間以上の無断欠勤など、従業員の責に帰すべき事由がある場合については、事前に労働基準監督署長の認定を受ければ、解雇予告は不要とされます。 さらに解雇については、解雇してはならない「解雇制限期間」という期間があります。業務上のケガや病気療養で休業する期間およびその後30日間・産前産後の休業期間およびその後30日間については、従業員に責に帰すべき事由があったとしても、原則として解雇することができません。 |
なお会社都合による退職は、従業員にとってメリットとなる場合もあります。
会社にやむなく退職させられたと認められた場合には、従業員は特定受給資格者として失業保険の所定給付日数が大幅に増えるからです。
・失業保険の支給開始日が早くなる 自己都合退職の場合は、失業保険の支給開始日が7日間の待期期間に加えて2カ月(※)の給付制限がありますが、会社都合退職の場合は、7日間の待期期間の後、翌日から支給されます。 ・最大支給額に差が出る ・国民健康保険料が軽減される |
退職届の書き方も、自己都合退職と会社都合退職で変わってきます。
簡単に言えば、自己都合退職ではこういう都合があるから辞めたいということを書き、会社都合退職では辞めざるを得ない状況になり、退職勧奨など辞めることを勧められた場合に提出します。
これらの点を従業員にていねいに説明したうえで、自身の意思で作成してもらうようにしましょう。
なお、退職届・退職願は画像をクリックするとダウンロードすることができます。
① 1行目の中央に「退職届」と記載します。 ② 2行目の最下に「私事、」として書き始めます。「、」を忘れないようにしましょう。 ③ 3行目から「このたび、一身上の都合により、勝手ながら、二〇△△年△月△日をもって退職いたします。」と記載します。 ④ 1行開けて、提出する日付と所属部署名、自分の名前を書きます。 ⑤ 自分の名前の下に捺印します(認印または三文判で問題ありませんが、シャチハタは不可)。 ⑥ 退職する会社の正式名称と代表者名を宛名とします。 ※会社名は「(株)」と省略せずに「株式会社」と記載します。 ※代表者名が自分の名前よりも上に行くよう余白を調整しましょう。 |
① 1行目の中央に「退職届」と記載します。 ② 2行目の最下に「私事、」として書き始めます。「、」を忘れないようにしましょう。 ③ 3行目から「このたび、一身上の都合により、勝手ながら、二〇△△年△月△日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」と記載します。 ④ 1行開けて、提出する日付と所属部署名、自分の名前を書きます。 ⑤ 自分の名前の下に捺印します(認印または三文判で問題ありませんが、シャチハタは不可)。 ⑥ 退職する会社の正式名称と代表者名を宛名とします。 ※会社名は「(株)」と省略せずに「株式会社」と記載します。 ※代表者名が自分の名前よりも上に行くよう余白を調整しましょう。 |
① 1行目の中央に「退職願」と記載します。 ② 2行目の最下に「私事、」として書き始めます。「、」を忘れないようにしましょう。 ③ 3行目から「このたび、貴社、退職勧奨に伴い、二〇△△年△月△日をもって退職いたします。」と記載します。 ④ 1行開けて、提出する日付と所属部署名、自分の名前を書きます。 ⑤ 自分の名前の下に捺印します(認印または三文判で問題ありませんが、シャチハタは不可)。 ⑥ 退職する会社の正式名称と代表者名を宛名とします。 ※会社名は「(株)」と省略せずに「株式会社」と記載します。 ※代表者名が、自分の名前よりも上に行くよう余白を調整するようにしましょう。 |
定年退職は自己都合退職や会社都合退職とはまた違う分類になりますが、会社によっては退職届を書くべきとされているところもあります。
その場合は、定年退職届として、「満○○歳となります。従いまして会社規定により、定年退職いたしますことを、ここにお届けします。なお、退職後の連絡先は下記の通りです。」と記載してもらうことになります。
以上、退職トラブルを防ぐための退職届の重要性と、トラブルを防ぐためのポイントなどについてご紹介しました。
退職に関するトラブルを防ぐためには、退職届の提出や退職日の申し出期限などについて、予め就業規則で定める退職規定に明記しておくことが必要です。
また、情報漏えいを防止するためには、この時機密書類や顧客データ、貸与の携帯電話などを確実に返却してもらえるよう列挙して明記しておくことも有効です。
就業規則については、面倒だからとインターネットからダウンロードしてそのまま使用しているケースも目立ちますが、就業規則は、会社の規模や業種などによって明記すべき内容は大きく異なります。
社会保険労務士などの専門家と相談しながら、自社の事情に最適で、かつトラブルを防ぐための就業規則を作成しましょう。
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