公開日:2019年09月04日
最終更新日:2022年07月14日
日本の年次有給休暇取得は、他の先進国と比較して著しく低いことが問題視されており、平成31年(2019年)4月から、会社は法定の年次有給休暇が10日以上のすべての労働者に対して、年次有給休暇について毎年5日間取得させることが義務化されることになりました。
年次有給休暇とは、従業員の疲労回復、健康の維持・増進などを目的として従業員が取得できる有給の休暇のことをいいます。
勤続年数に応じて従業員に与えられるもので、週の所定労働日数が5~6日の場合には入社後6カ月継続勤務し、かつ全労働日数の8割以上を出勤した従業員に対して、使用者は10日の有給休暇を与えなければならないとされています。
なお、休日と休暇を混同して使用しているケースがありますが、休日と休暇は、従業員に労働義務があるかないかという点で、その性格が大きく変わります。
休日は、「労働義務のない日」のことで、法定休日(労働基準法で保障された休日)と所定休日(会社が任意に定めた休日)に分けられます。
一方、休暇は「労働義務のある日に労働が免除された日」のことで法定休暇(年次有給休暇、時間外労働に関する代替休暇、生理休暇など)と法定外休暇(傷病休暇、夏季休暇など)に分けられます。
年次有給休暇の付与日数は、継続勤務年数によって異なります。
通常の労働者の付与日数は、以下のとおりです。
継続勤務年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与年数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
従業員は、原則として有給休暇を会社の承認をとることなく取得することができます。そして、従業員が有給休暇を取得したことを理由として、会社が不利益な取り扱いをすることは認められません。また、有給休暇を買上げすることも原則として認められません(※後述)。
ただし、だからといって会社の繁忙期に年次有給休暇を請求されると、事業の正常な運営が妨げられてしまうことがあります。このように事業に支障が出ると考えられる場合には、会社は従業員に、他の時季に取得をするよう変更させることが認められています(時季変更権)。
ただしこの時季変更権は、単に「忙しい」という理由で認められるものではなく、企業の規模や作業内容、業務の繁閑、代替車の配置の難易度などの諸般の事情を考慮して総合的に考慮すべきとされています。
年次有給休暇は、従業員が自由に取得することができる休暇ですが、現実的にはなかなか取りづらいという現状があります。さらに日本の従業員の有給休暇の取得率は、他の先進国と比較すると著しく低いことが長く問題視されてきました。
このような状況を受けて、働き方改革関連法の一環として毎年5日間の有給取得が義務化されることになりました。
つまり、従来は従業員が自分で申請をしないと会社は有給休暇を取得させる義務はありませんでしたが、今後は積極的に従業員の意見を聞きつつ、有給休暇を取得するために努力することが義務づけられるようになりました。
この労働基準法の改正により、平成31年(2019年)4月から使用者は「法定の年次有給休暇が10日以上(※①)」のすべての労働者に対して、「毎年5日間、年次有給休暇(※②)」を確実に取得させることが必要になりました。
※①「法定の年次有給休暇日数が10日以上」とは、その年に新規に付与された年次有給休暇の日数が10日以上ということで、繰り越した年次有給休暇の日数は、この日数にカウントされません。
※②「毎年5日間、年次有給休暇を確実に取得させることが必要」とは、「使用者による時季指定」、「労働者自らの請求・取得」、「年次有給休暇の計画的付与制度による取得」のいずれかの方法で行います。
年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては、使用者による時季指定は不要です。
週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満のパート従業員に対しても、以下の通り付与しなければなりません。
週所定 労働 時間 | 1年間の 所定労働日数 | 継続勤務年数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
4日 | 169日~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15日以上 |
3日 | 121日~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11日以上 |
2日 | 73日~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7日 |
1日 | 48日~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3日 |
労働基準法では、年次有給休暇に対して支払うべき賃金について、次の3種類の方法を定めています。
①労働基準法12条に定める賃金 ②所定労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金 ③健康保険法99条に定める標準報酬日額に相当する金額 |
労働基準法39条では、年次有給休暇の目的は、従業員の心身の疲労を回復させゆとりのある生活を実現することにあるとしています。
そこで、年に5日の範囲内で年次有給休暇を時間単位で取得させることもできます。
時間単位の年次有給休暇を取得できるようにするためには、以下の事項を労使協定で定める必要があります。
①時間単位の年休の対象従業員の範囲 ②時間単位の年休の日数 ③時間単位の年休1日の時間数 ④1時間以外の時間を単位とする場合の時間数 |
なお、労働基準法では、年次有給休暇について原則として従業員が請求する時期に与えるとしていますが、事業の正常な運営を妨げる可能性がある場合には時季変更権を行使して別の日に変更することができますが、この時季変更権は時間単位で与える年休についても対象となります。
ただし、従業員が時間単位の有給休暇の取得を請求した場合に日単位に変更することは認められません。また、逆に日単位の有給休暇の取得を請求したのにこれを時間単位に変更することも認められません。
小規模の会社の場合には、年次有給休暇の取得がなかなか進まないというケースがあります。この場合、消化しきれなかった年次有給休暇を会社が買上げて賃金として支給しようとする会社もありますが、年次有給休暇の買上げは原則として認められていません。
これは、年次有給休暇の本来の目的が「従業員の心身の疲労を回復させること」にあるからです。
しかし、年次有給休暇の権利が発生してから2年が経過して時効が成立した場合や、退職・解雇時に年次有給休暇が消化しきれず消滅することが明確になった場合、法を上回る日数の年次有給休暇については、買い上げることは必ずしも違法とはならないとされています。
参照:厚生労働省鹿児島労働局「Q8 年次有給休暇の買上げをしても法律違反にはなりませんか。」
当日の朝になって、急に「今日は有休をとります」と従業員から言われることがあります。年次有給休暇は原則として「1労働日」を単位として付与しなければならず、この労働日とは、午前0時から午後12時までの暦日とすることが原則です。
したがって、当日の朝に年次有給休暇を請求されても、午後0時を過ぎているので、事後に請求されたものと解釈することができます。
では、この「事後に請求されたもの」をどう取り扱うかについてですが、この点については、結局は各社の就業規則の規定によることになります。
実際は、当日の年次有給休暇の請求についても、そのまま年次有給休暇として処理しているケースがほとんどです。
また、午前中だけ年次有給休暇を取得し、午後から出社するという取り扱いも可能です。ただし、半日単位の年休の付与はあくまで例外です。年次有給休暇は原則として「1労働日」を単位として付与しなければならないということは、従業員含め認識しておくようにしましょう。
たとえば、長期休業中であり会社から明確な求職命令がなく、従業員が単に休業していた時に従業員から年次有給休暇の請求があった場合には、会社はこれを認める必要があります。
この場合には、体調不良や病気などを理由に会社を休んだ日を年次有給休暇と処理したケースと同様に取り扱われることになります。
ただし、同じように長期休職期間中でも、病欠が長く続いている従業員に休職を命じたところ、本人から年次有給休暇の取得を請求されることがあります。
所定休日(労働義務のない日)については、年次有給休暇の取得はできません。年次有給休暇は労働日にしか取得できないので、そもそも労働義務のない所定休日に、年次有給休暇を取得することは、さらに労働の免除を求めることになるので、矛盾が生じるからです。
退職前の従業員が、未消化の年次有給休暇をまとめて請求してくるケースがあります。
本来、年次有給休暇の目的は、継続的に勤務する従業員に対して休暇を与えるものですから、退職前の年次有給休暇の請求は、本来の目的に沿っていないとも考えられます。
しかし、この請求は違法ではありませんし、現状「有休消化」という形でよく利用されています。
ただし業務の繁忙期や引継ぎが必要な時に年次有給休暇を請求されることがないよう、退職する従業員については退職日や引継ぎのスケジュールを明確にするよう要請し、双方にとって円満な退職ができるよう心がけましょう。
以上、年次有給休暇の内容や運用方法、2019年4月から義務化された年次有給休暇の解釈などについてご紹介しました。
年次有給休暇をどう運用するかについては、労使トラブルに発展するケースも多いので、事前に関連法を確認し、社会保険労務士などのアドバイスを受けて就業規則などで休職制度の取り扱いを明確に規定しておくことをおすすめします。
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監修:「クラウドfreee人事労務」
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