公開日:2019年12月13日
最終更新日:2022年07月12日
平成30(2018年)年に働き方改革法案に可決成立、交付されました。
この働き方改革法案では労働基準法が改正され時間外労働(残業)の上限が規制されるなど、労働時間や労働環境の管理がより求められるようになりました。
働き方改革関連法は、2019年4月から順次施行され、2023年にはすべての改正が施行される予定です。
働き方改革の背景には、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現したいという目的があります。
そのためには、長時間労働を是正して多様で柔軟な働き方を実現し、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保が必要であるとし、そのための措置を講じるために、時間外労働の上限規制を全面的に見直しするなど、さまざまな施策を強化することになりました。
長時間労働を強いたり、残業代を支払わなかったり、有給休暇の取得を認めなかったりといったいわゆる「ブラック企業」についてはますます問題視され、調査を強化しています。
厚生労働省は、以下の3点を取組の柱とし、具体的な対策を講じています。
①長時間労働の抑制に向けて、集中的な取組を行います。 9月を「過重労働重点監督月間」とし、若者の「使い捨て」が疑われる企業等に対し、集中的に監督指導等を実施。調査の結果違反があれば是正するように指導され、それでも改善されない会社は、送検されたり会社名を公表されたりすることがあります。 ②相談にしっかり対応します。 ③職場のパワーハラスメントの予防・解決を推進します。 |
前述したようなブラック企業とまではいえないような企業に対しても、厚生労働省労働基準局監督課の調査はより強化されています。
労働基準監督署の調査は、以前指導された会社や定期監督によるものがほとんどですが、内部告発や労働基準監督署に対する相談から始まる場合もあります。
内部小告発は、セクハラやパワハラなどのハラスメント問題も多いですが、退職時のトラブルや残業代の不払い、長時間労働に関する相談も増えていて、本人からだけでなくその家族から申告されるケースもあります。
このような内部告発や相談があると、労働基準監督署から呼び出しを受けることがありますし、監督署の職員が突然会社にやってくることもあります。
「令和4年4月28日 労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、下記のとおり企業名が公表されています。
参照:厚生労働省労働基準局監督課「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和3年4月1日~令和4年3月31日公表分)」
働き方改革では、残業時間の「限度時間」が、法律として定められることになりました。
上限が法律で定められることになり、違反した場合には罰則も適用されます。
また、中小企業に猶予されてきた月あたり残業時間60時間超の割増率についても猶予がなくなり、大企業と同じ5割増しの賃金を支払う必要があります。
残業時間について上限が設定されましたが、そもそも従業員に「残業」や「休日出勤」をしてもらいたい時には、36(サブロク)協定を締結し、労働基準監督署へと提出しなければなりません。
法律で定められた労働時間の限度は1日8時間1週40時間であり、法律で定められた休日を、毎週少なくとも1回付与しなければなりません。そしてこれを超えるには、36協定の締結・届出が必要です。
この協定書を作成せずに法定労働時間を超えて労働させた場合には、罰せられることになります。
災害など避けられることができない理由がある場合には、特例として36協定なしで時間外労働や休日労働をさせることができますが、この特例を受けるためには、あらかじめ(または事後に遅滞なく)労働基準監督署の許可を受ける必要があります。
参照:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」
働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制を全面的に見直されました。
従来は、過重な時間外労働が発生しないように厚生労働大臣が「時間外限度基準」を定めていましたが、この「告示」には、これまで強制力がありませんでしたが、罰則付きの上限が法律の本則とされ、さらに、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられました。
法律上、時間外労働の上限は原則として⽉45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができず、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下については守らなければなりません。
時間外労働が年720時間以内 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度 |
この上限規制の施行は平成31年(2019年)4月1日ですが、中小企業に対しては1年間猶予され令和2年(2020年)4月1日から導入されています。
労働時間の原則は、一般の事業場の場合「1日の労働時間は8時間以内、かつ1週の労働時間は40時間以内」です。
ただし、特例として小売業や卸売業、演劇、飲食店などの特例事業場に該当する場合には、「1日の労働時間は8時間以内、かつ1週の労働時間は44時間以内」とされています。
なお、あわせて「勤務間インターバル」の導入も検討しましょう。
「勤務間インターバル」とは、努力義務とされた制度で、勤務終了後一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するものです。
この「勤務間インターバル制度」を導入することで、一定期間の休息時間が採れるようになれば、健康やワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることができると考えられています。
労働時間には以下の2つのポイントがあります。
①会社の指揮・命令を受けていること ②労務の提供をしていること |
したがって、1日の労働時間は、通常「事業主の指揮・命令のもとでの拘束時間(始業から終業まで)」から休憩時間をひいて求めることになります。
この休憩時間には、店員がお客様を待っている時間や後片付けの時間は入りません。
このようないわゆる「手待ち時間」は労働時間に該当します。また、健康診断や研修時間も労働時間です。
ただし、従業員が勝手に早く出社しているだけという場合には、原則として労働時間にはあたらないとされています。
休日は、毎週1日以上、それが難しければ4週で4日以上与えなければならないと定められています。4週で4日の場合には、就業規則などで4週の起算日を明らかにする必要があります。
しかし、求職者が会社を選ぶ時には休日を重視する傾向がありますので、休日はできるだけ1週に1日、できれば完全週休2日制の方が、応募者も増えて有利になります。
年休は、過去1年間(最初は6カ月)の出勤率8割以上という要件を満たす労働者を対象として、一定日数が付与されます。
通常の労働者の付与日数は、以下のとおりです。
継続勤務年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与年数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
しかし、年休を取得する権利が付与されてもほとんど取得していない労働者もいますが、改正により、使用者(会社など)が取得の時季を指定することとされました。
具体的には、以下の内容となっています。
①対象者は、年休の付与日数が10日以上である労働者 ②使用者は、上記労働者に対して年5日の年休について時期指定をしなければならない ③ただし、労働者の時季指定、計画付与によって年休の時季が指定された時は、その日数の合計を5日から差し引いた日数を時季指定とする ④上記の①②によって指定された日数が5日以上に達した時には、使用者は時季指定の義務から開放される。 |
フレックスタイム制とは、始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる仕組みです。
フレックスタイム制については、清算期間を通じて週平均40時間を超える時間が時間外労働となりますが、この清算期間が、改正前は最長1カ月だったのが、改正後は3カ月に延長すると同時に割増賃金の支払い方法が整備されました。
また、導入する場合には過半数労働組合(ない時には過半数代表者)と労使協定を締結する必要があります。
清算期間が1カ月以内なら労働基準監督署への届出は不要ですが、1カ月超3カ月以内であれば、届出が必要となります。
労働基準法では、裁量労働制の従業者や管理監督者などについては、時間外・休日の規定に関して一部を適用除外とする規定となっています。
しかし、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えるため、時間外・休日や深夜も含め、割増賃金の支払いの義務を除外した「労働時間制度の新たな選択肢」として、「専門業務型裁量労働制(高度プロフェッショナル制度)」が創設されました。
「専門業務型裁量労働制」は、下記の19業務に限り、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定を締結することにより導入することができます。
(1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務 (2)情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であって、プログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務 (3)新聞もしくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務 (4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 (5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務 (6)広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務) (7)事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務) (8)建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務) (9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 (10)有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務) (11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 (12)学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。) (13)公認会計士の業務 (14)弁護士の業務 (15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務 (16)不動産鑑定士の業務 (17)弁理士の業務 (18)税理士の業務 (19)中小企業診断士の業務 |
長時間労働発生時の医師面談制度の強化および労働時間把握義務が強化されました。
産業医の活動環境、産業医への情報提供等に関する規定を整備することで、労働者の健康確保対策の強化をはかることを目的としています。
産業医は、法定要件を備えた医師等のなかから選任しますが、改正により「必要な医学知識に基づき誠実に職務を行う義務」が本則に明記され、従業員規模50人以上の事業場では、産業医を選任しなければならないとされました。
「同一労働同一賃金」とは、いわゆる正規雇用労働者とパートや派遣との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
仕事の内容や責任、配置転換などが同じであれば、同じ待遇が求められるようになります。これからは、待遇を決めるうえでは、これらの法律を理解したうえで対応策を検討しておかないと、従業員とトラブルに発展する可能性が高くなります。
これまでご紹介したように、働き方改革関連法案では大きな法改正が数多く行われ順次施行されています。会社を経営する人、従業員を雇用する人、人事担当者は、これらの改正内容を理解し、導入される内容やスケジュールについて細かく検討する必要があります。
会社名を公表され、ひとたびブラック企業というイメージがついてしまうと企業イメージは大幅に低下し、その損害は計り知れません。新しく従業員を雇用することも難しくなりますし、会社の経営そのものに大きな影響を与えることもあります。
今後は、さらにしっかりと法律を理解し必要な対策を行わないと、さまざまなトラブルに発展する可能性もあります。
なお、労働時間や労働環境の管理や、「労働基準監督署への対処が分からない」「残業代の計算方法が本当に正しいのか不安」「トラブルに発展しないよう、賃金システムを見直したい」など、現在のシステムを根幹から見直したい場合には、早めに社会保険労務士に相談して、導入する内容やスケジュールについて検討するようにしましょう。
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監修:「クラウドfreee人事労務」
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