不動産所得とは|「事業的規模」とは?経費になるのは何?

公開日:2021年09月06日
最終更新日:2022年03月23日

この記事のポイント

  • 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存在する権利等による所得のこと。
  • 必要経費をもれなく計上し所得を抑えることで、節税になる。
  • 不動産所得は、「事業的規模」か否かで取り扱いが異なる。

 

不動産所得とは、不動産、不動産の上に存在する権利、船舶または航空機の貸し付けによる所得をいいます。
不動産所得は、収入金額から必要経費を差し引いて計算します。したがって、必要経費をもれなく計上し所得を抑えることが節税のカギとなります。

この記事では、不動産所得の意味や計算方法、節税のカギとなる必要経費などについてご紹介します。

不動産所得とは

不動産所得とは、①不動産の貸付け、②不動産上の権利の貸付け、③船舶や航空機の貸付けによって、生じる所得をいいます。不動産の貸付けによる所得については、それが事業として行われている場合でも事業所得とはなりません。

①不動産による貸付け
貸家、貸事務所、貸間、アパート、マンション、貸ガレージ、貸宅地などの貸付けをいいます。

②不動産上の権利の貸付け
地上権、地役権、永小作権、借地権

③船舶や航空機の貸付け
船舶や航空機の貸付けによる所得は、不動産所得ですが、この船舶には総トン数20トン未満の船舶は含まれません。これらの貸付けによる所得は事業所得または雑所得となります。

(1)不動産所得になるもの・ならないもの

不動産を売却して得た利益は、不動産所得ではなく譲渡所得となります。
また、ホテル事業による所得や時間貸し駐車場の収入などは、不動産所得ではなく事業所得(または雑所得)となります。

不動産所得となるもの、ならないものの区分についてまとめると以下のようになります。

不動産所得 事業所得または雑所得
・アパートや貸家の家賃収入
・地上権、借地権の貸付け、設定による収入(※)
・広告等のため、家屋の屋上や側面などを使用させる場合の賃貸収入
・総トン数20トン以上の船舶の貸付収入
・航空機の貸付けなど
・食事付の下宿の収入
・ホテル事業による収入
・時間貸し駐車場の収入
・自転車預かり業の収入
・定期傭船(チャーター船)、航海傭船契約で船員とともに貸付ける時の収入
・総トン数20トン未満の船舶の貸付け収入

※借地権等の設定のうち、一定金額以上の権利金の場合には、譲渡所得となります。

(2)不動産所得の「事業規模」の判定方法

不動産所得については、その不動産の貸付けが「事業的規模」か「事業的規模に至らない」かによって、不動産所得の金額の計算における「資産損失」「事業専従者給与」「青色申告特別控除」などの取り扱いが異なります。

資産損失
取り壊しなどによる損失額について、不動産の貸付けが事業規模として行われていない場合には、必要経費の算入について限度が設けられています。

事業専従者給与
家族事業従事者にかかる事業専従者控除や青色事業者専従者給与を必要経費に算入するか否かは、不動産の貸付けが事業規模として行われていることが必要です。

青色申告特別控除
青色申告者には、青色申告特別控除が認められます。
この時、事業所得がなく不動産所得のみで、その不動産の貸付けが事業的規模で行われていない場合には、青色申告特別控除は最高10万円となります。

この事業的規模の判定は、原則として、社会通念上事業と称する程度の規模で不動産貸付けを行っているかどうかによって判定しますが、以下のいずれかに該当する場合には、特に反証のないかぎりは事業と取り扱われます。

区分 貸付規模
建物 ・貸間、アパート等の独立した室数が、おおむね10室以上
・独立した家屋の貸家数がおおむね5棟以上
土地 ・土地、駐車場の契約件数がおおむね50件以上(1室の貸付けに相当する土地の契約件数をおおむね5件として判定)

(3)不動産所得の計算方法

不動産所得は、不動産収入から必要経費を差し引いて計算します。

不動産所得=不動産総収入-必要経費

不動産収入の金額は1月1日から12月31日までに収入すべきことが確定した金額で計算します。

収入すべきことが確定したかどうかを判断する基準の一般的な原則は、契約および慣習で、①賃貸料の支払期日が定められている場合には、その定めの日、②支払期日が定められていない場合で、請求があった時に支払うべきものについては、その請求の日または実際に支払いを受けた日です。

頭金や権利金などの計上時期は、引渡を要する場合には「引き渡しのあった日」引き渡しを要しない場合には「契約の効力発生日」となります。

(4)不動産所得の確定申告

不動産所得については、確定申告が必要です。
不動産所得が赤字になった時には、給与所得や事業所得など他の所得から赤字分を差し引くことができます。不動産所得の場合には、青色申告特別控除は最高10万円で、家族への専従者給与を支払うこともできません。
ただし、前述した「事業的規模」で不動産の貸付けを行っている場合には、青色申告特別控除は最高65万円(※)となり、専従者給与を支払うこともできます。

なお事業的規模でなくても、他に事業所得があれば事業所得とあわせて最高65万円の青色申告特別控除が可能となります。

※青色申告の特別控除は、e-Taxで申告した場合に65万円、それ以外は55万円です。

不動産所得の経費

不動産所得の必要経費は、租税公課、損害保険料、修繕費などがあります。
必要経費は、不動産総収入から差し引くことができるので、もれなく計上すればその分所得が減り、結果的に税負担が軽減されます。

(1)租税公課

業務の用に供される資産にかかる固定資産税、登録免許税は、必要経費になります。必要経費の算入時期は、原則として賦課決定等によりその納めるべきことが具体的に確定した時です。
ただし、納期が分割して定められているものについては、各納期の税額をそれぞれの納期の開始の日、または実際に納付した日の属する年分の必要経費とすることもできます。

(2)損害保険料

賃貸建物の火災保険料を支払った場合には、積立部分を除いて必要経費に算入することができます。なお、賃貸部分以外の保険料が含まれている場合には、賃貸割合等によって按分計算をします。
なお、数年分の保険料を一括払いした時には、申告する年に対応する保険料部分のみを、必要経費に算入します。

積立部分を除く保険料×(本年分の月数/前払した月数)×賃貸割合

(3)修繕費

賃貸建物などの修繕にかかった費用は、必要経費となります。
ただし、修繕が通常の修繕の程度を超えて、以前より資産の価値が高まったり使用可能年数が延びたりした場合には、その修繕の効果が翌年以降にも及ぶものとなり「資本的支出」となります。
たとえば、建物の避難用階段の取り付けや、用途変更の模様替えなどは資本的支出となり、支払った年分の必要経費としないで減価償却という方法で、一定の年数にわたって必要経費にします。

修繕費、資本的支出の具体例は、以下のとおりです。

修繕費 資本的支出
・壁の塗り替え費用
・畳の表替え費用
・床やタイルの毀損部分の取り替え費用
・ガラスの毀損部分の取り替え費用
・障子・ふすまの張り替え費用
・建物の避難階段の取り付け
・畳張りの部屋をフローリングに改造
・モルタルの壁をタイルに張り替え
・用途変更のための模様替え等の改善

(4)借入金利子

賃貸用の不動産を取得するための借入金利子は、必要経費に算入することができます。ただし、不動産所得の金額が赤字の場合には、その損失のうち土地所得のための借入金利子に相当する部分の金額ははじめから生じなかったものとされ、損益通算の対象とはなりません。
なお、土地と建物の借入金の額を区分することが困難な場合には、建物の所得価額を上回る借入金の金額を、土地購入の借入金とみなして計算します。

(5)立退料

建物の賃借人を立ち退かせるために支払う立退料は、原則として必要経費に算入することができます。
特例として、建物の譲渡・建物の敷地の譲渡のために支払う立退料は、譲渡所得の計算の時に譲渡費用として差し引きます。したがって、不動産所得の必要経費に算入することはできません。

区分 立退料の取扱い
土地、建物を譲渡するために支出するもの 譲渡所得の譲渡費用
土地、建物を取得する際に支出するもの 取得した土地、建物の取得費
上記以外 支出した年分の必要経費

(6)減価償却費

事業用の建物、機械、車両などのことを減価償却資産といいます。
減価償却資産の購入代金は、支払った年に一度に必要経費としないで、耐用年数に応じて配分し、必要経費にします。これを「減価償却費」といいます。

たとえば、ある建物の耐久性が30年だった場合には、1年ごとに1/30ずつ建物の価値が減少すると考えます。そしてこの建物の購入費用が6,000万円だとしたら、1年に200万円ずつ価値が下がっていく計算になります。

この30年を税法では、「耐用年数」といい、購入にかかった費用を耐用年数で割った金額を毎年減価償却費として必要経費に計上します。

不動産所得の場合には、毎年経費として計上できる減価償却費が節税のカギとなります。仮にその年に修繕費等の必要経費がなくても、減価償却費を必要経費として毎年計上できるので、その分所得が減り節税につながるのです。

また、土地と建物を一括購入した時には「減価償却できるのは、建物の取得費用にあたる部分のみ」ですから、譲渡の際に土地と建物の時価の割合で決める方法「固定資産税評価額」などをもとに按分する方法があるので、売主と買主の間で、合理的な方法で算出しておくことも大切です。

(7)その他の必要経費

その他、不動産所得の必要経費に計上できるものは、これまでもご紹介したとおり、事業的規模であるか否かによって異なります。
前述した青色申告特別控除などもまとめて、事業的規模か否か(業務的規模)の区分で、以下にまとめましたので、参考にしてください。

事業的規模 業務的規模
資産損失、取壊し、滅失、除却等 損失の金額を損失の生じた年分の必要経費に算入することができる 損失の金額を損失の生じた年分の不動産所得を限度として必要経費に算入することができる
貸倒損失 賃貸料等の貸倒れによる損失は、貸倒れが生じた年分の必要経費に算入することができる 賃貸料の回収不能による損失は、その収入が生じた年分にさかのぼって収入金額がなかったものとみなす
青色事業専従者給与 青色事業専従者に支払った労務の対価として相当なものは、その年分の必要経費に算入することができる 適用なし
事業専従者給与 専従者1人につき最高50万円(配偶者である専従者については86万円)を必要経費に算入することができる 適用なし
青色申告特別控除 一定の要件を満たす場合には、55万円または65万円の控除を受けることができる 最高10万円
貸倒引当金 その年の12月31日において貸金等にかかる損失の見込み額として一定の金額を

適用なし
確定申告税額の延納にかかる利子 不動産所得に対応する部分は必要経費として算入することができる 適用なし

 

まとめ

以上、不動産取得の意味や計算方法、不動産の必要経費などについてご紹介しました。
不動産所得を計算する際に計上できる必要経費は多岐にわたるので、不動産所得に関連するものは、必要経費であると主張する準備を調え、もれなく計上するようにしましょう。

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