公開日:2019年12月16日
最終更新日:2019年12月16日
累進課税とは、収入の多い人や遺産の多い人ほどより高い割合の所得税や相続税が課されるしくみのことです。
この累進課税制度の対象となる税金の代表的なものとしては、個人の1年間の所得に課税される「所得税」、亡くなった人から財産を相続した時に課税される「相続税」、贈与を受けた人に課税される「贈与税」などがあります。
この記事では、累進課税制度の意味や理由、対象となる税金などについてご紹介します。
累進課税制度とは、所得の多い人には多くの税金を、所得の少ない人にはそれなりの税金を負担してもらおうという趣旨の制度です。
したがって、所得や遺産の額が増えれば増えるほど、税額が高くなります。
この累進課税制度には大きく分けて①単純累進課税と②超過累進課税の2種類の方式があります。
①単純累進課税 課税標準が一定額を超えた場合に、その全体に対して高い税率を適用する ②超過累進課税 課税標準が一定額を超えた場合に、その超えた金額に対してのみ、高い税率を適用する |
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上記①の方式を適用した場合には、税率のちょうど境目の所得がある場合には納税額が極端に増加してしまうことがありますので、現在用いられているのは、②の超過累進課税方式です。
私達の納めた税金は、主に公共サービスの費用として使われますが、税金の役割はそれだけではありません。
近年は「格差社会」が社会的な問題となっていますが、市場経済の国ではどうしても一部の人に富が集中してしまい、その格差は放置したままではどんどん広がってしまいます。さらに、その富が「相続財産」という形で次世代に継承されれば、その格差が固定してしまうことになります。
そこで、累進課税によって所得や遺産の額が増えれば増えるほど税額を高くして、社会保険制度などを通じて所得や財産の少ない人に分配されるようにしているのです。
収入や相続財産の多いところから、収入や相続財産の少ないところに分配される機能のことを「所得の再分配」といい、これは税金の目的のひとつとされています。
この累進課税制度の対象となる代表的な税金は、所得税、贈与税、相続税です。
所得税、贈与税、相続税の税率は、それぞれ以下の通り区分されています。
所得税 5%~45%の7段階の税率 相続税・贈与税 |
所得税の税率は、平成27年以降は5%から45%までの7段階の税率に分けられています。
所得税は、個人の所得に対して課税される税金ですが、得た収入のすべてに課税されるのではなく、収入から必要経費を差し引き、そこからさらに所得控除を差し引いた残りの額に所定の税率を適用して税額が決定されます。
① 収入-必要経費=所得 ② 所得-所得控除=課税所得金額 ③ 課税所得金額×税率-控除額=基準所得税額…※1 以下の速算表で確認 ④ 基準所得税額×2.1%=復興特別所得税…※2 ⑤ ①+②=所得税・復興特別所得税の額 |
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※1 所得税の税額表(速算表)
※2 復興特別所得税
東日本大震災からの復興施策として、平成25年から25年間課税される。
たとえば、収入から必要経費を差し引いた所得から、各種所得控除を差し引いた課税所得金額が650万円であるAさんの所得税を計算すると以下のようになります。
①課税所得金額に応じて税率を掛け、控除額を差し引く ②復興特別所得税を計算する ③所得税額と復興特別所得税を合算し納める所得税額を求める |
所得税は個人の1年間の所得に課される税金ですが、この所得は給与所得(サラリーマンの給与や賞与)、事業所得(個人事業主の所得)など10種類に区分されていてそれぞれ課税方法が異なります。
原則は、1年間にその人に生じたすべての所得を合計して課税の対象とする「総合課税方式」で税額計算をしますが、退職所得や山林所得、土地や建物の譲渡所得については他の所得と区別して特別に税率を適用して計算する「分離課税方式」となります。
分離課税の対象である退職所得などを総合課税として他の所得と合計して計算すると、税金を納め過ぎてしまうことになりますので、注意してください。
相続税も、遺産の額が多ければ多いほど税率が高くなる累進課税の対象となる税金です。相続税が累進課税の対象となる理由も、「富の過度の集中を抑制し社会に再分配する」「タダで得た不労所得に税金をかける」などとなっています。
つまり、相続税を累進課税でかけなければ大金持ちの子どもは生まれながらにして大金持ちで、貧しい家に生まれた人は一生大変な思いをして働かなければならないのは不公平であるという考え方があるわけです。
そこで、財産を受け継いだ人には、その一部を税金で納めることで社会に還元しなさいということを義務づけたのです。
相続税の計算は、大きく5段階にまとめることができます。
①課税される財産の価格を計算する (財産の合計・債務などの控除) まず相続財産を評価して課税価格を計算します。この時、亡くなった方の生前の債務や葬式費用なども控除できます。 ②課税される基礎となる金額を計算する 基礎控除額(税金がかからない部分) ③相続税の総額を計算する ④各人の相続税額を計算する ⑤各人の実際の納付税額を計算する |
たとえば、遺産が1億円で相続人が子ども2人の場合の相続税を計算すると以下のようになります。
①相続税の基礎控除を差し引く ②各人の相続税を計算する ③相続税の総額 |
贈与税とは、財産を贈った人(贈与者)ではなく、もらった人(受贈者)にかかる税金です。
贈与税の計算は、まず1月1日から12月31日までの暦年ごとに、贈与を受けた金額を合計します。贈与者ごとに集計するのではなく、受贈者がもらった額を合計してその額をもとに計算します。
次に、生命保険金の満期金などの「みなし贈与財産」などがあればそれも合算します。
そして、そこから祝い金など、非課税となる財産を差し引きます。
贈与税には、年間110万円までの基礎控除が認められるので、この基礎控除額の範囲内であれば贈与税はかかりません。
①贈与財産+みなし贈与財産-非課税財産-基礎控除110万円=贈与税の課税価格 ②(課税価格×税率)-控除額=贈与税の納付税額 |
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前述したとおり、贈与税には年間110万円の基礎控除が認められるので、この基礎控除額を差し引いて課税価格を求めます。
なお、贈与税の税率構造についても、平成27年以降の贈与で大幅な税率構造の改正がありました。
たとえば、父から300万円、叔母から200万円の合計500万円を贈与されたCさんの贈与税を計算すると以下のようになります。
①贈与された金額から基礎控除を差し引く ②それぞれの税率で計算する 父からの贈与 伯母からの贈与 29.1万円+21.2万円=50.3万円…Cさんの贈与税支払額 |
以上、累進課税の意味と対象となる税金の税率や計算方法についてご紹介しました。
累進課税は、収入の多い人や遺産の多い人ほどより高い割合の税金が課されるしくみのことですが、これらの税金は適切な節税対策をとることで、大幅に税額を軽減することができます。
たとえば、所得税は適用できる所得控除が多ければ多いほど税額を減らすことができますし、贈与税は1年間110万円までは税金はかかりませんので、計画的に贈与をすれば、10年間で1,100万円(110万円×10年間)を非課税で贈与することができます。
また、前述したように1億円の遺産について、対策をしないで相続した場合の子2人の相続税額は770万円でしたが、生前に住宅取得等資金贈与(計2,000万円)で節税対策をすれば、約300万円も節税することができます。
所得税や相続税、贈与税を減らす方法は、この他にもたくさんありますが、どの節税対策を行うべきなのかは、個々の事情によって大きく異なります。
どの節税対策も中長期計画を立てて行う方が、効果は大きくなりますので、早めに税理士に相談して節税対策を行うことをおすすめします。
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