長期前払費用|繰延資産となる理由とよくある仕訳

公開日:2022年01月07日
最終更新日:2022年03月23日

この記事のポイント

  • 長期前払費用とは、前払費用のうち1年を超えて費用化されるもの。
  • 長期前払費用は、固定資産に計上する。
  • いわゆる税務上の繰延資産は、会計上は長期前払費用として処理をする。

 

「前払費用」とは、一定の契約に従い継続してサービスの提供を受ける場合、いまだに提供されていないサービスに対して支払われた費用です。
この「前払費用」について、決算日の翌日から起算して1年を超えるものについては、「長期前払費用」として計上します。

長期前払費用とは

継続的なサービスの提供を受ける契約では、家賃やリース料のように、まだサービスの提供を受ける前にまとめて代金を支払うことがあります。
このような費用を「前払費用」といいますが、決算日の翌日から起算して1年を超えてからサービスを受ける分は「長期前払費用」として計上します。

(1)ワン・イヤー・ルールとは

貸借対照表において、資産と負債は流動項目と固定項目に区分して表示されますが、この区分表示を行うにあたっては、ワン・イヤー・ルール(1年基準)が適用されます。
1年以内に履行期が到来する資産・負債は、流動資産・流動負債、1年を超える項目は、固定資産・固定負債に分類されます。
したがって、前払費用についても、決算日の翌日から起算して1年以内に費用となるものは「前払費用」として計上し、1年を超えて費用となるものは「長期前払費用」で処理することになります。

たとえば、翌期以降3年分の費用を取引先に支払った場合、1年分は前払費用となり2年分が長期前払費用となります。

(2)長期前払費用に該当するもの

長期前払費用に該当するのは、以下のような費用のうち決算日の翌日から起算して1年を超えてからサービスを受ける分です。

・家賃
・地代
・リース料
・保険料
・共同施設の負担金
・公共施設の負担金
・借入金の支払利息(前払い)
・権利金(建物貸借時)
・リース料(前払い)
など

(3)費用の支出の効果が1年以上及ぶものも「長期前払費用」

アーケードの改装など、その費用の支出の効果が1年以上及ぶものは、長期前払費用に計上します。
このように、サービスの提供は受けたがそのサービスの効果が1年以上に及ぶため、効果が及ぶ期間にわたって経費とするものとしては、以下のような費用があります。

・公共的施設負担金
・共同的施設負担金
・アーチ設置負担金
・アーケード設置負担金
・日よけ設置負担金
・ノウハウの頭金
・ネオンサインの贈与
・同業者団体の加入金
・出版権設定の対価
・税法上の繰延資産
など

上記については、財務諸表等規則で繰延資産として列挙していますが、企業会計上は繰延資産として扱われず、その「サービスの提供は受けたがそのサービスの効果が1年以上に及ぶ」という性格を重視して、通常は長期前払費用として処理し、所定の期間で償却します。

このような、税法固有の繰延資産でありながら会計上は長期前払費用として取り扱われるものの償却期間は、以下のとおりです。

税法固有の繰延資産で、会計上は長期前払費用として取り扱われるものの償却期間

種類 細目 償却期間
公共的施設の設置又は改良のために支出する費用 (1) その施設又は工作物がその負担した者に専ら使用されるものである場合 その施設又は工作物の耐用年数の7/10に相当する年数
(2) (1)以外の施設又は工作物の設置又は改良の場合 その施設又は工作物の耐用年数の4/10に相当する年数
共同的施設の設置又は改良のために支出する費用 (1) その施設がその負担者又は構成員の共同の用に供されるものである場合又は協会等の本来の用に供されるものである場合 イ 施設の建設又は改良に充てられる部分の負担金については、その施設の耐用年数の7/10に相当する年数
ロ 土地の取得に充てられる部分の負担金については、45年
(2) 商店街等における共同のアーケード、日よけ、アーチ、すずらん灯等負担者の共同の用に供されるとともに併せて一般公衆の用にも供されるものである場合 5年(その施設について定められている耐用年数が5年未満である場合には、その耐用年数)
建物を賃借するために支出する権利金等 (1) 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合 その建物の耐用年数の7/10に相当する年数
(2) 建物の賃借に際して支払った(1)以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになっているものである場合 その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数
(3) (1)及び(2)以外の権利金等の場合 5年(契約による賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間)
電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用 その機器の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が契約による賃借期間を超えるときは、その賃借期間)
ノウハウの頭金等 5年(設定契約の有効期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び一時金又は頭金の支払を要することが明らかであるときは、その有効期間の年数)
広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用 その資産の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が5年を超えるときは、5年)
スキー場のゲレンデ整備費用 12年
出版権の設定の対価 設定契約に定める存続期間(設定契約に存続期間の定めがない場合には、3年)
同業者団体等の加入金 5年
職業運動選手等の契約金等 契約期間(契約期間の定めがない場合には、3年)

参照:国税庁「繰延資産の償却期間」

(4)長期前払費用の範囲

新聞雑誌の購読料は、サービスの提供ではなく、モノの購入であるため「前払金」で処理をします。
また、「費用の支出の効果が、その支出日から1年以上及ぶもの(税法上の繰延資産)」について、取得価額が20万円未満のものについては、個人の場合は支出した年に全額経費とします。法人の場合は、支出した期に全額経費とすることもできますし、「長期前払費用」として計上し所定の期間で償却することもできます。

(5)長期前払費用は貸借対照表に表示される

長期前払費用は、固定資産の「投資その他の資産」に区分されます。
※ちなみに、前払費用は、「長期前払費用」とは区別して貸借対照表の流動資産の「その他の流動資産」に区分されます。

固定資産とは、企業が所有する資産のうち、長期間にわたって使用または利用されるもので、①有形固定資産、②無形固定資産、③投資その他の資産の3つに分けられます。

有形固定資産とは、建物、機械装置、車両など実態のある資産で、無形固定資産とは、ソフトウェアなど具体的な形のない資産です。
そして、長期前払費用が区分される「投資その他の資産」とは、企業の経営支配、取引関係の維持などを目的として保有する資産をいいます。

「投資その他の資産」の勘定科目としては、長期前払費用のほか投資有価証券、子会社株式、差入保証金(新規の営業取引開始や建物を賃借する場合に差し入れた保証金)、出資金などがあります。

一般的な固定資産の主な勘定科目の区分

分類 勘定科目 内容
有形固定資産 建物 事業用の事務所、店舗、倉庫などの建物
構築物 事業用の橋、桟橋、岸壁、煙突、その他土地に定着した建物以外の工作物
機械装置 事業用の機械、装置、コンベアなど
車両運搬具 自動車、営業用の鉄道車両、その他の陸上運搬具
土地 事業用の工場・事務所の敷地、社宅敷地、運動場、資材置場など
無形固定資産 特許権 産業財産権(工業所有権)の1つで産業上利用できる新規の発明を独占的・排他的に利用できる権利
借地権 建物の所有を目的とする土地の賃借権または地上権
のれん 合併等によって取得した事業の支払対価が、承継した純資産額を上回る場合の差額(超過額)
ソフトウェア コンピューターシステムのソフトウェアを取得した際に要した金額
投資その他の資産 投資有価証券 長期目的で所有する株式、公社債
子会社株式 子会社の株式
関係会社株式・
関係会社出資金
会社計算規則第2条に定める関係会社株式の取得価額や出資の額
長期貸付金 取引先や従業員に対する貸付金のうち1年を超えて返済されるもの
出資金 合同会社、合資会社、協同組合などへの出資額
長期前払費用 前払費用のうち、実際の費用化が決算後1年超を経過して生じるもの
繰延税金資産 税効果会計の適用によって資産計上される金額のうち、流動資産に繰延税金資産として掲載したもの以外の金額
破産更生債権等 受取手形など、営業債権および貸付金、立替金などその他の債権のうち、破産債権、更生債権その他これらに準ずる債権で、決算後1年以内に弁済を受けられないことが明らかなもの

長期前払費用のよくある仕訳

長期前払費用とは、①1年超の役務サービスの提供を継続的に受けるために支払った代金のうち、まだ提供を受けていない期間に対応する部分、および②費用の支出の効果が、その支出日から1年以上およぶもの(税法上の繰延資産)について使用する勘定科目です。
長期前払費用に計上していたものでも、サービス期限が1年以内に到来する部分は「前払費用」に振り替える必要があります。また、②については所定の期間で償却することも可能です。

(1)3年分の保険料を支払った

支払時に保険料として計上した場合

①「3年分の火災保険料36万円を現金で支払った」

借方 貸方
保険料 360,000 現金 360,000

①「決算にあたり、上記保険料のうち翌期分を前払費用に振り替えた。また、決算日の翌日から1年を超える分は「長期前払費用」に振り替えた。」

借方 貸方
前払費用 120,000 保険料 330,000
長期前払費用 210,000
支払時に長期前払費用として計上した場合

①「3年分の火災保険料36万円を現金で支払った」

借方 貸方
長期前払費用 360,000 現金 360,000

①「決算にあたり、上記保険料のうち当期分を保険料に、また翌期分(決算日の翌日から1年以内)は「前払費用」に振り替えた。」

借方 貸方
保険料 30,000 長期前払費用 150,000
前払費用 120,000

(2)2年分の火災保険料を支払った

①「2年分の火災保険料24万円を普通預金から振り込んだ。」

借方 貸方
長期前払費用 240,000 240,000 360,000

①「決算にあたり、「長期前払費用」に計上していた火災保険料のうち、当期分6万円を「保険料」サービス期限が1年以内に到来する12万円は「前払費用」に振り替えた。」

借方 貸方
保険料 60,000 長期前払費用 180,000
前払費用 120,000

(3)保証金について償却部分がある

①「店舗家賃の保証金100万円を、普通口座より振り込んだ。契約書によれば、契約期間は4年であり、明渡し時には20%の償却が必要であるとなっている。」

借方 貸方
保険料 800,000 普通預金 1,000,000
前払費用 200,000

②「決算にあたり、上記権利金について償却をした。」
20万円÷4年=5万円

借方 貸方
長期前払費用償却 50,000 長期前払費用(権利金) 50,000

(4)フランチャイズ加盟料を支払った

①「フランチャイズ契約を締結し、加盟料として150万円を普通預金から支払った。契約期間は5年間である。なお、契約更新時には更新料の支払いが必要であり、当初加盟量は返還されない。」

借方 貸方
長期前払費用 1,500,000 普通預金 1,500,000

②「決算にあたり、上記加盟料について償却をした。」
150万円÷5年=30万円

借方 貸方
長期前払費用償却 300,000 長期前払費用 300,000

(5)アーケード改修を行った

「アーケードの改修を行うことになり、その負担金として15万円を支払った。」
取得価額が20万円未満のものは、個人は支出した年に全額経費とします。なお、法人の場合には、全額経費とすることもできますし「長期前払費用」として計上し、所定の期間で償却することもできます。

借方 貸方
長期前払費用 150,000 現金 150,000

まとめ

長期前払費用は、家賃、リース料、アーケードの負担金など、①1年超の役務サービスの提供を継続的に受けるために支払った代金のうち、まだ提供を受けていない期間に対応する部分、②費用の支出の効果が、その支出日から1年以上およぶもの(税法上の繰延資産)について使用する勘定科目です。
1年以内に費用となるものは、「前払費用」で計上し、「長期前払費用」で計上した費用についても、決算日の翌日から1年以内になった分は「前払費用」に振り替えます。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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