公開日:2018年11月09日
最終更新日:2022年03月10日
エンジェル投資とは、創業間もない企業に資金を提供する投資のことです。
出資の見返りとして株式を譲り受け、出資した企業が上場したり事業買収されたりした時に、リターンを得ることを目的としています。
エンジェル投資家(ビジネスエンジェルと呼ばれることもあります)とは、起業間もないベンチャー企業に投資し、投資した以上のリターンを得ることを目的とした個人投資家のことをいいます。そしてそのリターンを、次の「金の卵」に投資することを事業スタイルとしています。
ベンチャー企業は過去の実績がないことから、資金調達が必要な場面で銀行などから融資を受けることが難しいものです。しかしベンチャー・キャピタル(VC)やエンジェル投資家(ビジネスエンジェル)は、このような起業間もないベンチャー企業に対しても、積極的に出資してくれる可能性があります。
ちなみに、なぜ「エンジェル」と呼ばれる理由については、その投資家の投資が「困っている者を、天使のように救ってくれるからだ」ということに由来していると言われています。
エンジェル投資家については「個人銀行」のようなイメージを持ち、お金の出し方もそれほど変わらないのではないかと考えている人がいますが、エンジェル投資家と銀行は、全く異なった考え方に基づく事業スタイルです。
まず、銀行が出すお金は「融資」で、エンジェル投資家が出すお金は「投資」です。
銀行から融資を受ければ、そのお金は返さなくてはなりませんが、エンジェル投資家から出資を受けたお金は、原則として返す必要がありません。
エンジェル投資家は、投資したお金を企業から直接回収せず、将来そのベンチャー企業が株式上場した際の出資金のキャピタルゲインを得ることを目的としています。
たとえば、かつてのアップルやマイクロソフト、グーグルやフェイスブックも同様です。
これらの世界的な企業も、スタートアップ当時は、独自のプロダクトを開発していたものの、ごく少数のユーザーが使っているに過ぎない未上場企業で、当時は会社の評価も低かったのです。
しかし、この投資リスクの低い会社に投資をする賭けをするのが、エンジェル投資家です。
マイク・マークラというアメリカの投資家は、創業間もないアップルコンピュータへ投資し、アップル株式の3分の1を買い占め、二代目の社長を務めました。ドイツ出身のコンピュータ技術者であり実業家でもあるアンディ・ベクトルシャイムは、グーグルがまだ会社になる前から20万ドルを投資しました。
そして、これらの「賭け」が見事に成功をおさめたのは、周知の事実です。
ただ、エンジェル投資家のなかには、賭けという気持ちがなく、純粋に「起業家のビジネスに共感し、社会の課題を解決したいという思いをサポートしたい」という思いから投資をする人も多くいるのも事実です。
一般の投資家は、企業が安定して利益を生むように成長し、株式の配当という形で継続的に利益を売ることを期待しています。
しかし、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などは、このような形を望みません。その企業が他の企業に買収されるか自ら上場するかといった「エグジット」の時点で損益を確定したいと考えています。つまり、継続的かつ安定した利益についてはあまり期待していません。
※エグジットとは、スタートアップの創業者やベンチャーキャピタルの投資資金回収手段または方法のこと。 具体的には上場した後、株式を売却して利益を手にしたり他の企業に買収された際の利益を手にしたりすること。 |
起業前の段階を「シード(種)ラウンド」と言いますが、この時点で出資してくれるエンジェル投資家はなかなかいません。アメリカでは、シードラウンドの段階で投資するインキュベーターも存在しますが、日本ではこのようなシステムはほとんどありません。
「自己資金はないけど、大きな夢と情熱とビジネスアイデアがある。だから出資してほしい」と訴えて資金を出してくれるのは、親や兄弟、知人といった関係者である場合がほとんどです。
まったく見ず知らずのエンジェル投資家と接触して面談し交渉を重ねても、投資してくれる可能性はほとんどないと覚悟しておきましょう。
これまでもご紹介してきたとおり、エンジェル投資家は企業にお金を貸して金利を得ることを目的としているのではなく、上場や事業買収などによるキャピタルゲインを得ることを目的としています。
したがって、「上場など考えていない」という起業家には、エンジェル投資家が出資してくれることはありません。そのような場合には、クラウドファンディングの活用など、他の資金調達を検討した方が現実的でしょう。
資金調達の方法については、下記の記事でまとめていますので併せてご覧ください。
エンジェル投資は、創業間もない企業にとって資金調達を実現できる数少ないチャンスです。では、エンジェル投資家から投資を受けるためにはどうすればよいのでしょうか。
あたり前のことですが、エンジェル投資家に投資をしてもらうためには、エンジェル投資家と出会うことが必要です。
エンジェル投資家とマッチングを行っているセミナーに参加するなどの方法もありますが、「この人に投資してほしい」という具体的な希望があるなら、直接SNSを活用してコンタクトを取ってみるのも有効です。
なかにはホームページを見て問い合わせをして交渉をした人もいますし、エンジェル投資家が主催するビジネスコンテストを活用して投資を受けることに成功した人もいます。
先ほど、起業前のシードラウンドでエンジェル投資家と面談しても、投資を受けることは難しいとご紹介しました。
ただし、シードラウンドの次の段階「アーリーステージ」では、エンジェル投資家の投資を受けるチャンスがあります。
事業計画に粗さがあっても製品やサービスが魅力的であれば、エンジェル投資を受けることができるうえに、エンジェル投資家の人脈やノウハウの支援(ハンズオン)を受けて事業を成長させることができます。
実際にはこのアーリーステージで資金不足の状況になる企業が多いため、シードラウンドの段階でエンジェル投資家を探し始めることをおすすめします。
エンジェル投資家と面談する前には、さまざまな書類の提出を求められます。
どのような書類を求められるかは、エンジェル投資家にもよりますが、一般的な例として知っておきましょう。
①会社謄本 ②直近の決算書2期分 ③直近2カ月分の試算表 ④販売管理費明細表 ⑤直近の銀行残高と借入残高 ⑥株主名簿 ⑦定款 ⑧役員名簿と個々の役員の経歴 ⑨主要取引先リスト ⑩ホームページのURL ⑪会社案内パンフレット(あれば) ⑫資本政策表 ⑬株価算定表 ⑭事業計画書 ⑮発行株式の概要 |
これまで何度もご紹介してきたように、エンジェル投資家は、出資金のキャピタルゲインを得ることを目的としていますから、将来性の高い企業に投資を行いたいと考えます。将来株式上場を目指さないような企業については、いかに事業の成長性・収益性に魅力を感じたとしても、投資を行う対象とはなりません。
~ ① エンジェル投資家は、プロダクトの市場適合性とエグジットを見る ~
エンジェル投資家が、その事業に投資するか否かを決断する時には、プロダクトの市場適合性とエグジットを見ます。
プロダクトの市場適合性とは、その事業の創業者が考え出したコンセプトを実際に使っているユーザーを見出だす作業をいいます。
大勢のユーザーがそれを楽しんでいることが分かれば、そのビジネスには十分成功する可能性があると判断されます。
エグジット(出口)とは、投資家の場合、株式上場や他の企業に買収されることの2つをいいます。
こうした独創的な技術を評価する際の基準に、「10倍ルール」という基準があります。
10倍ルールとは、従来の製品やサービスと比較して、10倍以上の価値を提供できる技術・サービスを持つ企業にのみ投資するというルールです。
投資額の5000倍や1万倍のリターンがあることはめったにないものの、50倍から100倍のリターンは得る可能性が十分ある…これを投資家は期待するわけです。
~ ② エンジェル投資家は、起業家の資質を見る ~
エンジェル投資家は、投資するか否かを判断する際に、起業家の資質を重視します。
では、エンジェル投資家が考える「成功する起業家」とはどのような資質が求められるのでしょうか。
この点について多くのエンジェル投資家は、成功する起業家とは「強い体力」「圧倒的な地震」「チャレンジする目標設定」「リスクを恐れない」「失敗を活かす力強さ」を兼ね備えた人物だと答えます。
エンジェル投資家が投資したビジネスは数多くありますが、そのなかのひとつが「Uber」という企業があります。
このUberが当時500万ドルの企業価値しかなかった時期に2万5000ドルを投資したエンジェル投資家ジェイソン・カラカニス(Jason Calacanis)が、その著書『エンジェル投資家』のなかで、次のように語っています。
「Uberが利益を上げられる企業になるかは、当時は全く分からなかった。それでも、創業者に成功への強烈な意思があることは知っていたし、このサービスは私自身が大いに気に入っていた。」
「エンジェル投資家としての第一の仕事は、揚げ足取り、後ろ向きの批評家、言い訳や、要するに考えのスケールが言うことに、起業家が耳を貸さないように盾になることだ。小さく考えていれば人間が小さくなる。私はスタートアップ創業者には小さい成功を狙わず、ビッグな目標を負ってもらいたいと常に考えている。」 「私は、そのプロダクトが成功しそうか推測するのは諦めた。その代わりに、私が持つ限りのジェダイのフォースを、『創業者を理解すること』に振り向けた。10億ドルの会社を選ぶのではない。10億ドルの創業者を選ぶのだ。」 |
つまり、エンジェル投資家が投資したいと思う起業家は、「成功させる強い意思」と「ビジネス事態の魅力」を投資家にきちんと示すことができる人間であることが何よりも重要ということになります。
エンジェル投資家は、「この会社は成功する確率が高い」と見込むからこそ、お金を出します。
起業間もない段階では、自社のビジネスに熱い思いを持ち業界の知識は豊富でも、経営経験は乏しく財務や法務に手が回っていないことも多いはずです。また、自社の製品やサービスに自信を持っていてもどこに営業をすればいいのかという戦略が足りない場合もあります。
そのような時、エンジェル投資家のノウハウや人脈を活用して事業を成功させることが期待できます。
また、追加の運転資金が必要な時にもサポートを受けられる可能性があります。
起業してから上場まで、何のトラブルもなく伸びていくケースはほとんどありません。
想定外の事態が生じて追加の運転資金が必要となることもあるでしょう。そのような時には、エンジェル投資家に追加出資を求めることもできます。エンジェル投資家としても、これまでの投資を無駄にしたくはないので、応じてくれるケースが多いです。
もちろん、エンジェル投資家の関与はなるべく避けたいという経営者もいるでしょう。その場合には、事前にエンジェル投資家と入念に交渉し契約を締結することが大切です。
ここでミスマッチがあると、後々大きなトラブルに発展してしまうこともあるからです。
以上、エンジェル投資家から出資を受けるために必要なことについてご紹介しました。
起業家が、熱い想いから株式公開を目指そうとしても、起業したばかりで十分な事業資金を元に事業開始をできることは珍しいでしょう。
しかし、事業を拡大するためには事業資金が必要です。そして、その事業資金を確保するためのひとつの方法として、エンジェル投資家から出資を受ける方法ということです。
エンジェル投資家からの出資を成功させるためには、まずエンジェル投資家をうならせるほどの「成功させる強烈な意思」と「ビジネスの魅力」を伝えることが必要です。
そして、その意思や魅力を伝える方法のひとつの材料が、事業計画書の作成です。
資金調達に精通している税理士や公認会計士に相談することで、この事業計画書の作成をサポートしてもらうことができます。
また、税理士や公認会計士からエンジェル投資家を紹介されるケースも頻繁にあります。ファイナンスに強い税理士事務所・会計事務所は、エンジェル投資家から出資を受ける際に、非常に心強いサポーターになってくれます。まずは、エンジェル投資家からの資金調達の成功実績がある税理士に相談することをおすすめします。
エンジェル投資家から投資を受ける際には、決算書や試算表、事業計画書などさまざまな書類の提出が求められます。これらの書類作成をサポートしてくれる税理士を探すなら、freee税理士検索をご活用ください。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から所得税、相続税、贈与税について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
クラウド会計ソフトの「クラウド会計ソフト freee会計」が、税務や経理などで使えるお役立ち情報をご提供します。
「クラウド会計ソフト freee会計」は、毎日の経理作業を最小限で終わらせることができるクラウド型会計ソフトです。疑問点や不明点は、freee税理士検索で税理士を検索し、質問することができます。
クラウド会計ソフトfreee会計