公開日:2019年06月01日
最終更新日:2024年02月27日
「個人事業主は売上も少ないし、税務調査は来ないだろう」と思っている人もいますが、そんなことはありません。
確かに会社の方が対象となりやすい傾向がありますが、個人事業主も一定の割合で税務調査の対象となります。申告内容に不審な点がある場合には、実地調査が行われ、ずさんな申告をしているとペナルティとして過少申告加算税や延滞税、重加算税が課されることがあります。
税務調査の豆知識
税務調査の連絡が来たら、すぐに税理士と打ち合わせをしましょう。税務調査は連絡があってから実際の調査日までは時間があります。その間に可能な限りの対策をしておきます。足りない資料はないか、ミスがあるなら修正申告をすべきかを税理士と相談して進めましょう。
なお、申告書に「税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面」が添付されていると、そもそも税務調査の対象になりにくいというメリットがあります。
この書面は、「この申告書は税理士によって検査されたものである」ことを示すもので、添付されていると申告内容の信頼性が高まります。さらにこの書面が添付されている場合には、原則として税務署は調査に着手する前に税理士に質問をする機会を与えなければならないことになっています。そしてその際に疑問点が解消すれば、税務調査が必要ないと認められ、実地調査は行われません。
この書面さえ添付すれば、絶対に税務調査の対象とならないというわけではありませんし、意見聴取で疑問が解消されなければ実地調査が行われることになりますが、その可能性がかなり低くなります。
経営者の負担が少なくなりますし国税庁も推奨している制度ですから、書面添付制度はぜひ活用しましょう。
税務調査とは、納税の公平を保つために行われる調査のことです。
大企業の場合には国税庁の管轄になりますが、中小企業や個人事業主の場合には税務署が管轄となり、税務調査を実施します。
個人の税務調査においては、確定申告書に記載されている売上や所得、税額に誤りがないか、税法に従って適正な金額が計算されているかどうかが事前に確認されています。そして、違法な処理や誤った処理がされている可能性がある場合には、税法に従った申告や納税に改めさせるために税務調査の対象となります。
税務調査というと、ネガティブなイメージを持つ人も多いのですが、税務調査が行われないと税金をごまかす人とまじめに申告納税をする人に不公平が生じてしまいます。
適宜指導や摘発をして適切な申告納税を促進するためには、税務調査は必要不可欠な調査ともいえるのです。
令和4年の所得税の確定申告件数は、2,295万人で、税務調査は63万7,823件でした。
したがって、個人の所得税の税務調査の確率は、2.8%となっています。
ただし、このうち実地調査が行われたのは合計46,000件であり、その確率は0.2%ということになります。
また、個人の消費税の申告件数は105万5,000件で、税務調査は9万3,985件でした。
したがって、個人の消費税の税務調査の確率は、8.9%となっています。
ただし、このうち実地調査が行われたのは2万,6000件であり、その確率は2.5%ということになります。
※税務調査については、令和4年7月から令和5年6月までの間の実績であり、申告件数については、令和4年分の確定申告状況をもとに計算したもので、上記確率はあくまで目安となります。
参照:国税庁「令和4年分の確定申告状況等について(まとめ)」
参照:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
最近の税務署はコンピュータ管理が進んでおり、事業者の申告内容は同業種の過去の事例からチェックされています。
たとえば、同業他社の標準から外れた経費の使い方をしている場合などは、コンピュータが自動的にピックアップしています。
個人事業主の場合には、プライベートな飲食代や、電気代、電話代などの按分比率(仕事で使った比率とプライベートで使った比率)が特にチェックされます。たとえば、事業用の車両についても「子どもを車に乗せたことはないのか」といったプライベートな質問を受けることがあります。
税務調査の結果、実質と合わない点があったとして指摘された点について認める場合には、修正申告をすることになります。そして、修正に基づいて税金が再計算され、差額を納めることになります。
ただし税務署の主張に納得がいかない場合には、修正申告をする必要はなく、その場合には税務署が強制的に申告内容を修正する「更正処分」を受けることがあります。
ペナルティとして課せられる附帯税は、以下の通りです。
その他に地方税にも、延滞金、過少申告加算金、負申告加算金、重加算金という制度があります。
種類 | 内容 | 利率等 |
延滞税 | 法律で決められた期限までに税金を納付しなかった場合に、課税される附帯税 |
①納付すべき本税の額×延滞税の割合×期間(日数)/365日 納期限(※)までの期間及び納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については、年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」の いずれか低い割合 ②納付すべき本税の額×延滞税の割合×期間(日数)/365日 延滞税の額:①+② |
過少申告加算税 | 期限内に確定申告書を提出した後、修正申告書の提出または更正によって追加税額が生じた場合に、課税される附帯税 | 新たに納めることになった税金の10%相当額。ただし、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%。 参照:国税庁「確定申告を間違えたとき」 |
無申告加算税 | 期限内に確定申告書の提出がなかった場合で、納付すべき税額があった場合に課税される附帯税 | 納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額 参照:国税庁「確定申告を忘れたとき」 |
不納付加算税 | 源泉徴収などによって国税が効寝られた期限内に完納されなかった場合に課税される附帯税 | その納付税額の10% ただし、調査などが予想される前に納付すれば、5% |
重加算税 | 過少申告加算税などが課税される場合において、仮称、隠ぺいなどによって申告している場合に、その過少申告加算税などに代えて加算される附帯税。 重加算税はもっとも課税額が大きい附帯税。 |
過少申告加算税・不納付加算税に代えて35% 無申告加算税に代えて40% 参照:財務省「加算税の概要」 |
「売上が前年と比較して極端に増えた」「現金商売である」「利益率が同業他社と比較して極端に良い」などの事情がある場合には、対象となりやすい傾向があります。
税務調査の対象となりやすい個人事業主 ① 売上が多い ② 売り上げが前年より極端に増えた ③ 利益率が前年より極端に良くなった ④ 利益率が、同業他社より極端に良い ⑤ 現金商売である ⑥ 売上高に比べ所得金額が極端に少ない ⑦ 売上や所得の変動が大きい ⑧ 赤字続きから黒字に転換した ⑨ 無申告である ⑩ 過去の税務調査で、多額の修正申告をしたことがある |
事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種については、令和2年度では1位はプログラマー、2位は畜産農業、3位は内科医でした。
令和3年度では、1位は経営コンサルタント、2位はシステムエンジニア、3位はブリーダーでした。
令和4事務年度の個人事業主の税務調査で、1件当たりの申告漏れ所得金額が最も多いのは、経営コンサルタントで、3,367万円とかなり高額な申告漏れ所得金額を指摘されています。
次いで、くず金卸売業、ブリーダー、焼肉、タイル工事、冷暖房設備工事となっています。
業種目 | 1件当たりの 申告漏れ 所得金額(万円) |
1件当たりの 追徴税額(含加算税) (万円) | 前年の 順位 | |
1 | 経営コンサルタント | 3,367 | 676 | 1 |
2 | くず金卸売業 | 2,483 | 952 | - |
3 | ブリーダー | 2,075 | 454 | 3 |
4 | 焼肉 | 1,611 | 319 | - |
5 | タイル工事 | 1,598 | 266 | - |
6 | 冷暖房設備工事 | 1,520 | 287 | 15 |
7 | 鉄骨、鉄筋工事 | 1,440 | 261 | - |
8 | 太陽光発電 | 1,391 | 289 | - |
9 | バー | 1,391 | 250 | - |
10 | 電気通信工事 | 1,374 | 223 | 13 |
参照:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(令和5年11月)」
有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資等を積極的に⾏っている個人など、いわゆる「富裕層」に対しては、積極的に調査が実施されています。
令和4事務年度においては、2,943件(前事務年度 2,227件)実地調査(特別・一般)が実施されました。
また、インターネット上のプラットフォームを介して行うシェアリングエコノミーといった新分野の経済活動を⾏っている個人に対しても資料情報の収集・分析に努めていること、および積極的に調査が実施されていると報告されています。
参照:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(令和5年11月)」
税務調査では、個人事業主の業種によってチェックされるポイントが異なります。
以下、税務署から「申告漏れ所得金額が高額な業種」と指摘されている業種を中心に、調査で着目されるポイントについてご紹介します。
風俗業は、キャバクラとともに、例年1件当たりの申告漏れ所得金額が高額で、かつ追徴税額も1,000万円を超えるケースが多々あります。
「証拠資料を捨ててしまえば大丈夫」と考えている経営者も多くいますが、税務署は申告書など提出した資料をチェックしているだけでなく、内観調査や外観調査が事前に行われている可能性もあります。
内観調査では、客数や客単価、従業員数など現金の動きが細かくチェックされています。会計でレジを打たずに現金箱のように扱っている店舗もありますが、これは特に注意が必要です。調査官からすれば、「これで正しく売上を把握できるわけはない」と考えます。
また外観調査では、店舗が外から調査され、社長の自宅がチェックされていることもあります。昨今はTwitterやFacebookなどの書き込みも見られている可能性が高いです。税務署に疑われるような書き込みは控えなければなりません。
バー・焼肉などの飲食業でも、前述した風俗業と同様に、現預金の管理が適切になされているか、アルバイトを含む従業員が実際するかがチェックされています。
飲食業においても、調査官が事前に客として入る内覧調査が実施され、立地条件、様子や客の入り具合などを確認されることもあるので、この点についても注意が必要です。
飲食業は現金商売なので、売上が除外されて申告された場合、税務署は脱税の証拠をつかみにくいことから、店員の人数、売上金の処理などの様子も細かくチェックされます。
また、ある日突然やってきて、昨日の売上が正しく帳簿に記帳されているかを調査されることもあります。もし記帳されていなかったり、数字が合わなかったりした場合には、証拠隠滅の恐れがあるとしてしつこく調査されることもあります。
不動産仲介業では、売上金額が適正に計上されているかが最もチェックされるポイントです。特に、未収の家賃も売上に計上しているか、礼金、更新料や変換しない敷金や保証金についても売上に計上されているかは、細かく質問される箇所なので注意しましょう。
この他、人件費やインセンティブの支給額が適正かなどかといった点はもちろん、契約書等に印紙は貼っているかも細かくチェックされます。
システムエンジニア、プログラマーは、売上漏れが指摘されることが多いです。請負による受託開発は検収が行われないと売上を計上できない、外注先が個人事業主の場合、源泉所得税の徴収漏れがある…などの事情があり、確定申告の際の計上ミスが多く指摘されます。
なお、システムエンジニア、プログラマーの場合には、副業で儲けて確定申告をしない人も多く、申告漏れの所得が指摘される傾向が増加しています。
サラリーマンの副業でも、1年間で20万円超の所得がある場合には、確定申告が必要です。
卸売資産に計上されている金額が妥当か、完成工事と未完成工事が適切に区分されているかなどが指摘されやすいポイントです。
機械器具・部品修理、冷暖房設備工事は、他の業種と比較すると、売上と原価管理が難しい業種であり、またどの時点で売上を計上すべきか明確な基準をもっていないケースも多々あるからです。
税務署から連絡がきたら、その場で、一人で対応するのは避けてください。「税理士に相談して、日程調整をしてからご連絡します」と返答し、すぐに顧問税理士に連絡をしましょう。
顧問税理士がいない場合でも、税務調査から対応してくれる税理士もいるのですぐに税理士を捜すことが大切です。
税務調査の連絡がきたら、すぐに顧問税理士に連絡をしましょう。
実際に税務調査となると、会社の計算間違いや認識違いなど、細かい点を次々と指摘されます。税務署から受ける指摘は、適切な指摘であることももちろんありますが、全く見当違いな指摘であることもあります。
このような税務調査は、ひとりで対応しても限界があります。追加納税となることはあっても、「税金を納め過ぎていた」と指摘され、還付を受けるようなことは絶対にありません。
税理士に適切に対応してもらうことで、「何も問題はなかった」という結果に終わるケースも多々あります。
顧問税理士がいない場合には、税務調査から対応してくれる税理士をすぐに探しましょう。
税務調査の日程が決まったら、できるだけ事前に税理士と打ち合わせをします。まずやるべきことは、調査官に提示する書類やデータの整理です。
税務調査においては、税理士が作成した帳簿や申告書だけでなく、請求書や領収書、契約書などの資料もチェックされます。これらの資料は、税務調査ではかならずチェックされるものだと考え、事前に整理しておけば、税務調査がスムーズに進みます。
それに、資料やデータがすぐに提示できないようだと、「この人は資料の管理も雑だから、税金の計算も雑なのではないか」という心証を与えてしまいます。
逆に、提出を求められた資料をすぐに提示できれば、調査官の心証は確実によくなります。
以上、個人事業主の税務調査の傾向と注意点についてご紹介しました。
税務調査と聞くと、やましいことがなにもなく正しく帳簿づけをして申告をしている場合でも、何となく不安になってしまうものです。
「払う必要のない税金を、払わなければならなくなるのではないか」「調査中、本業がストップしてしまうのではないか」など心配は尽きないでしょう。
しかし、間違いだらけの申告書であったなどのケース以外であれば、税理士が対応してくれることでスムーズに進むケースがほとんどです。
しっかりと対処してくれる税理士がいれば、税務調査は決して怖いものではありません。
また、いつ来るか分からない税務調査に備えて、日頃からしっかり記帳を行い、申告納税をするためにも、早めに税理士と顧問契約を締結することをおすすめします。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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