公開日:2023年03月20日
最終更新日:2023年03月20日
黒字倒産とは、損益計算書上では黒字決算であるにもかかわらず、倒産してしまうことをいいます。
損益計算書上では損益が黒字であっても、資金不足の状態に陥り支払うべきお金を支払うことができなければ、企業は倒産してしまいます。
資金繰りは企業の生命線ともいうべきもので、資金が途絶えてからでは打つ手はほとんどなく、手遅れとなってしまうことが多いものです。したがって、黒字倒産の兆候はできるかぎり早めに把握し、必要な対策を迅速に講じることが非常に大切です。
会社は、支払うべきタイミングで支払うべきお金を払えなくなれば、倒産してしまいます。このような資金不足に陥った状態を「資金ショート」といいます。
損益計算書上の黒字・赤字は関係なく、資金ショートに陥れば、会社は倒産してしまいます。これを「黒字倒産」といいます。
このような黒字倒産は決して珍しいケースではありません。
2018年に東京商工リサーチが発表した調査データによれば、2017年(1-12月)の倒産企業のうち、ほぼ半数は最終決算で黒字を計上した黒字倒産でした。
参照:東京商工リサーチ「2017年「倒産企業の財務データ分析」調査」
自社の黒字倒産の兆候をつかむことが大切なのはもちろんですが、自社だけではなく取引先や投資先の黒字倒産の前兆をつかむことができなければ、ビジネスにおいて大きな損失を出すことになってしまいます。
つまり、企業を存続させていくうえでは、「黒字であるか赤字であるか」より資金繰りが極めて重要であるといえるのです。
黒字倒産の兆候は、損益計算書(PL)だけ見ていてもその兆候をつかむことはできません。
その理由は、利益と収支の食い違いにあります。
損益計算書において、利益は以下のように計算されます。
利益 = 収益 - 費用 |
一方、キャッシュの出入りはそれぞれ収入と支出といい、その差額である収支は、以下のように計算されます。
収支 = 収入 - 支出 |
そして、キャッシュをもらったときに収益を計上するわけではなく、キャッシュを支払ったときに費用を計上するわけではありませんから、収益は収入とイコールではなく、費用と支出はイコールではありません。
収入 ≠ 収益 費用 ≠ 支出 |
つまり、利益が計上されているからといって、実際にキャッシュがあるとは限らないということです。
このように利益と収支に食い違いが生じる原因はいくつかありますが、最大の原因は発生主義です。
発生主義とは、「会計上の収益と費用は、キャッシュの収支ではなく、その事実の発生に基づき計上する」というもので、発生主義における収益と費用の計上は、キャッシュの動きとは関係ありません。
発生主義は、ツケがきく飲み屋をイメージすると分かりやすくなります。
お客さんが「ツケといて」といって飲み屋を出た場合、まだ飲み屋に現金は入ってきていません。しかし、飲み屋からすれば商品やサービスはすでに提供していますから、売上を計上します。これが、発生主義です。
多くの企業活動は、このようなツケによる信用取引がベースになっており、損益計算書上の金額は、発生主義に基づいて取引を記録しているため、実際のキャッシュの増減を表しておらず、収益や費用の動きは連動していないのです。
そこで、損益計算書上の利益が黒字でも、損益計算書からはキャッシュの動きは何もわからず、その結果、気づいたらキャッシュが不足してしまい、黒字倒産してしまうというわけです。
損益計算書や貸借対照表では、黒字倒産を見抜くことは難しいですが、キャッシュ・フロー計算書(CF)を見れば、キャッシュの動きをつかむことができ、黒字倒産の兆候を見抜くことができます。
キャッシュ・フロー計算書とは、その名前のとおりキャッシュの動きを表示するもので、このキャッシュには、現金の他すべて換金できる普通預金、当座預金、満期までの期間が3カ月以内の定期預金などが含まれます。
キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間におけるキャッシュの変化をあらわすものであり、スタートは期首におけるキャッシュ残高、ゴールは期末時点のキャッシュ残高が表示されます。
そして、キャッシュの増減理由を「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの区分で表示します。
営業活動CF:通常の営業活動によるキャッシュの増減 投資活動CF:設備購入の支出や子会社への投資による支出など 財務活動CF:金融機関からの借入やそれらの返済による支払いなど |
つまり、キャッシュ・フロー計算書は、企業が営業活動を通じてどれだけの資金を獲得し、このうちどれだけを投資活動に振り分け、または借入により資金調達を行い、または返済したかなどを表す決算書ということです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、本業によるキャッシュ・フローですから、これはプラスであることが基本です。もし、営業キャッシュ・フローがマイナスであれば、営業活動がうまくいっておらず経営状態は厳しいということになります。
投資活動によるキャッシュ・フローは、企業の事業を維持するために投じるマイナスのキャッシュ・フローです。投資キャッシュ・フローは、営業キャッシュ・フローの中から投資を行うことが理想です。
財務活動によるキャッシュ・フローは、資金調達に関するキャッシュ・フローです。財務キャッシュ・フローは、営業活動や投資活動を支えるために、どのような資金を調達し返済したかを示します。
優良な経営状態であれば、営業キャッシュ・フローがプラス、投資・財務キャッシュ・フローはマイナスになります。なぜなら、本業で稼いだお金を設備投資や返済に回しているということになるからです。
また、営業・投資キャッシュ・フローがプラスで、財務キャッシュ・フローがマイナスであれば、リスクのある投資を避けて、本業と返済に資金を回していることになり、堅実な会社といえます。
一方、営業キャッシュ・フローがマイナス、投資・財務キャッシュ・フローがプラスの会社は、経営面で厳しい状況であり、本業の赤字を投資と財務で補っていることになります。とくに財務キャッシュ・フローの比率が大きい場合には、借入に依存していることになります。
営業活動CF | 投資活動CF | 財務活動CF | 判断 |
---|---|---|---|
プラス | マイナス | マイナス | →優良な経営状態 (本業で稼いだお金を設備投資や返済に回している) |
プラス | マイナス | プラス | →及第点 (借入で設備投資を行っているが、本業で稼げている) |
プラス | プラス | マイナス | →堅実な経営体質 (リスクのある投資を避けて、本業と返済に資金を回している) |
プラス | プラス | プラス | →堅実な経営体質 (借入があるが、本業で稼げている) |
マイナス | プラス | プラス | →危険 (本業の赤字を投資と財務で補っている) |
マイナス | マイナス | プラス | →危険 (新規事業に投資しているが、本業で稼げておらず、借入に依存している) |
マイナス | プラス | マイナス | →危険 (もう銀行がお金を貸してくれず、資産の切り売りをしている) |
マイナス | プラスマイナスゼロ | マイナス | →倒産寸前 (返済にも迫られ、売る資産もない状態。現金がなくなれば倒産) |
下記は、黒字倒産したA社の営業活動キャッシュ・フローを要約したものです。
科目 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | |
営業活動によるキャッシュ・フロー | |||
税金等調整前当期純利益 | 11,070 | ||
減価償却費 | 155 | ||
・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | |
売上債権の増減(マイナスが増加) | 140 | -12 | |
前受金の増減額(マイナスは減少) | -226 | 2,072 | |
棚卸資産の増減(マイナスが増加) | -49,494 | -29,671 | |
仕入債務の増減(マイナスが増加) | 4,710 | -75 | |
・・・・・ | ・・・・・ | ・・・・・ | |
営業活動によるキャッシュ・フロー | -36,875 | -16,118 |
上記のケースで見ると、棚卸資産の増減の額が大きく目立ちます。2020年には「-49,494」、2021年には「-29,671」となっており、棚卸資産が増加していることが分かります。そして、営業活動CFがマイナスになっている理由として、棚卸資産を仕入れるために多額の現金が必要になり、結果的にキャッシュが不足して黒字倒産したと考えられます。
黒字倒産が起こる理由は、実はとても単純です。
損益計算書上の損益が黒字でも、資金ショートが起これば会社は倒産してしまいます。そして、資金ショートを起こす主な原因が、①棚卸資産の積み上がり(滞留在庫)、②売上債権が回収できない、③無理な投資の3つです。
黒字倒産の最大の原因が、滞留在庫です。
在庫は、キャッシュという資産を商品や材料といった資産に交換したものといえ、販売して始めて売上原価となり費用となります。しかし、売れることを見越して仕入れた在庫が倉庫内で眠っていては、キャッシュを寝かせているのと同じです。仕入代金は先に出て行ってしまいますので、売上高が確定して入金がない限り、キャッシュ・フローはマイナスとなります。
売れるまでに時間がかかる在庫であればあるほど、キャッシュ・フローは悪化し、事業に影響を及ぼし、致命的な問題となる可能性があります。
そこで、在庫が適正かどうかを判断するために、回転期間に注目します。
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 / 月商 |
従来に比べて回転期間が長くなっている場合には、不良在庫や滞留在庫などのリスクがあります。
一般的には、商品を引き渡した時点で売上を計上します。つまり、実際に代金を回収するのは、売上を計上した後です。そして、商品の販売やサービスの提供を行ったものの、まだ入金がされていないものを「売掛金」といいます。
そして、売掛金などの売上債権を回収できなければ、それは大きな痛手となり、最悪の場合には倒産することもあります。
いくら高い利益を乗せた商品であっても、売上債権を回収できなければ、その利益は「絵に描いた餅」です。
売上債権が、長期にわたって回収遅れになっているかどうかは、売掛金エイジングリストを締め日ごとに作成するなどして、チェックすることが大切です。
入金遅れがある場合には、担当者にすぐに連絡をして事情を確認するなど、迅速な対応もあわせて求められます。
設備投資をすると、多額のキャッシュ・アウトが起こります。
前向きな投資をしているならば、投資活動キャッシュ・フローはマイナスとなり、不要な資産の売却など資産構造を見直している場合は、投資活動キャッシュ・フローがプラスになることもあります。
安定的にキャッシュが循環していれば、前向きな投資は事業を成長させるために必要となることがありますが、それはあくまで本業で安定的なキャッシュを稼げていて、投資を営業キャッシュ・フローで賄えていることが前提です。
本業で稼げていないのに借入などをして無理な投資を行うと、当然キャッシュ・フローは悪化します。
投資を行う際には、本業でキャッシュを生み出し、それを将来のキャッシュを生む出すための投資に振り向けることを意識することが必要です。
黒字倒産は、損益計算書を見ていても分かりません。損益計算書上の数字は好調に見えていても、倒産してしまうケースは多々あります。
したがって、黒字倒産の兆候を見抜くためには、キャッシュ・フロー計算書をチェックする必要があり、場合によっては従業員数の推移など、財務諸表以外の数字も活用しなければならないこともあります。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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