公開日:2019年04月04日
最終更新日:2022年07月13日
36協定とは、1日8時間、週40時間を超えて労働者をはたらかせる場合に必要な労使協定です。
36協定を締結せずに残業や休日出勤をさせると違法となり、労基署によって立入検査を受けたり処罰されたりする可能性もあるので、注意が必要です。
ここでは、36協定を締結するのに必要な手続きや定めるべき事項、どのようなケースで36協定が必要になるかについて確認しましょう。
36協定(サブロクきょうてい)とは、労働基準法36条に規定されている「時間外・休日労働に関する協定届」のことです。
労働基準法36条では、会社が従業員に時間外労働をしてもらいたい時には、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表者と、書面で延長できる時間を定めて「労使協定」を締結し、行政官庁(所轄の労働基準監督署)へ届け出る必要があると規定しています。
この協定を「時間外労働・休日労働に関する協定」といい、労働基準法36条に規定されていていることから、「36協定(サブロクきょうてい)」と呼ばれています。
36協定は、雇用者が従業員に時間外労働をさせるために必要な協定です。
労働基準法32条では、労働者が働いても良いとする基準の労働時間を定めていて、基本的には1日8時間、1週間に40時間を上限としています。これを「法定労働時間」と言います。また、休日は1週間に1回以上与えなければなりません。これを「法定休日」と言います。
この法定労働時間より長く働かせたり休日に働かせたりすることも可能ですが、その場合に必要なのが36協定ということになります。
雇用者側は、労働組合または労働者の過半数を代表する代表者との間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
また、労働基準法15条では、会社は労働契約を締結する際に、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと規定しています。
ここで明示しなければならない労働条件には「所定労働時間を超える労働条件の有無があるか」も含まれています。
さらに、個別の労働契約だけではなく、就業規則などでも同様に「所定労働時間を超えて労働させる場合がある」と規定しなければなりません。そして、それを労働者に周知していれば就業規則の規定が有効ということになります。
36協定を締結せずに労働者に時間外労働をさせたり休日労働をさせたりすると、労働基準法違反となり、雇用者には罰則が適用されます。刑罰の内容は、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑です。
なお、36協定はあくまでも「時間外労働をさせるために必要な協定」であって、36協定があるからといって、労働者は残業や休日労働を命令されれば必ずその命令に従わなければならないというわけではありません。また、36協定を締結しても残業代の支払いは必要ですし、36協定がなくても支払う必要があります(小島撚糸事件 最判昭和35年7月14日)。
残業代を支払わないのは労働基準法違反となり、その場合にはやはり罰則の対象となります。時間外労働には25%、休日労働には35%の割増賃金の支払いが必要です。
36協定は「事業所単位」で届け出ることが必要です。1つの会社で複数の支店や事業所がある場合には、それぞれの事業所において「36協定」を締結し、それぞれの事業所を管轄する労働基準監督署へと提出しなければなりません。
「本社で既に協定を提出しているから大丈夫」などと考えていると、違法となってしまいますので、注意しましょう。
36協定を締結しても、それで労働者を際限なく労働させることができるわけではありません。残業には以下のとおり限度時間が設けられていています。
残業の限度時間 月間45時間、年間360時間 特別条項がある場合 |
残業には限度時間がありますが、以下のようなケースで、やむを得ずどうしても限度時間を超えて時間外労働をしなければならないことがあります。
①予算、決算業務 ②ボーナス商戦に伴う業務の繁忙 ③納期のひっ迫 ④大規模なクレーム対応 ⑤機械トラブルなどの対応 |
上記のようなケースにおいては、その残業が臨時的なものであれば、「特別条項付き36協定」を締結することで、合法的に残業を行うことができます。
特別条項付き36協定は、残業の限度時間を超えて残業を行わなければいけない場合の事情、限度時間を超えて残業をさせる手続き方法、あらかじめ決めた限度時間を超えた場合の残業の限度時間、限度時間を超えることができる回数などを定める必要があります。
36協定を締結するためには、「時間外労働」や「休日労働」、「割増賃金」の内容をおさえておく必要があります。そこでまず、それぞれに規定されている内容について正確に理解しておきましょう。
法定労働時間 法定労働時間とは、労働基準法が定める「限度となる労働時間」です。 基本的には「1日8時間、1週間に40時間」が法定労働時間の限度となっています。 ただし労働時間管理の例外である「変形労働時間制」の場合には、1日あたりの労働時間の制限をせず、1カ月や1年などの単位で労働時間を計算します。 たとえば28日なら160時間、1年365日なら2085.7時間などとなります。 変形労働時間制とは、1日単位、1週間単位で労働時間の上限を設定するのではなく、一定期間を平均して週法定労働時間である40時間が上限となればよいという考え方の制度です。「1週間」「1カ月」「1カ月超から1年までの期間」の3種類があります。 業務の繁閑に合わせて1日の所定労働時間の長さを設定することが可能となります。 |
所定労働時間 労働時間には前述した「法定労働時間」と「所定労働時間」があります。 所定労働時間とは、雇用者と被用者との労働契約によって定まる労働時間です。 たとえば、就業規則や労働契約で「昼食休憩の12時00分~13時00分を除く10時00分~17時00分までを勤務時間とする」というように規定されているのが所定労働時間です。 ※前述した法定労働時間は、労働基準法が定めた「1週で40時間、1日に8時間」という、労働基準法で規定されている労働時間の限度のことをいいます。 所定労働時間を超えて働いた場合の残業代については、就業規則で「所定労働時間を超えた場合は、割増賃金を支払う」と規定している場合には、社内的には残業代が発生します。 ただし、所定労働時間を超えて残業させる場合でも、法定労働時間以内の残業であれば、36協定の締結は不要ですし、割増の賃金も発生しません。 |
割増賃金 「割増賃金」とは、法定労働時間を超えて従業員を働かせたり休日出勤をさせたり深夜の時間に労働させたりするときに支払うことが必要な賃金です。 労働基準法37条では、法定労働時間を超えて労働させた場合の時間外労働、休日労働、深夜労働について、割増賃金の支払いが必要と規定されています。 割増率は、以下のように規定されています。 通常の時間外労働…1カ月60時間まで1.25倍、60時間超は、1.5倍 深夜労働…1.25倍 休日労働…1.35倍 |
36協定を締結する時には、まずは「労働組合」または「労働者の過半数を代表する代表者」と話し合う必要があります。
そして、その話合いによって時間外労働をさせる場合や残業させる時間、残業させる労働者などの必要事項を取り決めて、合意ができたら36協定の協定書を作成します。
その上で協定書を労働基準監督署に提出し、受け付けてもらうことによって、初めて従業員に時間外労働や休日労働をさせられるようになります。
なお、36協定では時間外労働をさせる必要のある具体的な理由や、業務の種類、残業させる必要のある労働者の数について協定し記載するのはもちろん、1日について延長できる時間などについても協定して、記載する必要があります。
36協定では、業務の種類、時間外労働をさせる必要がある具体的な理由、休日労働をさせる必要がある具体的な理由、労働者数、所定労働時間などを記載させる必要があります。
残業はあくまで「例外的」であるべきなので、残業をさせるためには、残業をさせる必要があるとする具体的な理由を明確にしなければなりませんし、その際にも業務の種類を細分化したり業務の範囲を明確に記載したりする必要があります。
※令和3年4月から、36協定の届け出様式が改正されました。
使用者の押印欄が削除され、労働者代表についてのチェックボックスが新設されています。
参照:厚生労働省「2021年4月~36協定届が新しくなります」
時間外または休日労働の具体的理由 36協定には、時間外労働や休日労働が必要になる具体的な理由を記載する必要があります。 たとえば「臨時の受注や納期変更など」、「機械や設備の修繕、据付けのため」、「人員不足への対応」、「販売やクレーム処理などのため」、「月末月初の決算事務に対応するため」など、法定労働時間外に労働する必要がある、具体的な事情を書きましょう。 |
時間外労働させる業務の種類 どのような業務について時間外労働をさせるのかも明らかにする必要があります。 たとえば営業、経理、工場での作業労働など具体的に記載します。 |
時間外労働させる労働者の種類と人数 時間外労働が適用される労働者の種類も定める必要があります。 営業職、事務職、作業員などと特定して、対象となる労働者の人数も明記します。 |
延長することができる時間1日8時間を超える基準) 36協定を締結する時には、「1日」「1日を超える3カ月以内の機関」「1年間」の3つの「延長することができる時間」(限度となる労働時間)を定める必要があります。 36協定を締結したとしても、労働時間には上限があり、どれだけ働かせても良い、というものではないからです。 「延長することができる時間」を定める場合には、「1日」、「1日を超え3カ月以内の期間」と「1年間」につき、協定が必要です。(フレックスタイム制、変形労働時間制の場合には1日あたりの労働時間についての協定は不要です) 36協定の延長時間(時間外労働に相当する時間)は ③の延長時間については、限度時間以内としなければならないとされています。 1カ月の時間外労働時間については、基本的に45時間を超えることができません。 上記の労働時間を超えるためには、36協定の「特別条項」の設定が必要となります。特別条項とは、特に時間外労働を必要とする事情がある場合において、上記の基準を超えて時間外労働をさせることができるという条項です。 一方、以下のような労働者には36協定の限度時間が適用されません。 参照:大阪労働局「労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」 さらに休日労働をさせる場合には「労働させることができる休日」を明らかにする必要があります。 |
有効期間 36協定を締結するときには、「有効期間」を定める必要があります。 法律では、有効期間についての制限がありませんが、実際には会社や労働者の状況は刻々と変化するものであることから、時期に応じた対応が必要であるとされ、期間を1年とすることを推奨されています。 大半の企業の事例でも、36協定の有効期間を1年として毎年内容を見直しているので、1年ごとに見直す運用を行うのがおすすめです。 なお、もちろん1年未満の期間において自主的に36協定の内容を見直しても、問題はありません。 |
ここまでは、36協定の概念や知っておくべき時間外労働・休日労働・割増賃金の基礎知識についてご紹介してきました。
これまで述べてきたように、36協定は、基本的に「1日8時間、1週間に40時間」という法定労働時間を超えて労働をさせる時に必要です。
ここでは、36協定に関してよくあるご質問についてご紹介します。
労働基準法では、必ず週1回以上は休日を与えなければならない(法定休日)を定める必要があると規定されています。
休日には法律で規定されている「法定休日」と会社で任意に定める「所定休日」があります。
法定休日…法定で与えなければならない休日
所定休日…会社が定めた休日
会社は、この法定休日に労働させる場合にも、36協定が必要となります。
会社としては、法定休日を与えていればそれ以外の休日を与える必要はありませんが、「1日8時間、1週40時間」を守るためには、結果的に週2日の休日を与えざるを得ないことになっています。
フレックス制とは、1カ月以内の一定期間(清算期間)として、その枠内で各日の始業及び終業の時刻を労働者が自主的に決定し働く制度のことをいいます。
フレックス制の場合も、「28日間で40時間」を超えて労働させる場合には、36協定が必要です。
※なお、フレックスタイム制の清算期間については、2019年から清算期間の上限が法改正により1カ月から3カ月に延長されました。
参照:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
参照:労働政策審議会「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」
1年単位で変形労働時間制を採用しているときには、1年単位で法定労働時間を計算し、その法定労働時間を超えて働かせる場合に36協定が必要です。
365日であれば2085.7時間、366日のうるう年であれば2091.4時間が基準となります。
裁量労働制が採用されている場合には、個別に時間外労働を計算しません。
ただし裁量労働制でも「みなし労働時間」が定められており、そのみなし労働時間を超えて働く場合には時間外労働となるので、36協定の締結が必要です。
たとえば、裁量労働制で、1日のみなし労働時間が8時間とした場合、9時間働かせると1時間の残業をさせることになるので36協定を締結する必要があります。
以上、36協定の意味、必要な手続き、記載事例などについてご紹介しました。
自社の労働者に時間外労働や休日労働をさせるときには、基本的に36協定の締結と労基署への届出が必要です。
手続きを怠っていると行政指導や罰則が適用されるおそれがあるので、労働組合などと話合い、適切に手続きをとっておきましょう。
協定の方法や書き方がわからない場合などには、社労士に相談しサポートを受けるようにしましょう。
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監修:「クラウドfreee人事労務」
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