時間外労働の上限規制|原則は月45時間・年360時間

公開日:2019年07月03日
最終更新日:2022年07月09日

この記事のポイント

  • 残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間。
  • 特別の事情があり、労使が合意する場合でも月平均80時間以内。
  • 特別の事情があり、労使が合意する場合でも年720時間以内。

 

「時間外労働」とは1日8時間を超える分の残業で、法律上割増賃金を支払う必要がある時間外労働時間のことをいいます。

割増賃金の割増率は時間帯ごとに定められていて、それを下回ると労働基準法違反になります。時間外労働については、働き方改革(2019年から施行)で残業時間の上限を、原則として月45時間・年360時間としました。

時間外労働とは

時間外労働とは、法律で定める労働時間(1週間に40時間、1日8時間)を超えた時間外労働のことです。月80時間は、1日当たり4時間程度の残業に相当します。
この法定労働時間を超えて労働をさせた場合は、時間外労働となり割増賃金の対象になります。

(1)時間外労働の上限規制

これまで、時間外労働について制限はありませんでしたが、働き方改革法案で労働基準法が改正されたことで、残業時間の上限を定められ、これを超える残業はできなくなります。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、下記を超えることはできません。

・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)

これまで、前述した36協定で定める時間外労働については、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を締結すれば、限度時間を超える時間まで時間外労働を行わせることが可能でした。

しかし、働き方改革法案によって残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできなくなりました。

また、臨時的で特別な事情がある場合でも、時間外労働時間は年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する必要があります。そして、この上限時間に対する違反は、特定の場合を除いて罰則が課せられることになりました。

なお、働き方改革法とは働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会の実現を目指して労働基準法や安全衛生法の一部の条文を改正し、2019年4月1日から順次施行される改革法です。

労働時間に関連する主な改正内容は、以下のとおりです。

① 時間外労働時間の上限規制
② 月60時間超の割増賃金率を中小企業にも適用
③ 年次有給休暇の取得時期の指定義務
④ フレックスタイム制の見直し
⑤ 企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し
⑥ 高度プロフェッショナル制度の見直し

(2)時間外労働に必要な「36協定」

法定労働時間を超えて労働させる可能性がある事業所は、すべて「36協定」の締結と提出が必要です。
たとえば、1日の法定労働時間は8時間なので、この時間を超えて労働させることがある場合には、36協定の締結と提出が必要となります。

平成31年4月1日より、36協定届等が新しくなり、使用者の押印および署名が不要となりました。
厚生労働省の作成支援ツールに労働者代表と使用者の合意のうえ締結された労使協定の内容を入力することで、簡単に作成することができます。作成した36協定は、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

参照:厚生労働省鹿児島労働局「作成支援ツール(36協定届、1年単位の変形労働時間制に関する書面)について」

▶ 36協定とは|条件・必要な手続き【記載事例付き】・よくあるQ&A

(3)時間外労働に必要な割増賃金

法定労働時間を超えて労働をさせた場合は、時間外労働となり割増賃金の対象になります。
割増率は、時間外労働で1カ月60時間までが1.25倍、60時間超が1.5倍(一部の中小企業については適用猶予)休日労働については1.35倍、深夜労働は、1.25倍と規定されています。

労働の種類 賃金割増率
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) 1.25倍
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)
※適用猶予の場合あり
※代替休暇取得の場合は1.25倍の割増なし
1.5倍
深夜労働
(午後10時から午前5時までに労働した場合)
1.25倍
休日労働(法定休日に労働した場合) 1.35倍
時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 1.5倍
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)+深夜労働 1.75倍
休日労働+深夜労働 1.6倍

上記は、2023年から中小企業にも適用される予定です。
中小企業の範囲については、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが以下の基準を満たしていれば、中小企業に該当すると判断されます。なお、事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。

参照:厚生労働省「働き方改革関連法のポイント」

労働時間管理のための基礎知識

使用者(会社など)は、従業員の労働時間を把握する責務がありますので、必ず労働時間の管理を行う必要があります。
管理が必要な労働者は、労働基準法第41条に定める者、および「みなし労働時間制」が適用される労働者をのぞくすべての労働者です。
厚生労働省では、平成29年(2017年)に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を改定しました。
このガイドラインでは、「使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること」「適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならない」などが規定されています。

参照:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

(1)法定労働時間と所定労働時間

時間外労働は、大きく分けて「法定時間外労働」と「所定時間外労働」の2種類あります。このうち法律上残業代を支払うべきとされているのは、法定労働時間外の労働です。

法定時間外労働(法定の残業)
法律で定める労働時間(1週間に40時間、1日8時間)を超えた時間外労働のことです。

所定時間外労働(法内の残業)
契約や就業規則で定められた労働時間を超えてはいるが、法律で定める労働時間(1週間に40時間、1日8時間)は超えてはいない残業のことです。
所定時間外労働は、法定労働時間を超えていないので、原則として割増した残業代を支払う義務はありません。ただし、就業規則などで「所定時間外労働について割増した残業代を支払う」と規定されている場合などは、残業代を支払う義務は生じます。

(2)年次有給休暇の取得が義務化

労働時間を適切に管理するうえでは、年次有給休暇の取得が義務化されたことも知っておく必要があります。
年次有給休暇について、これまで労働者が自ら申し出なければ取得することができませんでしたが、労働者の希望を踏まえて時期を指定し、年5日の有給休暇を取得させなければならなくなりました。

まとめ

働き方改革法案では、時間外労働の上限規制以外にも36協定の記述や労働時間の管理方法等の労務管理法が大きく変わりました。また、適正に対応しないと罰則規定も設けられたことから、早急な対応が必要です。
しかし、依然として「平日の残業が減ったが、休日出勤が増加した」「適切な就業規則の作成方法が分からない」といった声も多く聞かれます。

法改正の概要や必要な対策については、社会保険労務士にアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。

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