事業承継の税金|経営者や後継者の税金は?対策方法は?

公開日:2019年11月12日
最終更新日:2022年05月18日

この記事のポイント

  • 事業承継の際は、相続税、所得税、贈与税などさまざまな税金がかかる。
  • 事業承継の際は、事前の税金対策が不可欠である。
  • 事業承継の方法によって、税金は大きく変わる。

 

事業承継は、相続税や所得税などの税負担の発生を伴います。
そして、この税負担を考慮しないまま事業承継を進めると、予想外の税負担の発生によって、円滑な事業承継が妨げられてしまうこともあります。
事業承継を考えるうえでは税金対策の問題は避けては通ることができませんので、事前の税金対策が不可欠です。

事業承継の税金

事業承継の際の税負担は、その承継方法によって大きく変わります。
とくに中小企業の場合には、自社株式の株価を算出したところ、大幅に評価額が上がり予想以上の納税額となる可能性があります。したがって、事業承継の計画においてはまずは自社株式の評価額を算出して納税額の目安を立て、その納税資金の確保を計画中に入れる必要があります。

(1)売買による事業承継の税金

売買による事業承継が行われた場合には、財産などを売却したときに生じる譲渡益に対して、現経営者に所得税が課税されます。

所得は、給与所得、不動産所得、雑所得など10種類ありますが、株式の譲渡益は「譲渡所得」に分類されます。また、他の所得と通算されない「分離課税」となります。

「分離課税」とは、特定の所得について他の所得とは合計しないで、それだけに独自の税率をかけて税額を計算する方法です。
株式譲渡による譲渡所得は、一度に多額の所得を発生させるので、総合課税にすると税負担が著しく重くなってしまいます。こうした突然発生した所得の負担を緩和するために、特別に分離課税が設けられているのです。

たとえば、自社株式や事業用の不動産など、価格が変動する財産について、これらの財産を売却することで譲渡益が発生した場合には、現経営者の譲渡所得となり所得税がかかることがあります。
譲渡所得の内容は、譲渡される財産の種類によって異なりますが、株式の場合には、以下の計算式によって計算されます。

株式の譲渡所得税額={売却価格-(取得費+売却にかかる手数料)}×税率

(2)生前贈与による事業承継の税金

生前贈与によって事業承継が行われた場合には、贈与の際に後継者に贈与税が課税されます。
贈与税とは、贈与によって財産を取得した時に、その取得した財産についてかかる税金です。
贈与税は、以下の計算式で計算します。

贈与税額=(贈与価格-基礎控除額)×税率-控除額
※基礎控除額は、毎年110万円です。

(3)相続による事業承継の税金

相続によって事業承継が行われた場合には、相続の際に相続人(後継者)に相続税が課税されます。
相続税とは、人が亡くなったことによって財産が移転する時に、その財産について課される税金です。
相続税は、贈与税の場合より大きな基礎控除額が認められますが、現経営者が所有していたほとんどすべての財産が事業承継の対象となるため、納税額がきわめて高額になることがあります。

したがって、生前に相続時精算課税制度などを利用するなど、節税対策を講じることが大切です。

▶ 相続時精算課税制度|計算方法、必要書類、メリットをわかりやすく

事業承継の税金対策

事業承継の際には、後継者が税負担に耐えられず事業承継が失敗してしまうことがあります。したがって、後継者のための納税資金の確保については、十分な検討が必要です。

(1)後継者のための納税資金の確保

事業承継においては、後継者が十分な納税資金を確保できず、事業承継がスムーズに進まないケースがあります。したがって、税負担を軽減させるための対策とともに、十分な納税資金を準備することが大切です。これは一朝一夕で実現できる対策ではありませんから、可能な限り早い段階から計画的に対策を実施していくことが重要です。

事業承継の際に発生する税負担は、主に承継対象財産の評価額によって決まります。
したがって、まずは財産の評価額を下げることを検討します。その代表は自社株式です。
そして、後継者には事業承継に備えて計画的な貯蓄を実施してもらい、現預金などは計画的に後継者に贈与していくことも必要です。

(2)退職金を活用した節税対策

中小企業の場合には、株価は会社の純資産の価格をもとに計算されます。したがって、会社の純資産を減らせば、その分株価を下げることができます。
しかし、会社財産の流出によって純資産を減少させてしまっては、事業の継続自体に影響が出るリスクがあります。そこで、会社または現経営者の手元に財産を確保しながら会社に損失を計上することを考えます。たとえば、役員退職金の設定です。

ただし、退職金額が過大である時には、税務署から「不当に過大だ」とみなされてしまうことがあります。

役員退職金の額をいくらに設定するのが適切なのかについては、あらかじめ税理士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。

(3)養子縁組による節税対策

相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」です。
つまり、法定相続人の人数が多くなれば、その分基礎控除額が増加して相続税負担が減少します。そこで、養子縁組を行って法定相続人を増やして、相続税を節税する方法があります。
ただし、養子縁組を行うと言うことは、それだけ相続発生時に理解関係人が増えるということでもあります。したがって、相続トラブルを起こさないように注意が必要です。
この方法が有効なのは、たとえば現経営者の孫が後継者で、現経営者の子(後継者の親)も孫を後継者とすることに賛成しているような場合です。
このようなケースであれば、現経営者と後継者である孫が養子縁組を行うことについて、他の相続人の理解も得やすいでしょう。

(4)納税猶予制度の活用

事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

①非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度
都道府県知事の認定を受けた非上場中小企業の株式等の贈与又は相続等に係る贈与税・相続税の納税を猶予又は免除

②個人の事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予制度
都道府県知事の認定を受けた個人事業主の事業用資産の贈与又は相続等に係る贈与税・相続税の納税を猶予又は免除

事業承継税制では、親族外承継も納税猶予制度の対象となったり、雇用8割維持要件が緩和されたりするなど、さまざまな改正がなされ、利用しやすくなっています。ただし、「都道府県知事の認定」「税務署への申告」「特例承継計画の策定(2024年3月31日まで提出可能)」など、煩雑な手続が必要となりますので、早めに税理士等の専門家に相談することをおすすめします。

参照:中小企業庁「-経営承継円滑化法申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度の特例】令和4年4月改訂版」

(5)特別融資の活用

中小企業の場合には、自社株式が分散していたり、事業用資産が個人名義であったりすることがあり、相続が起こると会社の経営が混乱するケースがあります。
そこで、このような場合には会社が自社株式や事業用資産を取得するための資金については、日本政策金融公庫で貸付制度を利用することができます。
貸付限度は、中小企業事業としては7億2,000万円、国民生活事業としては、7,200万円です。
金利は、事業を承継する人の負担を軽減するための特別利率が設けられています。

参照:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」

まとめ

以上、事業承継の際にかかる税金や税金対策についてご紹介しました。
事業承継の税金は、承継方法によって大きく異なりますが、養子縁組や退職金の活用、納税猶予制度の活用などを検討すれば、税負担を軽減することができスムーズな事業承継を実現することができます。

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