公開日:2023年12月21日
最終更新日:2023年12月21日
マイクロ法人とは、一人で会社を設立し、社長一人で経営している法人のことです。つまり、社長しかいない社員ゼロの会社です。
つまり、マイクロ法人は、ミニマムな形態の会社といえます。
個人事業主がマイクロ法人を設立する場合の最大のメリットは、節税とよく言われますが、マイクロ法人のメリットは節税だけではありません。
また、事業の内容によっては、マイクロ法人を設立せず個人事業主のまま事業を行った方が節税になる場合もあります。
この記事では、マイクロ法人のメリット・デメリット、個人事業主がマイクロ法人を設立するタイミング、マイクロ法人を設立するための基礎知識などについてご紹介します。
マイクロ法人とは、「マイクロ」が意味するとおり「小規模な法人」という意味です。
一般的には、一人で会社を設立し社長一人で経営をしている法人を意味します。
起業というと、「会社を大きく成長させていこう」と思いがちですが、最近は、はじめから成長を追い求めずに適度に利益を得ながら、それを維持していくという考え方でマイクロ法人を選択する人が増えています。
マイクロ法人とは、一人で会社を設立し一人で経営していく法人です。
一方、個人事業主とは、会社を設立せず個人事業主として事業を行います。
一人で独立開業するうえでの選択肢としては、まず個人事業主と法人のいずれの形態で行うかを選択することになります。
個人事業主の開業手続きは、税務署に開業届等を提出するだけで費用はかかりませんが、法人を設立するためには、登記費用などの費用がかかります。また、社長一人でも社会保険に加入義務があります。
個人事業主と法人は、一概にどちらが良いとは言えません。
最初から法人を設立した方がよいケースもありますし、個人事業主としてスタートして所得が増えてきてから法人成りをした方がよいケースもあります。
マイクロ法人で設立できる会社形態には、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社があります。
会社をつくると法人税などがかかりますが、会社の種類によって法人税額などに有利・不利はありません。どの会社形態を選択すべきかについては、個々の事業内容や状況によって異なります。
税金対策のために会社形態にしたいという場合は、合同会社の方が設立費用は安く済みますし、設立手続きも簡単です。
一方、対外的な信用力や体裁、資金調達の有利などを重視するのであれば、株式会社を選択する方がよいでしょう。
個人事業主と比較した場合のマイクロ法人をつくるメリットは、税金面の有利さです。
日本の税制は、所得が増えれば増えるほど税率が高くなる超累進税率を採用していますので、ある程度所得が増えたら、法人と個人で所得を分散した方が、税金が安くなります。
たとえば、個人事業とマイクロ法人で同じ所得を得たとします。
そして、マイクロ法人の所得をすべて役員給与として支払った場合、個人事業主が支払う税額よりも、マイクロ法人とその役員が支払う税額の方が安くなります。
一般的には、売上から経費を引いたあとの利益が500万円を超えるようであれば、法人を設立した方がトータルの税金が下がります。
また、資本金を1,000万円未満にすれば、消費税の納税義務が少なくとも1期免除されます(インボイス発行事業者とならない場合)し、欠損金を繰越できる期間が個人事業主の3年に対して10年となるなどのメリットもあります。
対外的なイメージを重視する場合には、設立費用がかかっても法人を設立した方が有利になります。取引先から「法人にしてくれないと、社内的な信用を得られない」と言われるケースは、今でも多いからです。
見ず知らずの第三者に商品やサービスを販売していくうえでも、「○○会社」とついていないと、営業しづらいといったことも考えられます。
マイクロ法人なら、オフィスを構えて従業員を雇い、決まった時間内に働いてもらう必要はありません。
仕事を依頼し期限までに正確に納品してもらえる外注先がいれば、正社員は必要ないからです。
従業員がいなければ、事務所や人件費などの固定費を抑えることができます。
自分や家族の生活を送るために必要なお金だけ得られればいいと割り切れば、事務所すら必要ないというケースも多いでしょう。
法人の規模が大きくなると、融資を受けなければならないケースが増えますが「借りたお金を返すために、売上を増やさなければならない→売上を増やすために人を増やさなければならない→その人が働くための場所を増やさなければならない」といったスパイラル状態に規模を大きくしていかざるを得なくなります。
マイクロ法人で、「初めからオフィスや従業員を必要としない経営」と割り切れば、一人で得意なこと、好きなことをずっとやっていける方が、経費はほとんどかからないのです。
マイクロ法人のメリットとしては、その自由度についても挙げることができます。
マイクロ法人では、社長一人が変わればいいだけなので、、事業の方向転換や調整が自由にできます。
新しい事業に変更したり、副業的に新しい事業を始めたりすることも自由にできます。
一方、事業の撤退といった障壁も低くなり、事業を辞めることについても縮小することについても自由度が増します。
オフィスが必要ないのであれば、住む場所も自由に変えることができます。住居費が安くて済む地方に住んで、必要に応じて出張するといった自由な生活を送ることもできます。
コロナ禍の影響もあり、業種によってはリモートワークがあたりまえになりましたが、マイクロ法人なら、リモートワークの場所さえも自分で自由に決めることができるのです。
会社には、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4つの種類があります。
合名会社、合資会社は、現在は設立例が少なく、一般的には株式会社、合同会社のいずれかを選択します。
株式会社、合同会社の違いは、株式会社の「株主」が合同会社の「社員」であり、株式会社の「取締役」が合同会社の「業務執行役員」、そして株式会社の「代表取締役」が合同会社の「代表社員」に該当するイメージです。
株式会社 | 合同会社 |
株主 | 社員 |
取締役 | 業務執行社員 |
代表取締役 | 代表社員 |
合同会社は、定款自治の余地が大きい、株式会社より設立費用が安いという特徴があり、合同会社を選択するケースが増えています。なお、株式会社と合同会社の法人税や消費税の取り扱いについては、違いはありません。
設立する会社の種類が決まったら、会社の商号や目的と言った重要事項を決めて定款を作成し(株式会社の場合は認証も必要)、法務局で登記申請を行います。
設立手続きの主な流れは、以下のとおりです。
①会社の重要事項(商号、住所など)を決める。 まず、会社の名称や事業の目的など、会社に関する重要事項を決めます。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ |
法人設立後は、税務署や都道府県税事務所、市町村役場に会社を設立したことについて届出を行います。そのほか、社会保険や労働保険の手続きが必要になります。
提出先 | 提出書類 | 提出期限 | 添付書類・備考 |
税務署 | 法人設立届出書 | 会社設立の日から2カ月以内 | 提出は必須 ・定款のコピー ・現物出資者名簿(現物出資した場合) |
給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所等の開設から1カ月以内 | 役員報酬や従業員への給与等を支払う場合には、会社は所得税を給与等から天引きし納付しなければなりません。この給与支払事務所等の開設届出書を税務署に提出すると、税務署は給与等の支払いが行われることを把握し、納付用紙が会社に郵送されます。 法人設立時点で、いつから役員報酬や給与等の支払いをするかすでに決まっているのであれば、法人設立届出書と一緒に提出する方がよいでしょう。 |
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源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 納期の特例を受ける日の初日の前日まで (給与支払事務所等の開設届出書と同時に提出がおすすめ) |
源泉徴収した所得税は、原則として支給日の翌月10日までに納付しなければなりません。ただし、毎月の納付手続きは手間がかかります。そこで、役員や従業員の合計人数が常に10人未満であれば、まとめて納付できる特例があります。この特例を受けたい場合に提出が必要となります。 | |
青色申告の承認申請書 | 設立から3カ月以内 | 青色申告とは、一定の要件を満たすことを条件として、法人税の計算上各種優遇措置を受けることができる制度です。青色申告には、さまざまな優遇措置が設けられていますから、青色申告をした方が得です。実際、ほとんどの法人が青色申告制度を利用しています。 | |
減価償却資産の償却方法の届出書 | 最初の事業年度の確定申告の提出期限 | この届出書を提出しない場合には、減価償却の方法が自動的に定率法を選択したことになります。ただし、建物や無形固定資産については、定額法で償却しなければなりませんので注意が必要です。 | |
棚卸資産の評価方法の届出書 | 最初の事業年度の確定申告の提出期限 | この届出書を提出しない場合には、棚卸資産の評価方法について、自動的に最終仕入原価法を選択したことになります。 | |
消費税課税事業者選択届出書 | 設立第1期の終了日まで | 設立時の資本金が1,000万円未満の場合には、通常、設立1期目は消費税免税事業者となり、消費税の納税義務が発生しません。ただし、消費税免税事業者となることが不利になることもありますし、インボイス制度も始まります。あえて課税事業者を選択する方が有利なこともあります。その場合には消費税課税事業者選択届出書が必要です。 | |
消費税簡易課税制度選択届出書 | 設立第1期の終了日まで | 課税事業者を選択した場合や、会社設立時の資本金が1,000万円以上の場合には、消費税の納税義務がありますが、消費税の納税額を計算するには非常に手間がかかります。そこで、計算を簡略化する「簡易課税制度」という制度が設けられています。そして、簡易課税制度の適用を受けるためには、最初の事業年度終了時までに消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要です。 ただし、実際に計算してみたら、簡易課税制度ではない方が消費税の納付額が少なかったという場合もありますので、事前に税理士に相談し、慎重に検討することをおすすめします。 |
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都道府県税事務所 | 法人設立届出書 (名称は自治体により異なる) |
都道府県や市町村は、この届出書をもとに事業税や法人住民税に関する事務を行います。東京23区が本店所在地となっている場合には、窓口が東京都なので、区役所への提出は不要で都税事務所にのみ提出すればOKです。 | ・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 |
市区町村 (東京23区は不要) |
法人設立届出書 (名称は自治体により異なる) |
・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 |
提出先 | 提出書類 | 提出期限 | 添付書類・備考 |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 設立から5日以内 | 加入義務あり ・新規適用事業所現況書 ・被保険者資格取得届 ・保険料口座振替納付申請書 ・被扶養者届 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | 設立日もしくは入社日から5日以内 | 会社設立時または新規に従業員を雇用したときに必要 | |
健康保険被扶養者届 | 扶養に入る場合できるだけ早く | 被保険者に扶養する者がいる場合 | |
国民年金第3号被保険者資格取得届 | 第3号被保険者に該当してから14日以内 | 被保険者に被扶養配偶者がいる場合 | |
労働基準監督署 | 適用事業報告 | 労働基準法の適用事業となった場合できるだけ早く | 従業員やパートなどを雇用した場合 |
労働保険関係成立届 | 従業員を雇用した日から10日以内 | 従業員やパートなどを雇用した場合 | |
労働保険概算保険料申告書 | 従業員を雇用した日から50日以内 | 従業員やパートなどを雇用した場合 | |
36協定書 | 時間外・休日労働を行う前まで | 時間外・休日労働をさせる場合 | |
所轄のハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届 | 従業員を雇用した日から10日以内 | 雇用保険に加入する従業員を雇用した場合 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 従業員を雇用した月の翌月10日まで | 雇用保険に加入する従業員を雇用した場合 |
マイクロ法人の場合には、自分の役員報酬の額を自分で決めることになります。
法人を設立すると、役員報酬について「利益が出たら支給を増額する」ということはできず、臨時的な支給については損金不可となります。
したがって、あらかじめ役員報酬額を決める必要があります。
将来的に事業拡大や銀行からの融資を想定している場合には、自分が生活できる程度の少なめの役員報酬にする方がいいでしょう。
会社に資金を残せば、その資金で将来への投資ができますし、損益計算書上利益が出ている会社と見られれば、融資を受けやすくなるからです。
一方、事業拡大や融資を想定していない場合には、法人の所得が800万円以下だと、税率が安いため、役員報酬控除後の法人の所得が800万円以下になるように設定するようにします。また、役員報酬の税金や社会保険料をいかに削減できるかという点に着目します。
マイクロ法人を設立すると、個人事業主ではできなかった節税対策が可能となります。
どの節税対策が有効なのかは、個々の状況によって異なりますが、ここでは最低限実施したい一般的な節税対策についてご紹介します。
出張日当を支給する
出張の場合には、宿泊費や交通費のほかに、食事代や電話代など細かい経費がかかります。
出頭日当とは、このような場合に一定額支給するものです。
日当や宿泊費などを支払った場合には、これは給与として扱われないからです。給与として扱われない場合、個人所得税・住民税がかからないことはもちろん社会保険料もかかりませんので、結果的に節税につながります。
出張日当を支給するためには、出張旅費規程において出張の定義や支給額を定める必要があります。
社宅制度を導入する
マイクロ法人を設立し、役員が居住する賃借物件を法人名義で社宅として大家から賃借し、それを役員に貸し出す方法で節税することができます。
法人が負担した社宅家賃分を必要経費に計上できますし、その分役員報酬を減らせば、役員個人にかかる所得税・住民税と個人・法人にかかる社会保険料が節約できます。
ただし、役員だからと言って無償またはあまりに低い家賃で貸し出すと、その賃貸料相当額または賃貸料相当額と実際に徴収している家賃との差額に相当する金額が、給与としてみなされますので注意が必要です。
小規模企業共済に加入する
小規模企業共済とは、国による制度で、小規模企業の役員や個人事業主のための退職金積立制度です。
役員個人が制度に加入し、個人で掛金を拠出して退職金を積み立てる制度で、厳密には法人の節税手段ではなく、役員個人の節税手段といえますが、掛金が全額所得控除の対象となるので、掛金の拠出金額に所得税率を掛けた金額の分だけ、個人の税金が安くなります。
前述したとおり、マイクロ法人を設立するためには、重要事項を決め定款を作成し、登記に必要な書類を準備して登記申請を行わなければなりません。
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マイクロ法人を設立するメリットは、何といっても税金面での有利さ、そして自由度の高さです。
たとえば、個人事業と株式会社で同じ所得を得た場合、マイクロ法人の方が節税につながる可能性が高くなります。また、個人事業主と比べると、会社の方が社会的な信用を得ることができるので、取引のうえでも有利になりますし、金融機関からの借入も有利になります。
起業すれば、自分のペースで仕事ができて、成功すれば高収入も夢ではありません。
しかし、熱意やアイデアだけでビジネスは成功しません。市場の流れやニーズをつかむ客観的な支店や経営の知識がなければ、収入がゼロになるリスクを負うことにもなります。
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・役員でない親族からの借入金はしても大丈夫か 「資産管理会社(マイクロ法人)の設立を考えています。 個人資産を資産管理会社に入れる際、役員借入金を使う手法がありますが、両親のお金も預かる可能性があります。…」 |
・マイクロ法人 「現在個人事業としてアパートを1棟(6戸)所有賃貸していますが、自宅と新たに築古戸建1戸を購入して事業的規模の賃貸事業を予定しています。併せて、社会保険や税金を抑えるため、マイクロ法人を設立して、築古戸建を2戸程度購入し、法人としても賃貸業を検討しています。…」 |
・マイクロ法人の事業内容について 「個人事業でデザイン業・ハンドメイド業を行っております。 マイクロ法人で広告業(Youtubeやブログなどでの広告収入)をやりたいと思っています。…」 |
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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