公開日:2019年11月02日
最終更新日:2024年03月19日
中小企業の事業承継といえば、子どもへの承継を思い浮かべる方が多いと思われますが、昨今はその子どもが後継者になりたがらず、廃業せざるを得ないケースが増えています。また、そもそも子どもに経営の適性がないケースもあるでしょう。
そのような時に検討したいのが、M&Aによる事業承継です。
M&Aというと「敵対買収」、すなわち買収する側の会社が買収される側の会社に対して一方的に経営権を奪おうとするといったマイナスイメージを持つ人もいますが、上手に活用すれば実はメリットの方が多いのです。
ただしM&Aは専門的な知識や煩雑な作業、先方との交渉などが必要であり、成功させるには税理士など専門家による関与が必要となります。
この記事では、M&Aによる事業承継のメリットやデメリット、M&Aによる事業承継を成功させるためのポイントなどについてご紹介します。
M&Aの豆知識
M&Aによる買収というと、会社しかできないイメージが強いものですが、最近は、小規模なM&Aのマッチングサービスが普及していて、個人がM&Aで企業の株式を買収して経営するケースが増えています。
サラリーマンが、副業や脱サラのひとつの選択肢としてM&Aを検討するケースも増えています。比較的少額なものとしては、美容サロンやWebサイト、学習塾、飲食店などがあります。
すでにその事業を行っている企業を購入すれば、従業員や取引先、事業で使用する設備などをゼロから自分で準備する必要はなく、すぐに事業をスタートできるというのもメリットのひとつです。
ただし一方で、従業員や取引先のフォローが大変なこと、借金のリスクがあるなど、注意すべき点も多々あります。
M&Aを検討したい場合には、しっかりと資金計画を立てたうえで慎重に進める必要があるでしょう。
そもそもM&Aを活用した事業承継とは、どのようなものなのでしょうか。
M&Aとは、簡単にいうと、複数の企業が合併や分割などにより再編されることをいい、合併や会社分割の他、株式交換や資本提携など、さまざまな形態があります。
M&Aを活用すると、事業を1つのまとまったものとして新会社に事業を引き継いでもらうことができるので、社会的な役割・経済的な役割を守ることができます。
後継者としては、まずは子どもへの承継や従業員・役員への承継などの選択肢が考えられることと思いますが、後継者がどうしても見つからない場合には、廃業することを検討する前に、ぜひM&Aを検討することをおすすめします。
事業承継で一番の問題となるのが、「経営者に子どもがいない」「子どもがいても本人が後継者となることを望んでいない場合」などの後継者不在という問題です。
子どもが事業を引き継がないという場合には、従業員承継という方法もありますが、経営を任せられるような優秀な従業員や役員が社内にいないケースもあります。
このように事業承継させるべき適切な従業員や役員などもいない場合には、M&Aが有効な対処方法となります。
M&Aというと「敵対的買収」のイメージを持つ人もいますが、中小企業の場合には建設的な協議を行ったうえで両者が友好的な関係であることが前提のケースがほとんどです。
M&Aを進める時には、買い手企業に対して自社の内情を開示しなければなりません。買い手企業の方も、売り手企業の開示情報を信頼し、対象企業を熟知したうえで納得して協議を進めていくことになります。
つまり、M&Aを成功させるためには、双方が互いを信頼し合って友好的な関係を築くことが重要なのです。
中小企業のM&Aのなかで一般的な手法としては、株式譲渡、事業譲渡、会社分割などがあります。
株式譲渡とは、買い手となる企業が売り手となる株主(中小企業の多くの場合が社長やその親族)から株式を買うことで、オーナーを変えるという方法です。
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事業譲渡とは、会社の一部門または複数の部門を切り離して譲渡する方法です。
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会社分割とは、ある事業部門を別会社にしたうえで、当該別会社の株式等を交付する方法です。
新設分割 |
なかでも圧倒的に多いのが、株式譲渡や事業譲渡です。
株式譲渡は、株式を売買することで経営者を変える方法で、株式の売買のみで成立するため、ほかの手法と比較するとスピーディーに手続きを進めることができるというのがその理由です。会社の株主が変わるだけで会社そのものは変わらず、取引先や従業員との契約などの手続きも必要ありません。
事業譲渡は、企業の個々の契約を買い手に1つ1つ移転する必要があり、手続きが煩雑なデメリットがありますが、必要な資産、負債のみを選んで買い手に譲渡することができるメリットがあります。また、売り手が認識していないような負債(簿外債務)が買い手に移転しないため、買い手のリスクを軽減できる点もメリットです。
M&Aは、従業員の雇用を維持することができますし、現経営者にとっても廃業を選択する場合よりも多くの利益をもたらすなど、さまざまなメリットがあります。
①外部から候補者を募集できる まずは社外から新経営者の候補者を募集できることです。 経営者が高齢になって実務に携わることが困難になった時、誰も事業を承継してくれないとなると、あとは廃業するしかありません。せっかく育て上げた会社をみすみす廃業してしまうのは非常に残念ですし、従業員や取引先にも大きな影響を与えます。 しかしM&Aを利用すれば、身近な人の中に適切な承継者が見当たらなくても、社外から広く新たな経営者を募集することができます。つまり、後継者の選択肢の幅が広がるわけです。 |
②オーナーは売却代金を得られる M&Aを行う時には、株式譲渡の形態を利用することが多く、株式の売却代金を得ることで、会社を清算する場合よりも多くの金銭が、手元に残る可能性があります。 売却金額の算定には様々な方法がありますが、時価純資産額に1~5年分程度の営業利益を上乗せした金額の範囲に収まるのが一般的なので、単純な純資産評価より多くの現金が入ってくる可能性が高いわけです。 また、株式譲渡に課される税率は20%と低いので、税金を差し引いても多額の現金が手元に残るという点もメリットのひとつといえるでしょう。 |
③従業員の雇用が確保される 単に廃業することになれば、これまで会社のために尽くしてくれた従業員を解雇するしかなくなってしまいます。 しかし、M&Aを利用して新会社との間で契約を締結する時に、従業員の引き継ぎも同時に約束してもらえれば、従業員の雇用を確保することが可能となります。 |
多くのメリットがあるM&Aですが、デメリットもあります。そして、M&Aのデメリットに配慮しないでM&Aを実行することは、大きなリスクを伴います。
①買い手を見つけることが難しい M&Aをする時には、適切な買い手企業を見つけることが重要なポイントです。 しかし、魅力のない会社では買い手に振り向いてもらうことはできません。 自社を引き継いで経営してもらうわけですから、経営状況が良いことはもちろんのこと、自社の経営理念を理解してもらう必要があります。また、従業員を引き継いでもらえるのか、引き継いでもらえる場合にはその条件なども問題となります。 |
②買収価格の交渉の難しさ 当然、買収価格も重要なポイントです。売り手企業はどうしても自社を高値で評価しますが、買い手は価格を抑えようとしてくるので、両者の思惑が合致しないことも多いのです。 無駄な経費の見直しや無用な資産の処分を検討する必要もあるでしょう。特に中小企業の場合には、会社の資産と経営者の資産が混在しているケースも多いので、このような場合には、資産の線引きを明確にすることも必要になります。 以上のようなことから、M&Aでは、売り手企業と買い手企業のマッチングは、非常にハードルが高いものであるということができます。買い手企業を探し続けて1年以上が経過してしまうことも頻繁にあります。 かといって早急にM&Aをまとめてしまおうとすると、納得のいく相手を見つけることができず、条件にも不服があるままに自社を売却することになってしまいかねません。 |
③会社の経営権を譲らなければならなくなる 経営者の中には、後継者に経営権は譲ってもいつまでも会社に関わりたいという方がいます。 自分で設立し、長年子どものように育ててきて愛着のある会社なのですから、当然と言えば当然です。 しかしM&Aは、基本的に経営権は新会社に引き継がれることになるので、前経営者が経営に携わり続けることは困難となります。場合によっては「顧問」などの形で名前を残すケースはありますが、実質的な経営権は譲らざるを得ないケースがほとんどでしょう。 子どもや従業員に承継させる場合であれば、経営権を譲った後も実質的に自分が実権を握ったままにできるケースもあるので、そういった場合と比べるとデメリットがあります。 |
M&Aを成功させるには、まずは売り手企業のキャッシュ・フローをプラスにしておくことが望ましいといえるでしょう。
確かにシナジー効果(相乗効果)などによって、売り手企業が赤字でも買い手企業にとってメリットが発生するケースはありますが、やはり赤字経営では買い手企業を見つけにくいことが多いです。仮に赤字経営で買い手が見つかったとしても安く買われてしまい、元経営者の納得できる金額がつかない契約となってしまいます。
経営が苦しくなっており急な黒字転換が難しい場合には、不採算部門を切り離して売却することも検討しましょう。その場合、M&Aで買い手企業を探し始める前に売りたい部門だけでも黒字にできるよう、部門の切り分けと経営努力を行いましょう。
①売れやすい会社にする 売れやすい会社というのは、業績が安定し「これだけは負けない」という技術などを持っている会社です。過去3年連続で赤字になっていない、税金などの滞納がないことは当然求められるポイントです。 しかし、これらの条件に該当しないからといってM&Aが不可能というわけではありません。仮にこれらの条件をクリアできなくても、今が成長過程にある業種であったり、買い手企業との相乗効果でさらに成長が見込まれたりする場合には、M&Aを成功させる可能性は十分あります。 |
②シナジー効果のある企業を探す M&Aは、企業と企業とが結婚するようなものです。 自社にとってプラスになる相手や向上させてくれる相手を求めると結婚生活がうまくいくように、M&Aに自社をさらに発展させてくれるような相手を探すと、成功率がアップします。 たとえば、A社は企画力もマーケティング力もあり技術力もあるものの、営業力が弱いとします。一方、B社は営業力が強いが、よい商材を持っていないとします。A社とB社がM&Aで結び付けば、お互いを補い合い、高い評価を期待できます。 |
以上、M&Aの方法やメリット・デメリットをご紹介しました。
これまで述べてきたように、家族や社内に適切な後継者がいないなら、M&Aによる事業承継が非常に有効です。
M&Aは成功するとメリットが大きいのですが、成功させるためには、さまざまな準備と努力が必要です。
したがって、可能な限り早い段階で、専門家からアドバイスをもらうことが必要不可欠となります。
民間のM&A仲介会社や税理士などでM&Aの支援をしていることもありますし、専門家に相談すれば、希望条件に合った買い手企業を紹介してもらうことも期待できます。また、契約締結やM&A進行までトータルでサポートを受けることもできます。
2021年より中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」が開始されました。M&Aの仲介業務を行なっている、一定の要件を満たしたM&Aアドバイザーや士業事務所、金融機関等が登録されています。M&A支援機関によってM&Aの仲介がなされると、補助金の対象となるなどのメリットがあり、この中から探すことが近道です。
税理士事務所の中には、この「M&A支援機関登録制度」に登録している事務所もあります。税理士はいろいろな顧問企業との付き合いもありますし、M&Aに必須の税務デューデリジェンスを担当する職業でもあるので、M&Aを成功させるには外すことができない専門家です。
また、近年は日本政府も事業承継に対して積極的な支援体制を構築しています。
たとえば、経済産業省の事業承継5か年計画を打ち立てています。具体的には地域ごとに、M&A支援機関がつながることのできる事業承継プラットフォームを立ち上げたり、「事業承継・引継ぎ支援センター」の体制を強化したり、民間企業と連携したりすることで、事業承継のための小規模M&Aを促進しようとしています。
「安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う」「中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者である」などの条件を満たせば、日本政策金融公庫から低金利で融資を受けられる制度もあります。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から、事業承継やM&Aについて相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
\ 事業承継について相談できる税理士を検索 /
監修者
藤山 祥紀ふじやま よしのり
InnOpe合同会社 代表
幅広いスキルセットで、お客様のM&Aを全力でサポートします
中小企業庁のデータによれば、わが国の421万企業のうち中小企業の占める割合は、実に99.7%であり、中小企業は、まさに日本経済を支えているとも言える存在です。
参照:中小企業庁「日本の中小企業」
しかし、その多くが深刻な後継者不足に悩んでいると言われ、後継者がいないがために望まぬ廃業を迎えるケースが急増しているのです。このような後継者不足を解決し事業を継続するためのひとつの方法が、M&Aです。
M&Aは、「後継者が見つからず会社を清算する場合よりも、多くの金銭が手元に残る可能性がある」「従業員の雇用が確保される」など、多くのメリットのある方法です。
InnOpe合同会社では、経営者の皆様にとって最後のそして最大の大仕事である事業承継について、想定される課題をひとつひとつクリアにし、必要に応じてさまざまな分野の専門家と連携しながら、ワンストップコンサルティングで、大切な事業承継をしっかりとサポートします。全国を対象にサービスを提供させていただいておりますので、まずはお気軽にお問合せください。