公開日:2018年08月01日
最終更新日:2024年01月30日
経営者の高齢化や後継者不足などから、中小企業の事業承継が円滑に進まないケースが増えています。
「後継者が見つからない」「相続トラブルで事業承継が進まない」などの理由からやむを得ず廃業すれば、それに伴い雇用が失われますし、取引先にも大きなダメージを与える可能性があります。
経営者は、引退の時期を自ら決めることができずに対策を先送りしがちですが、事業をトラブルなく引き継ぐためには、できるだけ早く事業承継対策に取りかかることが必要です。
この記事では、事業承継対策に早く取りかかるべき理由と、特に対策が必要なケースをご紹介します。
事業承継の豆知識
事業承継の方法としては、主に①親族内承継、②親族外承継、③M&Aの3つがあります。
①親族内承継とは、子どもを中心として親族が承継者となる方法です。しかし、必ずしも子どもが承継者としてふさわしいかどうかは分かりませんし、子ども自身にその意思があるか分かりません。
②親族外承継とは、役員などの従業員に株式を移転する承継方法です。従業員の場合には、承継側に資金調達能力が乏しいケースも多く、銀行融資の保証人の引継ぎが問題となる場合も多くあります。
③M&Aは、大きく株式譲渡、会社分割、事業譲渡に分かれます。国がバックアップする制度も充実しつつあり、売り案件も買い手も右肩上がりに増加しており、1億円未満のM&Aも大幅に増えています。
上記以外の方法としては、廃業(清算)という選択肢もあります。
十分な財産があるのに廃業を選択するのであれば、ハッピーリタイアにするために取引先への通知や退職金の支給、税金対策などを計画的に進めなければなりません。
いずれの方法を選択すべきかは、個々の状況によって異なりますし、中長期計画を立てて進める必要があります。早めに税理士に相談し、進め方についてアドバイスを受けることをおすすめします。
事業承継とは、その文字のとおり「事業」を「承継」することです。
ただし、ひとくちに「事業」といってもその中身はさまざまです。
事業そのものはもちろん、それに付随する株式、事業用資産、特許権、商標権、借入金、取引先や仕入れ先・銀行との取引、従業員、経営理念、技術力、ノウハウなど、あらゆる要素を含んだものが「事業」であり、それらを円滑に承継することが「事業承継」ということになります。
ここ数十年、経営者の高齢化に伴う廃業が増加しています。
これらの企業は業績が低迷していたため廃業したわけではなく、半数以上の企業が業績は黒字であったにも関わらず廃業しています。
中小企業白書(2021)が発表した東京商工リサーチのデータによれば、経営者年齢のピークは60~70代に達し、このうち後継者不在率は70代経営者でも約40%となっており、多くの中小企業が後継者不足を理由に廃業している背景があります。実際、日本政策金融公庫総合研究所の調査によれば、廃業した企業理由の3割が廃業理由として「後継者難」を挙げています。
しかし、これはとても残念なことです。
もし早期に事業承継対策を検討し準備を進めていれば、親族や従業員から後継者候補が現れて後継者教育を行えたかもしれませんし、仮に後継者が見つからなかったとしても雇用を守ったまま会社を買い取ってもらえることも可能だったかもしれないからです。
事業承継対策は、事業を安定して継続させ、かつ相続トラブルを回避するために非常に重要です。
事業を存続させるため 事業承継は経営者が交代すればそれで済むわけではなく、経営に必要な三つの資源(ヒト、モノ、カネ)を一体のものとして後継者に引き継ぐ必要があります。どれか一つが欠けても事業は存続できなくなってしまうからです。 経営者が交代したのちも事業を存続させるためには、綿密な計画のもとで事業承継対策を実施する必要があります。 とくに後継者候補の不在は、そのまま会社解散の危機につながります。 また後継者が見つかっても、後継者と他の親族が対立して経営権が分散してしまえば、経営どころではなくなってしまいます。 |
相続トラブルを回避するため 事業承継対策は、事業を存続させることのほかに、相続トラブルを回避するためにも有効です。 適切な事業承継対策を行わなかったことで、後継者へのスムーズな事業承継が進まず、経営が不安定になってしまい、廃業を余儀なくされる中小企業もあります。 たとえば、経営者に息子が3人いる場合で長男を後継者に選んだ時、次男、三男が不満を持てばそれがトラブルとなることもあります。次男、三男が株式を持っていれば、他の株式所有者も巻き込み反対の声を上げ、経営に混乱を招いてしまうといったケースは決して珍しいことではないのです。 したがって、事業承継対策として長男にすべての自社株を渡すなら、他の兄弟には土地や不動産、その他の財産を譲渡して納得してもらい、トラブルを回避するといった配慮も必要になります。 |
事業承継は今の経営者に影響力がある間に、対策を講じておくことが重要です。
経営者の判断力が衰えたりしてからでは、手遅れになってしまいます。万が一のことが起こる前に、早めに手を打たなければなりません。また、経営者が突然亡くなるリスクもあります。ある日突然経営者が亡くなることで、従業員だけでなく取引先まで大きな影響を及ぼすことがあります。
老老承継の悲劇 事業承継対策が早いほどよい理由のひとつが、老老承継が起こりやすくなる点です。 経営者が高齢になっても経営を続けていれば、その間に後継者も年を重ねていき、事業の承継が必要な時に、「老老承継」とも呼ばれる状況になります。後継者が先に亡くなったり認知症になったりするケースも否定できません。そして、事業承継ができたとしても、後継者が短期間で亡くなる可能性もあります。 |
経営者が突然亡くなるリスク 事業承継対策が早いほどよいもうひとつの理由は、経営者が突然亡くなるリスクに備えることができるという点です。特に高齢になるにつれて突然亡くなるリスクは高まっていきます。 事業承継対策がないまま経営者が亡くなると、従業員だけでなく取引先にまで事業の継続に対する不安が広がります。 |
自分自身が亡くなることを前提に対策をすることは気が進まないものですが、家族や従業員から経営者に事業承継対策を行ってくれるよう提案するのは、さらに気が進まないものといえるのではないでしょうか。
経営者が残された家族の負担や会社のことをしっかり考えるのであれば、健康上の不安がないうちから、できるだけ早く事業承継対策を始めるようにしたいものです。
事業承継対策はすべての中小企業に必要ですが、特に対策が必要なケースは①オーナー企業②後継者がいない企業、そして③相続トラブルのリスクがある企業の3つのケースです。
ここでは、この3つの企業が特に事業承継対策をすべき理由についてご紹介します。
オーナー企業の経営者(特に創業者)の場合、事業を一手に担っていることがほとんどです。
オーナー会社では、現経営者が会社に運転資金を貸し付けたり、会社の銀行からの借入金に対して連帯保証人となったりしていることが多く、会社と現経営者の財布が事実上一体化しているケースが多くあります。
しかし、突然経営者が変わるようなことがあれば、経営の一体性や継続性が損なわれ、事業が立ち行かなくなってしまいます。
創業者にとっては、事業はいわば分身のようなものですが、事業を存続させるためには、徐々に後継者に引き継いでいくことも必要です。
後継者がいない場合は、後継者を探してきて育成するところから始めなければなりません。後継者探しや育成には、多大な時間とエネルギーが必要になります。
後継者の育成から事業承継を始める場合はおよそ10年かかるとも言われており、早めの着手が必要です。
経営者の予期せぬ病気やけがを理由に、経営から退くことになってからでは、手遅れになってしまいます。
後継者の候補が複数いる場合も対策が必要です。相続人が複数いる場合で、そのうちの1人に事業を引き継ぐケースでは、高い確率で相続トラブルが起きると考えておくほうがよいでしょう。
たとえば、遺産を公平に分けることを優先させてしまって株式を複数人で相続すると、その後の経営がしづらくなりますので、中長期計画を立て、後継者に自社株を移転していくことが必要です。
仲の良い兄弟でも、いざ相続が始まると考えが変わることもあります。
経営者の予期せぬ相続発生によって残された親族間で利害が対立し、会社の財産と経営が分断されてしまうと、経営どころではなくなってしまうので、注意しましょう。
事業承継は思い立ってすぐにできるものではなく、綿密な計画のもとで実施する必要があります。事業承継計画は次の手順で作成します。
会社や事業の現状を知らなければ、事業承継計画を立てることはできません。
後継者問題、税負担の問題、利害関係者との調整など、さまざまな問題を分析し、解決するための対策を検討していく必要があります。
経営者であれば現状は知り尽くしていると思いがちですが、意外と見落としたり思い違いをしたりしている部分もあります。
具体的には、以下のような項目について確認します。
後継者には誰がふさわしいか 後継者候補を把握するためには、まず親族内に後継者がいるかどうか検討することが一般的です。もし、親族内に後継者がいなければ、経営幹部や取引先などに候補者がいないか検討することになります。 相続があった場合にどのような問題が起こるか 会社の資産について なお、会社が将来どれくらいのキャッシュを生み出すかは、納税資金を確保するうえでも重要です。 資産の評価 会社にどれぐらい資産があるかの評価は、後継者が株式を買い取るときの価格のほか、贈与税・相続税の算定根拠としても必要です。中小企業の株式は、上場株式のように市場価格があるわけではないので、会社の財務状況をもとに株価を算定することになりますが、この株価の算定は非常に難解です。 オーナーが保有する自社株式の評価は、原則的評価方式(会社の価値を基準に評価する方法)によって評価しますが、その評価の具体的な方法は、会社の規模(大企業か中企業か小企業か)によって、さらに異なります。 このように、中小企業の株の評価は大変難解でややこしく、個人では難しいため、事業承継に精通した税理士に依頼しましょう。 |
次に後継者を選定します。後継者の最も有力な候補としては、まず経営者自身の子どもなど親族内で検討するのが一般的です。
役員や従業員として勤務している身内から後継者を選定する 後継者が長年にわたって役員や従業員として勤務していれば、事業内容に精通しているうえ関係先の信頼も得ているため、事業承継が円滑に進むでしょう。 一方、親子同士でお互いに遠慮なくぶつかり合った結果、亀裂が深まり、それが経営に影響を及ぼすこともあるため注意が必要です。 親族以外から後継者を選定する M&Aを検討する M&Aといえば、敵対的に会社を乗っ取るケースというイメージを持つ人もいますが、M&Aで新しい経営者に引き継ぐことで事業が存続し、経営者は株式の譲渡代金を借入金の返済や今後の生活資金に充てることができますし、大部分は事業を譲る側と引き受ける側が友好的に話し合って成立しています。 M&Aは、中小企業の事業承継でも有力な選択肢になっていますが、経営者が希望する事業の買い手候補を見つけることは、なかなか難しいのが実情であり、早期に準備を始めることが必須となります。 |
資産の承継方法については、生前贈与、遺言書等の活用を検討します。
生前贈与 生前贈与とは、一般的には将来の相続発生前に、個人が妻や子、孫に財産を贈与することをいいます。今の経営者が健康なうちに後継者に株式を贈与する生前贈与は、事業承継における資産承継方法の一つです。 ただし、生前贈与は一旦贈与すると贈与者である現経営者が自由に贈与の撤回をすることができなくなるというデメリットもありますので、いつのタイミングで贈与を行うかについては、しっかり検討する必要があります。 また、生前贈与をする時は、後継者に贈与税を支払うだけの資金があるかどうかを考慮する必要があります。自社株の贈与を受ければ後継者の地位が安定するというメリットはありますが、業績が良いほど株式の評価額は高くなり、贈与税も高くなり、相続税と比較すると税負担の重い贈与税を払う必要があるからです。 なお、税負担については、贈与税の基礎控除額(年間110万円)の範囲内で複数年にわたって株式を贈与する暦年贈与や、相続時精算課税制度、事業承継税制などを活用することで軽減・先送りできる場合があります。デメリットや複雑な手続きがある場合があるため、詳しくは事業承継を専門にしている税理士に相談するのがおすすめです。 参照:中小企業庁「中小企業経営者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充」 遺言書の活用 相続で資産承継をする場合には、対策の1つとして遺言書を作成することが大変重要です。自社株や事業用資産などの事業継続に必要な資産を後継者に集中させるため、相続または遺贈させる旨の遺言書を作成して、これらの財産を後継者に取得させるよう記載しておく必要があります。 なお、一定の相続人には最低限相続できる遺留分がありますから、この遺留分に考慮して遺言書の内容を定めなければなりません。ただし、中小企業の株式に関しては遺留分の特例がありますので、事業承継の専門家の助言を受けながら遺言内容を定めるとよいでしょう。 なお、もし遺言書がない場合には、通常は相続する人たちの間で話し合い(遺産分割協議)で決定することになります。 会社による買取りの検討 会社法の活用 また、定款で普通株式と配当優先の無議決権株式の二種類の株式を発行できるよう規定しておけば、経営者が亡くなったときに後継者は普通株式を相続し、他の相続人は無議決権株式を相続することになるので、スムーズに承継を進めることができます。 また、会社法では、相続人による売渡請求制度があります。 この方法で、分散された株式を強制的に買い取れば、後継者は安定的な経営を行うことが可能になります。 |
現状分析を行い、後継者と事業承継方法が選定できれば事業承継計画を策定します。
事業承継は10年スパンで税金対策を実施する必要がありますし、後継者の選定・育成にも時間がかかります。
したがって、着実に実施するためにも、年度ごとに実施すべき事項を明確にして定期的に進捗を確認する機会を作るようにしましょう。定期的な確認をしなければ、通常業務に紛れて結局は計画どおりに実施できなくなってしまいます。
そして事業承継を円滑に行うためには、これらの計画を確実に実施できるようサポートしてくれる社内外の協力者、ブレーンの存在が不可欠です。
後継者の方のマネジメント力診断、社内幹部の状態など総合的に評価して円滑な事業承継をサポートするためにも、事業承継に精通している税理士、会計士などに早めに相談を行うことをおすすめします。
以上、事業承継対策はなぜ必要かについてご紹介いたしました。企業の事業を円滑に次の世代に引き継ぐためには、できるだけ早く事業承継対策に取りかかることが大切です。経営者がすでに高齢である会社や後継者がいない会社は、特に対策が必要なので、事業承継に強い税理士に相談するのがおすすめです。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から事業承継対策や事業承継税制の活用について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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監修者
藤山 祥紀ふじやま よしのり
InnOpe合同会社 代表
幅広いスキルセットで、お客様の事業承継、M&Aを全力でサポートします
中小企業の最大のリスクが、突然の事業承継です。
中小企業においては、最終的な決定権は社長が握っているケースが多く、突然事業承継が始まれば、「誰も何も決められない」状態に陥る可能性があり、そうなれば事業が立ち行かなくなってしまうことも考えられます。
このような事態を避けるためには、経営者は長期的な視野で早い段階から後継者を選定し、打つべき手をしっかりと打っていくことが大切です。
また、後継者不在が理由で事業承継が進まない場合は、問題解決策の1つとして、M&Aを検討しましょう。従来は、M&Aというと「身売り」というイメージが強かったものですが、今ではM&Aに対するイメージは大きく変わっています。また、政府も中小企業のM&Aを支援するためのさまざまな施策を設けています。
これは、後継者のいない企業にとって、M&Aはメリットの大きい手段であると認識されてきたからに他なりません。
InnOpe合同会社は、M&Aにおけるさまざまな課題を整理し、M&Aを成功させるためのアドバイスやサポートを行っております。
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