公開日:2019年07月05日
最終更新日:2024年01月29日
事業承継とは、簡単にいうと「経営者としての地位を後継者に譲り渡すこと」です。
以前は親族に譲り渡すケースが多かったのですが、今では親族以外に承継する方法やM&Aを活用する方法なども増えています。ただし、いずれの承継方法も、クリアしなければならない課題や必要な手続きがありますし、それぞれメリット・デメリットがあります。
ここでは、事業承継の意味や方法、方法ごとの課題やメリット・デメリット、事業承継について相談できる機関などについてご紹介します。
事業承継の豆知識
日本の企業の99%が中小企業であり、中小企業は日本経済を支える存在です。しかし、中小企業は多くの問題を抱えています。そのひとつが事業承継です。経営者の高齢化・後継者候補の不在などの理由から、事業承継が困難になっているのです。
こうしたことから、国も積極的に事業承継をサポートする姿勢を打ち出しています。
たとえば、事業承継・引継ぎ補助金制度です。
参照:中小企業庁「事業承継・引継ぎ補助金制度」
これは、事業承継が困難な企業に対して、経営者交代もしくはM&Aにかかる費用の一部を補填する制度で、国が本格的に事業承継に取り組んでいる証しといえるでしょう。
事業承継に関する悩みは、会社法や税法など幅広い知識が必要となるため、誰に相談をすればよいか分からないというケースが多いようですが、最初からM&A事業者に相談すると、それ以外の選択肢が失われてしまうリスクがあるので注意が必要です。
したがって、事業承継について相談するなら、事業承継について司法書士など他士業と連携しトータルサポートを提供してくれる税理士が最適といえるでしょう。
事業承継とは、簡単にいうと「経営者としての地位を後継者に譲り渡すこと」ですが、実際には、単に経営者の地位を譲り渡すだけでなく、株式や事業に使用している土地・建物、預金・現金といった一切の財産を譲り渡すことを意味します。
事業承継の方法というと、以前は親族に譲り渡すのが一般的でしたが、昨今は経営を引き継ぐ後継者がいないために廃業に追い込まれるケースが増えていて、さまざまな承継方法が検討され始めています。
高度成長期に創業した会社が、続々と経営者交代の時期を迎えているなかで、準備が進んでいないために、廃業に追い込まれるケースが増えています。
中小企業庁が発表した東京商工リサーチの調査によれば廃業件数が増加する中、6割が黒字にも関わらず廃業を予定していると回答しています。
廃業件数が増加する中、6割が黒字にも関わらず廃業
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廃業の理由としては「事業承継の意向がない」が43.2%、「事業に将来性がない」が24.2%、「子どもがいない」が12.5%、「子どもに継ぐ意思がない」が12.2%、「適当な後継者が見つからない」が4.3%となっており、実に3割が後継者難であることが分かります。
廃業理由の3割が後継者難
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後継者がいる場合でも、事業承継の準備を行わずに事業承継が開始してしまうと、思わぬ相続トラブルに発展するケースもあります。
事業を承継させるためには、後継者に自社株や事業用資産を集中させる必要がありますが、それが他の相続人の理解を得られない場合には相続トラブルに発展し、とても事業を継続できるような状況ではなくなってしまうためです。
このように中小企業がやむを得ず廃業を選択することなく、無用な相続トラブルを回避し円滑な事業承継を実現するためには、早期に事業承継の計画を立てることが大変重要なのです。
このような状況を受けて、国もさまざまな相談機関、支援体制を整備しています。
①税理士などの士業
株式を移転する際には、株価は適正な評価額に置き換えて評価し、それをもとに税金が計算されます。税理士などの士業に相談すれば、この株式評価額を引き下げられるよう今後の経営面についてもアドバイスをしてもらうことができます。
特に、事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関のサポートが必須となっています。
認定経営革新等支援機関とは、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う税理士などの専門家による支援機関で、事業承継税制の特例措置の適用を受けるために必要な「特例承継計画」では、この認定経営革新等支援機関による所見等の記載が必須となっています。
②事業承継引継ぎ・支援センター
事業承継引継ぎ・支援センターとは、後継者のいない中小企業などを支援する国の機関です。
民間の仲介者や専門家が登録していて、M&Aのサポートを受けることもできますし、「後継者人材バンク」で後継者を探すこともできます。
事業承継の方法としては、大きく分けて、親族内承継、従業員などへの承継、M&Aなどの社外への承継の3つがあります。かつては、事業承継と言えば親族への承継が大部分でしたが、最近は、従業員や社外への承継も増えてきています。
親族への承継とは、経営者の息子や娘、配偶者、甥、姪といった親族への事業承継です。
親族への承継は減ってきてはいるものの、現在でも事業承継の中心です。
特に中小企業の場合は親族への承継が多いのですが、それは家族的な雰囲気も強く取引先や従業員も心情的に受け入れやすいという理由によると思われます。
親族へ承継する場合には、後継者の選定・教育、株式・資産の分配など、さまざまな事項を検討する必要があります。
①後継者の教育 後継者を誰にするか、どのように教育するかで企業の命運は大きく変わります。 特に中小企業では、社長が絶対的な存在となることも多く、後継者の選定と教育は、事業承継の最大のテーマと言っても過言ではありません。 具体的には事業に関連する他社に一定期間勤務させたり、セミナーや研修に参加させたりして、必要な知識を習得するなどが必要となりますし、経営者自身が後継者に対して、事業のノウハウをしっかり教えなければなりません。 |
②親族への承継方法 親族に承継する場合には、後継者に自社株式や現経営者名義の事業用資産を譲渡する必要があります。 この自社株式の譲渡の方法には、「売買による事業承継」「生前贈与による事業承継」「相続による事業承継」があります。 事業承継は、現在の経営者と後継者の1対1の関係で考えがちですが、親族間の相続がかかわる場合は経営者の他の相続人との関係にも配慮が必要です。 |
最近は、従業員などへの承継も増えてきています。
経営者がその従業員の能力を十分知っていて、また社内事情にも精通していることから、スムーズに事業承継が行われるというメリットがあります。
従業員や役員であれば、事業内容に精通していることから、後継者教育の時間は短縮することができます。
ただ、相続人が複数いる場合などは、後継者の地位は不安定なものになってしまいます。
たとえば、オーナー一家の保有する事業資産がある場合、基本的には会社による買取りが経営の安定に必要となりますが、オーナー一家と経営者が異なる場合には利害が対立し、協議がスムーズに進まないケースが多いからです。
①従業員の資金不足問題 従業員への承継で、大きな課題となるのが、後継者の資金不足です。 従業員は、経営者や親族と違って会社の株式は保有していないのが通常ですから、事業承継をする際には、現経営者から株式を買い取らなければなりません。 しかし、従業員がそのための十分な資金を持っているケースはまれでしょう。 従業員が資金を用意できない場合には、MBO(マネジメント・バイ・アウト)やEBO(エンプロイー・バイ・アウト)などの方法を検討する必要があります。
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②担保・保証の処理 親族承継であれば、担保に供する個人資産を後継者に承継することで、後継者の担保提供資産を確保することが可能です。 しかし、従業員承継の場合は、担保提供資産の確保が難しい場合があります。また、後継者の家族が、個人保証に対して否定的に考えることが多く、従業員承継の場合は保証の問題も整理する必要があります。 担保については、金融機関に後継者が別の担保を用意することで対応できないか依頼したり、担保を外してもらうよう交渉するといった対策が挙げられます。また、そもそもこれらの難しい対応を回避するため、事業承継前から債務を圧縮したり、担保を外すよう交渉することが重要だと考えられます。 個人保証については、「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、一定の条件を満たすことで代表者の個人保証を外してもらうことが可能です。 |
M&Aとは、会社が現在保有している資源を活用することを目的として、経営権を移転したり経営に参加したりする取引のことで、同業者や取引先、その他の人に事業を承継させる方法です。
M&Aというと、以前はネガティブなイメージを持つ人も多かったのですが、最近は中小企業の事業承継のひとつの方法として、積極的に検討する人が増えています。
親族にも従業員にも適任者がいなければ、廃業も検討しなければならなくなります。
しかしM&Aを利用して事業承継を行えば、従業員の雇用を確保することができますし、株を売却することで経営者にまとまった金銭が入るというメリットがあります。
①M&Aのさまざまな方法 ひとくちにM&Aといっても、その方法はさまざまです。 しかし、中小企業の事業承継としてM&Aを行う場合には、現経営者が持っている自社株式をそっくり他の会社に譲渡するというシンプルな方法で行われるケースがほとんどです。 他の会社に譲渡する方法としては、株式譲渡によるM&Aと、合併・株式交換などによるM&Aがあります。
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②M&Aの流れと必要な手続き M&Aを成功させるためには、まず買収をしてくれる相手を見つけなければなりません。この時、債務超過であるとか営業上の収支が赤字である企業では、なかなか買い手は見つかりません。したがって、まずは会社の魅力づくりから始めることが大切です。 そして、買収する会社が見つかったら、買収される側の調査・評価(デューデリジェンス)が行われ、最終的な契約締結と進みます。 |
事業承継の豆知識
事業承継は、合法的に税金を抑えることが必要ですが、後継者の金銭的負担や会社の運転資金なども考慮して、バランスよく対策を行うことが大切です。
後継者に引き継ぐ資産としては、株式、設備、不動産、ノウハウなどを挙げることができます。
なかでも株式の承継は不可欠ですが、中小企業の場合には上場株式とは異なり、財産価値を算出するのが難しいという面があります。後継者に無料で株式を譲渡したりすると贈与とみなされ、贈与税がかかりますので注意が必要です。このような税負担をなるべく軽減するためには、株式の承継に十分な準備が必要です。
以上、事業承継の方法や承継ごとのメリット・デメリットなどについてご紹介しました。
事業承継は、どのような方法で行うにせよ、とにかく十分な準備期間が必要です。
事業承継は、経営者の地位を単に譲り渡すだけで済むものではなく、後継者の教育や、財産の承継に伴う関係者への配慮、資金調達、スキーム面など様々な観点から検討することが必要です。
早めに信頼できる税理士などの専門家を見つけ、相談することをおすすめします。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から、事業承継対策について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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監修者
藤山 祥紀ふじやま よしのり
InnOpe合同会社 代表
幅広いスキルセットで、お客様のオペレーションの変革を全力でサポートします
東京商工リサーチの調査によると、廃業件数が増加するなか、6割が黒字に関わらず廃業しており、その廃業理由について「後継者不在」と回答したケースが3割となっています。多くの中小企業が後継者不在に悩んでいるであることが分かります。
中小企業庁「財務サポート 事業承継」
業績不振でないのに廃業するということは、社会資源の観点から言えば、非常にもったいないことです。
しかし、後継者が見つからないまま時間が過ぎ、望まぬ廃業に追い込まれるケースは、今後ますます増加すると見られています。
そのような後継者不在の問題を解決する手段が、M&Aです。M&Aは、今や重要な社会資源を次世代につなぐ有益な手段として認知されつつあります。
M&Aは、大規模な企業だけの話題と捉えられることも多いですが、中小企業でも大いに活用できる手段です。M&Aを活用すれば、適当な後継者がいない場合でも事業の継続が可能であり、従業員の雇用も確保できます。また、現経営者は廃業するより多くの金銭を取得できる見込みもあります。
InnOpe合同会社は、M&Aにおけるさまざまな課題を整理し、M&Aを成功させるためのアドバイスやサポートを行っております。
全国を対象にサービスを提供させていただいておりますので、まずはお気軽にお問合せください。