公開日:2019年12月18日
最終更新日:2024年03月08日
株の配当金や投資信託の分配金などを受け取った時には、配当控除という税額控除が適用できる場合があります。
配当控除を受けるには、確定申告が不要なケースでも申告が必要です。
上場株式等の配当金を受け取った人は、課税される所得が695万円以下もしくは上場株式等の譲渡損がある場合には、確定申告すると税金が戻ってくる可能性があります。
配当控除とは、内国法人から受ける配当所得があるときに、一定の割合で計算した金額を所得税額から控除できる制度です。
国内株式の配当金は、法人の段階で所得に対して法人税が課税された後に株主の分配されるもので、この配当金に対してさらに所得税や住民税が課税されてしまうと、法人税、所得税、住民税が二重課税となってしまいます。
そこで、配当控除は、このような二重課税を調整する意味で設けられた税額控除です。
配当控除は、税額控除のひとつです。税額控除としてポピュラーのものとしては、配当控除のほかに住宅ローン控除、政党等寄付金特別控除、認定NPO法人等寄付金特別控除、外国税額控除などがあります。
税額控除とは、税額そのものから一定額をダイレクトに差し引くことができるので、「控除額イコール節税額」となり、節税効果は絶大です。
なお、税額控除が引けるのは税額が「0」となるまでです。税額が「0」となると、源泉徴収税額(天引き済の税金)が戻ってきます。
配当控除は、国内に本店または主な事務所がある法人から支払を受けた配当所得について、総合課税を選択して確定申告した場合に、その配当金額に対して一定額が税額控除されるものです。
配当控除の対象となる配当所得には、以下のようなものがあります。
・法人から受ける剰余金(公益法人等および人格のない社団などはのぞく) ・利益の配当 ・剰余金の分配(出資に係るものに限る) ・金銭の分配(投資法人から受ける金銭の分配で、出資等減少分配以外のもの) ・証券投資信託の収益の分配(公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託をのぞく) ・特定受益証券発行信託の収益の分配(適格現物分配に係るものをのぞく) ・みなし配当 |
配当所得は内国法人から受ける配当所得があるときに適用されますが、以下の所得は、配当控除の対象とはなりません。
・基金利息 ・私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等 ・国外私募公社債等運用投資信託等の配当等 ・外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当等 ・特定外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当等 ・適格機関投資家私募による投資信託から支払を受けるべき配当等 ・特定目的信託から支払を受けるべき配当等 ・特定目的会社から支払を受けるべき配当等 ・投資法人から支払を受けるべき配当等 ・確定申告不要制度を選択したもの ・申告分離課税制度を選択したもの確定申告をしないことを選択した配当など |
配当所得(株の配当金や投資信託の分配金)は、①源泉徴収、②申告分離課税、③総合課税の3種類の課税方式があります。確定申告をしなければ自動的に源泉徴収となり、支払い時に所得税と住民税が源泉徴収されているので、基本的に確定申告は不要です。
しかし、確定申告をした方がオトクなケースが2つあります。
1つ目は取引で損失が出たケースで、この場合には申告分離課税を選択し損益通算を申告すれば、儲け分の税金を取り戻すことができます。
2つ目は、課税される課税所得が695万円以下で取引で損失が出ていないケースで、配当控除を利用すれば源泉徴収された税金が戻ってくる可能性があります。
課税方式 | ①源泉徴収 | ②申告分離課税 | ③総合課税 |
有利不利の判断 | 確定申告をしない場合は、自動的にこの①になる | 譲渡損失がある場合には、②申告分離課税を選んで損益通算する方がオトク | 課税所得金額が695万円以下の人は、③総合課税がオトク |
確定申告 | 不要 | 必要 | 必要 |
所得税 | 15% | 15% | 0~40% |
住民税 | 5% | 5% | 7.2%~8.6% |
前述したとおり、配当所得は課税される所得が695万円以下か上場株式等の譲渡損がある場合には、確定申告をすることで、税金の還付を受けることができる可能性があります。
では、なぜ「695万円以下」が損得のラインとなるのでしょうか。
これは、確定申告をすると配当所得を申告書にも計上しなければならず、所得が多い人ほど所得税率が高くなるからです。
源泉徴収であれば、税率20%(所得税率15%+住民税率5%)で済んでいた人でも、確定申告をすると所得に配当所得が加算されるため、税率が高くなる可能性があるわけです。
したがって、配当所得を加算したことで税率20%を超える場合には、確定申告をすると損をしてしまいます。
以上から、所得が695万円以下で税率が20%以下の人は基本的に確定申告をする方が有利になります。
ただし、695万円以下の人でも申告することで、所得税の源泉徴収分は還付されますが、住民税率は配当所得控除適用後でも2.2%高くなり、次年度の住民税で徴収されることになります。
課税所得金額 | 源泉徴収の税率 | 総合課税の税率 | 判断 |
195万円以下 | 20% (所得税15% + 住民税5%) |
7.2%(所得税0%+住民税7.2%) | 源泉徴収税率の合計20%より税率が低いので、確定申告をすると税金が還付される |
330万円以下 | 7.2%(所得税0%+住民税7.2%) | ||
695万円以下 | 17.2%(所得税10%+住民税7.2%) | ||
900万円以下 | 20.2%(所得税13%+住民税7.2%) | 税率が20%を超えるので、確定申告をすると損をする | |
1,000万円以下 | 30.2%(所得税23%+住民税7.2%) | ||
1,800万円以下 | 36.6%(所得税28%+住民税8.6%) |
※この損得ラインは、昨年までは「900万円以下」だったので、この点は注意が必要です(所得税と住民税を別々に選択できなくなったため。※後述)
前述したとおり、695万円以下の人は、総合課税の確定申告で税金を取り戻すことができますが、確定申告をすることで国民健康保険料などの負担が上がる場合があります。
これは、社会保険に加入せずに自分で国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料を支払っている場合には、申告することで保険料の計算の基礎になる所得が上がるからです。
そのため、保険料が増えたり医療費の患者負担分が増えたりして、総合的に負担額が増える可能性があります。
したがって、確定申告するか否かは、この点にも注意して判断する必要があります。
確定申告をする場合、2022年分の申告までは、所得税と住民税で違う課税方式を選択することができました。
たとえば、所得税は総合課税、住民税は源泉徴収と違う方式を選ぶことができました。
しかし、2023年分の申告からは、所得税で選ぶ課税方式が住民税にも適用されることとなり、所得税で総合課税を選択すると、住民税も総合課税となることとなりました。
2022年分の申告までは… | → | 2023年分の申告からは… |
所得税は総合課税(税率10%) 住民税は源泉徴収(税率5%) 所得税と住民税で違う課税方式を選択できた |
所得税は総合課税(税率10%) 住民税は総合課税(税率7.2%) 所得税で選ぶ課税方式が住民税にも適用されるようになった |
※前述した「20.2%(所得税13%+住民税7.2%)」のラインは、この改正によるものです。
配当控除は、どのような場合に受けることができるのか、確定申告で配当控除の申告を忘れた場合にどうすればよいのかなど、質問が多い項目です。
そこでここでは、配当控除に関するよくあるご質問についてご紹介します。
–「配当控除額の計算方法は?」
配当控除額の金額は、原則として課税総所得金額等が1,000万円以下の部分は10%、1,000万円を超える部分は5%です。
課税総所得金額等が300万円、配当所得の金額が5万円の場合、配当控除額は以下のようになります。
配当所得控除額=5万円×10%=5,000円 |
課税総所得金額等が,1050万円、そのうち配当所得の金額が100万円の場合は、配当控除額は以下のようになります。
1,000万円までの部分 {100万円-(1,050万円-1,000万円)}=50万円 50万円×10%=5万円 1,000万円を超える部分 |
※参考
課税総所得金額等(※3)が1,000万円以下の場合(原則)
課税総所得金額等(※3)が1,000万円を超える場合(原則)
|
–「配当所得が100万円で、事業所得が△500万円である場合、配当控除を受けることはできるか。」
配当控除を受けることができます。
配当所得の金額が、他の事業所得の赤字などと損益通算した場合や、純損失または雑損失の繰越控除をしたためになくなったとしても、配当控除額は総所得金額の計算の基礎となる配当所得の金額について計算されたものですから、配当控除を受けることができます。
–「配当控除を確定申告で失念してしまった。更正の請求はできるか。」
更正の請求をすることができます。
配当控除については、住宅ローン控除などのほかの税額控除と異なり、所得税法上「…控除する」と規定されているためです。
ただし、これは配当控除を失念したときのみのケースであり、申告不要制度を利用するなど、配当所得の申告そのものをしなかった場合には、あとから総合課税を選択して配当控除を受けるような更正の請求はできませんので、注意が必要です。
–「負債の利子を控除したら、配当所得がなくなった。配当控除は適用されるか。」
配当控除の適用はありません。
負債の利子を控除したため、配当所得の金額そのものが生じない場合は配当控除の適用はなくなります。
配当控除を受ける場合には、確定申告が不要な配当でも申告することが必要ですが、申告すると源泉徴収された税金が戻ってくる可能性があります。ただし、高額所得者は確定申告をしない方が有利となります。
確定申告すべきか否かは、トータルで有利不利の確認を行う必要がありますので、個人の確定申告をサポートしてくれる税理士に、早めに確認しておくことをおすすめします。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から、配当控除について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
\ 配当控除について相談できる税理士を検索 /
監修者
遠藤 光寛えんどう みつひろ
遠藤光寛税理士事務所 代表
法人・個人の皆様の「お金の問題」に誠実に対応し解決します!
最近は、貯蓄から投資へという流れから、株式投資をする人が増えてきました。上場株式の配当を受け取ったときは、「配当所得」となり、総合課税、申告分離課税、申告不要制度があります。上場株式等の配当所得については、総合課税によらず申告分離課税を選択することができます。総合課税を選択すれば、配当控除の適用を受けることができますし、申告分離課税を選択すれば、上場株式の譲渡損との損益通算や繰越控除を確定申告をすることで、源泉徴収された税金が戻ってきます。ただし、確定申告することで、配偶者控除や国民健康保険料に影響を及ぼすことがありますので、注意が必要です。総合的にさまざまな視点から判断し、そのうえで有利な方法を選択するようにしましょう。
遠藤光寛税理士事務所では、法人・個人問わず「お金に関するお悩み」に広く対応しております。
個人の確定申告のご相談はもちろん、家計コンサルタントやお金のプライベートレッスンを通して、お金と人間の行動特性を学び、「自分と経済を結びつけて実生活にどう活かすか」という観点が身につくことを目指しています。
資金調達や借入に伴う財務・家計分析、銀行等の金融機関との交渉時同行、資金管理の見直し・再構築、個人の資産構築目標、事業継承、相続問題など、法人個人のあらゆるお金の問題に対して、戦略的な財務コンサルティングを行うことで、ご相談者様に「安心」を提供します。
遠藤光寛税理士事務所の問題解決の手段は、無限大です。ぜひお気軽にお問い合わせください。