資本金1億円以下の会社の8つのメリット

公開日:2019年11月20日
最終更新日:2024年01月28日

この記事のポイント

  • 資本金1億円以下の会社は、税法上中小企業に該当する。
  • 資本金の額が1億円以下の会社は、税務上多くの優遇措置がある。
  • 資本金1,000万円未満だと、税務上さらに優遇措置がある。

 

資本金が1億円以下の法人については、税務上「中小企業」と位置づけられ、一定の優遇措置が適用されます。
つまり、資本金が1億円を超えるかどうかで納税額に大きな差が出ることになります。

この記事では、資本金1億円以下の会社の8つのメリットについてご紹介します。
 

資本金の豆知識

資本金とは、株主が会社に払い込んだ金額を基礎として設定される一定の額のことです。資本金1億円以下の会社は、税法上中小企業に該当し、軽減税率が適用されたり外形標準課税が不適用になったりと、税制上の優遇があります。
なお、資本金5億円以上などの会社は、会社法上大会社となります。
ちなみに資本金は、その後何らかに使われますので、現時点で資本金に相当する資金が会社にあることをあらわすわけではありません。「過去に、株主がその額を払込んだ」という事実を示すに過ぎません。

資本金とは

資本金とは、会社設立の際や増資の際に、株主が会社に払い込んだ金額を基礎として設定される一定の額のことをいいます。払い込んだ時点では、その額に相当する資金が会社にはありますが、その後その資金は何らかに使われているため、現在においても、その資本金に相当する資金が会社にあることを示すものではありません。

(1)資本金=企業規模を測る基準ではない

資本金の額は会社の規模や体力を表すので、「多ければ多いほどよい」と思われる方も多いでしょう。確かに資本金が多いと、取引先の印象が良くなるケースが多いのは事実です。

しかし資本金は、「かつては株主がその額を払い込んだ」という、過去の事実を表すものにすぎません。資本準備金とは、会社の業績が悪化した時に備えて積み立てておく資金のことです。したがって、資本金の額が過去に払い込まれた金額のすべてを表しているとも限らない、ということになります。
なお、会社設立の際に払い込まれた資金のうち、半分は資本金ではなく資本準備金とすることもできます。

(2)資本金による制度上の基準

資本金は、制度上以下のような基準に使われています。

①会社法上の大会社の判断基準
資本金が5億円以上または負債200億円以上の会社は、会社法上「大会社」といいます。大会社になると、たとえば法定監査義務が発生するなど、縛りが強くなります。

②税法上の中小企業の判断基準
税務上は、資本金の額が1億円以下の会社は「中小企業」と位置づけられるので、税務上多くの優遇措置が設けられています。
なお、資本金を1,000万円以上にすると、最初の年から消費税の課税事業者となりますし、1億円を超えると一気に税負担が重くなります。
資本金の額を定める場合には1,000万円を超える場合と1億円を超える場合でラインがあるということを踏まえて検討する必要があります。

③分配可能額の基準
貸借対照表上の純資産は、本来すべて株主に帰属するものですが、配当や自己株式取得などの通常の株主還元は、純資産が資本金等を上回る額での範囲でしかできません。これは、会社財産の過度の流出を抑えることで、債権者保護をはかる目的です。

資本金1億円以下の会社のメリット

資本金が1億円以下の会社は、軽減税率が適用されたり、年800万円の交際費枠があったり、繰越欠損金を全額控除できるなど、さまざまな税制上の優遇措置が適用されます。
ただし、親会社の資本金の額が5億円以上あって、その親会社が株式を100%保有する完全子会社の場合には、その子会社は実質的には中小企業ではないとみなされ、優遇措置が適用されなくなります。

(1)軽減税率が適用される

資本金1億円超の法人の場合には、法人税率は23.20%です。
一方、資本金1億円以下の会社は年800万円までの所得については15%で年800万円を超えると、23.2%となります。
つまり、年800万円までの税率が軽減されるので、その分税負担が軽減されるというわけです。

参照:国税庁「法人税の税率」

(2)年800万円以下の交際費枠がある

資本金1億円以下の法人は、定額控除限度額800万円と接待飲食費特例措置(50%損金算入措置)との選択適用があります。

つまり、年間800万円まで無条件に損金に算入することができ、「(交際費の額のうち、飲食費の額)×50%」と選択することができるわけです。

たとえば中小企業の年間交際費が2,000万円で、そのうち接待飲食費が1,800万円である場合の有利な損金算入額は以下のように計算します。

① 1800万円(接待飲食費)×50%=900万円
② 800万円(定額控除限度額)
③ ①>② ∴900万円

参照:国税庁「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」

(3)繰越欠損金が控除される

資本金1億円超の法人の場合、過去10年以内に発生した繰越欠損金のうち、その事業年度の所得金額の100分の50までを当期の所得金額から控除することができます。
これに対して資本金が1億円以下の法人の場合には、過去10年以内に発生した繰越欠損金のうちその事業年度の所得金額までを控除することができます。

つまり、当期の所得金額と過去10年以内に発生した繰越欠損金を比較して、繰越欠損金のほうが多い場合には、当期の所得をゼロにすることができます。

参照:国税庁「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」

(4)繰越欠損金が繰戻還付される

繰越欠損金の繰戻還付とは、青色申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合に、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して、法人税額の還付を請求できるという制度です。

この繰越欠損金の繰戻還付の制度は、資本金1億円超の法人の場合には適用されず、資本金が1億円以下の法人のみに適用される優遇措置です。

たとえば、前期で1,000万円の課税所得があり150万円の法人税を納めたとします。
ところが当期1,000万円の欠損となった時には、前期支払った150万円の法人税の還付を受けられることになりますので、大きな節税効果があります。

参照:国税庁「欠損金の繰戻しによる還付」

(5)少額減価償却資産の損金算入特例が適用される

固定資産を取得した場合には、法定耐用年数に応じて減価償却を行うのが原則です。
しかし、資本金1億円以下の法人が30万円未満の固定資産を取得した場合には、年間300万円までその全額を損金に算入することができます(令和6年3月31日までの取得)。

参照:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」

(6)特別控除、特別償却が適用される

特別控除、特別償却の多くは租税特別措置法によって定められる期間限定の特例です。

特別控除や特別償却としては、たとえば以下のような制度があります。

・中小企業投資促進税制
参照:国税庁「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」

・中小企業経営強化税制
参照:国税庁「中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」

・地域未来投資促進税制
参照:国税庁「地域未来投資促進税制(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」

・研究開発税制
参照:国税庁「研究開発税制について(概要)」

上記の制度以外にも多くの特例が設けられていますが、このような特例は、ほとんどが資本金1億円以下の法人のみが対象となっていたり、より多くの控除額が認められたりするなどの規定となっています。
前述したとおり期間限定のものが多く、要件も変更されるので、これらの制度を利用する時には税理士に確認するようにしましょう。

(7)同族会社の留保金課税が適用されない

「留保金課税制度」とは、特定の同族会社(株主1グループで50%超の株式保有等)が、利益を配当しないで内部留保した場合には、課税留保金額に10~20%を乗じた金額が、通常の法人税とは別に課税されてしまうという制度です。

この制度は、資本金1億円超の法人の場合には対象となりますが、資本金1億円以下の法人については適用されません。

参照:国税庁「特別税率を適用されない特定同族会社の範囲」

(8)外形標準課税が適用されない

「外形標準課税」とは、地方税を計算する時に赤字でも課税できるようにするために、所得だけでなく報酬給与や資本金、賃借料などに対しても税金を課すという課税方式のことをいいます。

この外形標準課税によって、資本金1億円超の法人については所得割のほかに付加価値割および資本割が課されることになります。
付加価値割は、報酬給与、賃借料、純支払利子と単年度損益を課税標準とし、資本割は資本金等の額を課税標準として課税されます。

この外形標準課税は、資本金1億円以下の法人には適用されません。

参照:国税庁「【改正】 (事業税の損金算入の時期の特例)」

資本金1,000万円未満だとさらにお得

これまでご紹介したように、資本金が1億円以下と1億円超では、1億円以下の方が多くのメリットがありますが、資本金1,000万円未満だと税制面でさらにお得になります。

(1)消費税が2年間免税される

資本金1,000万円未満の法人は、最初の2期の消費税が免税されます。
ただし1期目の半期の売上高または給与の支払額が1,000万円を超えると、2期目は消費税の課税事業者になります。
ただし、資本金の額に関わらず1年目に多額の設備投資を行うなど、預かった消費税より支払った消費税のほうが多い場合には、その支払った分だけ還付してもらうこともできますが、これは課税事業者に限ったことで、免税事業者は消費税の還付を受けることはできません。

なお、2023年10月からはインボイス制度がスタートします。
これは、インボイス制度の登録申請を行った事業者が発行するインボイス(=適格請求書)でなければ、売上時に預かった消費税から、仕入や経費で支払った消費税を差し引くこと(=仕入税額控除)ができなくなるというものです。
インボイス制度の登録申請は、あくまでも任意ですが、こちらが発行する請求書が適格請求書でないと、仕入税額控除ができなくなり、取引先の消費税の負担が増えることになってしまいます。
免税事業者が適格請求書発行事業者になるということは、消費税の課税事業者となることであり、消費税の申告納税が必要となります。
インボイス制度の登録申請を行った方がよいのか分からない場合には、早めに税理士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
 

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(2)法人住民税が安い

法人住民税の均等割とは、たとえ会社が赤字でも毎年納めなければならない税金です。
この均等割は、資本金等の額によって異なります。
「期末現在の資本金の額及び資本準備金の額の合算額」と「期末現在の資本金等の額」を比較して大きい額

従業員が50人の場合で資本金等が1,000万円以下なら7万円ですが、1,000万円を超えると18万円になります。

まとめ

以上、資本金1億円以下の会社の税制上の8つのメリットについてご紹介しました。
資本金の額が多いと税務上不利になることが多く、特に1,000万円を超える場合と1億円を超える場合で取り扱いに大きな差があります。
実際、資本金1億円以下は軽い税負担となることから、資本金の額を減らす企業が相次いでいるという報道もあります。

参照:朝日新聞「資本金減らす企業相次ぐ 1億円以下は軽い税負担」

もちろん資本金の額は、税制上のメリットだけで定めるものではありませんが、この1,000万円を超えるラインと1億円を超えるラインについて十分検討したうえで、会社の状況(許認可の取得など)にあった資本金の額を決定するようにしましょう。

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また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。

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この記事の監修者:アトラス総合事務所

監修者

アトラス総合事務所

会計・税務・労務・法務の専門家集団が、会社・個人事業をトータルでサポートいたします!

資本金の額によって、税務上の扱いは異なります。税務上の違いが生じるのは、1,000万円を超える場合と1億円を超える場合です。1,000万円のラインについては、消費税の納税義務と法人住民税の均等割についての取扱いに影響しますし、資本金1億円以下の会社は、税務上は中小企業と位置づけられ、多くの優遇措置を受けることができます。
したがって、会社設立の際の資本金を検討する際や増資の際には、1,000万円を超えるラインと1億円を超えるラインについて、十分検討することが大切です。
とくに創業当初の税金負担は、資金繰りに重くのしかかるものです。資本金の額については、本当にそれが必要なことなのか、慎重に検討しましょう。
ただし、経営は税金面だけを考えればよいというわけではありません。資本金の額は大切ですが、会社を維持・発展させることを考えれば、節税してぎりぎりの利益しか残していない会社より、きちんと税金を納めてお金を残しお金を回していく会社の方が成長する可能性は高いとも言えますから、防御の意識を持つつ、時にはリスクをとることが必要となることもあるでしょう。
そして、その意思決定の際に頼ってほしいのが各分野の専門家です。デザインをデザイナーに依頼するように、経理業務や節税対策、資金調達は税理士に依頼する方が、結果的に効率的な経営ができるはずです。
アトラス総合事務所では、資本金の額や事業年度の決め方、減価償却資産の償却方法、棚卸資産の評価方法など、会社設立時に検討すべき事項はもちろん、会社設立後に必要となる経理業務などについて、ていねいにご説明しながらサポートしております。
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