公開日:2023年01月10日
最終更新日:2023年10月17日
独立開業して事業を行うためには、さまざまな準備や手続きが必要です。
また独立開業した後は、単に事業のことだけでなく、資金調達や経理、申告などの業務もこなしていかなければなりません。
事業を長く継続できる人は、このような開業前に必要最低限のスキルとノウハウを学び、事前準備を綿密に行っていることが多いものです。
この記事では、独立開業する前の準備段階で検討したいことや必要な手続き、そして独立開業後にかならず必要となる経理や税金の知識などについてご紹介します。
独立開業して事業が成功すれば、高収入を得ることが可能ですし、自分の裁量で事業を行うことができるようになります。
しかし、サラリーマン時代のような安定した収入は得られなくなりますし、責任の範囲も広がります。さらに、経理や営業、資金繰りや広告、宣伝活動など、膨大な業務をこなしていかなければならないこともあります。
独立開業して成功するためには、これらの業務を理解してしっかりと準備をしたうえで、経営の知識や事業を展開するためのアイデアが必要となります。
独立開業を考えたときから、どのような事業をどのように行うのかは、ある程度のイメージは固まっているはずです。
もっとも多いのは、今までの仕事の経験を活かしたビジネスです。業界の動向や顧客のニーズもつかめているので、スムーズなビジネススタートが可能です。
ファイナンシャルプランナーやインストラクター、コンサルタントなど、資格や趣味を生かして起業するケースもあります。
専門の知識や技術が強みとなりますから、未経験であっても独立開業すること自体はそれほど難しくはありません。
また、フランチャイズで独立開業する道もあります。
フランチャイズは、コンビニやラーメン店、学習塾など幅広い事業で展開されていて、確立されたビジネスモデルのもとで事業展開できるため、失敗するリスクは低くなります。ただし、事業主として自由に経営できない、売上の一部をロイヤリティとして支払わなければならないなどのデメリットもあります。
いずれの場合でも大切なのは、事業計画書です。
事業計画書には、経営理念やビジョン、市場分析、設備計画、業務フロー、販売計画、資金計画などを記載していきます。
つまり、「どのように事業を行っていくか」「どのように稼いでいくのか」という将来の計画を明確にすることを目的として作成します。
事業計画書にまとめると、ビジネスの強みや魅力などがはっきりしますし、事業計画書を他人に見せることで、弱みが発見できるといったメリットがあります。また、優先順位を整理したり売上目標を策定したりする場合にも役立ちます。
事業計画書には、決まったフォーマットがあるわけではありませんが、一般的には、下記項目について記載します。
①ビジョン …事業を進めていくうえでの、「将来のあるべき姿」「将来に対する想い」 ②商品、サービスの概要 ③商談状況 ④販売計画 ⑤マーケティング計画 ⑥開発計画 ⑦人員計画 ⑧収益計画
⑨短期計画・中長期計画 ⑩体制 ⑪資本政策 ⑫情報化計画 |
簡易的な事業計画書については日本政策金融公庫で紹介されていますので、参考にしてください。
事業計画書の具体的な作成方法については、以下の記事でもご紹介しておりますので、あわせてご覧ください。
事業を行うということは、業界、地域、消費者が抱えている課題を見つけ、その課題を解決する役割を担うことです。
したがって、業界の動向を事前に下調べしておくことは必要不可欠です。
同業他社はもちろん、顧客層、ニーズなど、業界研究を進めておきましょう。
とくに小売業やサービス業なら、現地にマーケット調査に赴くことも大切です。いろいろな店舗を見て回るだけでなく、街の雰囲気や人の流れもチェックします。同業者や仕入業者に話を聞くことも大切です。
また、環境の変化を見越した将来のビジネス像を明確にすることも大切です。
このような地道なマーケット調査の結果次第で、戦略は大きく変わってくることもあります。
独立開業の形態としては、個人事業主と会社設立の2つがあります。
どちらを選択するかについては、置かれている状況や事業の将来性や体制などを踏まえたうえで、個人事業主と会社のそれぞれのメリット・デメリットを比較します。
株式会社 | 個人事業主 | |
設立手続き | 定款の作成・認証、登記申請などの手続きが必要 | 税務署や都道府県税事務所、市区町村に届出をするだけでOK |
資本金 | 1円以上 ただし1円は現実的ではない |
不要 |
設立費用 | 25万円程度 | 不要 |
事業内容の変更や追加 | 定款の変更が必要 | 自由 |
資金調達 | 有利 | 不利 |
事業拡大の可能性 | 有利 | 不利 |
節税対策 | 有利 | 不利 |
社会保険 | 加入義務あり | 事業主は加入不可 |
個人事業主と会社を比較する際には、以下の記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。
事業を始めるうえで必要となるお金は大きく、開業資金(設備資金など)と運転資金です。開業資金は、業種によって大きく異なります。
店舗を必要としないのであれば、自宅兼事務所にしてしまえば、初期投資をかなり抑えることができます。
一方飲食店や美容院、小売業などでは、店舗を借りる保証金(敷金・礼金)や、不動産仲介手数料、内装工事費などが必要となりますし、さらに、テーブルや椅子などの備品、商品の仕入れなどにも費用がかかります。
さらに水道光熱費や通信費などの支出もあります。
ビジネススタート時は、思うように売上が伸びないことがありますし、取引先から代金が支払われるまでのタイムラグもありますから、できるだけ資金に余裕は持ちたいものです。
できれば、半年分くらいの運転資金を確保していれば、安心できます。
独立開業時は、全額を自己資金でまかなうことが理想ですが、自己資金が貯まるのを待っていてはビジネスチャンスを逃がしてしまうかもしれません。そこである程度自己資金を確保できたら、独立開業に必要な資金をもう一度見直し、削れるところは削り、さらに足りない分については借入を検討します。
資金調達の方法としては、日本政策金融公庫や制度融資がおすすめです。
日本政策金融公庫とは、銀行などの民間の金融機関からの融資が受けにくい中小企業や個人事業主を支援するための金融機関で、金利が低く、融資期間が長いというメリットがあります。
制度融資とは、都道府県や市区町村から融資を受ける方法で、民間金融機関、信用保証協会と連携して資金を融通してくれます。
個人事業主は、開業に関する手続きが簡単で、費用を安価に済ませることができます。事業主だけであれば、基本的には納税地の所轄税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出し、都道府県税事務所や市町村の税務課に「事業開始等申告書(個人用)」を提出するだけでOKです。
ただし、確定申告を青色申告で行おうとする時には、「所得税の青色申告承認申請書」が必要となりますし、家族従業員(専従者)に給与を支払う場合には、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。
個人事業主の開業に関する届出については、以下の記事でまとめていますので、あわせてご覧ください。
株式会社を設立する際には、まず会社の概要(商号や事業目的)を決め、これらをもとに定款を作成します。
定款を作成したら公証役場に持参して、公証人の認証を受けなければなりません。そして認証を受けたら、会社の実印や銀行印を用意して、資本金の払込み、設立登記の申請を行います。
会社設立後には、税務署や都道府県税事務所、市町村役場に会社を設立した旨の届出書を提出し、社会保険や労働保険の手続きが必要となります。
届出書のなかには、設立後の納税額に影響するものもありますので、早めに税理士に相談して、適切な届出書を提出するようにしましょう。
提出先 | 提出書類 | 提出期限 | 添付書類・備考 |
税務署 | 法人設立届出書 | 会社設立の日から2カ月以内 | 提出は必須 ・定款のコピー ・現物出資者名簿(現物出資した場合) |
給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所等の開設から1カ月以内 | 役員報酬や従業員への給与等を支払う場合には、会社は所得税を給与等から天引きし納付しなければなりません。この給与支払事務所等の開設届出書を税務署に提出すると、税務署は給与等の支払いが行われることを把握し、納付用紙が会社に郵送されます。 法人設立時点で、いつから役員報酬や給与等の支払いをするかすでに決まっているのであれば、法人設立届出書と一緒に提出する方がよいでしょう。 |
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源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 納期の特例を受ける日の初日の前日まで (給与支払事務所等の開設届出書と同時に提出がおすすめ) |
源泉徴収した所得税は、原則として支給日の翌月10日までに納付しなければなりません。ただし、毎月の納付手続きは手間がかかります。そこで、役員や従業員の合計人数が常に10人未満であれば、まとめて納付できる特例があります。この特例を受けたい場合に提出が必要となります。 | |
青色申告の承認申請書 | 設立から3カ月以内 | 青色申告とは、一定の要件を満たすことを条件として、法人税の計算上各種優遇措置を受けることができる制度です。青色申告には、さまざまな優遇措置が設けられていますから、青色申告をした方が得です。実際、ほとんどの法人が青色申告制度を利用しています。 | |
減価償却資産の償却方法の届出書 | 最初の事業年度の確定申告の提出期限 | この届出書を提出しない場合には、減価償却の方法が自動的に定率法を選択したことになります。ただし、建物や無形固定資産については、定額法で償却しなければなりませんので注意が必要です。 | |
棚卸資産の評価方法の届出書 | 最初の事業年度の確定申告の提出期限 | この届出書を提出しない場合には、棚卸資産の評価方法について、自動的に最終仕入原価法を選択したことになります。 | |
消費税課税事業者選択届出書 | 設立第1期の終了日まで | 設立時の資本金が1,000万円未満の場合には、通常は設立1期目は消費税免税事業者となり、消費税の納税義務が発生しません。ただし、消費税免税事業者となることが不利になることもありますし、インボイス制度も始まります。あえて課税事業者を選択する方が有利なこともあります。その場合には消費税課税事業者選択届出書が必要です。 | |
消費税簡易課税制度選択届出書 | 設立第1期の終了日まで | 課税事業者を選択した場合や、会社設立時の資本金が1,000万円以上の場合には、消費税の納税義務がありますが、消費税の納税額を計算するには非常に手間がかかります。そこで、計算を簡略化する「簡易課税制度」という制度が設けられています。そして、簡易課税制度の適用を受けるためには、最初の事業年度終了時までに消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要です。 ただし、実際に計算してみたら、簡易課税制度ではない方が消費税の納付額が少なかったという場合もありますので、事前に税理士に相談し、慎重に検討することをおすすめします。 |
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都道府県税事務所 | 法人設立届出書 (名称は自治体により異なる) |
都道府県や市町村は、この届出書をもとに事業税や法人住民税に関する事務を行います。東京23区が本店所在地となっている場合には、窓口が東京都なので、区役所への提出は不要で都税事務所にのみ提出すればOKです。 | ・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 |
市区町村 (東京23区は不要) |
法人設立届出書 (名称は自治体により異なる) |
・定款のコピー ・履歴事項全部証明書 |
提出先 | 提出書類 | 提出期限 | 添付書類・備考 |
年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 設立から5日以内 | 加入義務あり ・新規適用事業所現況書 ・被保険者資格取得届 ・保険料口座振替納付申請書 ・被扶養者届 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | 設立日もしくは入社日から5日以内 | 会社設立時または新規に従業員を雇用したときに必要 | |
健康保険被扶養者届 | 扶養に入る場合できるだけ早く | 被保険者に扶養する者がいる場合 | |
国民年金第3号被保険者資格取得届 | 第3号被保険者に該当してから14日以内 | 被保険者に被扶養配偶者がいる場合 | |
労働基準監督署 | 適用事業報告 | 労働基準法の適用事業となった場合できるだけ早く | 従業員やパートなどを雇用した場合 |
労働保険関係成立届 | 従業員を雇用した日から10日以内 | 従業員やパートなどを雇用した場合 | |
労働保険概算保険料申告書 | 従業員を雇用した日から50日以内 | 従業員やパートなどを雇用した場合 | |
36協定書 | 時間外・休日労働を行う前まで | 時間外・休日労働をさせる場合 | |
所轄のハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届 | 従業員を雇用した日から10日以内 | 雇用保険に加入する従業員を雇用した場合 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 従業員を雇用した月の翌月10日まで | 雇用保険に加入する従業員を雇用した場合 |
会社を設立する場合も、個人事業主として開業する場合にも、営業活動によって利益が出た場合には、その利益に基づいて計算した税金を納付することになります。
そこで必要となる「どれだけの利益が出たのか」を把握するための資料が、損益計算書や貸借対照表などの決算書であり、これらを作成するために必要となるのが帳簿です。
また、納める税金についてどのようなものがあるのか理解しておく必要がありますし、効果的な節税対策を適切に行っていきたいものです。
利益と財産状態を把握するために必要な帳簿は、「クラウド会計ソフト freee会計」を活用すれば簡単に作成することができます。
たとえば、勘定科目ごとの収支状況をまとめた総勘定元帳は、損益計算書や貸借対照表を作成するために必要となりますが、「クラウド会計ソフト freee会計」を銀行やクレジットカードと連携させておけば、入力作業が自動で行われるだけでなく、帳簿も自動的に作成されます。
さらに、利益と財産状態はリアルタイムでグラフ化されるため、問題点があれば早めに対策を検討することができます。
個人事業主の納める主な税金としては、所得税や消費税などがあり、会社が納める主な税金としては、法人税、事業税、住民税、消費税などがあります。
法人税の税率は、資本金1億円以下の法人などは、所得金額のうち年800万円以下の部分について軽減措置が設けられていますし、認められる経費が増えるなどの多くのメリットがあり、状況次第では会社を設立した方が節税となることがあります。
個人事業主が納める税金
内容 | 納税方法 | 対象 | |
所得税 | 1月1日から12月31日までの1年間の所得の合計額から、各種所得控除額などを差し引いた額に対して課税される。 | 自分で申告・納税をする。 | 一定の所得がある人が対象となる。 |
事業税 | 事業所得(青色申告特別控除前)が290万円超の場合に課税される。 | 都道府県税事務所から通知が来て、納税する。 | 指定された事業者のみ、一定の税率で課税される。 |
住民税 | 都道府県民税と市区町村民税がある。 | 市区町村から通知が来た場合に納税する。 | 一定の所得がある人が対象となる。 |
消費税 | 預かった消費税と支払った消費税を精算する。 | 自分で申告・納税をする。 | 原則として、前々年度の課税売上高が1,000万超の場合に納税する。 |
会社が納める税金
種類 | 内容 | 国 | 県 | 市 | |
法人税 | 法人の所得に対して課税される税。個人の所得税に該当する税金。 | 〇 | |||
法人 住民税 |
市区町村民税 | 自治体が住民サービスを目的として課税する税。所得があるか否かに関わらず課税される均等割部分と、法人税額に一定率を掛けて課税される法人税割部分がある。 | 〇 | ||
道府県民税 | 〇 | ||||
事業税 | すべての事業者が負担する税。 課税所得×税率で求める。 |
〇 | |||
特別法人事業税 | 法人事業税の一部を分離して国税とし、地方財源に充当する。 | 〇 | |||
消費税 | 課税売上高が1,000万円以下は免税事業者となる。 | 〇 | |||
印紙税 | 契約書や領収書など一定の文書を作成する場合に課税される。 | 〇 | |||
登録免許税 | いろいろな権利の登記や資格の登録などの際にかかる税金。 | 〇 | |||
固定資産税 | 固定資産税を保有していることにかかる税金。 | 〇 |
独立開業をしたいと考えたときには、資金計画を立てたり資金調達の方法を検討したりと、さまざまな作業が必要となります。そして、会社を設立するか個人事業主としてスタートするべきなのかも決めなければなりません。
会社を設立した方が、事業を拡大しやすい、多くの節税対策を実施できるなど、多くのメリットがありますが、赤字でも納めなければならない税金(住民税の均等割)があるなど、デメリットもあります。
会社を設立するか、個人事業主としてスタートした方が良いのかはケースバイケースなので、早めに税理士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
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また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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監修者
アトラス総合事務所
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