繰延税金資産の基礎知識|回収可能性とは?必要な仕訳は?

公開日:2019年12月12日
最終更新日:2024年01月17日

この記事のポイント

  • 繰延税金資産とは、税効果会計によって計上される税金の前払いに当たるもの。
  • 繰延税金資産を計上するためには、「回収可能性」の検討が必要となる。
  • 繰延税金資産の「回収可能性」は、会社の業績に応じて判断する。

 

繰延税金資産とは、税効果会計によって計上される税金の前払いに当たるもので、「将来支払う税金が減る可能性がある」場合には、この「支払う税金が減る」というところに資産価値があると考え、計上する資産のことをいいます。
しかし、いったん資産価値があると判断されるためには回収可能性の検討が必要となりますし、資産価値があると判断されたとしてもその後業績が悪化した時には、その計上した繰延税金資産を取り崩して損失処理をしなければならないなどのデメリットもあるので、利用する場合には十分な注意が必要です。
 

繰延税金資産の豆知識

一時差異とは、貸借対照表に計上されている資産・負債の金額と、課税所得計算上の資産・負債の金額との一時的な差異のことで、いずれはその差異が解消するものをいいます。
繰延税金資産は、一時差異のなかで将来所得を減額することで税金を減少させる資産です。つまり、将来の税金を減らす効果があるものについては繰延税金資産が計上され、その分法人税を減らします。
将来の税金を減らす効果があるということは「得をする」ということですから、資産計上できるということです。
一方、繰延税金負債は一時差異のなかで将来所得を増額させることで、税金を増加させる負債です。将来の税金を増やすということは「損をする」ということですから、負債計上しなければなりません。
繰延税金資産は、すべて計上できるわけではなく、回収可能性の検討をしなければなりません。しかし、回収可能性の検討といっても、将来の予測を勝手にしていいわけでもありません。
繰延税金資産の回収可能性は、会社の業績に応じて判断しなければならず、計算シートを作成したうえで、税効果会計の仕訳処理を行う必要があります。
以上から、繰延税金資産を計上するためには、税理士に相談して要件や手続きなど必要な事項について確認することが不可欠といえます。

繰延税金資金とは

繰延税金資産とは、簡単に言うと、「税効果会計」という会計ルールのなかで計上される税金の前払いに当たるものです。
会計上の貸借対照表上の資産および負債の金額と法人税等の課税所得計算上の資産および負債の金額との差額(一時差異)のうち、将来の法人税等の支払額を減額する効果を有する差額(将来減算一時差異)に、解消が見込まれる期の税率を乗じて、繰延税金資産として計上します。

繰延税金資産は、いったん資産価値があると判断してもその後業績が悪化した場合には、資産価値はなくなったものとみなされます。そして、それまで計上しておいた繰延税金資産を取り崩して損失処理をしなければならなくなります。

たまに新聞などで「繰延税金資産の取り崩しによる大幅な赤字転落」といった企業業績に関する記事が掲載されることがありますが、これは資産価値があると判断されたあとに業績が悪化してしまい、その繰延税金資産に資産価値がなくなった時に、この繰延税金資産を取り崩して損失処理を行わなければならなくなった事態をいます。

(1)繰延税金資産は税効果会計により計上される

繰延税金資産とは、税効果会計を適用した場合に、貸借対照表に計上される法人税等の前払額をいいます。
税効果会計は、会計上の損益と税金費用との対応関係を調整して、業績を適正に示す期間損益を計算することを目的としています。
法人税等は、利益(所得)を課税対象としていますが、会計上の利益と法人税法上の所得には差異があります。なぜなら、会計上は費用処理されているのに税務上は損金として認められないものがあるからです。

(2)税効果会計のしくみを知っておこう

税効果会計が導入される理由は、会計上の利益と税金の費用・収益の対応関係を明確にするためです。
これは、減損会計や退職給付引当金の損金不算入など、会計基準の改正や税制改正が行われたことで、会計上の利益と税務上の利益の乖離が大きくなったためです。

つまり、会計上は費用処理されているのに税務上は損金として認められないものなどがあるからです。
この差異のうち、当期は損金算入が認められなくても翌期以降になれば損金算入が認められるものがあり、これを「一時差異」といいます。

このような一時差異がある場合には、当期は加算されて税金が多くなりますが、翌期は減算されて税金は少なくなります。つまり当期は税金を「前払い」しているようなものです。

一時差異には、当期加算され翌期に減算される「将来減算一時差異」と、当期に減算され翌期に加算される「将来加算一時差異」があります。
「将来減算一時差異」にかかる税金額は、税金の「前払い」に該当することから、繰延税金資産を計上して、「法人税等調整額」として、当期の法人税等からマイナスします。

たとえば、ある年に不良資産の評価損を100計上したとします。
評価損とは、ある時点での潜在的な損失の評価であり、実際には、売却するまでは損益は確定しませんので、税金計算上評価損は認められません。なぜなら、税務上は評価損を認めることはそれだけ利益が小さくなるということであり、税収減につながってしまうからです。そこで、税務上は評価損を認めないようにしているのです。

しかし、この不良債権を実際に処分した場合には、税務上も実際の処分損として認めてもらうことができます。つまり評価損は、企業会計上と税金計算上とでは、損失になるタイミングにズレが生じることになります。
評価損は将来のどこかのタイミングで税務上も損失として認められるもので、その時には利益が小さくなり、支払う税金を減少させる効果があります。

繰延税金資産とは、このように何かしらの理由で将来支払うべき税金が減る可能性がある場合、その「支払う税金が減る」というところに資産価値を見出して、計上する資産のことをいいます。

先ほどの不良資産の評価損を100計上した例で税率30%とすると、将来は30の税金軽減効果があるはずだと考え、その軽減した分には資産価値があるととらえ、繰延税金資産を30計上しておくということになります。

逆に「将来加算一時差異」にかかる税金額は、将来税金の支払いが生じることから、「繰延税金負債」として計上し、「法人税等調整額」として、当期の法人税等にプラスします。

このように、会計上の費用計上と税務上の損金算入にタイムラグがある場合に、会計上の利益と法人税等を合理的に対応させるようにするのが、税効果会計です。

(3)税効果会計で適用される「法定実効税率」とは

税効果会計は、まず一時差異を把握し集計します。一時差異とは、貸借対照表に計上されている資産・負債の金額と、課税所得計算上の資産・負債の金額との一時的な差異のことで、いずれはその差異が解消するものをいいます。
繰延税金資産は、この一時差異のなかで将来所得が減額することで税金を減少させる資産なので、以下のように計算します。

繰延税金資産 = 将来減算一時差異 × 法定実効税率

※法定実効税率 = {法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税率) + 事業税率}(1 + 事業税率)

ちなみに将来解消される可能性のない差異は「永久差異」と呼ばれ、税務会計上は算入できないので注意が必要です。

なお、繰延税金資産とは逆に、将来課税所得を増額させることで税金を増加させる負債のことを「繰延税金負債」といいます。繰延税金負債は、以下のように計算します。

繰延税金負債 = 将来加算一時差異 × 法定実効税率

(4)繰延税金資産の計上は「回収可能性」の検討が必要

繰延税金資産については、将来的に回収ができるか否かという「回収可能性」を検討して、回収可能性のある金額についてのみ繰延税金資産として計上します。
十分な課税所得がない場合には、繰延税金資産を計上することはできません。繰延税金資産の回収可能性は、会社の業績に応じて判断します。
一方、繰延税金負債についても同様に「支払い可能性」を検討し、将来課税所得が発生することが見込まれる場合のみ、繰延税金負債を計上することになります。

繰延税金資産は、会社の業績に応じて判断しますので「将来黒字が出る」という大きな前提が必要となります。
将来赤字の場合には、税金はそもそも支払う必要はなくなりますから、それ以上税金の支払いが減るということにならないからです。
繰延税金資産について将来的に回収ができるものと判断し、税金軽減の見込額に資産価値が認められるためには、将来が黒字であるという合理的な事業計画が必要です。
具体的に繰延税金資産の回収可能性を判断するためには、以下のような指標から行います。

要件 回収可能性 将来回収見込年度が長期の場合
(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得がある。
(2)当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
繰延税金資産の全額について回収可能性がある。 繰延税金資産の全額について回収可能性がある。
(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、臨時的な原因によって生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
(2)当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
(3)過去(3年)および当期のすべての事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
スケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合には当該繰延税金資産は回収可能性がある。 繰延税金資産の全額について回収可能性がある。
(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、臨時的な原因によって生じたものを除いた課税所得が、大きく増減している
(2)過去(3年)および当期のすべての事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。
将来の合理的な見積もり可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等、加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合には、当該繰延税金資産は回収可能性がある。 合理的な見積もり可能期間(おおむね5年)を超える場合でも、当該将来減算一時差異の最終回収見込み年度までに解消されると見込まれる場合には、回収可能性がある。
(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、重大な税務上の欠損金が生じている。
(2)過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
(3)当期において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。

翌期の一時差異等、加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合、当該繰延税金資産は回収可能性がある。 翌期に解消される将来減算一時差異にかかる繰延税金資産は回収可能性がある。
(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、欠損金が生じている。
(2)当期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。

繰延税金資産の回収可能性はない。 繰延税金資産の回収可能性はない。

(5)繰延税金資産のよくある仕訳

税効果会計は、以下のような計算シートを作成し、一時差異の増減と残高の把握、繰延税金資産の算出、集計を行ってから処理をします。

「期首の繰延税金資産は、59,864,000円であり、期末の繰延税金資産は、62,090,000円であった。」
※一時差異に、法定実効税率を掛けて期末の繰延税金資産を計算します。ここでは、法定実効税率=35%とします。

項目 期首 減少 増加 期末
一時差異 繰延税金
資産
一時差異 繰延税金
資産
未払事業税 1,200,000 420,000 1,200,000 1,600,000 1,600,000 560,000
賞与引当金 15,000,000 5,250,000 15,000,000 17,000,000 17,000,000 5,950,000
棚卸資産評価損 300,000 300,000 105,000
退職給付引当金 14,500,000 51,800,000 4,000,000 152,000,000 53,200,000
貸倒引当金繰入超過額 1,850,000 644,000 200,000 1,500,000 525,000
投資有価証券評価損 5,000,000 1,750,000 5,000,000 1,750,000
59,864,000 62,090,000
上記の計算シートに基づき、税効果会計の仕訳を行った。

借方 貸方
法人税等調整額 59,864,000 繰延税金資産 59,864,000
借方 貸方
繰延税金資産 62,090,000 法人税等調整額 62,090,000

まとめ

繰延税金資産が計上できるのは、翌期以降一時差異が減算できるだけの課税所得があり、翌期以降の税金の支払いが減額できる場合に限られます。
つまり、将来の経済情勢など誰にも分からない状態で、将来計画を前提に資産価値があるかないかを決めなければならないわけです。
さらにいえば、将来税金の支払いを減らせるのはその時に黒字が出ている場合だけであり、赤字の場合にはそもそも支払う税金がないので、それ以上税金の支払いが減るというメリットもありません。

したがって、繰延税金資産を計上するためには、税理士に相談し必要な事項について確認することが不可欠といえるでしょう。
 

繰延税金資産の豆知識

繰延税金資産は、将来の利益が見込めないと現在計上されている繰延税金資産が取り崩され、取り崩された金額を損失として計上(法人税等調整額として、法人税が増える)するリスクがあります。
繰延税金資産を計上するためには、税理士に相談し、要件や手続きなど必要な事項について確認することが不可欠です。

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この記事の監修者:アトラス総合事務所

監修者

アトラス総合事務所

会計・税務・労務・法務の専門家集団が、会社・個人事業をトータルでサポートいたします!

繰延税金資産とは、税効果会計を適用した場合に貸借対象表に計上される、法人税等の前払額です。税効果会計を行う目的は、会計上の損益と税金費用との対応関係を調整して、業績を適正に正す期間損益を計算することです。
繰延税金資産は、将来の納税額が軽減する効果を持っており、そこに経済価値があると見ることができることから「資産」として評価します。
繰延税金資産の計上には回収可能性の検討が必要であり、計上できるのは翌期以降一時差異が減算できるだけの課税所得があり、翌期以降の税金の支払いが減額できる場合に限られます。つまり、十分な課税所得がない場合には、繰延税金資産を計上することができないということです。
繰延税金資産の回収可能性は、会社の業績に応じて判断しますが、中小会計指針では、「会社の業績による区分」と「回収可能性の判断」について細かく規定されています。
このように、繰延税金資産は回収可能性の検討が必要ですし、繰延税金資産・負債は相殺したうえで、繰延税金資産を「投資その他の資産」に計上し、繰延税金負債は「固定負債の部」に計上しなければならず、しくみや計算方法、処理が煩雑です。
アトラス総合事務所では、繰延税金資産の煩雑な処理のサポートはもちろん、しくみについてもていねいにご説明します。
また、想定外のリスクの現状を洗い出し、経営力向上計画の策定などを可能とする経理システムの構築をサポートし、迅速な現状把握や経営管理体制の整備を行ないます。

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アトラス総合事務所の監修記事

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