公開日:2023年05月12日
最終更新日:2023年09月23日
退職金などの退職所得にも所得税や住民税はかかりますが、退職所得控除額が認められるなど、他の所得より優遇されています。
会社を退職して退職金を受け取る場合に、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、適正な所得税、住民税が源泉徴収されていますから、確定申告の必要はありません。
しかし、この「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合には、確定申告をすることで還付金を受けられる可能性があります。
退職所得とは、退職金や一時恩給など、退職することで一時に受け取る所得をいいます。
退職金や退職手当、退職一時金や一時恩給などのほか、退職によって一時に受ける給与や賃金の支払いの確保など、法律に基づいて退職した労働者が受けた未払い賃金などの所得も、退職所得に該当します。
また、以下のような社会保険制度に基づく一時金も退職所得となります。
・確定給付企業年金法の規定に基づき、加入者の退職によって支給される一時金 ・国民年金法、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法などの規定に基づく一時金 ・厚生年金保険法第9章に基づき、加入者の退職によって支給される一時金 ・法人税法の規定による適格退職年金契約に基づいて支給される一時金(掛金の自己負担分は除きます) ・特定退職金共済団体が、退職金共済に関する制度に基づき支給される一時金で一定のもの ・独立行政法人勤労者退職金共済機構が、中小企業退職金共済法に基づいて支給する退職金 ・独立行政法人中小企業基盤整備機構が、小規模企業共済法に基づいて支給する一時金で一定のもの ・確定拠出年金法の規定に基づいて老齢給付金として支給される一時金 |
なお死亡退職金については、亡くなった後3年以内に確定したものは相続税の対象となり、所得税や住民税はかかりません。
退職所得も所得のうちと考えられるため、所得税と住民税がかかります。
ただし、退職所得は分離課税なので退職前の給与とは合算されずに計算されます。さらに退職という事情を考慮して、他の所得と比べるとかなり優遇されており、多額の退職所得控除が認められます。しかも、所得税などが課されるのは所得控除後の残額のさらに半分です。
したがって、他の所得と合算して所得税を計算してしまうと、税金を払い過ぎてしまうことになりますから、注意が必要です。
退職所得の税金は、以下のステップで計算します。
STEP1: 課税退職所得金額を計算します。
※勤続年数5年以下は、以下の金額について1/2はなし STEP2:
※税率、控除額は、退職所得金額によって異なります。 |
STEP1:
まずは、課税退職所得金額の計算です。
退職所得については、所得税がかかるのが、所得控除後の残額のさらに半分という優遇が認められています。
課税退職所得金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2(※) |
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※ただし、会社役員等で、役員等としての勤続年数が5年以下の場合には、退職所得控除額を差し引いた後の「2分の1」が認められません。
また、令和4年分以降については、勤続年数が5年以下の者が受ける退職手当等(特定役員退職手当等でないもの)について、退職所得額を差し引いた後の金額のうち、300万円を超える部分については、「2分の1」が認められません(つまり、300万円以下であれば、2分の1にした額が退職所得)。
・収入金額は税込の金額(源泉徴収前)で、退職所得の源泉徴収票では「支払金額」に記入された金額です。2カ所以上から退職手当等が支給される場合には、その合計額が収入金額です。 ・特定役員退職手当等とは、①法人税法上の役員、②国会議員及び地方議会議員、③国家公務員及び地方公務員等が受ける退職手当等です。 |
退職所得控除額は、以下のように勤続年数が20年以下か20年を超えるかで計算式が異なります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 80万円より少ないときは、80万円 |
20年超 | 70万円×(勤続年数-20年)+800万円 |
たとえば、勤続年数が34年の場合には、勤続年数20年を超えるため、退職所得控除額は以下のように計算します。
70万円×(34年-20年)+800万円=1,780万円 |
STEP2:
次に、計算した課税退職所得金額に税率を掛けて、控除額を差し引きます。
課税退職所得金額 × 税率 - 控除額 |
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税率と控除額は、課税退職所得金額によって異なります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
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195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上 330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上 695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上 900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上 1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上 4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
退職金以外の収入が少ない場合には、税金が還付されるケースがあります。
たとえば、年の初めに退職をしてその後再就職していないケースや、あまり収入がないケースです。
このようなケースでは、扶養控除や配偶者控除、生命保険料控除などの所得控除が、給与所得等から控除しきれず、所得より所得控除額の方が多くなることがあります。退職所得から所得控除額の余剰分を差し引くことができるので、確定申告が不要な場合でも申告すれば税金が戻ってくるわけです。
退職して個人事業を始めたものの、最初のうちは軌道に乗らないということはよくあることです。
脱サラ事業が赤字だった場合には、事業所得の赤字分を退職所得の金額と損益通算することができます。
損益通算をすれば、事業で赤字を出した分だけ課税対象となる退職所得の金額が減少しますから、税金が戻ってくる可能性があります。
とくに、事業を始めたばかりの時には経費がかさむものなので、還付される金額はかなり多くなることもあります。
経費はもれなく計上し、確定申告をすれば税金が還付されますので、忘れずに手続きを行いましょう。
退職所得がある人は、会社から退職所得の源泉徴収票を受け取ります。
退職所得の源泉徴収票には、支払金額や退職所得控除額等が記載されています。
① 支払いを受ける者 ② 区分 ・中段 ・下段 ③ 支払金額 ④ 源泉徴収税額 ⑤ 特別徴収税額 ⑥ 退職所得控除額 ⑦ 勤続年数・就職年月日・退職年月日 ⑧ 支払者 |
退職所得については、原則として確定申告は必要ありません。
しかし、年の途中で退職したケースや、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していないケースや退職後に収入が少ないケースでは、確定申告をすれば税金が還付されます。
退職する際には、ほとんどのケースで会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。
退職する際に、会社に下記のような「退職所得の受給に関する申告書」を提出している人は、原則として確定申告は必要ありません。
退職所得の受給に関する申告書 |
これは、勤務年数に応じて退職所得控除額を算定するための書類です。したがって、この退職の際に退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合には、退職金から一律20.42%の税金が差し引かれます。
しかし、これは仮に徴収されているだけですから、確定申告をすれば所得税等が精算され、払い過ぎた税金が戻ってきます。
結婚やリストラなどで退職後に年内に再就職した場合には、再就職先で前職分と一緒に年末調整がされるため、原則として確定申告は必要ありません。
しかし、年金をもらった場合には、この年金の分について給与所得と一緒に確定申告をすることになります。
退職後に年内に再就職した場合は、原則として確定申告は必要ありませんが、年の途中で退職し再就職していない人は、確定申告をすることで税金が戻ってくることがあります。
年の途中で退職し再就職していない人は、収入が減っている可能性が高く、給与から源泉徴収されていた税金が本来払うべき金額より多く取られていることがあるからです。
源泉所得税は、年間を通じて「毎月同じくらいの収入があるだろう」という見込み額を前提として決められていますが、そのまま再就職をしなければ年収が少なくなるはずですから、税金を多く払い過ぎていることもあるわけです。
このような場合には、確定申告をすることで税金が還付されることがあります。
年の途中で退職し、次の就職先が見つからないために雇用保険の失業給付や職業訓練の手当を受けることがありますが、この失業給付等には税金はかかりません。
したがって、失業給付金の収入はないものとして考えます。そのため、確定申告を行なう場合にも、失業保険として支給された金額を申告する必要はありません。
退職所得の確定申告で必要な書類は、確定申告書第一表、第二表、確定申告書第三表(分離課税用)です。給与所得の源泉徴収票や退職所得の源泉徴収票から、内訳等を転記していきます。
確定申告書を作成する際には、まず第二表から記入します。
確定申告書第二表 ①給与所得の源泉徴収票、退職所得の源泉徴収票から、所得の内訳を転記します。※「収入金額」は、源泉徴収票の「支払金額」です。 ②源泉徴収税額の合計額を記入します。 ③該当する所得控除の欄に記入します。源泉徴収票の内容と変更がなければ、「源泉徴収票のとおり」と記入してもOKです。 確定申告書第三表(分離課税用) ④第三表の「収入金額」の「退職」の欄に、退職所得の源泉徴収票から、収入金額(支払金額)の金額を転記します。 ⑤退職所得の源泉徴収票に記載されている収入金額から、退職所得控除額を差し引いた金額に「×1/2」した金額を記入する。 退職所得控除額は、以下の通りです。
⑥「税金の計算」に、第一表から転記します。 「総合課税の合計額」の欄:第一表の「所得金額」の合計額を転記。 ⑦第三表「所得金額」の金額(番号:76)を転記します。 ⑧以下の速算表で税額を計算します。
※たとえば、図表のケースだと、「12対応分」は238万円なので、速算表に当てはめて、以下のように計算します。 ⑨税額の合計額を記入します。 ⑩収入金額と退職所得控除額について、退職所得の源泉徴収票から、転記します。 確定申告書第一表 ⑪退職所得は分離課税なので、「分離」に〇をします。 ⑫給与所得の源泉徴収票の「支払金額」「所得金額」の金額を、それぞれ転記します。 ⑬該当する所得控除の金額を記入します。 ⑭第三表「93」の金額(税額の合計額)を転記します。 ⑮復興特別所得税を計算して、所得税と合計して記入します。復興特別所得税は、所得税額の2.1%です。 ⑯第二表の「源泉徴収税額の合計額」を転記します。 ⑰還付される金額を計算して、記入します。 ⑱還付金が振り込まれる振込先を記入します。振込先口座の名義は、本人です。 |
退職金が支給されると、退職所得という所得が生じます。
通常は、退職した本人が会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しており、会社が本人に代わり税額の計算をして納付しているので、確定申告は必要ありません。
しかし、この「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合には、税金を払い過ぎているため確定申告が必要です。
また、退職後に収入が減った場合などは、確定申告することで税金が戻ってくるケースが多々あります。
退職金は、他の所得と比較して退職所得控除額が認められているなど、破格の優遇措置が設けられているので、必要な場合には必ず確定申告を行うようにしましょう。
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監修者
アトラス総合事務所
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サラリーマンが退職すると、退職金が支給されることがあります。この退職金も「所得」として、所得税(プラス住民税)がかかりますが、退職という事情を考慮して優遇措置が設けられています。まず、多額の退職所得控除が認められますし、さらに所得税などが課税されるのは、所得控除後の残額のさらに半分です(ただし、要件あり)。
通常は確定申告は必要ありませんが、確定申告を行なうことで納め過ぎた税金が戻ってくることがあります。
また、退職した年の年末までに再就職をしていない場合も、確定申告をすれば納め過ぎた税金が戻ってくることがあります(年末までに再就職をした場合は、再就職先で年末調整を受けることができます)。
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・青色申告の修正について 「期間内に確定申告を提出したのですが、個別に退職金を記載することを知らずに給与の源泉徴収票の内容のみ入力して提出してしまいました。…」 |
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